大統領
大統領府は、街の中央にあるドーム状屋根の豪奢な宮殿風建造物だ。青い円柱形の屋根をいただく尖塔、四本に囲まれている。
「ドワーフ族も百年ほど前までは王政を敷いておりました。あの建物はその名残ということです」
オレたちの表情から類推したのだろう、ヤヤルがすかさず説明してくれた。ま、ギルマスになるくらいに人物だ、細かく気が回るのは当然なのだろう。
2号、自動車並みの時速四十キロですよ。あっと言う間に大統領府の玄関に着いた。高さ二メートルはあろうかという金属製の扉、左右には槍を持った衛兵が警備に当たっているが、ヤヤルの顔を見た瞬間、敬礼をして扉を開けるよう指示を出してくれたようだ。
ガラガラガラ
金属製の重い鎖が巻き上がるような音を立てて、鉄の扉は内向きに開いた。さすが、元王宮、扉の先は吹き抜けの大広間、クリスタルのシャンデリアが下がり、その先には元謁見の間に続く大理石の階段、緞子の絨毯が敷かれている。
アレ、アレだよ、国会役員が記念撮影するところ、国会議事堂中央玄関みたいな。ま、この世界、ファンタジーワールドまんまだから、そんなことには驚かないオレだけど、こっちは、ちと、ビックリ。
なんと! 大統領自らとその側近と思しき人が、玄関先まで迎えに出てくれていたのだ。
「初めまして、私はこの国の大統領を務めます、ユーコと申します」
「プライムマイスターを拝命いたしました、クーノです」
プライムマイスターは首相、プライムミニスターの間違いではない、という点をクーノ自ら説明してくれた。技術立国のドワーフ族、技師者最高位にあたる名誉職ということのようだ。かつ、彼は大統領の側近、副大統領の位置付けにもある人物らしい。
皆、それぞれ挨拶を交わした。
「では、こちらへ」
謁見の間の二階へは上がらず、階段横の通路から奥に通された。そういえば、今気付いたが、身長の低いドワーフ用ということか、建物全般、やや天井が低い。
花鳥文様のペルシャ風絨毯を敷き詰めた廊下、エンボス加工を施されたクロス張りの壁は隅々まで清掃が行き届いていた。
だが、絵画や彫刻の類は一切置いておらず、立派過ぎる内装に比して、殺風景に見える。元王宮を大統領府とする際、無駄な装飾品は撤去したのだろう。
オレたちは一階の突き当たりにある執務室らしき部屋に案内された。
「改めまして、よろしくお願いします。その若さで、プラチナクラスの冒険者、ギルドの選りすぐりの方をご紹介いただいたのですね」
なるほどなぁ〜 リムゲイム、ちゃんと考えてるんだね。シルバーでもそれなりの社会的信用になるが、プラチナともなれば、大統領さえ一目置くということのようだ。
「ヤヤル・ギルドマスターよりお話は聞いておりますが、こちらでは専門的なお話をと思い、お邪魔しました」
ま、詳しく聞くというのもあるが、ヤヤルによると、そもそも宝珠を保管している宝物庫は、この大統領府の敷地内、渡り廊下で繋がっている場所にある、とのことだ。
「わざわざご足労いただきありがとうございます。そちらにも、パペッティアの方がおられるようですし、技術的な詳しい解説はクーノの方からした方がいいでしょう」
「かしこまりました、では、私の方から」
クーノが話し出したのだが。
《って、何? おい、おい、いきなり専門用語連発、さすがに分からんぞ》
《ヤレヤレ、主様もこの世界に随分と慣れたと思うておったが、まだまだじゃのぉ〜 旧地球のIT技術に例えて翻訳してしんぜよう》
ディアの翻訳によると……。
まず第一に、なぜ、高い技術力を誇るドワーフ族が、こんなオマヌケなことになったのか? だ。
ガードロボ、彼らはガーディアンと呼んでいるようだが、これが完成したのは、もう、千年ほども前の話。傀儡を操作するパペッティアなしのAIで動くという画期的なロボだったが、無敵ではなかったようだ。ガーディアンは順次、強化、改造され、今のような物理魔法完全耐性を得たとのこと。
まぁ、このあたりが間抜けといえば、そうだけど、AIのコア部分は千年前にプログラミングされたコードをそのまま使っているらしい。
こういうの前世で聞いたことがあるよ。ずーーっと昔から稼働しているコンピューターシステム。諸所の事情があってゼロから作り直すことができないものも稀には存在する。
だってさぁ〜 今だに、ああ、一万年前の現在って意味だけどね、JAVA、さらにはアセンブラーとか、古のプログラミング言語を使える人の求人があるんだぜ?
そんな技術者、もうあまりいないので、結構な高額案件になってたりする。
「本当にお恥ずかしい話ですが、ガーディアンの中核部分、今は誰も触ることができず、仕様の詳細も分からぬのです」
なるほど、システム開発あるあるって感じだが、こういうことなら、ドロシーが言っていた「ハッキング」も難しいってことに、ならないか?




