エピローグ
非常避難所は大きさを除けば第二居住区と似た造りだ。
ブース形式の寝台が2段で20以上もある。
トイレもシャワーも水道も完備。
なにより有り難いのが非常用の食糧備蓄だ。
味はあまり良くないけれど、これで当面は飢えずに済む。
明日は持てるだけ持って行く事にしよう。
交代でシャワーを浴びた後。
「ちょっと寒いし一緒に寝よ。ミナト君が良ければだけれど」
そんな訳で僕はアキコ姉と一緒のブースに入った。
足下に二人の荷物を置いて横になる。
「今日は疲れたでしょう。おやすみなさい」
そう言ってアキコ姉は目を閉じる。
手と手が触れあう同じ寝台の上で。
ふと僕は思い出す。
何の本か忘れたけれど古い物語の中に『幸せ』という単語が使われていた。
その意味がわからなくて翌日、学校でTMに聞いたら、『この世界の為に自分が役立つと感じる事』と説明を受けた。
でもそれでは物語の内容に対してどうしても何かあわないように思えた。
だから居住区に帰った後、アキコ姉に聞いてみたんだ。
そうしたらアキコ姉は僕に目を合わせて。
『その状態のままずっといられると想像した時、嬉しいなと感じられる。そういう状態が幸せなんだよ』
そう教えてくれた。
アキコ姉が教えてくれた意味で僕は今、幸せだ。
団地を出てしまった以上、明日どうにかなるかなんて保証は全く無い。
今日は運良く食事も水も手に入った。
けれどこんな幸運は二度と無いかもしれない。
それでも僕はきっと幸せだ。
あのまま団地にずっと残っているよりも。
こうしてアキコ姉と一緒にいられる。
一緒に生きていける。
ずっとそうしていられると思うと嬉しいから。
アキコ姉はもう寝てしまったようだ。
僕は横顔を見ながら思う。
アキコ姉、ありがとう。
これからもずっとよろしく。