18エルフの王女エヴァ
挨拶が終わり、イサミは家に戻った。
「もう終わったのか?」
「ああ」
帰るとアリエスが驚いていた。
イサミとしても、こんなに早く終わると思っていなかったので少し拍子抜けしている。
「で? また冒険者か?」
「いや。エルフだった」
「「エルフ?」」
アリエスとルナの声が重なった。
少し前にSランク冒険者が襲撃して来た事はあった。
あれは偶然だったが、剣の勇者のアリエスと出会った事もあった。
だが、エルフに襲撃される心当たりも所以も、何一つ思い当たらなかった。
「まあ、普通に考えてお前が破壊した奴隷商館の一件だろうな」
「あれくらいで爆撃して来るか?」
「いや、それ以外にも多大な被害を出しただろう。大体、エルフにとって神聖な樹木も一緒に破壊したではないか」
「……そうだったか」
そんな気もして来た。
アイツの依頼主はエルフの女王らしいからな。
破壊行為をした俺達に腹を立てて、爆撃を命令した事も簡単に想像できた。
だが、エルフの王女とやらの程度が知れる。
俺が魔王だと知らなかった件。
爆撃程度で済ませた件。
あ
全てが浅はかだ。
いや、わざと俺が魔王だと知らせていない可能性もあったか。
もしそうだとすれば……、相当な癖者だな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは先日、イサミが訪れた街よりもさらに奥にある。
エルフの森の中でも、選ばれたエルフしか入る事が許されず、その所在地すら誰にも知らされていない。
神樹と呼ばれる十二本の大樹の中心にあるのが、エルフ国の全てを決議する長老議会である。
そこには十二人のエルフが集まっていた。
内十一人は老けたエルフばかりであったが、一人だけ若いエルフがいた。
「……で?」
濃緑色の髪を持つ、美しいエルフだった。
彼女の名前はエヴァ・プラングリーン。
この国の王女であり、女王が不在の今、実質的に国の実権を握っている人物である。
エヴァの前で頭を垂れているのは、国一番の弓の名手アーチ―だ。
「くっ……」
アーチ―は苦悶の表情を浮かべていた。
この空間に来た事は今日が初めてでは無い。
だが、以前は武勲を立てた時だ。
任務に失敗した今回はエヴァの目線も、長老たちの目線も冷ややかなものだった。
さらに今はあの忌まわしい魔王の呪いで、全身が生皮が剝けているぐらい痛い。
本当なら叫びたいほどの激痛だが、エヴァ様の前だから我慢している。
代わりに表情には苦痛が現れ、脂汗が浮かんでいた。
だが、何としてもあの事だけは伝えねばならない。
国の存命に、エヴァの命にもかかわるのだ。
「エ、エヴァ様! 彼の者は魔王なのです! 今すぐに国の総力をかけて滅せねば!」
「……そんな事、知ってるけど?」
「え?」
知っていた? そんな、馬鹿な……。
「ああ、そう言えば貴方には伝えてなかったかしら」
アーチ―は絶句した。
あわよくば、この報告で仕事の失敗をチャラに出来ると思っていたからだ。
だが、エヴァは知っていた。
これでもう、逃げは使えない。
「まあ、話を戻しましょうか。貴方は標的の家を爆撃した、そして」
「そ、そうです! あの男は生きていたのです! 国宝の矢を受けて――――」
「それは別にいいわ。分かっていた事よ」
「なっ!」
「二十年前の色欲の魔王襲来の時もそうだったでしょう?」
「で、ですが」
エヴァがはあと深いため息を吐く。
「もういいわ。問題は貴方が私の伝言を伝えて来なかったから、私が二度手間することになった事」
エヴァは心底悲しそうに、そして残念そうに首を振った。
その仕草だけでアーチ―は身の毛が弥立つほどの寒気を感じた。
「そうね……。罰として、無慈針の刑を一月ってところかしら」
「ひいっ……! そ、それだけは、それだけはお許し下さい!」
この刑はエルフの国では、そこまで重たい刑罰ではない。
サボテンのベッドに寝かされて、全身のツボを針で突かれる刑だ。
だが針は短いし、サボテンのベッドは元々は健康用に作られたものだ。
そもそも刑罰ですら無かった。
その場にいた長老たちは首を傾げたが、当のアーチ―は恐怖で悲鳴を上げた。
今、アーチ―の生皮を剥がされて神経がむき出しにされたぐらいの激痛を感じていた。
その状態で針に突かれてしまえば、最悪死に至る。
「あら。そんなに喜んでくれるのね。嬉しいわ」
笑顔でエヴァが指を振るった。
すると地面から無数の枝が生えてきて、アーチ―に絡みついた。
それだけでもアーチ―は涙が出る程の激痛に襲われるが、奥歯を噛み締めて叫んだ。
「どうか、どうか、私に挽回のチャンスを――――!」
だが、アーチ―の叫びは届かない。
一瞬で無数の枝が地面にアーチ―を引き込んで、どこかに連れて行った。
その先は、サボテンのベッドがある場所だろう。
「さて。風の精霊に魔王様とその御一行に舞踏会の招待状を飛ばしなさい」
「かしこまりました」
「さあ。始めましょうか。私の可愛いルナを奪った、愚かな魔王に報復を」
エヴァの声に長老たちは深々と頭を下げた。
長老たちは内心焦った。
二十年前の色欲の魔王は、多大な犠牲を払って何とか追い返せたのだ。
今回の魔王も同じとは限らない。
国が滅ぶ可能性だってある。
長老たちはその可能性を知りながらも、誰一人としてエヴァに声を上げる事は出来なかった。
女王が不在の今、彼女に意見出来る人間はいないのだ。
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