飲み比べ
あのドラゴン、どう解説しておけば、いいのかな?
「ああ、知ってる、知ってる。だけど、誰かが討伐しちゃったみたいよ」
「な、なんだって!!」
「ああ、一つお話したから一杯ね♪ 私も飲むから」
良い子は決して真似しないように、な!!
「はい、イッキ、イッキ!!!」
「プッ ハーー、って、君、顔色ひとつ変えず、ジョッキ飲み干してるけど、その落ち着き振り、なんか……」
《ディア、酔わないのはさっき説明を聞いたが、さらに、オレ、結構、飲んでるけど、トイレに行きたくならないのだが》
《主様、さっき自分の裸を見たじゃろが、自慰に夢中で気付かんかったのかのぅ? 尿道も肛門もなかったはずじゃが?》
《え! 食物は体内で、魔法的な消化をしてしまうってこと?》
《その通りじゃな、全てMPに変換される》
て、オイオイ、一回の食事で食べる質量、飲み物も合わせれば、一キロほどあるんじゃないか? その質量全部が、MPというエネルギー的な何か? に変わるだと!
《なぁ、MPの変換効率って、E=mc^2 みたいな感じ?》
《うむ、MPを定量的に測る単位はないが、僅かな質量から大きなMPが生まれるという意味で、その考え方は正しいと思うぞ》
知ってると思うが、この公式、cは光の速度なわけ、三十万キロ毎秒、めちゃくちゃデカい! ご丁寧にそれを二乗してるわけで。ま、オレのフルパワーが核兵器並みってことと、符号するっちゃぁそうだけど……。
いずれにせよ、この体、トイレに行かなくて済むのは便利だが、身バレリスク高くね? ま、大丈夫か? 裸、しかも、股間を見られなければいいのだから。
そんな考えを巡らせていたら、なんか、見つめられてるんですが。この男、最初はナンパ目的だったのだろうけど、目つきから欲望が消え、純然たる好奇心が浮かんでいるような気がする。
「もしかして、それ、君?」
「うーーん、聴きたければ、テーブルのジョッキ、半分を飲み干して」
「お、おお!!」
オレたちは、テーブルに置かれたジョッキ四杯を、それぞれ一気飲みした。この世界のビールはアルコール度数が高く十度近いんじゃないかな?
容器の大きさは中ジョッキくらいだから、五杯で日本酒一升を一気飲みした計算か。ジャン君、何とか持ち堪えたが、目は虚になってきた。
大事なことなので二回言う。良い子は決して真似しないように。
「答えは、イエスかな?」
「まて、まて、まて、それ、君が一人で倒したって意味だよな? あのドラゴン、超強いぜ! 数人の冒険者パーティごときじゃ太刀打ちできないレベルのはず。一個師団くらいの軍隊でも来てくれないと、始末できないと思ったのだが」
そんなに強いのなら、さっさと国が軍を送るべきなのだろうが、こういうところは、前世と同じお役所仕事、予算ないしぃ〜 などと言って、住民への直接被害がなければ、派遣要請は受け付けないとか?
「ま、世の中いろいろ? ああ、ウエイトレスさん、もう十杯追加ね♪」
「おいぃぃぃ!!!」
「はい、はい、はい、飲んで、飲んで、飲んでヨォ〜。て、あらぁ〜 もう限界なのぉ、しょうがないわねぇ、じゃ、私、残りを片付けておくから」
「殺さずの技」はディアの協力を得ていろいろ考えている。この場合、PKで軽く三半規管を揺らし、目眩で潰そうとも思っていたのだが、その必要もないようだった。
「ああ、ウエイトレスさん、寝ちゃったけど、この方の財布から、私の分も取っておいてね」
「はい、はい!! そろそろ店じまいしちゃいますね」
ま、こういう酒場のウエイトレス、ちゃんと心得ているようだ。男の懐を弄って財布を取り出し勘定を済ませた。テーブルも片付け、さらに彼女は優しい! 毛布を持ってきて男の肩にかけた。
「じゃ、おやすみなさいませ」
その夜、異世界到着後、初の睡眠ということになるが、めちゃくちゃよく寝た。こんな熟睡、生まれて初めてかもしれない、妙に気持ちが落ち着くんだ。
前世に生まれ落ちて三十数年、その後もずっと続くと思っていた空洞、それを満たして、なお溢れくる何かを向日葵がくれた。最愛の人との再会もいまだ果たせぬのに、この気持ちはなんだ?
その朝、スクランブルエッグ、ベーコン、パン、サラダ、コーヒーという、ビジネスホテルの朝食みたいなメニューを食して、オレはギルドに顔を出した。
おおお! なんだか賑わいが戻っているじゃないか。ま、小さなギルドだから、冒険者が数名いるってだけだけどな。あ、アレは、ジャンじゃないか?
「あ、姉御ぉ、お待ちしておりました、ウォップ」
って、いきなり、姉御って、オレ、ヤンキーは足を洗ったつもりなんですけど。
「ジャン、辛そうね? 二日酔いかな」
「頭ガンガン、ふらふらっすけど、姉御をお待ちしないといけない、と思いまして。ウォップ」
「お願いだから、こんなところで吐かないでよ」
「いやぁ〜 さすが姉御、あんなに飲んでも全然平気だなんて、さすが、あのドラ……」
「シッ! 大きな声で言わないで、じゃ、折角だし、森のウサギでも行こうか?」
「え! 俺なんかと、パーティ組んでもえるんすか?」
「まぁ、その根性に免じてね。でも、森までは我慢してよ、あそこなら多少吐いても、魔獣が片づけてくれるでしょうから」
ということで、オレとジャンは、森の一角ウサギ十羽銀貨三枚、というクエスト受けた。
これは超初心者向けクエストで、歩いてハーフ(約1時間)ほどの森にいるウサギ型魔獣を十羽倒す、というものだ。




