ジャン
《ま、何はともあれ、飯だな?》
《じゃのぉ》
とにかく、ショートパンツ、ストッキング、ブーツと履いて、お化粧は鏡を見るだけ、もののシックスティーンス(約7分)で準備が整い、オレは一階の食堂に降りていった。
異世界酒場の定番だろうか、有翼人、ヒューマノイド型の体に翼を生やして足は鳥、という女性が注文を取りに来た。
ちなみに、この世界の獣人は種族ではなく、いわゆる獣憑き、獣の特徴を持った「人族」が一定確率で生まれてくるというものだ。
特に珍しいことではないので、何らかの差別があるわけでもなく、自然に人族社会に溶け込んでいるようだ。
ま、肌の色が違ったくらいで、差別している地球人は見習ってほしいものだ。というか、多様性の幅がぶっ飛び過ぎているが故、差別などしていたら、社会、経済が回らないという事情があるのかもしれない。
それもそうだし、力が人の数倍もある熊獣人、空を飛べる有翼人、適材適所で、めっちゃ使えるよな?
ということで、オレは、ワンプレートディナーとビールを注文した。
前世では完全に絶っていた酒だが、酔わない体になったので、もういいかな? という点もある。だが、なにより、周りに大人アピールしておく方がいいだろうと考えたのだ。
すぐに出てきたプレートは、ローストポーク、クネドリーキ、ザワークラウト、というより、単なる酢キャベツかな。クネドリーキというのは、この地方の主食らしいが、茹でた円筒形パンのことだ。
《豚の死肉も美味いだろ? ディア》
《ここは、チェコ風の国ということかのぅ。外国の食事は大味だと贅沢を言う日本人は多いが、主様はそうでもないようじゃな》
《そもそも日本でろくな物食ってないからな、何でも美味いわ》
そんな、こんなをディアと話しながら、プレートを食べ終えた頃、まぁ、来るわな。オレ、見た目は超絶美少女なわけ❤︎ 本当は人外だがな〜
「へぇー、君、冒険者なんだ。しかも、シルバーだって!」
冒険者認識票、宿屋の主人にも有効だったが、まず胸の谷間に視線が行く男全般に対し、絶妙な位置に掛かっているといえる。
「俺も冒険者なんだけどさぁ〜 まだコパーランクなんだよね。でも、君、すごいなぁ〜 その若さでシルバーなんて、ねぇ〜 少しお話聞かせてくれない? 奢るからさぁ」
予想通りナンパなのね、本件について、この世界も前世と大差ない、どいつもこいつも、想像力がないというか、もうちょい洒落た言葉を思い付かないのかい?
テンプレ台詞を喋ったのは、二十代前半に見える人族の男、ブロンドの髪にアンバーの瞳、そこそこイケメンといえばそうだが、女たらしってところかな。
でも、オレ、女の子になって一人Hまで経験しちゃったけど、「イヤン! あたし、メス堕ちしちゃうぅぅ」なんて感情は皆無。心の中にディアがいるという点が大きいのだろう、彼女の解説通り、中の人をずっと演じ続けられているようだ。
だから、むしろ、ってことだけど、男を経験してみたいとは思う。でもなぁ、やっぱ、殺してしまってはマズイしなぁ〜
「私、こう見えて、自分より弱い男とはお付き合いしないの」
「って、オイ!」
シルバーランクの冒険者、まともに拳で語りあったら命がない可能性すらある。
「殴り合いをしようってことじゃないから、安心して。強さというのは、お酒、お酒よ、奢ってくれるんでしょ?」
「おお! そういうことかい。じゃ、向かいの席いいかな?」
「どうぞ」
ハマったな、孔明の罠、オレ、どんなに飲んでも絶対に酔わないのだが。
「じゃ、一つお話をする度に、ジョッキ一杯、二人で空けるってことで! ああ、ウエイトレスさん! ひとまず、中ジョッキ十杯持ってきて」
「え゛」
なんか、オレ、楽しんじゃってないか? ああ、使命、使命だよな? だけど、なんだろ、この世界、オレのような半端者も差別なく受け入れてくれてる気がするんだ。とっても居心地がいい。
「ささ、何を聞きたいのかな? 君は。ああ、私のことはクリティと呼んで」
「俺は、ジャンでいいよ」
「いやぁ〜 俺もさ、こっちの冒険者ギルドのクエスト受けようって思うんだけどさ。峠の方にドラゴン出たでしょ? なんか、ビビリ入っちゃってさぁ、近くの森へも行けないのよ」
なるほど! あの冒険者ギルド、小規模とはいえ、オレがいた数時間、冒険者が訪れた様子はなかった。いくらなんでも、数時間、「客なし」なんて、普通、あり得んだろ?
あんなところにドラゴンが出現したということは、安全に狩ができるはずの近くの森も大丈夫か? と考えるのは自然なこと、この町の冒険者はクエスト受注を躊躇っている、ということなのだろう。




