ドッグタグ
「ただいま戻りました!」
オレが着陸したのを窓越しに見ていたギルマスが、中庭まで迎えに出てくれた。
「って、さっき、飛んで行かれたばかりでは?」
「確かに倒してきましたよ。これを見てください」
ドン!!!
大きな音を立てて巨大な魔石が中庭に落ちた。
「た、確かに炎の魔石、こんな大きな物はあのドラゴンを倒さないと、ドロップしませんね」
「ギルマス、私を信じてないのですか?」
「いやいや滅相もありません。ですが、貴女様の強さは、この世界の常識を超えております」
《核兵器じゃぞ、この世界中探しても、主様を上回る魔導士など存在せぬわい》
《そういうことか》
「いずれによ、クエストコンプリートです。報酬をお渡ししますので、部屋の方へ」
部屋に戻ると、すでに各種資料などが準備されていた。
「では、こちら、ギルド登録料を控除しまして、銀貨九枚と通帳になります。クリティさん名で口座は開設しておきましたので、こちらに認証登録を」
オレはタブレットのような魔法道具に右手を置いた、指紋認証登録ということだろう。
「金貨十枚を袋に入れて持ち歩くのは不用心かなと思いまして……。冒険者ギルドは、その副業として、銀行業を営んでおります故、僭越ではありますが、このようにさせていただきました」
報酬の残り金貨九枚は、オレの口座に振り込んでくれたようで、全世界にあるどの冒険者ギルドでも、指紋認証により現金を引き出すことができるとのことだ。
「いえいえ、お気遣いありがとうございます」
冒険者の利便を考えて始めたギルドの銀行業務、全世界に「支店」があるということもあり、今では、魔獣ハントによる魔石販売に肩を並べる収益を上げているようだ。
さらには、魔石というこの世界では石油に相当するエネルギーを握っている冒険者ギルド、前世でいえば、石油メジャーと世界銀行が合体したような大組織ということになり、国家に並び立つ大きな発言力も持っている。
ちなみに、この世界の通貨だが、最小単位の青銅貨は日本換算で、だいたい百円、金貨一枚は十万円と考えればいいらしい。
ただ、魔法がある分、こちらの生活費は安い。光熱費、被服費は前世の十分の一程度、食糧費や住居費もリーズナブルで、日本円で百万、金貨十枚あれば、一家族が一年余裕で暮らせてしまう。
ということは、オレ、一瞬で、一般庶民の年収分くらいを稼いだことになるんだね!
「それから、これはギルド登録の証となります。貴女の実力からすれば、プラチナクラスでもよいのですが、無用に目立つのは避けるべきかと思いまして、シルバーをご用意させていただきました」
と言ってギルマスは、縦五センチ横三センチほどの小判形プレートと銀製のチェーンを差し出した。
《コレ、シルバー925だろうか? オレ、金アレなんだが》
《バカモノ! 当然じゃが、悪魔はアレルギーフリーじゃ!》
プレートには小さな穴が開いていて、ペンダントのように首から下げられるようになっている。前世で兵士が個人識別用に使っていた認識票によく似た形だ。
「シルバーランク冒険者は、中堅どころの腕利きと見做されます。登録証の方は、目立つよう服の上に下げておいてください。これを見た者は、レンカのように無礼な態度を取らないでしょう」
「ありがとうございます! ですが、レンカさんの反応はギルド職員として、ごくごく当然のこと、気にしておりませんから」
「それから、これは内緒ですが、こちらの指輪を」
ギルマスが渡してくれたのはレベル偽装の指輪というものらしい。例のステータス測定器を欺く魔道具だ。
普通、レベルが足りない冒険者が高難易度クエストを受注したい時、こっそり使う物らしいが、オレ用に測定されても不審に思われない無難なステータスが出るよう調整してくれたらしい。
「設定したレベルはLv.80です。カンストはLv.99ですが、お若く見えるクリティ殿ですから、控えめにしておきました。種族については人族 (Human) に見えるようにしました。少々幼く見えてしまうのは、ハーフリング(Halfling)の血が混じってるとでも、言っておけばよいかと思います」
「何から何までありがとうございます」
オレは指輪を左の人差し指に嵌め、例の血圧測定器を試してみた。おお!! これなら、ぶっ飛んでおらず、かつ、未熟でもなく、ちょうどいい具合の中堅冒険者と見做されるだろう。
Compositionも血肉(Flesh and Blood)となっていた、なるほど、普通の人は、そうなのね。
「そうだ、一つお聞きしてもいいでしょうか?」
「はい、なんなりと」
「どうして、私のことを一目で転生者と見抜いたのですか? 私は前世で縁のある人物を探しおります。その者も、私は一目で見極められるのでしょうか?」
ふむ、「前世で縁のある」という言葉は問題なく話すことができた。
《なぁ、ディア、向日葵と会った際、どんな『嘘』をつけばいいか? 考えておく必要があるな》
《ああ、そうじゃなぁ》
地球の記憶、どこまでがOKで、どこまでがダメなのか、慎重に見極める必要があるだろう。いずれにしても、向日葵と会った際、「本当のこと」を話そうとしても話せないはずだ。
話せる範囲、すなわち、整合性がとれる嘘を準備しておくべきだろう。




