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僕は9ボルト  作者: 大友 鎬
I am 9 Volt
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僕が9ボルト(6)

 光輝は全力で走り、高校にたどり着く。

 一ヶ月ぶりの学校だった。部活に入っておらず、ヒーローで多忙を極めた光輝は夏季休暇の間一度も高校を訪れていなかった。

 本来なら校庭で運動部が青春に勤しんでいるのだろうが、機人が現れた今、校庭には誰もいなかった。

 それだけではない、おかしいことに機人もガレージもいなかった。

 ――校舎にいるのか。それとも、もう戦闘は終わったのか?

 電光基地に寄ったため、桜花の電話から随分と時間が経っていた。

 ――もう一度、電話してみるべきか。

 しかし下手に電話をかけて、友人に逃がしてもらったらしい桜花が捕まったらどうしよう、そう思ってしまった光輝はとりあえず侵入しようと決める。

 下駄箱のある生徒用玄関に行くよりも体育館の渡り廊下から侵入したほうが早いと判断した光輝はその手前にある中庭から窓越しに二階を歩くガレージを見つけた。

 しかもそのガレージは隠れていた桜花を捕まえて、どこかに向かっているようだった。

 光輝は中庭の茂みに身をひそめ、ガレージの様子を見つめる。

 しばらく見ているとガレージは視界から消える。

「ちょっと離しなさいよ」

 動き出そうとしたところで桜花の威勢の良い声が光輝の耳にまで届いた。

 しばらくしてガレージと桜花は一階に姿を現す。

「今に見てなさい。悪は絶対に裁かれるの!」

 ガレージが校舎の扉を開け、桜花を渡り廊下に連れ出す。桜花は腕を縛られてもなお、威勢が良い。

「あー、あー、うるさいうるさい。わかったからおとなしくしろよ」

「何よ! 絶対に助けが来るんだから」

「……これ、上司に言われたんだけどよ、カンデンヂャーの三人は今、違う機人と戦っているからここには来ないぜ」

「違うわ、カンデンヂャーは四人組よ」

「……うちの上司さ、口が軽いからオレたちでも知ってるんだけど、それは昨日までだろ」

 言い合いつつ、桜花はガレージに力づくで引っ張られる。どうやら体育館に向かっているらしい。

「ううん、あなたは何もわかってない。あいつは約束してくれたわ。助けるって」

「何を言って……」

 その瞬間、ガレージの顔面に強い衝撃が襲いかかり、吹き飛ぶ。

「光輝!」

「変身中は名前呼ばないのが暗黙のルールらしいよ」

 言いつつ、9Vスパークは桜花の腕を縛る縄を解いた。

「ありがと」

「でみんなは?」

 そっけなく言うと、桜花に蹴られそうになる。もっともナビに攻撃の警告と回避コースが表示されたため、すんなりと9Vスパークは避けたが。

「いきなり何を?」

「ふつー助けに来て、ありがとうって言われたら、それがヒーローの役目だからねとか、約束を守りにきたとか言うべきじゃないの」

「確かに。ヒーローとしてそれは大事だったな……」

 指摘されて9Vスパークは少し落ち込んだが、

「けどまあ、今はそれどころじゃない」

 分別はつける。カッコいいセリフはまた言えばいい。

「みんなはどこに?」

「体育館よ」

「そっか。じゃ、行ってくる。危険がなさそうな場所に隠れておいて」

「うん、わかってる。行ってらっしゃい」

 桜花に見送られ、9Vスパークはひとり体育館へと向かう。

 そして9Vスパークは屋根の大きな窓から中の様子をのぞく。

 集められた生徒や教師は真ん中に集められ、その周囲にはガレージやデスガレージがいた。その前方には機人。胴体にはエアコンのようなものが見える。みんなが両手を抱え、寒さを堪えているように見えていることから、もしかして機人はみんなの体を冷やしているのかもしれない。

