第二十一話 命を繋ぐ戦い
エレンは、全身を覆っていた羽根を失い、背中の三対六枚の翼だけを残したルシファーを見据えた。
右手には、クラディウスから託された聖剣。
左手には、これまで一度も抜かなかった、ルシファー自身の剣。
異形の羽根は消えた。
本来の姿が現れたはずだった。
――だが。
その姿は先程までよりも遥かに不気味だった。
人の形をしている。
それなのに、人ではない。
理屈では説明できない嫌悪感が、本能に直接訴えかけてくる。
エレンは静かに黒い剣を握り直した。
ルシファーは左手の剣をゆっくりと持ち上げる。
「では――ゆくぞ」
距離は十分離れている。
普通なら届くはずがない。
だからこそ、エレンは構えを崩さなかった。
しかし次の瞬間、ルシファーはその場から一歩も動かず、左手の剣を振り下ろした。
「……何を──」
言葉が終わる前だった。
「っ!?」
目の前に巨大な刃が迫る。
正しくは、ルシファーの左手の剣が異常な速度で伸び、そのまま振り下ろされていたのだ。
甲高い金属音が空に響く。
エレンは咄嗟に瘴気を纏った黒い剣で受け止めたものの、その衝撃で大きく後方へ弾き飛ばされる。
翼を大きく羽ばたかせ、空中で体勢を立て直す。
(剣が……伸びた)
ルシファーは伸びた剣を何事もなかったかのように元の長さへ戻した。
「初見でこれを凌ぐか」
「なら、こっちも試させてもらうわ」
エレンは左手を前へかざす。
何もない空間から、多銃身回転式機関銃が姿を現した。高速で銃身が回転を始める。
「撃ち抜け!」
轟音が空を震わせる。瘴気を纏った無数の銃弾が、ルシファーへと降り注いだ。
黒煙が舞い上がる。
だが。
「効かん」
煙の中から、ルシファーはゆっくりと姿を現した。
傷一つない。
瘴気を纏った銃弾は、その肉体に当たるたび金属へ弾かれるような音を立てて砕け散っていた。
(瘴気を纏わせても通らない。聖気が上回っている……銃弾程度じゃ足りない)
ルシファーは左手の剣を軽く振る。
次の瞬間、剣身が蛇のように伸びた。
一閃。
二閃。
三閃。
空中へ展開されていた多銃身回転式機関銃が次々と切り裂かれる。
爆発。
爆炎。
金属片が雨のように降り注ぐ。
わずか数秒。
エレンが創造した銃火器は、一つ残らず破壊されていた。
「やってくれたわね」
「次はこちらの番だ」
ルシファーは右手の聖剣を静かに構える。
その瞬間、姿が消えた。
「っ!」
エレンの視界からルシファーが消えたと思った瞬間には、既に目の前まで迫っていた。
甲高い金属音が響く。エレンは反射的に黒い剣で受け止める。
「速い……!」
一撃。
二撃。
三撃。
休む間もなく聖剣が振るわれる。エレンは必死に剣を合わせるが、防ぐだけで精一杯だった。
(あれは危険だ……)
聖剣から溢れ出る濃密な聖気が、本能へ直接警鐘を鳴らしてくる。一発でも受ければ終わる。エレンはその直感を信じ、一撃たりとも受けまいと剣を振るい続けた。
「この速さについてこれるのか」
ルシファーが僅かに目を細める。
「ならば――」
更に剣速が上がる。
「くっ!」
エレンは歯を食いしばり、自身へ超加速の魔法を掛けた。景色が僅かに流れる。
それでも、ルシファーの剣はなお速い。
(これでも届かない……!)
