ヒロインの誤算(兼登場人物紹介)
【Sideラナ】
すっかり慣れたアタシ用の部屋。実家とは違って煌々と灯されたデスクライトがちょっと眩しい。
(……うん。こんなモンかな?)
手元の紙をじっと見つめる。
今書き出したばかりの、アタシの記憶。
この世界に転生して、「やったー! 人生楽勝モードじゃんっ」と感激した日は遥か彼方。ここしばらくの急転直下はとんでもないものだった。
(ゲーム開始前に攻略対象がまとめて籠絡されてるとは思わないよね〜)
いくら前世ガチ勢のアタシでも、さすがにストーリーに関係ないモブのことまではわからない。というか、意識したこともなかった。
悪役令嬢の母って……なんなのよ。ふざけてんのか。
しかし、現実的に考えれば親の影響というのはとっても大きい。特にアケルナー兄妹は設定からして「冷えきった家庭の影響」をモロに受けてる。何せ、それがなければ成立しない程の設定依存度。
アタシは書き出した中の、「カウス・アケルナー」という文字を指先でつついた。
『カウス・アケルナー
次期アケルナー公爵で、悪役令嬢の兄。
家族に愛されない孤独と次期公爵としてのプレッシャーに苛まれる秀才。人間不信で、自分にも他者にも冷たい。
ルートに入って心を開き始めるとヒロインに執着依存し、ヤンデレ言動が増える。
バッドエンドは監禁メリバ』
ゲームの中のカウス様はこういうヒトだ。思い出せるだけを書き出してある。
「やっぱ、カウス様が1番おかしいよね〜」
呟いて、脇の余白に
『前倒し? 間もなく公爵就任』
『義母に粘着執着』
『義母、既にルート入り間違いナシ』
『ヤンデレっぽいけどデロ甘な気配』
と書き足してそれぞれを吹き出しで囲った。
アタシはヒロインとしてこの世界を楽しもうと思うと同時に、一人の下位貴族の娘として現実的な幸せを掴みたいとも思ってる。その観点から言って……カウス様は、100パー無し。普通にめんどくさいし、真面目過ぎて横恋慕しても無駄だから。
身分的には王族相手よりはキツくないけど、性格が重た過ぎる。幸いなことにツィーナちゃんが居るし、カウス様は今みたいに程よい距離から鑑賞するのが理想的だ。自分で向き合うのはしんどい、あのヒト、間違いなく。
(執着心がこっちを向かないで済むんだから、ツィーナちゃんには感謝しなきゃね。ヤンデレ魔人を引き受けてくれてありがとう!)
「攻略対象七人……」
口に出せば、少なくもあるその人数。けれど、1人で手玉に取るには厳しい人数。
それにしてもまさか、ツィーナちゃんが課金限定キャラまで攻略を進めているとは思わなかった。
『ローバー・バックス
騎士団長。
王子ルート途中で登場し、その時点で課金していれば攻略できる特典キャラ。
熱血で一途な、頼りになる脳筋。構いたがり。
好感度上げるの楽勝。
特典だからか、バッドエンドは特にナシ』
かなり課金を重ねていた前世のアタシは、「特典ならまぁ、やってみるか〜」くらいの緩さでローバールートも経験している。暑苦しくてウザかった、という一般評が多い中で「常に大事にお姫様扱いして纏わりつかれるのも、悪くない」と思ったものだ。
今度はその下に、
『ツィーナちゃんの幼馴染み』
『ほぼ兄』
と書き足しておく。
いやいや、ツィーナちゃんの影響すごいな。なんなのあのヒト。
影響をモロに受けていると言えばもう一人、
『ケネス・フェリスス
隠しキャラの王弟。誰のルートにも入らずエンディングを迎えた時のみ出現。
悪役令嬢とは既知だが妨害イベントはナシ。
女好きキャラでセクシー担当のイケオジ。際どい言動が多くてR指定ナシの極限にチャレンジしている感じ。攻略が進むと、課金でR指定ルートも解禁。
バッドエンドは軽めで、その他大勢落ち』
(それが……あのケネス様が……なんなの、あの一途さ。も、完落ちレベルじゃん)
ほぼ別人のように思えるケネス殿下には心底、本気で驚いた。はっきり言って、あんな真面目じゃ面白くない。
時系列的に『悪役令嬢と既知』のあたりが現在なのかもしれないけれど、あれは、
『悪役令嬢の義母に激ハマり中』
と書き込むしかないと思う。
