10ツヴォイ兄弟
イサミの家がある森から遥か東、勇者協会の本部があるアキリ王国があった。
アキリ王国は古今東西にある国の中でも、最も発展しており人の行き来も多かった。
そんな街には勇者協会の本部だけでは無くて、冒険者組合の本部も設立されていた。
冒険者組合本部の応接間にて、いかついおっさんと若い兄弟が机を挟んで向き合っていた。
「今日は良く来てくれたな、アレックス、アレクサンダー」
「俺達を呼んだってことはよっぽどの事なんだろうなァ?」
「我々も忙しいので、要件は早めにお聞きしたいのですが」
片方のおっさんは冒険者組合の総長だ。
現在は前線から退いて事務に専念しているが、かつてはSランク冒険者として国を救ったほどの男だ。
そして二人の若い兄弟は現役のSランク冒険者だ。
アレックスは左目に十字傷を負い、閉眼しているがそれでもその剣術の腕は天下一品だ。山の一つくらいならば難なく両断出来る腕前を持ち、かつては硬い鱗を持つ竜王にまで傷を与えて撃退した経験を持つ。
アレキサンダーは優秀な魔術師だ。眼鏡の奥から覗く双眼は他人の魔法陣を見て、コピーしてしまう。ある時は灼熱を持って敵を焼き殺し、ある時は大海を呼び出して敵を蹂躙する。
二人合わせて“ツヴォイ兄弟”と呼ばれている、現役最強のSランクパーティだ。
「……新たな魔王が現れたかもしれんのだ」
「「ッ!!」」
まさかの発言に兄弟は息を飲んだ。
「それは本当なのか!?」
「だとしたら大問題ですよ!」
二人とも声を荒げて、危機感を露にする。
「落ち着け、私とて平常心ではいられないのだ!」
そして総長までもが、大きな声を出した。
総長がここまで感情的になっているところを見るのが初めてな二人は、逆に冷静になって行った。
総長は一度、お茶を飲んで深呼吸をしてからやっと落ち着いた様だ。
「占い婆から、予言があったのだ」
「そりゃあ……」
「ほぼ確定的でしょうね……」
総長も神妙な顔で頷く。
占い婆とは組合で長い事、お世話になっている方だった。
ある時は大災害を予言し、ある時は魔王による都市侵略を予想して来た。
そんな方が「魔王が出現した」と言えば、出現したのだ。
「だが、確たる証拠をつかむ必要があるのだ」
「その調査に我々を、と?」
「お前達以外に適任が、この冒険者組合にいるとでも?」
この組合、現役最強はこの二人だ。
仮に魔王と戦闘になったとしても、生きて帰って来られる保証があるのはこの二人しかいなかった。
「……勇者協会はどうしたんだよ」
「いつものだ」
「またですか……」
呆れ顔で溜息を吐く。
勇者協会の上層部は面子を第一に考えている。
故に組合が助けを求めても応じてくれる事が少なく、これまでもその面子のせいで多くの被害が出て来た。
もちろん、その事実を知るのは一部の者達だけだが。
「まっ、しゃーねーな。任せとけ」
「我々がしっかりと偵察して来るとしますよ。新たな魔王の顔を、ね」
そう言って、二人は立ち上がった。
「頼むぞ、二人とも。人類の命運はお前達の肩にかかっているのだ――――」
総長の言葉を耳にしても二人は振り返らなかった。
だが、その二人の背中はまるで「任せておけ」と言ってるようで、総長は安心して見送る事が出来た。
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