剣を受け流しながら、エレンは左手を後方へ向ける。何もない空間から、大型滑空砲が創造される。
狙いは、ルシファーの背中。
「これなら、どう!」
轟音。
瘴気を纏った弾頭が放たれる。
しかし。
「ちっ」
ルシファーは一瞬だけ振り返ると、左手の伸びる剣を一閃した。弾頭は真っ二つに裂け、そのまま爆散する。続けて大型滑空砲本体まで切り裂かれ、爆発した。
「……」
エレンはその僅かな隙を逃さない。翼を大きく羽ばたかせ、一気に距離を取る。
「さっきまで本気を出していなかったのね」
ルシファーは黙って聖剣を下ろす。
「本気になったのは……私にその姿を見られたから?」
「くだらん質問だ」
冷たい声が返る。
「貴様には関係ない」
エレンは小さく笑う。
「あっそう」
そして黒い剣を構え直した。
「でも、あんたの本気はよく分かった」
神器・偽の力が体内で脈打つ。
「そろそろ準備運動は終わり」
エレンは静かに息を吐く。
「――私も、本気で行くわよ」
その言葉と同時に、神器・偽の力をさらに解放した。
瞬間、全身に凄まじい力が駆け巡る。
「っ……!」
身体中の血液が沸騰するような熱。骨という骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。
実際に身体が壊れているわけではない。
だが、神器・偽がもたらす莫大な力に、肉体が耐え切れず錯覚を起こしているのだ。
(まだ……耐えられる)
エレンは歯を食いしばる。
体内を暴れ回る力を無理やり押さえ込み、静かにルシファーを見据えた。
ルシファーは何も言わない。
ただ、その変化を見逃さぬよう静かに観察している。空には、僅かな静寂だけが流れた。
◆
(まず、聖剣)
あれだけは絶対に受けられない。
水晶の試練で偽物のクラディウスと戦った時のように、治癒魔法を掛け続けながら攻め続ける戦法は使えない。
聖剣で傷を負えば、その瞬間に形勢は覆る。だから攻め急ぐことは出来ない。
(次は耐久力)
瘴気を纏わせた銃弾では傷一つ付かなかった。
だが、大型滑空砲の弾頭だけは違った。
ルシファーは避けなかった。
受けもしなかった。
わざわざ斬った。
(つまり)
誘導弾。
大型滑空砲。
無誘導弾射出器。
多弾頭誘導弾。
超大型誘導弾。
特殊弾倉型誘導弾。
(おそらく、弾頭系であれば当たれば通る)
その可能性は高い。
残る問題は二本の剣。
聖剣。
そして伸びる剣。
近付けば聖剣。離れれば伸びる剣。
加えてルシファー自身の速度も速い。距離を取ることすら難しい。
(……厄介ね)
神器・偽を解放した今なら身体能力では多少並べる。
だが、それだけでは勝てない。
(もう一手。あと一つだけ何かが必要)
エレンは静かに周囲へ視線を巡らせた。
青く澄み切った空。
雲一つない快晴。
降り注ぐ太陽の光。
その全てを見渡した瞬間だった。
エレンの思考が止まる。
(……待って。もしかして……出来るの?)
その考えはあまりにも突飛だった。
だが、次の瞬間だった。
――神器・偽が、まるでその考えに応えるように微かに脈動する。
(……反応した。やっぱり……創造できる)
エレンは静かに黒い剣を構え直した。
(まずは確認。創造を始める)
◆
エレンの変化を感じ取ったルシファーは、静かに左手の剣を構える。
次の瞬間、剣身が蛇のように伸び、エレンへ襲い掛かった。
しかし。
ヒュッ。
黒い影が空を切る。伸びる剣は何も斬れなかった。
「なに?」
ルシファーの動きが一瞬だけ止まる。エレンは既に剣の軌道から大きく外れていた。
(見える)
神器・偽の力をさらに解放したことで、身体能力だけではない。
反応速度。
判断速度。
その全てが一段階引き上げられていた。
ルシファーは伸びた剣を戻すと、迷わず聖剣を構える。
「ならばこちらだ」
空気が弾ける。ルシファーの姿が消えた。
だが。
キィンッ!!