ここでツィーナちゃんにフラれて未来の女遊びに繋がる可能性も無きにしも非ずとは言え……なんか、そんな次元には見えない気もする。フラグってより、ガチっぽい。
(あとは……)
時間をかけて書き出した攻略対象者リスト。その7つの名前のうち、ツィーナちゃんの紹介で会えたのは四人だ。残る1人は……正直、ここで出て来るとは思ってなかったけど……まぁ、イベントを考えてもフットワークの軽い王子様ではあるけど……ハァ。
(メインヒーローも陥落の気配とか、マジなんなのツィーナちゃん)
『リーベルト・フェリスス
第二王子。
正統派のキラキラパーフェクトなイケメン王子様。努力家で真っ直ぐ。
希少属性持ちのヒロインを気にかけ何かと行動を共にするうちに親しくなる。
強過ぎる責任感のせいで身動きが取れなくなりがちで、心を開くと弱音も吐いてくれるようになる。人間らしく居られる瞬間を増やしてあげるのが攻略ポイント。
バッドエンドは離別。立ち位置は友人だが、王子が外国の王女と結婚して国外へ。二度と会えない』
ツィーナちゃんがカウス様を陥落させていることは一目でわかった。シャウラの話から、ケネス様も。
でも、ローバー団長とリーベルト王子の登場は正直かなり意表を突かれた……というか、「おい」って感じ。この2人に関しては前2人よりは執着度が低いからまだマシとは言え……。
(メインヒーローがヒロインを歯牙にもかけないって有り得ないでしょ)
別にリーベルトルートに行きたいわけじゃないけど、納得いかない。王子妃とか現実的にキツそうだからむしろ積極的に選択肢から排除するつもりだけど……そういう問題じゃなくてモヤモヤする!
『なぜかツィーナちゃんと知り合い』
『ただし周りを押しのけるほどの熱意はなさげ』
と書いて吹き出しで囲った。
(アタシの選択肢狭めるのだけは止めて欲しいよね〜)
もしかしたら、ここでツィーナちゃんにフラれたことが、ゲーム開始時の人物設定に繋がるのかもしれない、なんて突拍子もないことも考えてみる。
主人公の好感度が上がりやすいのは、もしやツィーナちゃんに似てるから、とか?
(……身代わり? サイアク)
悪役令嬢が歪む原因が、義母のモテ過ぎ問題だとか……?
(でもむしろシャウラも恋愛不信な感じすんだよね。恋愛不信の女の子が恋愛イベントの邪魔してくるとか、どんな設定よ。運営鬼畜か)
……いや。それもこれも、ツィーナちゃんが日本人の記憶を持っているせい。そのせいで歪んでしまったと考える方が自然だろう。
(残りは三人……)
書き出した名前、未だ会ったことのない三人の名前を順に指先でトントン突いた。
『マーカス・ダルク
伯爵家の三男で、リーベルト王子の近衛騎士。
一途な大型ワンコ系男子で、実は気が弱い。
肉体派の見た目と可愛らしいメンタルのギャップが母性本能をくすぐる。
バッドエンドは崇拝エンド。自分じゃ釣り合わないとか言いつつヒロインを神聖視してくる』
『ワイト・カグ
天才魔法使いの平民。ヒロインの魔法の指導役。
悪役令嬢の既知っぽいが、詳しい描写はなかった。
純朴で、普通の青春っぽい恋愛が楽しめる。
バッドエンドは匂わせ心中エンド。身分違いで引き裂かれるのを前に、互いに心中を決意するところで終了』
『クルスト・ミーズリ
隠しキャラの魔法研究所所長。
オープニング画面の一コマで一定の画面操作をすると登場。期間限定イベントのIDも必要。
マッドな鬼畜。ルートに入るとデロ甘でめちゃくちゃ特別扱いしてくれる。でも変態。
バッドエンドは最悪の標本エンド。メンタルやられたヒロインは人形状態』
書きながら思ったし、なんなら思い出した時点でも思ったけど、やっぱり圧倒的にクルストがやばい。二次元だからこそ愛せたキャラ代表格だ。
いくら美形だって、やってイイことと悪いことってあるよね?
(どーせならツィーナちゃん、クルストも落としといてくれれば良かったのに)
そうすればアタシの安全は保証される。
しかし、残念ながらクルストに関しては追記できる情報もない。
(確か、マーカスくんには会ったっつってたよね?)
