肝っ玉母ちゃんとして……腹を括ります!
春の訪れはヒトの気持ちを浮き立たせる。雪解けと共に街には活気が戻り、食卓に上る野菜の種類も増えた。チラホラとお茶のお誘いも届くようになり……
「うん、超可愛い。さすがアタシ、センスあるんじゃね?」
「ラナ、言葉遣い」
「ホントに可愛い!? 年齢的に無理でしょ!? しかもわたし子持ちなのよ!?」
「つっても男の手ぇ握ったこともないくせに」
「!? それくらいあるもんっ」
「真っ赤になっちゃってかぁわい〜」
「お義母様……」
姿見に映るのは、年若いご令嬢方に流行りのドレス。結婚して以来、既婚の淑女らしさを大切に、品の良い、肌を隠すデザインのドレスを着てきたわたしにはかなりの衝撃デザインだ。
(前世と比べれば全然露出少ないんだけど。そういう問題じゃないのよね……)
ミニスカ肩出しとか、ローライズやクロップド丈でヘソチラとか、遠い昔は確かに普通のことだった。でも! 単純に考えたって、二昔以上前の話だ。だってわたしがツィーナとして産まれて20年。例え露出上等だったギャルだって、さすがにアラフォーとなれば「若気の至り」と思うだろう。
いくら、「見た目年齢アタシと大して変わんないし〜」と言ってくれたところで、キツいものはキっツい。ううぅ……胸元と背中と二の腕隠したいよぉ……!
「ね、せめて上着! じゃなきゃストールとか……」
コンコン──
「はい。……あら、お兄様」
「あ、ちょうどイイじゃん。男目線でも見てもらおうよ。マジで変じゃないから大丈夫」
「ふえっ!? いやいやいやいや! ちょっラナちゃんっ!! ちょ……カウスくん待って待って!!」
「なんの騒ぎですか、ツィーナ。王城から早馬が来たのですが……」
次のお茶会に向けた衣装合わせという名のもと、ラナちゃんの着せ替え人形にされていたわたしは、いつも通り部屋に入ってきたカウスくんを見て固まった。招き入れる方もどうかしているが、これだけ騒いでいるのに踏み込んで来るカウスくんも男性としてどうかと思う。義娘と義息子の再教育をした方がイイかもしれない。
「……その恰好は?」
「可愛いっしょ? ツィーナちゃん、まだまだ若いしラブリーだから似合うと思って」
「おまえの仕業か……」
現実逃避気味にフリーズしていると、眉間にシワを寄せたカウスくんがカツカツと靴音も荒く近付いてきて、バサリ、と自分の上着をかけてくれた。
(あったかい……)
春先といえどまだまだ冷える季節。カウスくんの温もりの残る上着に、ホッと息をついた。
「似合わないとは言わないが、人前でさせる格好ではない」
光属性持ちという貴重性を最大限活用して早々に化けの皮を脱いでしまったラナちゃんを、カウスくんは容赦のない口調で叱責する。気心が知れる相手が増えたのは良かったけれど……
「ツィーナ。すぐに着替えてください」
なんでいまだにわたしにだけ敬語なのか。モヤモヤする。
「えええー!? せっかく可愛いのに! ケチ!」
「王城より早馬で『本日夕刻、ケネス殿下が訪問される』との連絡です。何かまた、王妃陛下のご下命らしいですよ」
ニャーニャーと騒ぐラナちゃんは完全放置。上着をかけてくれたままわたしの肩に手を置いたカウスくんが、険しい面持ちでわたしの全身をじっくり見た。
「あの……恥ずかしいんだけど……何? 着替えるから……」
「新鮮です。こういうのもたまにはイイと思います」
ふわりと厳しさを消して褒めてくれるあたり、やっぱり紳士。ちゃんと女性に優しく育ってくれてお母ちゃんは嬉しいよ。再教育は手加減しよう。
「……でも、僕以外には見せないでくださいね」
(っひぃいいっ)
なのに……にっこり笑った中で、すっと細められた目だけが笑っていない。どろりと暗い熱を浮かべた瞳に射すくめられる。
部屋から出て行くすれ違いざま、
「ツィーナは僕のモノですから」
わざわざ耳元で囁かれ、背筋にゾクリ、弱い電流が走った。
「ふふ……」
バッと耳を押さえたわたしを、クスリと笑って……
「今日は僕も同席します」
カウスくんは悠々と歩き去った。
(なんなのもう……っ )
その態度は、どこか開き直りすら感じさせるものだ。それもそのはず、
「愛されてるね〜」
ニヤニヤニヤニヤ。