火花が散る。
エレンは黒い剣で聖剣を受け止めていた。
「ほう……」
ルシファーが初めて感心したように呟く。
そのまま連続で剣を振るう。
一撃。
二撃。
三撃。
四撃。
聖剣が残像を残すほどの速度で振るわれる。
しかし。
キィン!
キィン!
キィン!
エレンは一歩も引かない。黒い剣だけで全て受け流していく。
「貴様……」
ルシファーが僅かに目を細める。
「どうやったかは知らんが、自らの反応速度を上げたな」
エレンは小さく笑う。
「どうかしらね?」
「ふん」
ルシファーも笑う。
「ならば、私も速度を上げよう」
ルシファーは短く詠唱し、純白の魔法陣が展開される。
「《超加速》」
ルシファーの姿が霞む。エレンはそれを見た瞬間、神器・偽の力をさらに解放した。
「っ……!」
全身を更なる激痛が駆け巡る。血液が沸騰するような熱。骨が軋む。筋肉が悲鳴を上げる。
(まだ……。耐えられる)
エレンは歯を食いしばる。
ルシファーが消える。
次の瞬間、二人の剣が激突した。
轟音。
衝撃波。
空が震える。
二人の姿が空から消えた。
次の瞬間、甲高い金属音が空中へ何度も響き渡る。
キィンッ!
キィンッ!!
キィィンッ!!!
激しい火花が連続して散る。常人には、もう二人の姿は見えない。見えるのは空中へ走る無数の衝撃だけだった。
聖剣と黒い剣が幾度となくぶつかり合う。
一瞬の隙。それすら互いに許さない。ルシファーは右手の聖剣で斬り込みながら、同時に左手の伸びる剣を自在に操る。
上下。
左右。
死角。
あらゆる角度から刃が襲い掛かる。だがエレンは、その全てを紙一重で捌いていく。
「っ!」
伸びる剣が頬を掠める。銀の髪が数本、風に舞った。
(危ない)
ほんの一瞬でも意識を逸らせば終わる。
ルシファーも理解していた。
エレンの瘴気を纏った剣。あれを一撃でも受ければ、自分も無事では済まない。
だからこそ、互いに決定打だけは許さない。
極限の読み合い。命を懸けた剣戟だった。
その最中、エレンは左手を僅かに動かす。
何もない空間から、多弾頭誘導弾が次々と創造される。
ルシファーへ向け、一斉に放たれる瘴気を纏った弾頭。
だがルシファーは一歩も退かない。無数の魔法陣が空中へ展開された。
炎。
雷。
氷。
風。
様々な属性魔法が一斉に放たれる。
爆炎。
轟音。
空一面が爆発に包まれる。
それでも、二人は剣を止めない。爆炎の中でなお刃を交え続ける。
(魔法も同時に扱う……!)
エレンは内心舌を巻く。
剣だけではない。
伸びる剣。聖剣。そして多数の魔法。全てを同時に扱いながら、ルシファーは一切動きを乱さない。
(……化け物ね)
それでも、エレンの瞳に、揺るぎない闘志が宿る。
(こんなところで……やられるわけにはいかない)
激しい剣戟が、不意に止まる。互いに大きく後方へ飛び退き、僅かな距離が生まれた。
荒く息を吐くエレン。
対するルシファーは、ほとんど呼吸一つ乱れていない。
静寂。
わずか一瞬。
ルシファーは右手の聖剣をゆっくりと持ち上げた。
距離は十分離れている。
(……来る)
エレンは黒い剣を構え直した。
だが次の瞬間、ルシファーは伸びる剣ではなく、聖剣をその場で振るった。
「……?」
エレンの思考が一瞬止まる。
届く距離ではない。そう判断した、その瞬間だった。
反射的に──黒い翼が大きく羽ばたく。
身体が勝手に横へ流れた。
――ズバァッ!!
