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第十三話 ケセラセラ

櫻田はベッドの上に寝転がり、指先で一枚の名刺を弄んでいた。


白地のシンプルなそれには、和田の名前と連絡先――そして、場違いなほど軽い一言が添えられている。


『ケセラセラ』


意味ははっきりとは思い出せない。だが確か、「なるようになる」とか、「気楽にいこう」とか、そんな類の言葉だったはずだ。


らしいといえば、あまりにもらしい。


「ケセラセラ、か……」


小さく呟いたあと、櫻田は喉の奥で笑いを噛み殺す。


やがてそれは堪えきれなくなり、声になった。


「……ハッ、はは……ハハハハ!」


静かな部屋に、場違いな笑い声だけが響く。

しばらくして笑いが途切れると、残ったのは妙にすっきりとした感覚だった。


天井を見上げたまま、櫻田はゆっくりと息を吐く。


「……よし」


短く言って、上体を起こす。


手の中の名刺をもう一度見てから、家の固定電話に向かう。


わずかな逡巡。

だが、それも一瞬だった。


――ガチャ


「なあ――」


***


東京から少し離れた郊外。

人気のない広場で櫻田はある男を待っていた。


「よお~櫻田。裏切りもんになる覚悟は決まったか?」


「ああ。だからいい加減姿を現したらどうだ。和田」


「ちょっと待ってくれよ。お前が他のSランクを連れてきてたら俺は一貫の終わりだぜ。少し調べさせてもらおうか」


その直後、魔力の波動が強く感じられる

和田が魔力探知の範囲を広げたのだろう。


「……円城は東京。その近くに大友。天内はゲートか?半径1キロ以内に俺ら以外にハンターはいないか」


「よし、いいだろう」


そう言って和田は姿を現す。


「それじゃあ、俺たちのアジトに――」


「俺は、この仕組みにうんざりしていた」


和田の言葉を遮るように、櫻田が口を開く。


「おっ?自分語りか?」


軽口を叩く和田を無視し、櫻田は続ける。


「……Sランクになれば、もう少しマシな生き方ができると思ってた」


視線を落とす。


ほんの一瞬だけ、本音が溢れ出る。


「だが現実は違った。ただの便利な道具だ」


和田が、わずかに笑みを深める。


「だろ?」


「だから――」


櫻田は顔を上げる。


「お前の言ってることも、分かる」


一歩、距離を詰める。


和田は動かない。

警戒はしているが、退かない。


「なら話は早えな」


「……ああ」


さらに一歩。

ここで初めて、和田の視線がわずかに鋭くなる。


「来いよ。楽にしてやる」


手を差し出す和田。

櫻田はそれを見る。


だが、


「――悪いな」


踏み込む。

一気に間合いを潰し、


「なっ――!?」


地面に叩き伏せた。

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