『悪役令嬢母子と面識有り』
『まだ近衛じゃなくて騎士団で修行中らしい』
マーカスくんの名前の横に吹き出しを2つ、つけた。
(でもって……)
『シャウラの幼馴染み』
その文字は、『ワイト・カグ』という名の脇に。
口下手な天才魔法使いの少年は、作中で悪役令嬢に目の敵にされ、ヒロイン以上に虐められていた。そのくせ、過去に触れる情報はほとんどなくて……。
ちょっと前、シャウラが時折話す「幼馴染みの闇属性の、八百屋の子」というのが彼のことだと気付いた時には、とんでもなく驚いた。そりゃ……平民が幼馴染みとか、悪役令嬢的には黒歴史だもん。虐めるよね。
まぁ、今のシャウラは虐めないだろうけど。むしろ、ワイトのこと本気で心配してるっぽいし。
……しかし、そう考えるとシャウラもかなり紆余曲折経てきている。下手したらゲームと1番変わってるのはカウス様じゃなくてシャウラかも?
「うーん……」
『シャウラ・アケルナー』
少し考えてから、紙の余白に公式設定を新たに書き出す。
『シャウラ・アケルナー
悪役令嬢。アケルナー公爵家長女。
兄は攻略対象のカウス・アケルナーだが、不仲で口をきくこともほぼない。
高慢で示威的、特権意識が強い。
どのルートでも最低1度は絡む。リーベルトルートは特に妨害激しい。
どのルートでもエンディング前には退場する。修道院送りが多い。処刑エンドも有り(どのルートかは忘れた)』
(うーん。も、別人じゃん)
『愛人の子から本家入りの元庶民』
『兄とは関係良好。義母のことで同盟』
『真面目で勤勉。令嬢らしさ学習中』
『わりと常識人で気ぃ遣い』
仲が良い分、シャウラについては書き込める情報も多い。
『可愛いもの好き』
『意地っ張り』
『無表情は照れ隠し』
書足せば足すほど、ただの女の子。悪役令嬢の「あ」の字も感じられない。
(多分シャウラは……ワイトのこと意識してるんだと思うなぁ)
ゲームであれだけ虐めてたのも多分、裏返しだ。
今のシャウラなら、わりと素直に、普通に、ワイトと仲良くやると思う。
「ふわぁぁあ……疲れた」
攻略対象七人のうち、アタシが選ぶべきルート。4人と会った今、それを正式決定するために書き出したのがこの一覧だった。見ていると少し、頭がクリアになる気がする。
(とりあえず……予定通り。クルストは絶対ナシ。カウス様とケネス様もナシ。ツィーナちゃんの身代わりとかゴメンだし。シャウラとの今後を考えるとワイトも微妙)
うーん……思ったより選択肢がない。
頬杖をついて小さく呻いた。
(リーベルト王子……ローバー騎士団長……マーカス……恋人にするならリーベルト様一択だけど、結婚相手として考えるなら……)
悩んでいるうちに、段々眠くなって来た。いつの間にか、随分と夜もふけたらしい。
「……ど、れ、に、し、よ、う、か、な」
トントントントン、リズムに乗せて名前を突く。
「……って……ハアァァァ」
(これ、現実的に考えればやっぱ選択肢ないも同然じゃん? カウス様とケネス様入れても、リアルに旦那にしてもイイの、やっぱり一人しかいないもん)
世知辛い。
あんなに夢と希望に溢れていたこのゲームなのに……二次元から三次元に変わった途端、罰ゲーム要素満載に見えて来るから不思議なものだ。
実家の地位、その他現状、未来の義家族問題に、アタシの自由度──。
それら全てを勘案した時、バランスが良い人物が少なすぎる。
(まさか、推しじゃなかったキャラをホントに選ぶ日が来ようとは……)
本っ当に世知辛い。
(見た目はイイし、友達としては絶対イイんだけど、ドキドキに欠けるんだよね〜)
キュンキュンしたい、そんな思いも当然ある。その基準で言うとイマイチどころか、イマサンくらいで、はっきり言って物足りない。
でも。
「待ってろよォ、マーカス・ダルク!!」
一番安定した安全安心の攻略対象者。
──アタシは、近衛騎士マーカス・ダルクのルートに入る。
きっと、それが一番堅実。
なんか……結局、4人に会う前と結論、変わんないんだけど。これはそれだけ、他のヤバさが際立っちゃった! ってことなのかもね。
すみません、今週も今日だけになるかもしれません。