エレンの真横を、何かが通り過ぎる。
一拍遅れて、遥か後方の空に一本の裂け目が走った。
「……今のは」
エレンは目を見開く。
何が飛んだ。
見えなかった。
ルシファーは口元だけで笑う。
「避けたか」
「今のは……何?」
「答えると思うのか」
ルシファーは聖剣を肩へ担ぐ。
「見れば分かるだろう」
その言葉と同時に、再び聖剣が振るわれる。
エレンは即座に《天使の目》へ切り替えた。世界が鮮明になる。
だが。
「……っ!」
何も見えない。
それでも身体だけが危険を感じ取る。
翼を羽ばたかせ、咄嗟に身体を逸らす。
直後、真横を光が駆け抜けた。
空気が裂ける。
轟音が遅れて響く。
(見えない……違う、速すぎる。天使の目でも捉えられない。つまり、あの斬撃は……光と同等の速度)
背筋に冷たいものが走る。
聖気を纏った飛ばす斬撃。
しかも光速。
一撃でも受ければ終わる。
距離を取る意味はない。逃げ切ることも出来ない。
(まずい)
神器・偽による創造は、まだ終わっていない。
時間が必要。
それなのに、ルシファーは容赦なく聖剣を振り上げた。
◆
ルシファーは再び聖剣を構える。聖気が刃へと収束していく。
(来る)
エレンは息を整える。
避けるか。攻めるか。相殺するか。創造した何かで受け止めるか。幾つもの選択肢が脳裏を駆け巡る。
しかし、そのどれも決定打にはならない。
(時間が足りない……)
ルシファーが聖剣を振り下ろした。
その瞬間、エレンは左手を突き出す。
何もない空間から、巨大な盾が次々と創造され姿を現した。
一枚。
二枚。
三枚。
十枚。
二十枚。
盾は何重にも重なり、エレンの正面を埋め尽くしていく。
次の瞬間。
ズガァァン!!
一枚目の盾が砕け散る。
続けて。
ズガァン!!
ズガァン!!
ズガァァァン!!
光の斬撃は一切勢いを失わない。盾を紙のように切り裂きながら一直線に突き進んでくる。
盾は次々と砕ける。
だが、エレンは盾を見ていなかった。
耳を澄ませる。
(そこ)
砕ける音。その位置。その間隔。
その全てから、光の斬撃の軌道を頭の中で組み立てる。
次の瞬間、翼を羽ばたかせ、大きく身体を横へ流した。
光の斬撃がエレンのすぐ横を通り抜ける。
避けた。
だが。
「読んでいる」
ルシファーは既に二撃目を放っていた。
(やっぱり!)
エレンは翼を強く羽ばたかせる。一撃目を避けた勢いのまま、さらに身体を横へ滑らせる。
光の斬撃が髪を掠める。
紙一重。
「だから」
ルシファーが静かに告げる。
「読んでいると言っただろう」
三撃目。
既に放たれていた。
「しまっ──」
気付いた時には遅かった。咄嗟に身体を捻る。
ズバァッ!!
「ぐっ……!」
左腕の二の腕が深く裂かれる。
熱い。
いや、違う。
焼けるような激痛が腕全体を駆け巡る。
聖気が傷口から侵食するように広がり、一瞬だけ全身から力が抜けた。
「っ……!」
その一瞬の隙。
翼の動きが止まる。
空中で体勢が崩れた。
エレンの身体はそのまま重力に引かれ、真っ逆さまに落ちていく。
猛烈な風圧が身体を叩く。傷口から流れる血が空へ散った。
(まだ……終われない)
歯を食いしばり、翼を動かそうとする。
だが、聖気に侵された左腕は思うように動かない。
高度はみるみる失われていく。
ルシファーは迷うことなく追撃へ移ろうとした。
その瞬間だった。
ルシファーの周囲に、小さな魔法陣が幾つも現れる。
「……?」
直後。
――ドドドドドンッ!!