なぜか、ラナちゃんが「カウス様の味方」を誰憚ることなく明言している。しかも、「シャウラもだよね〜」と。
ヒーローとヒロインと悪役令嬢。その3人を敵に回したわたしは現状、ちょっと分が悪い。……いや、敵対する必要はないのだけれど……カウスくんの味方というのはつまり、わたしを彼の奥さんにしようと目論んでいるということで……。
(どうして変わらなきゃダメなんだろう……嫌だな)
旦那様さえ生きていればこんな面倒なことにならずに済んだのに。そんな的外れな愚痴すら湧いてくる。
どこで何を、どう間違ったのかはわからない。でも、カウスくんをあんな風にしてしまったのはわたしなのだと思う。彼の幸せを願っていたのに……仲良くならない方が、健全な成長のためには良かったのだろうか。
「あーぁ、せっかく似合うのになぁ。でもあれでこそヤンデレカウス様って感じで萌えるけど〜」
手近な椅子にドスンと座ったラナちゃんがアヒルのように唇を突き出す。満足なような不満なような、なんとも言えない表情だ。
「ツィーナちゃんだってホントは内心萌えてるんでしょ? 大好物でしょ?」
ヤンデレ──他人には絶対に向けない切望と哀願、病的なレベルの重たい愛を、本命である一人にだけ向けるヒト。
…………ラナちゃんに言われなくても、薄らとわかってはいた。
カウスくんのわたしを見る目が、推しスチルの一枚に似ていること。
──絶対ツィーナちゃん、カウス様ルート入ってるって。
彼が、わたしを真面目に恋愛対象として見ているのだということ。
そんなの……ファン心理として、嬉しくないはずがない。でも。今のわたしはファンじゃなく、義母なのだ。
「……着替えるわ。もちろん、2人も同席してね?」
「御遠慮申し上げたいところですが、仕方ないです」
「ケネス殿下かぁ! イケオジ楽しみ〜っ」
とりあえず、ラナちゃんとシャウラちゃんの仲が良くて、カウスくんとその2人の仲も悪くないことを喜びたい。そこに全振りしたい。
その他の難しい、入り組んだことは……
「久しぶりだね、ツィーナ。会いたかったよ」
「お元気でしたか? せっかくのあなたに会える機会、叔父上ばかりではズルいでしょう?」
(なんで!?)
面倒なことは先送りしたいのに……!!
出迎えに並んだわたし達の前に停まった、完璧お忍び仕様の馬車。そこから降りて来た面々に、わたしの目の前は真っ白になった。
「ようこそ……お越し……」
「ようこそお越しくださいました、ケネス王弟殿下、リーベルト第二王子殿下。アケルナー当主として大変光栄に存じます。おや、護衛は騎士団長殿ですか……」
ずずいと前に出たカウスくんが、わたしをがっつり背中に隠す。ちょっとわざとらしいくらいの動きだけれど……思考の停止したわたしはされるがまま。ただただ、男4人の視線がぶつかり合う様子を眺めていた。
「ちょっ、ツィーナちゃん!? 何何何何!?」
コソコソと小声で詰め寄って来たラナちゃんを、
「離れなさい、巻き込まれるわよ! 説明ならわたくしがするから」
シャウラちゃんが引き離す。
いや……巻き込まれるって……何? 災害!?
後方に感じる、キャイキャイと女子トークに盛り上がる熱。前方に見える、冷えきった笑顔の群れ。寒暖差で風邪をひいてしまいそうだ。
「ツィーナのエスコートは夫として認められた私がしよう」
(は!?)
室内へと案内する流れにいち早く気づいたケネス様がとんでもないことを言い出した。
(認められた!? 誰に!?)
確かに、ぽにぃちゃから「おまえが認めたんだろ」的なことは言われていた。だが。こうして直に耳にするととんでもない。
このままじゃケネス様と結婚することになる、根回しだって進んでいる──それが事実としてのしかかる。
「叔父上。それは暴論では? 確かに母上がそう望んでいるのはわたしも知っています。けれど、正式に婚約すらしていない女性をエスコートするなど……」
「殿下のお優しさはありがたいことですが、彼女はアケルナー夫人です。これまでも、これからも」
サラリとした動きでわたしの肩を抱いたカウスくんに呆気にとられる。
(何、この修羅場……)
あまりのことに、意識が飛んで……もはや他人事のように遠く感じた。
なんでこのヒト達、火花散らしてるんだろ……?
