ヤヤル
受付嬢は小走りで受付から出てきて、最敬礼するようにこちらを見た。
「どうぞ、奥へ、ギルドマスターがお待ちです」
オレたちは、受付嬢の案内でギルドマスターの執務室に通された。部屋に入るなり、チーク材の立派な執務机に座っていたドワーフ族の女性が立ち上がり、まず姫に握手を求めた。
「初めまして、トラムキリアの冒険者ギルドマスターを努めます、ヤヤルと申します」
ドワーフの女性、どこかの小説設定のように髭があることもなく、黒髪、黒目の小柄な人族といった印象だ。皆、それぞれ、握手と自己紹介を終えた。
「リムゲイムさんから、クエストの概要は聞いておりますが、もう少し詳しくご説明いただきたく思います」
「はい、かしこまりました。ですが、少々お待ちください、皆様、長旅でお疲れでしょう。昼食などつまみながら、お話させてください」
タイミングを見計らったように、受付の制服を着た男女二人がサンドイッチとアイスティーの昼食を運んできた。
「そちらのドロシーさん、パペッティアと聞いております。専門的なお話も必要かと思い、午後から傀儡責任者のアポを取りました。この後、大統領府にご一緒願いたく思います」
と言って、ヤヤルは彼女の知る限りの詳細情報を説明してくれた。
宝珠を含む宝物庫のガードロボが暴走したというところまでは、事前に聞いていた通りだが、彼女からの付加情報では、そのガードロボがやたら「強い」らしい。
「え! 物理魔法完全防御ですか?」
「大統領府の技術開発室で、改良に改良を重ねた結果なのですが、完全耐性が付与されております。今回、それが裏目に出ました」
《完全ってことは、オレの重力魔法もダメということだろうな》
《アルテミスの矢のように、重力の制約を受けぬ魔法などというものが、存在するわけじゃから、そう考えてよいだろうな》
「私は、物質を『消し去る』魔法を持っております。今回、この魔法を使えばいいだろうと、簡単に考えていたのですが、当てが外れました」
「そうなのですね。では、今を時めく、ドラゴンスレイヤーパーティでも、対処は難しいのでしょうか?」
「あのぉ〜 その二つ名はちと……」
なんて言いつつ、どうしたものか? と考えていたらドロシーが一言。
「大丈夫! 私、専門家としての自負があります。なんとか止めてみせますよ」
「ドロシー、止めるとは?」
「傀儡は術者が事細かに指示して動かすものだと思っているでしょ? 微妙に違うんだよ、術者は例えば『○○に攻撃せよ』などと簡単な指令を出すだけ、後は傀儡が判断して動いているの」
《普通の傀儡もプログラマブルだ、という意味だな?》
《じゃの》
「その傀儡は勝手に判断する範囲が広いというだけで、『守れ』という指令を受けているには違いない、それを無効にすればいいのだと思う」
「なるほど! ドロシーは、パペッティアの力で指令を書き換えることができると」
「理屈は、そういうこと」
傀儡への干渉、ハッキングは、その本体が「見える」場所で行うという制約はあるようだが、今までの働きっぷりを見れば、ドロシー、一流のハッカーであっても不思議はない。
「そうだ! 私、矢で遠隔攻撃ができるから、クリティさんと二人で交互に引き付けながら、時間を稼ぎましょう」
《おおおお! そうか!! ピンポンやるのか!》
《エリナ、主様が知る前世のゲーム戦術をノーヒントで思いついたということじゃないのか?》
《だな! みんな、凄いよ》
プレイ経験のある人なら知っているかもしれないが、ピンポンとは高度なネトゲ戦術のことだ。プレイヤー二人が敵と適切な距離を取り、交互に遠隔攻撃しながら時間稼ぎをするというものだ。
当然だが二人は、弓などの遠隔武器、もしくは、魔法を使えるというのが条件となる。
ただ、問題となっている傀儡が、ネトゲのようなヘイト、直近でダメージを与えた相手に向かっていく、というふうにプログラムされていなければ無効かもしれない。
万一、予想が外れれば? ま、オレが一人でワープを繰り返して、逃げ回ればいいだろう。結構、キツイかもしれんが。できれば、こういうの仲間と一緒にプレイしたいがな。
《プレイじゃと!》
《あ、アハハ、なんかネトゲやってる気になってきた》
「では、そろそろ、大統領府に参りましょう。私もご一緒いたします」
「ならば、私たちの馬車で行きましょう。ちょっと狭いかな?」
「私とドロシーが御者台に乗りますよ」
オレたちはヤヤルを伴なって、ギルド前に止めておいた2号に乗り込んだ。この世界、通行の邪魔にならないよう端に寄せる、というマナーはあるものの、駐車違反で切符切られるとかないからなぁ〜
「こ! これは、パペッティアの方、一人で動かしているのですか?」
「いいえ、魔石動力も使っていますよ!」
「ああ、なるほど! 我々の技術でも魔石動力で動く馬車はあるのですが、両方を使うという発想はありませんでした。確かに、魔石動力だけですと、かなり経済性が悪いですから」