連続する爆発が空を包み込んだ。爆炎と黒煙が視界を覆い尽くす。
ルシファーは咄嗟に翼を広げ、その中を突き抜ける。
だが、ほんの一瞬で十分だった。
エレンの姿は既に視界から消えている。
落下した先は、半壊したノアの街。
崩れた建物と立ち上る土煙が、その姿を完全に隠していた。
ルシファーは静かに街を見下ろす。
「……」
爆発の正体は分からない。
だが、あの一瞬を逃げるためだけに利用したことだけは理解できた。
◆
街の人々を助けるため、ルビアはエレンが召喚した六体の魔獣達を見渡した。
以前、天国塔でブラッド・モルフィンとは会ったことがある。だが、それ以外の魔獣達がどのような能力を持っているのかは知らない。
能力を知らないまま戦場へ向かえば、互いの力を十分に活かせない。
ルビアは一歩前へ出ると、魔獣達へ頭を下げた。
「皆さん、一つだけお願いがあります」
六体の魔獣達が静かにルビアを見る。
「街へ向かう前に、それぞれ何が出来るのか教えてください。皆さんの力を知った上で、役割を決めたいんです」
最初に口を開いたのはブラッド・モルフィンだった。
顎をガチガチと鳴らしながら答える。
「我ハ戦闘向キダ。コノ自慢ノ腕デ、大抵ノ物ハ切断出来ル。後ハ空ヲ飛ベル」
鋭く発達した両腕。背中には大きな翼。近接戦闘と空中戦を得意とする魔獣だ。
「ありがとうございます」
ルビアは頷き、続けて尋ねる。
「他にも戦闘向きの魔獣さんはいますか?」
ヘル・タイガーが一歩前へ出た。
「ヤツガレモ戦闘向キダ。接近戦ナラ任セロ」
黒い体毛に赤い紋様。鋭い牙と巨大な爪が、圧倒的な破壊力を物語っている。
「オイラモ戦闘向キダゼ!」
続いてルナティック・ラビットが元気よく飛び出す。
「素早サナラ誰ニモ負ケネェ!」
見た目は兎に近い。だが、刃物のような前脚と鍛え抜かれた後ろ脚は、一瞬で敵との距離を詰めるための武器だった。
「オレサマハ飛行ト索敵ガ得意ダ」
ナイトメア・バッドが翼を広げる。
「超音波デ敵ヲ怯マセルコトモ出来ル」
「索敵……」
ルビアは小さく呟く。その能力は、この状況では何よりも頼もしかった。
続いてデス・ホース。
「オレハ戦闘向キジャネェ。速ク走ル方ガ得意ダ。人ヲ運ブコトモ出来ル」
最後にダーク・タウラスが鼻を鳴らす。
「自分ハ見タ目通リダ。この角デ突ッ込ム。前ニアル物ハ全部吹キ飛バス」
ルビアは全員の話を聞き終えると、小さく目を閉じた。
頭の中で、それぞれの能力を組み合わせる。
索敵。
空中戦。
接近戦。
高速戦闘。
搬送。
突破。
十分戦える。
いや――街を守れる。
ルビアは静かに目を開いた。
「ありがとうございます」
そして六体の魔獣達を見渡す。
「ナイトメア・バッドさんは上空から街の様子を確認してください。助けを待っている人や天使の位置が分かったら教えてください」
「任セロ」
「デス・ホースさんは避難する人達の搬送をお願いします」
「分カッタ」
「ブラッド・モルフィンさんは空から支援を。ヘル・タイガーさん、ルナティック・ラビットさんは私と一緒に前へ出ます」
「任セロ」
「オウ!」
「ダーク・タウラスさんは道が塞がれていたり、敵が密集していたら突破をお願いします」
「任セロ」
全員が力強く頷いた。ルビアは剣を握り締める。
「私達の目的は、天使を倒すことではありません」
一拍置いて、真っ直ぐ前を見る。
「街の人達を助けることです」
その言葉に、魔獣達は静かに頷いた。