わたしの大切な義息子、カウスくん。前世の推しだと気付く前からずっと、今のわたしにとって大切な存在だった。
気配り上手で懐の広いケネス様。友人の子にすぎないシャウラちゃんのことを親身に考えてくれて、温かな支援を約束してくれている。
心配そうにわたしを見守るのは、昔から変わらない親切なお兄ちゃん、ぽにぃちゃ。再会できたことが心の支えになるくらい、頼りになる。
そして、すっかり懐いてくれたリーブ様。親戚の子みたいな、見ていて癒される、可愛い男の子。
「あー……リアルだと確かに三角関係起こりうるかぁ……。てか、何これ、五角関係? 逆ハーじゃん」
微かに聞こえたラナちゃんの声にくらりとした。
五角関係……?
乙女ゲームは基本的に1体1。悪役令嬢みたいな噛ませ犬キャラが出てくることはあれど、別のヒーローが横恋慕してくることはない。そういう趣向のゲームは別として、だが。
少なくとも、ツィーナの知るこの世界には、そういう複雑なゲーム設定はなかったはずだ。
(現実だから……?)
わたしを妻にしようとしている、カウスくんとケネス様。その渦中から救い出すために立候補してくれているぽにぃちゃ。
見ようによっては、四角関係と言えなくもない……かもしれない。
「それで本日の御用件は?」
サンルームではない応接室に一行を通し、慇懃無礼ともいえる態度でカウスくんが口を開いた。
ソファーに座っているのは、ケネス様とリーブ様、それにカウスくんとわたしだけ。ぽにぃちゃは殿下方の後ろに、シャウラちゃんとラナちゃんはわたし達のうしろにそれぞれ立っている。
「ああ。これを」
カウスくんの態度を気にもかけない大人なケネス様が内ポケットから取り出したのは一通の封筒。どうやらわたし宛の私信らしい。
断りを入れて開封する。その間も、
「王弟陛下ともあろうお方が使い走りのような真似を……」
「私信だからね。間違いなくツィーナ本人に、未開封のまま届ける必要がある。どこでどんな妨害が入るか分かったものではないのだし」
「それにしてもカウス・アケルナーはなぜ屋敷に? キトン殿は激務に追われていると聞きますが」
「王子殿下の公務量に比べればわたくし共など」
「だから言っただろう? リーベルトまで来る必要はない、と」
何やらひんやりとした舌戦が繰り広げられている。どうも、ケネス様とリーブ様も互いの味方というわけではないようだ。
「あの、ケネス様」
「どうかしたのかな、ツィーナ?」
「こちらのお手紙、お返事をお求めのご様子ですが、ルシータ陛下は何か仰っておられましたか……?」
「あぁ。返事は急がないとは言っていたけれど……良ければ持って行こうか?」
「まぁ! よろしいのですか? ……あ、ですが、殿下方の前を失礼するのは……。あの、陛下のお手紙には、光の魔法使いについても書かれておりました。せっかくですので、ケネス様とリーブ様にご紹介させていただいても……?」
椎田さんのお手紙は、お茶のお誘いだった。ただ、「アケルナーが光の聖女を保護したとの噂を聞いたが、それはもしや前に言ってたヒロインか?」というような内容もあり……万が一にもカウスくん辺りが間違って開封しないようにケネス様がおつかいに出されたのだろうな、と予想がついた。
「それは光栄だね。ぜひお願いしたい」
「わたしも噂に聞いて気になっていました。光魔法とはどういったものなのでしょうね」
返事を書いてくる間の場繋ぎをラナちゃんにお願いしようとチラリ、振り返れば、仕方なさそうな頷き。でも、その目は爛々と耀いている。新たなヒーロー2人と話してみたくて仕方ないのだろうとわかった。
立ち上がると、興味津々な両殿下の前でラナちゃんを指し示す。
「こちら、ラナ・ジパニア子爵令嬢です」
「あぁ、きみが。先程から気になってはいたんだ」
「ジパニア子爵家といえば失脚したウーノラ伯爵家の庇護下にいた……」
さすが王子様、国内貴族はしっかりと把握しているようだ。わたしはその辺り、カウスくんに教えられるまで知らなかった。
「先日、たまたま立ち寄ったお店で知り合いまして。義娘とも意気投合したようですし、せっかくなので行儀見習いとして長期滞在していただいておりますの」
「ラナ・ジパニアと申します。アケルナーの皆様にはとても良くしていただいております。両殿下のお目にかかる機会を頂戴し、恐悦至極に存じます」
さすがにこの状況で別室に引き下がるわけにはいかない。
わたしはメイドちゃんに声をかけると奥にある小さな机に便箋を用意してもらった。向こうで繰り広げられる光属性談義が気になりつつも、椎田さんへの手紙を認めていく。
──もちろん、お茶はいつでも大歓迎! 椎田さんの予想通りラナちゃんはヒロインで、しかも元日本人なのー!!
