先入観(ジャンル:SF?)
先入観
「私?先入観なんてないわ。さ、行きましょう。」
ばんっ!車にはねられました。赤信号でした。
「僕?先入観なんてないよ。だから貴方が怖そうな顔で、拳銃を持って、銀行強盗をしていても怖いなんて思いませんよ。」
ばんっ!撃たれました。拳銃はホンモノでした。
「オレ?先入観なんてないよ?だから薬も飲んじゃうもんねー。」
かちゃ。手錠がかけられました。
「先入観が全くないってことは、こういうことになるんだぞ!」
「えー。だって、先生とかも言うよ?先入観を持って人と接してはいけませんって。茶髪でも真面目な子かもしれないし、モヒカンでも音痴かもしれないし、ドレッドの子でもフリフリスカートが好きかもしれないって!」
「だからって、女の子なのにスキンヘッドにしなくてもいいだろう?お父さんはお前の三つ編みが好きだったのに。」
「先生が言ったのよ。先入観を持つことは悪いことだって。三つ編みでもスキンヘッドでも私は私よ?」
「お前はもう、先入観にとらわれている。先生が嘘をつかないとは限らないだろう?」
「そんなことを言ったら、お父さんだって嘘をつくかもしれないじゃない。」
「そうだよ?だから、自分で時間をかけて確かめるんだよ。お父さんが嘘つきか、そうじゃないか。いつも、いつも、信用してはいけないよ。」
「じゃ、教科書は?本は?」
「教科書も変わっていくんだよ。本だって、そうだよ。」
「自分だけ?」
「自分さえも信用してはいけないよ。人は間違えるものだから。」
「じゃあ、誰を信じたらいいの?神様?」
「誰も。だって、そうだろう?真実がいつもそこにあって、それが正しいなんて先入観だからね。神様だって、一人じゃない。たくさんいるってことは、先入観もたくさんあるってことだよ。」
「どうしたらいいの?」
「先入観を持ってもいい。だけど、それがいつも正しいとは限らない。ゆっくり時間をかけて、自分で見て、自分が正しいと思うならそれでいいんだよ。」
「わかった。」
「それで、スキンヘッドは気にっているのかい?」
「洗うのは楽だけど、頭が寒いわ。」
お父さんはにっこりと笑った。
大きくなった彼女がぽつりと言いました。もうお父さんはいません。
「ねぇ、お父さん。私、わかったわ。先入観を持たない人はいないって。だから、人は戦争を繰り返す。それなら、誰もがこの星からいなくなればいいのよ。」
彼女はぽちっと世界破滅へのボタンをした。
「これが私の考えよ。」
どこかの世界でモニターに映った爺さんたちが言う。
「やっぱりこうなりますか。」
「毎回、同じような結果ですな。」
「先入観を捨てさせると、自分への防衛をしなくなります。事故にあう確率も犯罪にまきこまれる可能性も高くなります。」
「そうだなぁ。」
「通常の人たちのなんかに、先入観をまったく持たない人が傍にいることに恐怖を感じるのか、犯罪も減りませんね。」
ちょっと若めの爺さんが聞く。
「彼女の押したボタンは、ちゃんと電源が切れているんでしょう?」
「もちろんですよ。線を切ってあります。」
「確実にそれは動く、なんて先入観ですよ。」
笑い声が響く。
「ええ。だから、直しておきました。」
「え?」
「ええ?」
「は?じ、冗談だろう?」
「いいえ。あれが動かない、なんて。我々が世界の中心なんて先入観ですよ。」
そうして、破壊されたビルに中に人は誰もいなかった。
画面がぽつ、ぽつ。
我々が生きている、そんなことも先入観なんですよ。