「では――行きましょう!」
「「「「「「オオォォッ!!」」」」」」
ナイトメア・バッドが真っ先に大空へ舞い上がる。
ルナティック・ラビットは屋根へ飛び乗り、風のような速さで駆け抜けていく。
ヘル・タイガーが地面を蹴り、ブラッド・モルフィンは大きく翼を広げた。
デス・ホースとダーク・タウラスも力強く走り出す。
その先頭には、赤い髪を揺らしながら戦場へ向かうルビアの姿があった。
◆
魔獣達は、それぞれ任された役目を果たすため、一斉に動き始めた。
最初に飛び出したのはルナティック・ラビットだった。
「ジャア、先ニ行ッテクルゼ!」
地面を蹴ると同時に近くの屋根へ飛び乗る。
そして、屋根から屋根へ。
風のような速さで駆け抜け、その姿は瞬く間に見えなくなった。
続いてナイトメア・バッドが大きく翼を広げる。
「オレサマモ街ノ様子ヲ見テクル」
力強く羽ばたき、上空へ舞い上がった。
その姿が空へ溶け込むように小さくなっていく。
残ったルビア達も街へ向かって走り始めた。
すると数秒後、遠くから天使達の怒声が聞こえてきた。
「何だあいつは!」
「捕まえろ!」
直後――。
怒声は途切れた。
街は再び静寂に包まれる。
(ルナティック・ラビットさんが天使と遭遇したんですね……)
あの速さだ。
奇襲を受けた天使達に反撃する暇はなかったのだろう。
その時だった。
先頭を走っていたヘル・タイガーが突然足を止めた。耳をピクリと動かし、周囲へ鋭い視線を向ける。
「……」
次の瞬間、勢いよくルビアの元へ駆け戻ってきた。
「ルビア!」
低く力強い声が響く。
「近クニ複数ノ天使ノ気配ガアル! ヤツガレ一匹デハ手ガ足リヌ! 手ヲ貸シテクレ!」
そう言うと、ヘル・タイガーはルビアの手を優しく咥えた。
「分かりました!」
ルビアもすぐに駆け出す。
ブラッド・モルフィン達も後に続いた。
前方から聞こえてくるのは、
怒号。
悲鳴。
剣がぶつかり合う甲高い音。
建物が崩れる轟音。
戦場の音が、一歩進むごとに大きくなっていく。
そして――。
ルビア達は、その光景を目の当たりにした。
「……っ!」
思わず足が止まる。
そこに広がっていたのは、まさに地獄だった。
石畳には幾人もの人々が倒れている。
血だまりの中で動かない者。苦しそうに呻き声を漏らす者。崩れた建物の下敷きになっている者。
辺りには血の臭いが充満していた。
そんな人々を、複数の天使達が冷たい眼差しで見下ろしている。
まるで命など何の価値もないと言わんばかりに。
「そんな……」
ルビアは思わず口元を押さえた。
胸が締め付けられる。
怒りよりも先に、目の前の現実が信じられなかった。
だが、その惨状の中で、一体だけ違う行動をしている魔獣がいた。
「オイ! シッカリシロ!」
ルナティック・ラビットだった。
一人の女性を抱き起こし、必死に呼び掛けている。
女性の片腕は肩口から失われ、全身が血で赤く染まっていた。
「マダダ! 目ヲ開ケロ!」
何度も肩を揺する。
何度も呼び掛ける。
しかし――。
女性が目を開けることはなかった。
ルナティック・ラビットの手から、力なく女性の身体が滑り落ちる。
静寂。
その小さな身体が、怒りで震え始めた。
「……許サン」
低い声が漏れる。
「許サン……」
ゆっくりと立ち上がる。
赤い瞳が、天使達を射抜いた。
「許サンッ!!」
爪が軋む。
「天使ガァァァァッ!!!」
怒号が街中へ響き渡る。
