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春の世界  作者: こだわりパセリ
第一章.人工雪は何処に?
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20.冬将軍襲来

 

 リーセレンと俺がパーティを組むことになった次の日。

 冒険者ギルド聖都南支部に属する冒険者に強制招集がかかった。俺の冒険者ランクはEなので、まだ呼ばれるほどではないだろうと高をくくって市場での買い物を楽しみにしていたら、ギルドに向かって走るリーセレンに見つかり強制連行された。


「みんなよく集まってくれたね。じゃあ今から、聖都西に出没している気候魔獣、【豊穣の秋(グーテエンテ)】の討伐作戦について説明するよ」


 前に出て司会を務めるのは我らがギルマス、アストルさんだ。その後ろにはアリアさんも控えている。


「みんな知ってると思うけど、僕たちエルフは気候魔獣と互いに干渉することができない。なので今回、僕は後方支援に専念させてもらうね。現場の指揮は彼にお願いするので、後はお好きなように~」


 アストルが示した方向から、銀の鎧をまとった大柄な男が壇上に向かう。オールバック気味な銀髪を短く切りそろえ、下がった眼鏡をあげる所作からは知性も感じ取ることができる。武人としては信じられないほど白い肌と銀色の瞳。氷、または雪という言葉が似合っていた。


「私はセゾンスニグ王国騎士団副団長、カラド・グロヴィーだ。今回の討伐作戦の指揮を取らせて頂く、よろしく頼む」


 軽く会釈を交わし、言葉の端々から几帳面な雰囲気があふれ出していた。


「リーセレン、あの人知ってる?うちのギルドの人たちと比べると随分強そうじゃないか?」


「んー確か冬の季節(シリーズ)スキルを持ってる?みたいな。Aランクの冒険者とおんなじかそれ以上強いって言ってるおじさんもさっきいたよ」


「冬の……」


 目の前の男を改めて見る。銀髪。白い肌。銀の瞳。確かに、氷雪という言葉が妙に似合う。


 冬の季節スキルを持つ騎士。俺が持つ《季節の種》とは違って、すでに力を完成させている人間だ。


「静粛に」


 彼がそう静かに告げる。それだけでギルドに満ちていた話し声が、すっと引いた。


「討伐対象の【豊穣の秋】は現在、聖都の西側。迷いの森周辺を移動している。植物には異常な成長と毒性の上昇が見られ、すでにいくつもの街で、食材汚染による体調不良者が出ている」


 ざわり、と冒険者たちが揺れた。気候魔獣が周囲の天候、環境を変える。という話は聞いていた。


 だが、今回の敵はただ秋の風景を作るだけではないらしい。


 実りを生み、その実りごと命を腐らせる。名前だけ聞けば豊かそうなのに、やっていることは最悪だ。


「本来であれば、気候魔獣の討伐はAランク以上、あるいは季節スキル保持者を中心に編成される。だが、相手は迷いの森に入り込んだ。地形が悪い、視界も悪い。さらに、魔獣の毒は魔物にも効くようだ。毒によって死んだ魔物が不死族となり、迷いの森を彷徨い始めた」


「つまり人手が足りないってことか」


 俺が小声で言うと、リーセレンは頷いた。


「たぶんね。あたしたちまで呼ばれたくらいだし」


 Eランクの俺まで強制招集されている時点で、余裕があるとは思えなかった。


 カラド副団長は壁にかけられた地図に、短剣を突き刺した。


「私と【豊穣の秋】の一騎打ち。この状況を作ることができれば、私が必ず奴を討伐することを約束しよう。しかし、正面から攻めるのは得策ではない。気候魔獣にも多少の知能はある。私の力を察知して、近寄ろうとはしないだろう。奴らは季節スキル保持者の危険性を察知する。特に、夏の力であれば無条件に近づかない可能性が高い」


 そう言って彼が視線を向けた先。壁際に立っていた若い騎士が、一歩だけ前に出た。


 年齢は俺たちより少し上くらいだろうか。カラド副団長のような威圧感はない。赤みがかった短髪に、少しだけ大きそうな鎧。緊張しているのか、握った拳がわずかに震えていた。