というような内容をそれなりの言葉で。
ラナちゃんなら椎田さんとも気が合うと思うし、許可が貰えるなら是非ともお茶に同行させたい。
(あ、でも、シャウラちゃんを仲間外れにするのもちょっとねぇ……)
……なんて考えていると、唐突に、とんでもない言葉が耳に入ってきた。
「では私とツィーナの挙式の際には光の祝福を──」
……挙式!?
「でしたら例えば……こういった感じでしょうか?」
キラキラキラキラ。
降り注ぐ光の粉。
「それともこう……」
パァァッ!
差し込む光の帯。
「待ちなさいラナ嬢。
殿下、お言葉ですがツィーナはアケルナーから出しません。陛下には昨年から申請をお出ししております」
「おや? カウスには陛下が縁談を紹介したと聞いているよ?」
「お断り申し上げました。アケルナーの領民も領主夫人にはツィーナを望んでおりますから」
「二人ともズルいですよ? わたしにも彼女と話す機会をもっとください。出遅れた感は否めませんがわたしだって……」
(なんの会話!?)
なんだか非常によろしくない。
……それもこれも、わたしが曖昧な態度を取ったせいなのだろうか。ぽにぃちゃの言う通りであれば、わたしが、ケネス様を家族と言ってしまったせいで……?
しかし、そんなことを言われてもどうしたら良かったのか、未だにまったくわからない。
「すううぅぅぅぅ、はああぁぁぁぁ……」
一つ、大きく深呼吸。
ダメだ、ダメダメ。最近、全然わたしらしくない。周りの勢いに呑まれてる。
(肝っ玉母ちゃんの神様! どうかわたしにパワーを! わたしがわたしを貫けますように!)
そう。母親であるだけではダメなのだ。わたしがなりたいのはただの母親じゃない。肝っ玉の太ぉいしっかり者のマイペースなお母ちゃんなのだ。
初志貫徹、初心忘れるべからず。
(こんな時、肝っ玉母ちゃんなら……「バカなこと言うんじゃないよ」かな……?)
一度は言ってみたいそのセリフ。でも、王族相手にはさすがに……不敬だろう。……なんて考えるのがダメなのかな。肝っ玉母ちゃんなら押して参るところかもしれない。
カッカッカッ、と急いで手紙を書き終える。丁寧に封をして蝋を押したその封書を手に、顔に笑顔を貼り付けた。
(大丈夫。義息子義娘の前で醜態は晒さない。ゆったり、どっしり、冷静に……)
「あら、何のお話しですの? お待たせ致しました、ケネス様。大変申し訳ございませんがこちらをルシータ陛下へお渡しください」
(わたしが呑まれるんじゃない。わたしがみんなを呑んでやるのよ……っ!!)
人間、追い詰められると肝が座る。奇しくもそれこそ、わたしの求めていた姿。
「早かったね。では、そちらを預かろう」
「よろしくお願い致します。ところで、ラナ・ジパニア嬢とは打ち解けていただけまして? 仲良くしていただけると嬉しいですわ。わたくし、彼女のことを娘とも妹とも思っております。わたくし達、髪や目の色が似ておりますでしょう? 間違われたのがそもそものご縁ですし……とても、他人とは思えなくて」
「おや。そんな不思議な縁もあるものなんだね」
「……確かに色合いは近いものがありますね。お二人ともに可愛らしい。……あぁ、もちろんシャウラ嬢も素敵ですよ」
さすが現役の王子様。如才無い。
「ふふ、リーブ様にそう言っていただけると、わたくしも、もちろん義娘達も大変光栄でございますわ。既婚の身であるわたくしと違って、この2人はこれから、社交界に出ていかなくてはなりませんもの」
「ほう。ツィーナは優しい母親だね」
何を言い出すのだろう。そんな雰囲気、敢えて無視してぶった斬る!