「殺ス!! 殺ス!! 殺スゥゥゥッ!!!」
その瞬間、ルナティック・ラビットの姿が掻き消えた。
あまりの速さに、天使達の目が追い付かない。
「なっ──」
一体の天使の背後へ回り込む。
鋭い爪が一閃した。青い血飛沫が宙を舞う。
「ぐあああぁっ!!」
天使が悲鳴を上げる。
それが、戦いの始まりだった。
◆
悲鳴を上げた天使の声を合図にしたかのように、ルビア達も一斉に動き出した。
最初に飛び出したのはブラッド・モルフィン。
「我ニ続ケ!」
力強く地面を蹴り、大きく翼を広げて空へ舞い上がる。
鋭い爪が一体の天使を切り裂いた。
「ぐっ……!」
体勢を崩した天使へ、地上からデス・ホースが一直線に駆け抜ける。
「ドケェッ!!」
凄まじい脚力で体当たりを叩き込み、吹き飛ばされた天使は別の天使へ激突した。
二体まとめて空中で体勢を失う。その隙を逃さず、ダーク・タウラスが突撃した。
「道ヲ開ケェェェッ!!」
黄金の角が二体の天使をまとめて貫き、勢いそのまま石畳を抉りながら突き進む。
天使達の陣形が一気に崩れた。
「な、何なんだこいつらは!?」
「落ち着け!囲め!」
天使達が叫ぶ。
その瞬間だった。
赤い閃光が戦場を駆け抜ける。
「え──」
天使が目を見開く。
視界に映ったのは一瞬だけ。
赤い髪をなびかせるルビアの姿だった。
「遅いです」
一閃。
青い血飛沫が舞う。
天使は何が起きたのか理解する間もなく崩れ落ちた。
止まらない。
ルビアは着地した瞬間にはもう次の敵へ踏み込んでいた。
「速い!」
「見失ったぞ!」
天使達が周囲を見回す。しかし、ルビアは既にその背後へ回り込んでいた。
「はぁっ!!」
鋭い剣閃。
また一体。
さらに一体。
青い血が宙を舞う。
その頃には、ブラッド・モルフィンが空から急降下し、天使達の退路を断っていた。
「逃ガサン」
ヘル・タイガーも地面を蹴る。
「任セロォッ!!」
巨大な爪が天使の鎧ごと切り裂く。
さらに屋根の上から飛び降りたルナティック・ラビットが、怒りのままに天使へ襲い掛かる。
「死ネェェェッ!!!」
左右の爪が閃き、二体の天使が同時に倒れた。
ルビアは一瞬だけ周囲を見渡す。
陣形は崩れている。
ならば。
「ブラッド・モルフィンさん!」
「任セロ!」
ブラッド・モルフィンが急降下する。
ルビアは走る勢いそのまま背中へ飛び乗った。
そして――。
「お願いします!」
「オオッ!」
ブラッド・モルフィンは大きく翼を広げ、一気に上空へ舞い上がる。
猛烈な風がルビアの赤い髪を大きく揺らした。
眼下では天使達が慌てて空へ飛び立つ。
「空カラ来ルゾ!」
「迎エ撃テ!」
数体の天使が一斉にブラッド・モルフィンへ向かって飛び掛かる。
ルビアは静かに剣を構えた。
「ブラッド・モルフィンさん」
「任セロ」
その一言だけで十分だった。
ブラッド・モルフィンは翼を大きく打ち、一気に急降下する。その速度に天使達が目を見開く。
「速──」
言葉は最後まで続かなかった。
「はああぁぁっ!!」
ブラッド・モルフィンと天使達がすれ違う瞬間。
ルビアの剣が閃く。
一体。
二体。
三体。
ほとんど同時に青い血飛沫が宙へ舞った。
天使達は何が起きたのか理解することもなく、そのまま地上へ落ちていく。
「ば、馬鹿な……!」
「人間一人だぞ!?」
天使達に動揺が走る。
その隙をブラッド・モルフィンは見逃さない。
「我ガ相手ダ!」
巨大な翼を羽ばたかせ、天使の集団へ真正面から突っ込む。
