結婚と出産
茜が翔也と別れて半年が過ぎようとしている。
大学の頃からの友人達と久し振りに会うことになった。
今日がその日である。
「久し振り~、元気だった?」と挨拶すると、大学の頃に戻ったようだった。
一頻り話しをしながら夕食を食べていると、隣の菜月に責っ付かれて黒崎杏樹が「あの……ね。」と話し始めた。
「何? 杏樹。」
「私………結婚します。」
「え?」
「ええ―――っ!」
「いつ? 何時よ?」
「プロポーズされたのは、付き合い始めた頃なんだけど………。
半年前に……その……彼が『挨拶に行きたいんだけど。』って言ってくれたの。
それで……それからは……早くって………直ぐに結婚式場も決まって……。」
「おめでとう!」
「おめでとう~!」
「招待状、送るから……来てね。」
「勿論!」
「待ってるからね。」
「うん………茜……待てってね。」
「うん!」
「…………実は……私も結婚式が決まったの。」
「菜月も!…………おめでとう!」
「4人中2人も!……なんか焦るね……茜。」
「うん………そうだね。」
「焦んなくて良くない?
焦って……いいこと無いよ。」
「詩乃は彼がいるよね。どう?」
「あ………一応はいるけど……先は見えないなぁ……。」
「そっか………。」
「まぁ、そのうち彼が結婚したくなるかもしれないよね。」
「分かんないなぁ……今の所は………。」
「仕事に忙しいの? 彼……。」
「そうなのよ。」
「仕事かぁ…………。」
「どうしたの? 茜。」
「まだ先のことなんだけどね。」
「うん。」
「私、総合職になる試験を受けるの。」
「え………。」
「どうして急に?」
「うちの会社で初の女性統括本部長になった人が居るの。」
「統括本部長……凄いね。」
「うん、凄いの。
その人の話を聞いたの。
『仕事は裏切らない。』って……仕事自体は裏切らないのよね。
仕事での裏切りは、仕事じゃなくて人なのよね。
人は……怖いから………仕事を先ずは頑張ってみたいなぁ……って思った。
先は分からないけど……これって皆だよね。
産まれてきてから人に裏切られること無く人生を終える人も居るだろうけど……
裏切られたことがある人も少なくないんじゃないかな。」
「………茜……男が全てあんなクズばっかじゃないよ。」
「うん、分かってるつもり。
けど、怖いの……もう怖いから多分誰とも付き合わないわ。
誰とも付き合わなくっても生きていく為に働くのよ。
それなら、同じように働くなら、仕事……頑張りたいって思ったのよ。
ちょっと不純だけど……打ち込む何かが欲しいんだ。」
「…………そっか……。」
「茜、頑張って試験に受かってよ。」
「頑張って!」
「うん、頑張る。ありがとう、皆。」
茜は総合職を目指すべく、仕事を終えて帰宅すると試験勉強をしている。
翔也の友人・進藤陽介のアカウントを削除していない。
陽介からメッセージはあれ以来届いていない。
◇◇◇◇
総合職へのチャレンジは続いているまま、1年が経過した。
陽介のことなど忘れてしまっていた。
仕事を終えて帰宅した茜のスマホに通知が表示された。
⦅進藤さん?⦆
スマホを操作する指が震えている。
メッセージアプリに陽介からの新着メッセージがあった。
「茜ちゃん、その後お元気ですか?
もうブロックされているかもしれないけど……。
伝えたいことがあるからメッセージを送ります。
翔也はパパになりました。
産まれてきたのは女の子です。
それも双子\(◎o◎)/!
茜ちゃん、前に進んでくれてたらいいな!と俺は思ってます。」
「茜ちゃんから翔也への最後のメッセージ。
翔也は奥さんに見せたんだって!
奥さんは『もう誰も泣かせないで! どんなに辛かったか。』って……。
それから『自分の子が翔也みたいな男に弄ばれても平気なの?』
『この女性にも親が居て親御さんも苦しめたのよ。もう二度と弄ばないで!』
そう言ったんだって、翔也から聞いた。」
「茜ちゃん、絶対に幸せになって!
もう二度とメッセージを送らないから……ごめんなさい。
茜ちゃんの優しさに翔也よりもいい男がきっと気付くから!
もしかしたら、もう居るかもしれないよな。
そうだったら、いいな。
元気で居て下さい。
翔也よりも幸せになって下さい。
さようなら。」
あれから1年以上経っているのに茜は胸が苦しくて仕方なかった。
涙はもう流れないと自己暗示を掛けて来たが、効果は無かった。
泣いてしまって何も出来ないまま朝を迎えた。
目の周りが腫れぼったくなっていたので、会社を一日だけ休んだ。
⦅素敵な人なんだな……奥様。
振られて当たり前だったんだ。
………あ……始まっても居なかった。
私のことなど心の隙間を……一瞬だけ……だった。
翔也にとっての私は無意味だった。
もう、忘れたいのに……何時まで続くのかな……。⦆
それからの茜は今まで以上に仕事に打ち込んだ。
その時間だけが翔也を一瞬だけ忘れられる時間だったからだ。