 位置を確認した9Vスパークは窓ガラスを割って体育館に侵入する。

「誰だヒーエ?」

 割れた音に気づいた機人が声をあげる。

 侵入した9Vスパークを冷気が包む。いくら夏場とはいえ下がりすぎた室温は体に毒だ。長時間、これにあてられていたみんなは大丈夫なのだろうか。

 回転して9Vスパークは着地。近づいてきたガレージを蹴飛ばして、

「吼えろ電圧!!」

 ポージングをとって「9ボルトォオオオオ! スパーク!!」と名乗りをあげる。

「ヒエ? カンデンヂャーは三人に戻ったのではなかったヒエ?」

「残念。すぐに四人に戻ったんだ」

 9Vスパークは駆ける。

 向かったのは機人ではない。近くのガレージたちだ。

「逃げて」

 瞬時にガレージたちを倒した9Vスパークは近くの生徒に叫ぶ。

 生徒は戸惑いながらも先生たちの誘導に従って逃げ出す。

 捕まった生徒はこれで安心だろう。逃げる生徒を捕まえようとするガレージを殴りながら機人へと近づく。

「ヒエエエエ! 我輩の計画があああああヒエエエ!」

「いつも思うけど、機人の計画ってよくわからない」

 ぼやきつつ9Vスパークは機人の間合いに入る。まあ何が目的だろうと9Vスパークは悪の組織と戦うだけだ。

「スタンブレイドっ!!」

 剣を出現させて、すぐさま切り込む。エアコンの胴体を切り裂くが絶縁体まではやはり切り裂けない。

 ――やっぱり、必殺技の出番か。

 スタンブレイドを引き抜き、一旦距離を取る。

「ヒエエ! 結局、カンデンヂャーは今の我輩たちには勝てないみたいだヒエー!」

「残念だけど、今の僕は一味違うよ」

「ヒエエ! なら一味違う我輩、冷風機人ハラヒーエの力もお見せしてしんぜようヒエー!」

「シビれさせてやる!」

 ひとりと一体がアクションを起こしたのはほぼ同時。ハラヒーエは斬られた胴体から放出している冷風を強める。冷風というよりも凍風と化した風が体育館の廊下を凍らせていく。

 対して、9VスパークはL.E.D.のスイッチをもう一度押す。するとL.E.D.のスイッチがあった部分が9ボルト電池の電極のように変化。それを柄頭にあるスタンガンへとはめる。

 そのスタンガンも電気が流れる部分は9ボルト電池の電極のようになっているため、結合するのだ。

 一体化したスタンブレイドに変化が現れる。音でも確認できるように、ジリジリ、ジリジリ、と高圧電流がスタンブレイドの刃を渦巻いていた。

「サンダーリベレイション!」

 距離があるにも関わらず、9Vスパークは一閃。

 振りかぶられた刃から枝分かれした稲妻がほとばしる。ハラヒーエは繰り出した技を中断し、それを避けようとしたが逃げ場はない。八岐大蛇のような電撃は絡みつき、クモの巣のように標的を逃がすことはなかった。

 命中した瞬間、ハラヒーエは体を震わせ――倒れた。爆発はしない。

 高圧電流が、強化した絶縁体をも焼ききり、ショートさせたのだ。

「倒……した……」

 倒れたハラヒーエを見て、起こったのはふたつのこと。

 体育館の外に出てもなお様子が気になって覗いていた人質の歓声と、絶縁体の強化によって楽勝ムードだったのにそれを覆されたガレージの悲鳴。

 相反するふたつの声が周囲を包み込む。

「やったわね、9V」

 振り返ればそこには桜花がいた。

「当然だ、僕はヒーローなんだから」

 今度は後悔しないように格好良いセリフをはいておく。

「でも、これで終わりじゃない。仲間が待っているから」

「うん、わかってる。町のみんなも救いなさいよ、ヒーロー」

「任せとけ。何度ピンチが訪れようとも、僕が何度だって助けてやる」

 幼き日の口癖を呟いた9Vスパークは人質だったクラスメイトの注目を浴びながら去っていく。

「桜花……あんた、あのヒーローの知り合い?」

 ヒーローに気軽に話をしていた桜花に友人がおそるおそる尋ねた。

「ああ、あいつは昔から知ってるヒーローなの」

 そう言う桜花は妙に誇らしげな顔をしていた。


***


 次郎花は機人を振り切れずに、困惑していた。

 敵対するのは精米機そのものにしか見えない精米機人モミヌッカー。農家から盗み出した稲を自身で精米し、それを飛ばしてくる。米自体は当たってもそんなに痛くないが何度も当てられたらムカつくし、道に落ちた米はスタッフも美味しくいただけない。

 なんとか倒したいが、やはり強化された絶縁体には太刀打ちできない。しかもL.E.D.の電池が切れて変身は解除されていた。それでも逃げ切れるかと思ったが小走りで追いかけるモミヌッカーを振り切れずにいた。

