ガーディアン
「そうなんだ。でも、その許可リストさえ書き換えてしまえば、なんとかなるのでは?」
それでもドロシー、妙案があるようなのだが、もはや、彼女とクーノ二人だけの会話になってしまっている。オレはディアの翻訳説明を聞いてるだけなのだが……。
「自動運転」のロジックは複雑だが、ガーディアンが誰を敵と見做して攻撃するか? という部分についてだけいえば、とても単純だ。
Linuxを少し知っている人ならお馴染み、/etc/hosts.allow、/etc/hosts.denyという、二つのファイルによりアクセス制御していると考えればいいだろう。
で、ドワーフの技術者は、これらを一般的なホワイトリスト方式として使っていたようで、denyの方はALL:ALL、全員ダメとしておいて、allowの方に許可する数人を記述していたらしい。
そして、そして、驚愕の事実!!!
実は、この世界の人全てには生来、「マイナンバー」がある! オギャーと生まれたその瞬間、その人に固有ナンバーが振られる、ということだ。
この番号を知るには今の所、ドワーフの技術力に頼るしかないようだ。で、でだぁ〜 なんと、なんと、その番号って。
134.174.10.5とか? ええええ! IPv4のアドレスじゃん。ああ、この世界の全人口は五千万人ほど、約43億のアドレスを表現できるV4でも余裕で表現可能だもんね。
日本の自動車登録番号(ナンバープレート)みたいに再利用不可じゃなくて、死んだ人のナンバーはリサイクルされるようだし。
ちなみに、いや、これも驚いたよ。オレたちのアドレスを調べてもらったんだが。
オレ:192.168.0.1
姫:192.168.0.2
エリナ:192.168.0.3
ドロシー:192.168.0.4
ジャン:192.168.0.5
連番じゃねぇぇぇか!
《神様、思いっきり、手出ししてるじゃん!》
《そうじゃのぉ〜 できるなら、もっと分かりやすくやって欲しいものじゃ》
窃盗未遂者は自分のIPアドレスじゃなかった、マイナンバーが分からないのでallowをALL:ALLと書き換えたようなのだ。
はぁ〜〜い、そこに罠がありました。今では誰も知らない、千年前にプログラミングされた罠が、allow/deny全てをALLにしてしまうと、非常事態とAIが見做し誰彼なしに攻撃するモードになるらしい。
「そこが、『隠し』だったってこと?」
「そうなんだよねぇ〜 俺も知らなかったんだが」
ハッカー同士のドロシーとクーノ、年齢を超えてタメ口になっている。
「クーノさん、傀儡、ガーディアンを無害化する役目はドロシーにお任せいただいていいですか?」
盛り上がり過ぎた技術話は、どんどん発散してしまっている。そろそろ潮時と見た姫が割って入り、ピンポン作戦の詳細を説明した。
「なるほど、確かにその作戦で、彼女なら対応可能だとは思いますが、それでも、そうとう危険なのでは?」
「大丈夫、私、こう見えて、自分の身は自分で守れるから」
「そうだとは思います。貴女から漏れ出るオーラ、今のお話は強がりでもなんでもないと分かります。ですが、あなたは、まだ……」
「はい! 大統領、実は、私」
ドロシーはお団子カバーを外した。角が見えると当時に、変装の魔法も解けるようだ。黒かった彼女の目はルビーに輝き、ショートカットの髪は緋色に変じる。
「おおお!! なるほど、得心したよ、ドロシーはとっても強いんだね」
「ドワーフ初代大統領の金言は『天は種族の上に種族を創らず』、我々ドワーフ族は全ての種族を平等と見ております。貴女が魔族の血を引く者であっても、私達の信頼が揺らぐものではありません。胸襟を開き、その出自を明らかにしていただいた事、心より敬意を表します」
「大統領、その言い方は硬過ぎます。俺も、それはそれでいいと思うぞ。その姿、なかなか可愛いじゃねぇか。だがな、彼女の言は、あくまで建前、申し訳ないが、町では角、隠しておいた方が無難だな」
ま、それはそうかもしれない。特に魔族との混血となれば、色眼鏡で見る人も多いだろう。でも、ドロシーは、ちゃんと大人、自らに向けられる差別も飲み込む度量があるようだ。
「分かってるよ、クーノ」
「じゃ、チャッチャと片付けてしまいますか」
「クリティ殿、メイド服で、その仰り方、まるで夕食の準備でもするかのよう。頼もしい限りですね」
「ヤヤルさんは、こちらでお待ちいただければと」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
遠慮して帰ると言うかとも思ったが、ヤヤル、やはり事の結末が気になるらしい。
オレたちはクーノの案内で宝物庫に向う。宝物庫は大統領府の北の外れの部屋から、長い階段を降りた地下にあった。
《裏から穴掘るって作戦は?》
《難しいじゃろうな。宝物庫全体に強力な魔法防御結界が張られておるわ》
「この大扉の先に、廊下が続いておりまして、その先に宝物庫の入り口があります」
階段を降りたところは踊り場となっている。魔法の灯りに照らされて青銅色に塗装された鉄扉があった。両開きの扉は、向かって右側に龍、左は虎のような獣が彫刻されている。
《なるほど、外扉から内扉の廊下、及び、内扉の部分だけ結界が切れておるわ》
《その辺は、完璧だったようだけどな……》