「セゾンスニグ王国騎士団所属、ピール・ヨハンセンです。夏の季節(シリーズ)スキルを保有しています」


 名乗り終えたあと、彼は小さく頭を下げた。周囲から「夏のシリーズスキル持ちか」と声が漏れる。だが、さっきのカラド副団長に向けられていた畏怖とは少し違う。


 期待。


 あるいは、切り札がもう一枚あることへの安心。


 そんな空気だった。


「ヨハンセン騎士は今回、前線には立たない」


 カラド副団長が続ける。


「彼はまだ見習いのため、季節スキルを用いて気候魔獣を討伐する任務は厳しい。よって彼には、【豊穣の秋】の進路を限定する役目を担ってもらう」


「進路を限定?」


 前列にいた冒険者が聞き返す。


「あなたたちも冒険者なら、季節(シリーズ)の相性について知っているはずだ。敵は秋だ。夏の気配を嫌う。ならば、夏の力を置けばいい」


 カラド副団長は地図の東側を指した。


「ヨハンセン騎士には、まず迷いの森の北東側に待機してもらう。そこへ近づけば危険だと対象に判断させ、へ逃げるよう誘導する。その先には複数の冒険者パーティを配置し、さらに行動範囲を狭める」


 指が地図の上を滑る。北東から南へ。森の中に何本も引かれた細い道を、少しずつ潰していくように。


「最終的に、対象はこの場所へ追い込まれる」


 カラド副団長の指が止まった。迷いの森の南端。周りを崖に囲まれ、気候魔獣の逃走を抑制しやすい場所だ。


「そこで私が仕留める」


 短い言葉だった。


 だが、その一言だけで作戦の中心がはっきりした。


 俺たちは魔獣を倒すための剣ではない。獲物を逃がさないための壁だ。


「要するに、追い込み漁ってことね」


 隣でリーセレンがぼそりと呟く。


「魚じゃないけどな」


「しかも失敗したら、食べられちゃうのはこっち」


 縁起でもない。


 でも、否定できなかった。


「誘導班は四つに分ける。各班は森の中で対象を刺激しすぎず、しかし逃走経路だけは潰せ。気候魔獣との戦闘になった場合、その場にとどめることを最優先しろ。追ってきたヨハンセン騎士が近づけば、必ず逃走を図るはずだ。深追いはするな。戦闘時、不死族化した魔物に不意を突かれないように気を配れ」


 不死族。


 その言葉に、少しだけ背筋が冷える。前にリーセレンと討伐隊へ参加した時も、不死族の相手は面倒だった。斬っても倒れず、普通の魔物より動きが鈍いくせに、しつこい。


 しかも今回は、毒で死んだ魔物が大量に森を彷徨っているらしい。


「低ランクの冒険者は、後方支援と誘導補助に回れ。戦闘経験が少ない者を前へ出すつもりはない」


 カラド副団長の視線が、俺たちの辺りに向く。


「ただし、人手が足りない。無傷で帰れるとは思うな」


 言い方は冷たい。けれど、嘘はなかった。ギルドに集まった誰もが、少しだけ表情を引き締める。


「班分けを発表する。名前を呼ばれた者は、担当の騎士または冒険者に従え」


 その後、次々に名前が読み上げられていく。


 Cランク、Dランク、そしてEランク。


 聞き覚えのない名前が多い中、やがて。


「ソガミ・シュンセイ。リーセレン・ノード。第四誘導班」


「はい」


「はーい」


 返事をしながら、リーセレンが俺の袖を軽く引く。


「第四ってことは、たぶん森の中だね。最後の詰めのところかな」


「迷わないようにしてくれよ」


「それはシュンセイ次第かもよ?」


「俺のせいなのか?」


 そんな小声のやり取りをしている間にも、会議は進む。


 集合地点。


 笛の音による合図。


 撤退の基準。


 どれも当然のことのはずなのに、聞いているだけで胃が重くなる。


 最後に、カラド副団長が一度だけ全員を見回した。


「これは王国騎士団だけの任務ではない。聖都を守るための討伐だ。各自、役目を果たせ!」


 それだけ言うと、彼は地図を丸めた。


「準備時間は二時間。その後、出発する」


 会議が終わると、ギルドの中は一気に慌ただしくなった。


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