 そんなとき、次郎花の<i-am>に着信。

 ――なんでこんなときに。

 そう思いながらも送信者を確認する。

「光輝!?」

 書かれていた名前に驚く。

 モミヌッカーに追われる今、電話を取るか迷ったが、自分が再三電話しても出てくれず、伴の電話でも今日の侵攻作戦を断った光輝が自ら電話をくれたのだ。

 出なくてどうする。

「どうしたの、光輝?」

 なるべく平常心で次郎花は電話を取った。

『あ、ジロウさん。繋がって良かった。昨日の電話無視してごめんなさい』

「いや、それはいいよ。それよりも何?」

『今、どこにいますか?』

「市役所の近く。機人が出現した場所のひとつだよ」

 次郎花は言いつつ振り返って、モミヌッカーがいまだ追跡してきていることを確認する。

『なるほど……、で機人は倒せました?』

「お手上げだね。変身も解けたから大ピンチだよ」

 相変わらず次郎花のあとをついてくるモミヌッカーの姿を確認して次郎花は少しだけ嘆息する。予備の電池を忘れたのが自分らしからぬミスだ。光輝の離脱に思ったより動揺していたらしい。

『だとしたらなんとか僕が指定する位置まで誘導してもらえますか?』

「どうする気だい?」

『僕がやっつけます』

「キミが……どうや……」

 そこまで言って次郎花はあることに気づいて少しにやつく。

「もしかして9Vスパークに?」

『はい。僕はまた戦います』

 その返事に次郎花は戦闘中だということを忘れて嬉しくなった。光暉が退院して電光基地で9VスパークのL.E.D.を手にしたとき、突っぱねてよかったと思った。もっとも光暉も出動する際に自分を置いていけだの言って変身を拒んでいたから、もとより光輝にL.E.D.を渡すつもりだったのかもしれないが。

「オッケー。じゃ、協力するよ。どこに行けばいい?」

『<i-am>に送るんで確認してください』

「わかったよ、で伴や寧色には電話できるの?」

 次郎花は気を利かせてそう尋ねる。

『ええ、寧色さんにはすごく怒られそうですけど、僕がしないと』

 光輝は次郎花の言葉には甘えず、はっきりと自分の意志を告げる。

「うん。まあそうだよね。言っとくけどこれでもボクも怒ってるからね」

『……そりゃそうですよね。ごめんなさい』

「まあ、けどボクはキミが戻ってきてくれて嬉しいって気持ちが勝ってるけどね」

 それじゃ合流地点で会おう、そう言って<i-am>を切ると、モミヌッカーがすぐそこまで迫ってきていた。

「待つヌカー!」

「待たない。というか少しばかりついてきてもらうよ」

 聞こえるか、聞こえないかというような声で次郎花は呟いて、走る速度をあげた。疲れているはずなのに、その足取りは速い。それにさっきから嬉しくてにやついてばかりだ。


***


「まったく心配ばっかかけるんだから」

 寧色はひとりごちて自分を追いかけてくる機人を誘導する。寧色を追いかけるのはたこ焼き機を胴体とする蛸焼機人ゴハンモイショー。たこ焼きプレートをくるくると回しながら、たこ焼き機でできた足をベタンベタンを動かしながら寧色を追いかけていた。

 寧色は光輝からの連絡を受けて、美味イガグリ焼き公園へと機人へと誘導していた。

 ――懐かしいわね。

 かつてここで一度敵として、カンデンヂャーに立ち向かった寧色としてはなんともいえない思い出を持つ場所である。

 美味イガグリ焼き公園に入ると、左から次郎花が、右からレッドが見えた。レッドだけはいまだ変身が解けていなかった。

 そして中央。

 そこには9Vスパークが凛と立っていた。

 三人と9Vスパークが出会い、誘導された三体の機人――精米機人モミヌッカーに、蛸焼機人ゴハンモイショー、そしてカキ氷機を巨大化させたような氷欠機人アタマッキーンが鉢合わせる。

 三体の機人はようやく自分たちがここに誘導されたのだと知った。しかし絶縁体の強化によりカンデンヂャーの攻撃は効かないとわかっている三体はだからどうしたというような面持ちで慢心していた。

