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『007』
エマは部屋に残された。
執事のトーマスと一緒に。
婚約生活は楽しければいいなと思っていた。
国王の命令だし、断れないとしたのなら、せめて伯爵との生活を楽しもうと。
しかし現実は違った。
クローゼ辺境伯は想像以上に冷たかった。
笑顔は一度もなくて、エマを単なる偽装婚約としか思っていないと言ったのはショックだった。
さすがに執事トーマスがクローゼ
に対して、もう少しエマに優しくしてはという感じで意見を言う。
クローゼはそれでもエマは偽装であって、王都には婚約者を演じろと言い切った。
(信じられない態度だわ。もっと優しくしてもいいでしょう)
トーマスが隣に来て、
「クローゼ辺境伯を嫌いにならないでください。ああ見えて、とても人望のある人なんです」
「あれで人望があると?」
「あります。私は尊敬しているのです」
「尊敬ですか。気になったことがあります」
「何でも聞いてください」
「トーマスはここの執事ですよね。普通は執事は雇い主に意見を言ったりしません。私の侯爵家にも執事はいたけど、絶対に両親に文句を言うことはない。それなのにトーマスは平気で文句を言っていたのが不思議」
(トーマスが文句を言うのに違和感があった。普通は即時に解雇でしょう)
「ああ、そのことですか。私は元クローゼの組織する騎士団に所属していたのは話したでしょう。その時の名残ですね」
「騎士団時代には意見や文句を言い合える仲だったと?」
「私はクローゼとともに魔物と戦い、町を守ってきた。その時は平気でケンカもしていたんです。だから今でもクローゼとはケンカみたいになるのです。知らないエマ様が不思議に思うのは当然でしたか」
「なるほど、ケンカするような仲だったのですね。それで納得します」
トーマスとクローゼはケンカするほどの仲だったと聞かされて、少し納得する。
(思いっきり雇い主のクローゼに文句を言える仲みたい)
クローゼは家の外に出ていき、魔物の討伐へと向かい、エマは残される。
♢
エマ侯爵令嬢と会ったクローゼは、美人ではあり、いかにも侯爵令嬢の気品が感じられた。
良くいる世間知らずのお嬢さんってとこだろうと思う。
どんな気持ちでこの婚約を受け入れたのかを理解できないのは令嬢なので無理もなかった。
この町は国でも辺境の位置にあって、強力な魔物が多く出る。
そのため普通は国土の安定のために国は兵力をこの地域に集めるのが通例だろう。
国土の安全を考えるなら、危険な地域に兵力を集める必要はあるし、人族な対応も大事になる。
だが今のヘデラー国王がその点がわかっていなくて、クローゼが兵力が足りないので送ってくれと要請を出しても、全く兵力を送ることはない。
兵力が足りないので、クローゼの資金で組織した騎士軍が中心になるものの、仲間は死んでいくのが止められないのが現実だった。
援軍があれば死ななくて済んだ仲間の命はバカな国王のせいで死んだとクローゼは思っている。
それでクローゼは国王の王族と王都の連中は嫌いなのだった。
エマもしょせんは王都の貴族。
有力な王都の侯爵であり、辺境でなにが起きているかなんて考えもしない連中。
だからエマと幸せな暮らしをしようなんて全く思わないし、むしろムカついているのがクローゼだった。
それをエマはわかっていないので、なぜこんな態度なのかと疑問なのだろうと思うし、お互いに食い違う。
エマを家に待たせたまま、クローゼは狩りに出るとした。
魔物が普段よりも出没しているという通報があったからで、エマなどに構っている時間も余裕もなくて、魔物の討伐に出る。
エマは一人になるが、執事のトーマスがいるので相手はするだろう。
エマが伯爵邸に暮らすとして、食事に関しては用意はするものの、一緒に食べるかはエマに任せる。
クローゼは一緒でも別々でも、どちらでもいいからだった。
その程度の婚約者だし、別に愛する女性でもない。
特別に愛を誓うこともないのだから、会話も必要ないという考えで、エマとは大きく食い違っていた。
エマは逆に国王の命令であっても、婚約生活は良くしたい気持ちがあったのと違う考え。
お互いに会ってみて溝はあるとクローゼも感じるも、クローゼが考えを変えてエマに歩み寄ることはない。
今日の狩りが終わったら食事にするが、さてエマはどちらを選ぶか。
クローゼが狩りに行っている間のエマの面倒は執事のトーマスに任せるとすると伝えると、トーマスは承諾した。
しかしトーマスは雇い主のクローゼに対して意見を言ってくるのは予想していた。
そこまでエマに冷たい態度を取ることはないのではと文句を言うだろうと。
予想通りにトーマスは執事の立場なのにクローゼに意見を強く言ってきた。
トーマスからしたらクローゼが必要以上に冷たい態度に見えたらしい。
トーマスは年齢は26才でまだ若くて、執事になっているが、元はクローゼが組織した騎士団の有能な騎士である。
今は騎士を辞めて執事になった。
執事の仕事は十分にこなしているので文句はないが、騎士として有能なだけに騎士団の戦力は落ちてしまったのだが。
騎士の時から変わらずにクローゼには言いたいことは言っていたから、執事になっても変わらずに文句も言うし、言いたいことは言う。
普通の伯爵だったなら、そんな態度の大きな執事は即刻で解雇だろう。
しかしクローゼにとってトーマスは特別な人間で、何度も魔物との苦しい戦いをした仲。
友人にも似た仲であるから、執事になってもケンカはしてしますという、エマからしたら変な関係に見えてしまう。
クローゼはエマに会ってから、考えつつも魔物と向かい合った。
剣で魔物を突き刺す。




