17.能力
明け方、疲れ切った顔で、窓から帰ってきたライゼスを抱きしめて、ヒーリングライトとキスで癒やした。
キスって癒えるのかな? ライゼスは元気になってたから、効果はあるのかもしれないけど。
そして、三人そろっての朝食で、ライゼスが明け方帰ってきた理由を教えてくれた。
「王弟殿下からお話がある、ですか?」
オブディティが怪訝な顔をするけれど、わたしはちょっと心当たりがあるので内心冷や汗だ。
「へ、へえ、そうなんだ、ど、どんな用件だろーね」
オブディティの方を見られない、絶対に『イルンの若木』の件だよ。
でもその話題が出るということは、オブディティにダンジョンデートしていたことがバレるということでもあるわけですよ。
どのみち伝えなきゃいけないことになるけれど、昨日の今日だとは思わなかった。
ライゼスは仕事が早いな、カミルもね。
「ソレイユさんは、内容がわかっているみたいですわね」
あっ、オブディティの視線が冷たい。
「昨日の別行動で、なにかありましたわね」
ああああ、鋭い。オブディティの鋭さがキレッキレです。
「え、えへへ」
笑って誤魔化してみるも、彼女の視線は冷たい。
へなちょこなわたしは、ライゼスに視線で助けを求める。
「話の内容はまだ聞いていないんだ。重要な話があるということだから、慌ただしくて申し訳ないけれど、オブディティ嬢も一緒に行ってくれるかな」
「それは、勿論行きますわ。『王弟殿下』からのお声かけならば、断るという選択肢はありませんもの。それで、お二人は昨日なにをしていらしたんですの?」
「ダンジョンデートをしておりましたっ!」
長引かせるのは愚策と思い、素直に白状しましたとも。
二人だけでダンジョンに行ったことを怒られる、あるいは拗ねられるかと思ったけれど「そんなことだと思いましたわ」とため息を吐いただけだった。
「わたくしとてデートを楽しんでいたのですから、お二人のデートに文句は言いませんわ」
少し照れながら言うオブディティがかわいいです。
それにしても、機嫌が悪くならなくて良かった!
「ダンジョンデートは、楽しめましたの?」
穏やかに問われて、力強く頷いた。
「吊り橋を落とされたり、面白そうな木を見つけたりして。この木っていうのがね――」
オブディティがビシッとわたしに向かって手のひらを立てた。これは、止まれってことだね?
「吊り橋を、落とされた? 吊り橋が、経年劣化で落ちた、ではなく、人為的に、落とされたということですの?」
「うん、そう。あ、ほら、わたしって一部の貴族の人から警戒されてるらしいから、多分、その関係? だよねっ?」
ライゼスに確認すると、苦笑いして頷いた。
「そうだね。王弟殿下の采配で、実行犯たちは全員捕まえてあるから、安心していいよ。他も、遠からず対処されることになっているから、煩わしいこともこれで終わるんじゃないかな」
「……囮になって、ダンジョンで一網打尽にしたということですわね。その上で、裏で糸を引いていた人間も洗い出し済みで処分待ちということかしら。確かにそれでしたら、わたくしは足手まといになってしまいますわ。別行動にしてくださって、ありがとうございます」
ライゼスが婉曲に伝えた内容を直訳されてしまった。
こ、これは、話題を変えなくては!
「そういえば、オブディティさんのデートはどうだったの? 昨日はすぐに休んだから、話を聞けてなかったけど」
わたしの疑問に、オブディティの頬が赤くなる。
「そっ、それは、ええ、とても楽しかったですわ。そんなことよりも、王弟殿下と会うのでしたら、身なりを整えなければならないのではなくて? でしたら、時間が足りませんわよ」
「いや、時間も無いし、冒険者としての僕らに会うことになっているから、服装は問題ないよ。朝食を終えたら、落ち合う手はずになっていて――」
「では、のんきに食べている場合ではないではありませんかっ。お待たせするなんて、言語道断ですわ」
そう言って、食べるのに集中するオブディティに、ライゼスは苦笑する。
わたしも残りの食事を、大急ぎかつスマートに食べきった。
* * *
前回とは違う屋敷で、カミルこと王弟殿下と対面することになった。
今回は冒険者カミルとしてじゃないから、ちょっと緊張する。
「『能力を知る能力』ですか」
カミルが偶然ダンジョンで見つけた能力本で得た能力らしいんだけど……。凄いんだろうけど、なんだかがっかりな能力だなと思ってしまった。
もしかすると、これがハズレ能力ってことなのかも、能力本は何が出るかわからないんだから仕方ないよね。
「だから俺は、君たちの能力を知っている」
カミルはそう言ってわたしとオブディティを見た。
「ソレイユ嬢は『ヒーリングライト』と『自らより劣る知能の生き物の情報を見る能力』で、オブディティ嬢は『収納』だな」
えーっ、そこはステータス鑑定じゃないの?
自らより知能の劣る生き物の情報を見る能力なんて、長すぎない? それに語呂が悪いよね。
もしかして、ステータスっていう言葉は、前世のみにある単語だから、こっちの世界の感覚では発音できないのかな。まあ、そういうことだと思っておこう。
「能力の詳細もおわかりになるのですか?」
オブディティが緊張した様子で尋ねている。
「いや、わかるのは能力名だけだ。過去に前例があるものは、書物にまとめられているが、ソレイユ嬢の『生き物の情報を見る能力』というのは見たことも聞いたこともない」
世界に一つだけの能力ってこと? なんだか、ちょっと誇らしくなってきた。
口元がにまにましそうになるのを、なんとか我慢する。
「ニヤけていますわよ、ソレイユさん」
オブディティに指摘されたので、我慢は失敗していたらしい。
「嬉しさを我慢してるソレイユもかわいいよね」
ライゼスが頬を緩めて褒めてくれる。
「過去に例がないというのが、そんなに嬉しいの?」
「唯一無二って、浪漫があるよね!」
怪訝な顔で聞いてきたオブディティに、両手を握りしめて強く訴えた。
「はははっ! 確かに、浪漫があるな!」
カミルが爆笑している。
すっかり『王弟殿下』と対面してることを忘れてた。
「それで、今回わたくしたちを呼び出したのは……能力で、我々を紐付けようということでしょうか」
気を取り直したオブディティが、カミルに聞く。
「それなら、俺の能力については教えないだろう。そうではなく、対等な協力者として依頼したいだけだ、勿論拒否する権利もある。こちらは、君たちの能力について口外はしない。君たちも、俺の能力は秘密にしてほしい。これは能力者としての願いだ」
「承知いたしました」
すんなりとオブディティが応じる。
カミルの視線がわたしに移ったので、笑顔で頷く。
「わたしも、殿下の能力を秘密にするのを、約束します」
カミルがこちらの能力を口外しないなら、わたしも約束はちゃんと守ろう。
「あれ? ライゼスは?」
「僕は、昨日約束したから、大丈夫だよ」
なるほど。
「この約束を取り付けるために、わたくしたちをお呼びになったのですか?」
「いや、本題はこっちだ。早速で申し訳ないが、君たちパーティに依頼したい――」
こうして我らパーティは、カミルから『イルンの若木の移植作業』の依頼を受けることになったのである。




