ミョルニルハンマー(改)
なんだろな、心の病を持つ人が、無理無理、頑張っちゃう感じ? 脳に負担が行くんだろな?
《悪魔の脳は、特別性じゃないのかい?》
《うむ、特別性じゃから故、神の作った壁を突破しておると考えてほしい》
《なるほど……》
ということで、さすがに限界、ひとまず、世界の成り立ちの話はこれまで。
「ご配慮ありがとうございます。では、本日最後、魔道具屋さんに寄って帰りましょう」
オレのちょっとした用もあったのだが、さっきの指輪で閃いたんだよね。日が傾く頃、オレたちはゼッドの店の扉を押した。
「いらっしゃい、お、クリティが玄関から来るなんて、珍しいね」
「アハハ」
「どういう意味です?」
「エリナにも後で教えてあげるから」
「えと、木槌の改造と、それから、魔力付与機を貸してほしいのだけれど」
「おお、例のミョルニルハンマーかい!」
いやいや、オッサン、厨二病かよ! 大層過ぎるでしょう。
《というか、北欧神話は確実に流れ込んでるな》
《指輪の文字は聖書だったじゃろ? ケルト、ギリシャ神話あたりも、多分、のぉ〜》
《ま、中世らしさの演出?》
《朴念仁のようで、意外に神もやりおるわい》
「小さいが、高品質の闇の魔石、入ってるよ!」
「ありがたい!」
オレは再び、闇の魔石に魔力を込めて、ゼッドに柄へのセットをお願いした。
「じゃ、それをお願いしてるうちに、機械を借りますね。ああ、エリナ、さっきの指輪、貸してくれる?」
「え、ええ」
魔力付与機、直径二十センチほどのガラスの円盤と、同じ大きさのシャーレを、四本の支柱で繋いだケーキスタンドのようなもの、といえばいいだろうか?
アクセサリーなど小さいアイテムに魔力を注ぎ、魔道具に改造するための道具だ。シャーレのところにアクセサリーを置いて、上のガラス円盤に術者が手を置き、魔力を照射する。
まず、オレは、白銀の指輪の内側にテーベ文字を書いた。簡単な機能の魔道具なら、魔法陣を描く必要はなく、文字を刻むだけで十分だ。
さらに、直接書いた方が、照射した魔力を吸収、定着しやすくなる、という利点もある。ああ、コレも、もちろん、ディアの知識ね。
《 <(`^´)> 妾は、悪魔の王とも呼ばれる存在なのじゃから、当然じゃ》
シャーレに指輪を置いて魔力を込めていく、ヨシ! できた。
「はい」
「アレ? 特に何も変わってないようにも思うのだけど」
「私と姫がしているピアスの代替品というか、劣化版なのだけど、エリナの身を守るのに役立つかなと思って、要はお守り」
姫のピアスは彼女に危険が迫ると自動反撃、オレが近くにいなければならない、という制約はあるものの、自動的に重力魔法が発動して敵を攻撃してくれる。
だが、自動というのはさすがに神器クラスでないと無理らしい。この指輪はネットワーク機器でいうところのリピーターだ。
エリナがオレの見える場所にいれば、遠くからでも魔法を中継してくれる。あたかもエリナがオレの魔法を使ったかのように。
例えばエリナが魔法攻撃を受けた場合、オレのブラックホールが彼女の近くに生まれ攻撃魔法を吸収・無効化してくれる、というような使い方を想定している。
「ありがとう!! クリティは私の護衛もしてくれるってことよね。なんだか嬉しいわ」
いきなり、抱きつかれた。なぜか、こういう場合、加速装置は働かないし妙に体がグニャる。アレ、この現象、姫だけだと思っていたが、違うのか? ああ、オレが心を許した人、全てなのかもしれない?
「なに、クリティ、赤くなっちゃって、浮気は許しませんよ」
姫のツッコミをスルーしたオレ。
「あ、ゼッド、木槌できた?」
「ほい! ミョルニルハンマー(改)」
「庭で試してもいいかしら?」
「いいけど、庭をぶっ壊さないでくれよ。ああ、それで、お帰りも、どうぞ」
「お代は?」
「いや、いいけど、まぁ、じゃぁ、銀貨一枚で」
あの魔石、直径八ミリほどしかないが、上下対称の球体、三角形を二十四ずつローズカットしたものでかなり上質だ。銀貨一枚じゃぁ、安過ぎな気もするが、ま、ゼッドがいいと言うのなら。
「その威力、私も見ていいですか?」
「もちろん」
オレは庭に出て、石を拾い軽く木槌で撫でた。
ガシ!
それだけで、十センチほどの花崗岩は木っ端微塵に砕けてしまった。
「えええええ!!!」
初めて見るのはエリナだけかな? 姫もゼッドも、なるほど、くらいの表情だ。
いやね、これから、姫のお供で冒険者とかやる可能性大じゃない? いきなり、超絶魔法連発とか、ちょっとさぁ〜 って思ったわけ。
強い武器があるから強いんだ、くらいに思ってもらった方が、何かとね、世間体的にいいんじゃないか、って考えたわけ。オレ、結構、大人になったじゃん?
「で、ここまで見せたし、ワープできることも教えるね」
「いいんじゃない?」
「姫の了解も出ましたので、エリナ、私の背中におぶさるように掴まって下さい。絶対、手を離してはいけませんよ」
「はい?」
《お、エリナ、結構、胸あるね?》
《やっぱり、元男、かのぉ〜 主様は》
オレはゆっくりと、魔道具屋の庭から空に上昇した。
「す、すごい! えええ、楽しいいい!!」
「あああ、魔法で支えてはいますが、あまり動くと落ちますよ!!」
オレは、速攻、学園の裏庭、例の温室近くにワープし静かに下降した。




