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後編

「ねーちゃん、美夜はどうだった?」


 家に帰るなりバカのお出迎え。

 おかえりなさい。と頭を下げてくれる使用人の方に返事を返した後、私は廊下を歩く。



「婚約破棄なんて!!ショック!!気づかなかったけど、やっぱり私って司くんの事が大好きなんだって感じになってただろ!?」


 そうだね、美夜ちゃんあんたの事大好きだから凄いショック受けてた。と言いたかったが、ここで言えば何だか負けな気がしたので黙っておいた。


 ただただ黙って入れば、司もアレ?ねーちゃんずっと黙ってる?もしかしてヤバいんじゃねコレ?なんて事にようやく気づいたご様子。



「ね、ねーちゃん。お、俺婚約破棄とか言ったけどさ……マジで美夜に婚約破棄されたらどうしよう」

「お前が言い出した婚約破棄だろ、自分で何とかしろよ」


 そう言って自分の部屋の扉を開こうとした時、がっと司に手首を掴まれる。

 中学二年生と言えども、やはり男子。ぎりりと力を込められれば流石に痛い。



「もし、もし美夜がこの婚約破棄を受け入れたら俺は死ぬからな!!!!」

「じゃあ婚約破棄とか言い出すなよこのクソバカが!!!!!」


 私の言ってる事、正論過ぎない?

 流石に廊下で罵り合うのは難なので、とりあえずバトルフィールドを司の部屋に変える事に。

 その間も「美夜にマジで嫌われたらどうしよう」なんてぶつぶつ呟いている我が弟。ほんとにバカか。


 それにしても……弟は、死ぬとか宣言してくるし。美夜ちゃんは出家しかけてるし。もう何なのコレ。



 部屋に着くなり、いつも通り司は椅子に座って、私は司のベッドに腰かけた。



「とにかく、あんたちゃんと美夜ちゃんに謝ってきな。そんで、好きだって告白してこい」


 ぴっと指を指しながらそう言う。

 きっとこれで万事解決なはず。

 しかし、「美夜が本当に俺の事を嫌いだったらどうしよう……」なんてメンヘラ期に突入していた司は、ただただ俯いて居た。ほんと何なんだこいつのアップダウンの激しさは。



「俺に、もう美夜を好きでいる資格なんてないんだ……」

「分かった、とりあえず中二病モードやめろ! そんでなんか分かんないけど、資格は、ユーキャンで取れないか、ねーちゃんが一緒に探してあげるから! な!?」


 そんな感じで、絶賛落ち込み中(自業自得)の司をかなり雑に丸め込み、何とか告白までもっていく事に。









――風が吹いていた。

 優しくもあり、それでいて俺を叱咤するような。

 そんな風が吹いていた――


 以上、司の中二病暗黒ポエム集より抜粋。

 


 あの後、私と必死になって告白の言葉を考えた司。

 司は意外と漢気に溢れていて、美夜ちゃんにさくっと「俺の家に来い、話がある」と電話で告げた。



 そして今。

 二人は、テラスにある白い椅子にテーブルを挟んで向かい合って座っていた。

 テーブルの上には、お手伝いさんが置いてくれた、紅茶とお菓子が並んでいる。


 いざとなったらねーちゃんに助けてほしいから、という司のリクエストにより私の配置場所は、二人の声と表情がちゃんと見える位置にある木の後ろ。

 お手伝いさんに時折、同情の眼差しを向けられながらも、私は二人の様子を観察していた。



 美夜ちゃんも司も、お互い黙って下を向いて居た。

 さっさと言えよ。なんて思って軽く咳払いをすれば、司はそれに気づいたらしく「美夜」と名前を呼んだ。



「あ、はい……」

「……あの、その……お、お、オ、オレオ……」


 司ェ……。


 テンパり過ぎて、「俺」が「オレオ」になってる。落ち着け司。

 ん?と首をかしげる美夜ちゃんを見て、流石に司もずっと「オレオ」なんて言ってる訳にはいかないと気が付いたのだたろう。



「美夜、我は……」


 突然一人称を「我」にシフトチェンジさせた。いや、何で?


