無敵装置
宝物庫の中央に上部だけがガラス張りになった、美術館で宝石を展示するようなケースが見える。その大きさは高さは一メートル、奥行きと幅は五十センチくらい、宝珠保管設備に違いないだろう。
皆で宝珠を覗き見る。飴色に輝くブリオレットカットされた雫型の宝珠、エルフのものと大きさ、形は同じのようだ。千カラットはありそうな琥珀が安置されていた。
「クーノさん、提案があるのですが。この保管台の周りに、私が魔法の結界を張りましょうか? 私以外の者は結界を解除できなくなりますが、暫定の盗難防止策として、いいのではないでしょうか?」
「そうですね。そうしておいていただければ、安心です」
オレは姫の部屋に作ったのと同じ結界、オレ以外は入れない結界を保管台の周りに張り巡らせた。
「とにかく、宝珠は、ここにありさえすればいいわけですが、レイアウト変更など移動の必要がありましら、いつでも私を呼んでください」
「ありがとうございます。新しい保安機能を作ったら、お願いすることになると思います。あああ、そうか! クリティさん、連絡さえ付けば、いつでもワープで来れますものね」
「はい!」
ちなみに、オレが死んだ場合、この結界は自動消滅するのだが、それについても、注意点としてクーノに話しておいた。
「では、大統領の執務室に戻りましょう。大恩人である皆様、今日は、是非、こちらにお泊まりください」
「私たちは冒険者ギルドのクエストとして本件を受諾した身、そこまでしていただくのは、少々、気が引けますが」
やんわりと姫が辞退したのだが、なぜか、クーノそれに答えず、話題を変えた。
「ドロシー、ちょっと君の傀儡を見せてくれるかな?」
「ええ、いいですけど……」
と言ってドロシーは、いつも肩からぶら下げているウエストバックからシャドーナイトを出した。
「おおお! なかなかいい傀儡だね。どうだい、ここにガーディアンから外してきた、物理魔法耐性装置がある。もう使うこともないから、こいつにセットしたらどうだろう?」
ガーディアンを無敵にしていたのは、クーノが開発した装置によるものらしい。
魔石動力により傀儡の周りに物理魔法攻撃を跳ね返す、というか、その影響をすり抜けると、表現するのが正しいらしいが、結界、バリヤーのようなものを張り巡らせるとのことだ。
《コレ、あの、アルテミスの矢に似た原理か?》
《うむ、機能拡張かのぉ〜 アレに施されているのは、質量を無効にする魔法といったところ、こちらは、重力、電磁気力、弱い力、強い力、魔力、自然界にある五つの力の影響を受けない結界、という説明でいいかのぉ〜》
《よく分からんが、魔力というものが存在する時点で、オレの知る物理学とは違う法則も存在すると解釈しておくよ》
「え! いいの!!!」
ドロシーの瞳が輝いた。こういうところ、まだまだ、子供に見えるが。
「今日、最大の功労者は君なのだし、大統領には私の方から言っておくから。でも、セット作業があるので、明日の夕刻まで待ってもらわないと」
てかさぁ〜 おい、おい! 「子供」を攻める作戦だったのかよ!
「あら、あら、そういうことなら、大変、ご迷惑をお掛けしますが、ご厄介になることにします」
腹を痛めた愛娘を見るような目で姫が応じた。
今回、出番がなく、ばつが悪そうなジャンが先導して、一行は大統領の執務室に入った。ユーコもヤヤルも、皆の顔から成功を確信したのだろう、安堵の表情を浮かべている。
「お疲れ様でした!」
「お怪我もないようでなによりです。みなさんに依頼して本当に良かった」
今回の状況については、クーノの方から大統領に詳細な報告があった。
「ドロシーの傀儡の件、よろしいでしょうか?」
「もちろんです。ですが、クーノ、クリティさんに暫定の防護措置をしていただいているとはいえ、新しい警備体制の検討は急ぎ行ってくださいね」
「了解しました」
「ああ、みなさん、もちろん、ヤヤルさんも、今夜は迎賓館でゆっくりしていただき、私の夕食にも付き合ってくださいね」
何気ないが、どこか反論を許さない空気を纏う一言、クーノの根回しがなくとも、この大統領の押しには、ヤヤル含め、皆、敵わないようだ。
「では、お言葉に甘えて」
《ま、さすが大統領まで上り詰める人物ということじゃな》
《ああ、政治家って、こんな感じなんだな》
「そうだ! 明日のお昼ですが、なんでも、遊園地なるものがオープンしたらしく、みなさんで行って来られては、いかがでしょう?」
こちら、ドワーフの技術と転生者から漏れ出る情報の融合ということだろう。旧地球でおなじみの遊園地、テーマパークがこの街にオープンしたらしい。メロディーランドという名前からも、当然あるよね? 転生者の記憶。
《TDLってこと? ああ、そういや、前世……》
《主様、繰り返すが、ネガティブ思考は止めることをお勧めするぞ》
《そうだな、明日、楽しめばいいだけだ》
「では、みなさん、今夜は迎賓館にてお休みください。クーノ、みなさんの馬車を裏庭に回しておいてくださいな。クリティさん、あそこは目立たない場所ですから、離着陸場所として今後ともお使いください」
ちょ、クーノ、副大統領だろう? そんな使い方していいのかい? クーノは「承知しました」と答えて、部屋を出て行った。けど、あれ? オレが飛べること、大統領にもバレてるの?