わたしは室内の面々を見渡した。最後に、ぽにぃちゃと目を合わせる。
ごめん、ぽにぃちゃ。使わせていただきます。
「わたくし、つい夢想してしまいますの。母親とは欲深い生き物ですわね。2人の娘のエスコートを、ケネス様とリーブ様にお任せできたら、と」
しーんと音の消えた室内。六対の目がわたしを凝視する。
はじめに立ち直ったのはカウスくんだった。少し掠れた声で
「ツィーナ……」
と呼ぶ。
「それはつまり……」
兄や従兄が令嬢の社交デビューをエスコートすることはある。婚約者が決まっていなければ、むしろそれがスタンダード。
翻って……父親がエスコートすることはまず、有り得ない。なぜなら、エスコートするべき妻がいるのだから。
「ツィーナ」
低い低い、地を這うほどに低い声が普段は甘い笑みを浮かべるケネス様の口から零れる。
義娘のエスコートをケネス様に望む──つまり、「あなたの妻にはなりません」という宣言。わたしは王族に嫁ぐ気はないのだ、と。
だからこそ、感極まったカウスくんの声。
「ツィー……」
「わたくしはドゥーべ・アケルナーの妻です。それ以外の何者でもありません。公爵家の女として、義娘の幸せを望むのは普通のことではございませんか?」
死んでしまった旦那様に愛情はない。けれど、ドゥーべ・アケルナー公夫人という立ち位置には愛着がある。
「……あなたの愛情はドゥーべにないはずだ」
怒りか動揺か。室内がどことなく薄暗くなったように感じられた。
「母上でさえ望んでいるあなたの再婚を断れると本当に思っているのですか? 叔父上やカウスが気に食わないのはわかりましたが、わたしがいるでしょう?」
「いいえ、リーブ様。そのお心遣いには及びません。
ラナちゃん、悪いのだけれど、室内がやけに暗いわ。少し調節してもらえないかしら。気が滅入ると困るでしょう?」
「え? ……イイけど……」
二三度眩しい光が走り、部屋がパッと明るくなった。ランプの光とは違う、透明な眩い光だ。
(隠し事を暴く、ラナちゃんの光魔法)
あれこれ余計なことを考えるから身動きが取れなくなる。みんながちょっとずつ、自分の思いのままに進むように画策するから。
(ちょうどイイよ。全部バラしちゃえばイイ)
あれやこれやに縛られて追い詰められたわたしが、この土壇場で開き直って達した結論。
──すべての糸を、チョキンと切る。
「まず大前提として。わたくしは再婚を望んでおりません。男性とのご縁もです」
わたしはモノじゃない。流されるだけのか弱い令嬢じゃない。
わたしはお母ちゃんなのだ。
「先日、幼いわたくしの兄代わりであったバックス騎士団長様からご心配のお言葉をいただきました。バックス様は、いざとなればご自分が隠れ蓑となってわたくしを匿うとまで言ってくださいました」
酸いも甘いも噛み締めてこそなれる肝っ玉母ちゃん。このくらいの窮地、打開できなくてなんとする。
「無礼を承知で言わせていただきます。殿方の理屈でわたくしに将来を押し付けるのはおやめになって?」
目に力を入れて。笑顔に凄みを浮かべて。負けるな。場を呑め。
(大丈夫、ここにはヒロインの光魔法が満ちているもの)
「先程から黙って聞いていれば……ケネス様もカウスくんも……張本人を置き去りにしてわたくしを人形か何かのように……」
言葉にはしない。でも「不快です」と態度で示す。
ポカーンとしたリーブ様と、ぽにぃちゃ。強ばった顔のケネス様とカウスくん。好奇心を満面に浮かべたラナちゃんと、困惑しきりのシャウラちゃん。
この中の誰一人、わたしが再婚することを疑っていないのが腹立たしい。高貴なヒト達が雁首揃えて話すようなことじゃない。
「決めました。わたくし、王妃陛下の女官として出仕致します。それが認められないのであれば、出家します」
それは誰の声だったか。いや、全員が奇跡の一致をみたかもしれない。
「…………は???」