 美夜ちゃんはどうにも、司に婚約破棄の続きを突き付けられると思っているらしい。

 かちゃかちゃかちゃと食器を持つ手が震えていた。


 司は、何回も「えっと、その」と口をごもらせるだけ。

 その時間はどうにも美夜ちゃんにとっては拷問にしか思えないらしく、美夜ちゃんの顔はすっかり真っ青に。早く言えよ。


 それでも、司はようやく覚悟を決めたらしい。

 ぱぱぱぱ、と十字架を切った後に、合掌をキメる。アーメンハレルヤ南無阿弥陀仏。今頃天界はパニックだろう。



「美夜」

「……はい」

「そ、その婚約破棄、とか言ったけど……」

「……はい」

「その、婚約破棄は破棄で……」


 よくよく考えれば、全然意味が分からないけど、よく言ったバ……司よ。

 今まで、真っ青な顔をしていた美夜ちゃんが急に顔をぱああっと明るくさせる。



「え、え、つ、司くん?」

「み、美夜は他に好きな奴、いるから、迷惑かもしれないけど、俺は、やっぱり、その、美夜と、結婚っていうかそれに近い事をしたくて……」


 弟は、恥ずかしかったのだろう。一番大事な「美夜と結婚したい」という所を「美夜と結婚っていうか、それに近い事をしたい」というぼんやりアレンジを加えてきた。

 それでもよく言った。なんてほっと胸を撫で落ろす。



「それは、本当の事ですか?」

「お、おう……なんか俺、バカだから、その、婚約破棄だ、とか言えば、美夜の気を引けるんじゃないかって……」


 凄い。司が自分の事バカって認めた。

 クララが立った並に凄い。



「よかった、私、もう少しでお寺に行く所でしたわ」


 そう言ってほっと胸に手をやる美夜ちゃん。

 司はイマイチ訳が分かっていないらしく、「寺?」なんて首をかしげている。



「司君……私も司くんの事が大好きです」

「ん? 俺は俺の事を好きじゃないぞ?」


 美夜ちゃん、相手はバカだからね。文法に弱いからね。

 「私も」じゃなくて「私は」ってちゃんと言わないと。


 美夜ちゃんも流石にそれに気づいたらしい。ぱあっと笑みを浮かべた後に「司君」なんてまたバカの名を呼ぶ。



「私は、司くんの事が大好きです」

「は、はぁ!? お前は俺以外に好きな奴がいるんだろ!?」


 突然、謎のキレ芸を披露する我が弟よ。



「……とっても格好よくて、頭がよくて、優しい人なんて、司君しかいませんわ。私はずっとずっと司君の事だけが好きでしたの」

「ほ、ほう……」


 にた、と笑いそうになるのを必死に抑える司。

 耳まで赤くなっているのを美夜ちゃんに指摘され、必死に隠す弟。アレ、なんか可愛くね?








 結局婚約破棄の破棄は大成功。

 食卓で「婚約破棄の破棄が大成功した!」と嬉々として語る弟を見て「何言ってんだ司は……」なんて両親は、本気で困惑していた。



 その夜、美夜ちゃんとデレデレナイトコールを終えた司は、何故か私の部屋にやってきた。



「ねーちゃん、俺、今回ちゃんと学んだよ」


 そう言ってへへ、と笑う司。

 流石にな。今回の婚約破棄の件では、学ぶ所も多かっただろう。あんたのスッカスッカな脳みそ、今頃パンクしてんじゃない?



「婚約破棄なんて、簡単にするもんじゃねーな!」

「学びの報告になってない、やり直し」


 そこは、二人の間を取り持ってくれたお姉様って素晴らしい、でしょうが。


ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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