ブルーノ
エリナと、いつもの温室裏に降りたオレ。
「ありがとう、クリティ、だんだん、私のこと信頼してくれるようになってきた、ってことでもあるのですわね?」
「信頼はずっと前からしていますよ。私の魔法、ちょっとヤバ過ぎというか、妄りに見せるものでもないかな、と考えただけです。でも、これから長くご一緒する予感もしますし」
「まぁ! 嬉しい」
また、抱きつかれた。アレ、また、グニャるんだが……。
《主様、気をつけた方がよいぞ》
《うん?》
《こうなるのは、妾ら、悪魔の性、契約者に全てを捧げたくなる、らしい》
《「らしい」、って、なんだよ?》
《妾は、卑小な人間などと契約したことは、なかったからのぉ》
《じゃ、ディアはオレに処女を捧げたってことかい?》
《イヤン!》
《なるほどな、オレと君の結び付きから、類推せよということだな。善意を示してくれる相手に過剰な思い入れを持ってしまうのは、必ずしもいいことばかりではない、という意味か?》
《その通りじゃ、マサヨシの性格も相まって、思わぬアキレス腱になるやもしれぬ》
「姫様が、いらっしゃらなかったら、ほんと、恋人にしたいくらいですわ」
「ああ、アハハ、では、姫を迎えに行ってきます!」
「ねぇ、そもそも、二人乗りって、無理なの?」
「うーーん、原理的には十人だろと、百人だろうと、問題ないのですが、なんだか、掴まってもらわないと不安で」
「ウフ、クリティらしいわ」
「ああ、キスはダメ、ダメですぅぅ!」
ということがあって、ほんと、充実した休日となった。うん、いいな、こんな日が、ずっと続けばいいのに! あ゛立てたね、今、オレ、フラグってヤツ。
それからしばらくは再び平穏な日常、授業は三人並んで聴講し、ほぼ毎日のようにルルファンクラブをご招待したお茶会、いやぁ〜 茶葉がなくなるなくなる、めちゃくちゃなくなる。
休日には三人でお買い物、ここは大学だけど、なんかJKっぽいというか、そんな日々が続いた。
もちろん、オレの剣術・体術講座も適宜、開催している。二人は実技成績もかなり上がって来たようだし、オレはいまいち気乗りしないが、冒険者への道もステータス、レベルの上では十分にクリアできたと思う。
でも、さぁ〜 マジでやんのかよ? 冒険者。まぁ、まだ、よく分からぬ神のミッション、探るには好適な職業ではあるけれど、それはオレ一人でやればいいことで。
《いや、そうでもないぞ、神が与えたこれからのミッション、実は主様ではなく、ルル姫へのもの、と考えた方がいいのではないかのぅ》
《ああ、そうか、オレは、彼女の道具だということを失念していた》
《こら、こら、非建設的な自嘲はやめよ。じゃが、姫の命令がないと主様は動けぬ、というこでもあるからのぉ〜》
《ま、あと一回くらいで終わってほしいものだが》
《じゃな》
という感じで、ディアと話していた、ある日の夕刻。
「ねぇ、クリティ、お話中のようだけど、学園長が呼んでいるわよ」
「え! なんで分かる?」
「だって、集中していて管内放送も聞こえてないみたいだし」
姫と二人で学園長室に向かう。ドアの前に立つと何やら言い争う声が聞こえて来た。一人はエリナじゃないか? もう一人は中年男性のようだが。
コンコン
「どうぞ」
「失礼します」
「あ! 貴女がルルメリア姫ですね! なんの意図があって、娘に妙な入れ知恵をなされたのですか!」
うん? 話が見えん? ああ、エリナ、冒険者になる旨を父に言ったのか、で、お父様は、姫がそそのかしたと誤解している、ってところ?
「ブルーノ殿、どうか、落ち着いて」
「ああ、私としたことが、ルルメリア姫様に対し大変失礼な物言いをしてしまいました。姫様、どうかお許しください。私はエリナの父、ブルーノ・ルメールと申します」
「ルルメリアです、こちらは、私のメイド、兼、護衛を務めますクリティです」
うん? ルル姫、一瞬にして、この場を読んだ? 何か、策ありとみた。ひとまず黙っていよう。
「誓って申し上げます。私が一番の親友であるエリナを唆すなど、あり得ぬ話です、ですが」
「ですが?」
「私の大望をお手伝いいただきたいと、お願い申し上げたのは事実です」
お! 上手いな、微妙にニュアンスを変えつつの反撃。
「そうよ。お父さん、私はね、ただ、政略結婚から逃れたいだけの理由で冒険者を目指していた、だけど、お二人に会って、自分がいかに矮小な考えに囚われていたかを思い知ったわ」
エリナもさすがだ。姫の誘導を見事に利用して、瞬時に理屈立てを考えた。
「クリティさんは、王さえも足下に跪かせる力をお持ちなの! お二人は世界の救世主たるべき人、そんな方々のお手伝いができるなんて、なんて光栄なことなのでしょう」
ああ、確かにドルトニア王の禿頭を靴で踏みつけたことはあるが、いや違うぞ、あれは、むしろご褒美だったはずだが。
「世界の救世主だと! こんな場で、荒唐無稽な話は止めてくれ」
「そうでも、ない、と私は思いますが」
「が、学園長!」
救世主、今までの流れを知っているオレたちからすれば、違和感のない作り話だが、ブルーノにとっては、妄想レベルの話に聞こえるだろう。
で、それを学園長が是認してしまう、虚を突かれた彼の顔には驚愕の色が浮かんだ。