「じゃあ見せてもらおうかな、キミの作戦とやらを」

 9Vスパークに向かって次郎花が言う。

「豪語するからには倒せるんでしょうね?」

 寧色から期待の眼差しを向けられる。

 レッドは何も言わず腕を組み、仁王立ちしていた。9Vスパークのやることを見守るつもりだろう。

「任せてください」

 9Vスパークは自信に満ちた声で答え、疾走。

 気合の入った掛け声とともにスタンブレイドにL.E.D.を装着。

「サンンダアアアアアア!! リベレイショオオン!!」

 言うや、スタンブレイドを振り下ろす。

 傍から見れば見当違いの場所で空を切ったようにも見える。

 しかし振り切った瞬間、稲妻が放たれた。

 太く長い幹から枝が分かれたように電撃が三体の機人へと襲いかかる。

 それが危険だと電気機器の本能的に悟った機人たちは方々へと逃げる。しかし光速で迫る死神の鎌は、彼らにすぐに追いつき魂を掠め取るように彼らの絶縁体を抉り取る……はずだった。

 しかしマスクプレートに《電池切れ》と表示され、三秒後、9Vスパークの変身が解ける。

 そのせいで出力が低下し、絶縁体を完全に焼き切るには至らない。

「くそっ!」

 思わず毒づく光輝。電池残量を気にしなかった自分のミスだった。9ボルト電池は残念ながら予備を持ってない。

「グワハハハハ! トドメとは言えないが決定打だ。よくやったぞ、光輝!」

 レッドは高笑いしながら光輝の横をすり抜けていく。そのとき、光輝は気づいた。レッドが自分の名前をあの珍妙なニックネームではなくきちんと呼んでくれたことを。

 自分が倒せなかったという悔しさが込み上げながらも、そのなかで少しでも認めてもらえたという嬉しさを噛み締める。

 レッドは機人の正面でもなく、おおよそ見当違いの位置にたどり着くと地面を抉るように鎚を打ちつけ、砂鉄を鎚面にはりつけ、勢いよく横に振りかぶる。

「アイアンサンドチャージ!」

 直後、電磁砲化した砂鉄が流星群のようにモミヌッカーを襲う。三体の機人は9Vスパークのサンダーリベレイションでショートはしなかったものの、強い衝撃を受けて動けずにいた。

 避けることも逃げることもかなわないモミヌッカーは電磁砲によってショート。さらにゴハンモイショー、アタマッキーンの体を貫いていく。

 レッドは三体が一気に倒せる場所に位置して必殺技を振るっていた。ベテランらしい倒し方だ。

 直後、レッドの変身も解ける。

「グワハハハハ、正義は勝ーつ!!」

 大笑いする伴を尻目に、

「来るのが遅いっつーの」

 寧色に小突かれ、光輝は「すいません」と笑う。

「少しは反省しなさいよ。勝手に帰ってさ。本当は契約が切れても、またあんたを契約しようってみんなで決めてたのよ。なのに、あんたってば、契約が切れたらさよならするとか、ホント何考えてんのよ」

 何度も、何度も寧色に小突かれる光輝。

「そのぐらいにしときなよ」

 見かねて次郎花が寧色に忠告すると、ようやくその手がとまる。

「で、なんなのよ、さっきの? あんなものがあるだなんて聞いてないわよ」

 手がとまったら口が動くのが、なんとも寧色らしい。

 光輝はそれはですね、と光暉が説明書を渡し忘れていて、それに載っていたことを伝える。

「なによ、それ……」

「けど、もしそれを最初に渡していたら、9Vスパークの必殺技に対応した絶縁体が作られていて、もっとピンチになっていたかもしれないよ?」

「そう考えたらそうだけど、最初からそれがあったら、こうはならなかった可能性だってあるわよ」

「グワハハハ、それは可能性の話だろう。今は倒したことを喜ぶべきではないか?」

「そうね。あと、あんたが戻ってきたことにも」

 その言葉は当然、光輝に向けられたものだ。寧色ももうすでに光輝が9Vスパークでそして仲間だという認識になっていた。

「ぶっちゃけるとグレイスはね、夏休みが終わってもキミに9Vスパークをやってもらえないか打診しようとしていたんだよ」

 つまりね、それはどういうことかわかる? 次郎花の問いに光輝ははっきりと頷く。

「僕以外が9Vスパークなのはありえない、ってことですね」

「そういうこと」

「でもそういうことを自分で言っちゃうのが生意気よね」

 寧色はそんな光輝の態度を見て苦笑する。けれどそれが光輝にとって心地いい。

「グワハハハ、感動の再会はここらへんで終わりにしよう。で光輝、尋ねなくてもいいかもしれないが、この後どうする?」

「……当然、もう一度〈奇機怪械〉を攻めます」

 強い意志の込められた光輝の言葉に、当然誰も反対なんてしない。

「ならついてこい」

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