鋭い腕が振るわれるたび、一体、また一体と天使が吹き飛ばされる。
さらにルビアがブラッド・モルフィンの背から跳び上がった。
空中で身体をひねる。
重力に身を任せながら、一気に天使達の中心へ飛び込む。
「遅いです!」
一閃。
さらにもう一閃。
赤い閃光が空を駆け抜けるたび、青い血が舞う。
天使達はルビアの姿を目で追うことすら出来ない。
「ど、どこへ行った!?」
「上だ!」
「違う、下──」
混乱する天使達の間を、赤い髪が風のように駆け抜ける。
着地したルビアは膝を軽く曲げ、その衝撃を殺した。
間髪入れずにブラッド・モルフィンが低空飛行で接近する。
「ルビア!」
「はい!」
再びその背へ飛び乗る。
一人と一体は、まるで長年共に戦ってきた戦友のような連携で、次々と天使達を制圧していった。
◆
最後の一体が地面へ倒れ伏す。
青い血が石畳を濡らし、辺りは静寂に包まれた。
ルビアは周囲へ素早く視線を走らせる。
「……もう、いませんね」
ブラッド・モルフィンも上空から周囲を見渡し、小さく頷く。
「コノ周辺ニ敵ハ居ナイ」
それを聞き、ルビアはようやく剣を下ろした。
すると、家屋の陰へ隠れていた人々が恐る恐る姿を現す。
「た、助かった……」
「本当に助けてくれたのか……」
一人の老人が震える足でルビアへ近付いた。
「ありがとう……。突然こんなことになって、何が起きているのかも分からなくて……」
ルビアは穏やかに微笑む。
「私にも詳しいことは分かりません」
一度街の奥へ視線を向ける。
「ですが、まだ安全ではありません」
真剣な表情で続ける。
「ノア皇帝の城へ避難してください。きっと教会の皆さんも救助活動をしているはずです」
「そ、そうか……」
住民達は何度も頷いた。
「ありがとう」
「本当にありがとう」
その中の一人がルビアを見つめる。
「あれ……もしかして君は、ノア皇帝の──」
ルビアの表情が一瞬だけ曇る。
「……失礼します」
それだけ言い残し、踵を返した。
今はそんな話をしている場合ではない。
まだ助けを待っている人がいる。
立ち止まっている時間など、一秒もなかった。
走り出すルビアの背へ、人々の感謝の声が飛ぶ。
「ありがとう!」
「気を付けて!」
「どうか生きて帰ってきて!」
その声を背中で聞きながら、ルビアは速度を落とさない。
その時だった。
上空を飛んでいたナイトメア・バッドが急降下してくる。
「ルビア!」
ルビアは足を止めることなく見上げた。
「何か見つかりましたか?」
ナイトメア・バッドの表情が険しい。
「アア」
短く答える。
「街ノ東側ダ」
一拍置き、低く告げた。
「大量ノ天使ガ集マッテイル」
ルビアの表情が引き締まる。
「どれくらいですか?」
「……数エ切レナイ」
その一言だけで十分だった。
ルビアは嫌な予感を覚える。
「案内してください」
「任セロ」
ナイトメア・バッドは再び空へ舞い上がる。
ルビア達はその後を追った。
やがて目的の場所が見えてくる。
そして――。
ルビアは息を呑んだ。
「……嘘でしょう」
目の前に広がっていたのは、軽く百を超える天使の軍勢だった。
その中心には。
一際大きな翼を持つ、一人の天使が静かに立っていた。
◆
ナイトメア・バッドの案内で辿り着いた先には、夥しい数の天使達が集結していた。
空を埋め尽くす白い翼。
地上へ降り立つ天使達。
その数は百を優に超えている。
「……」
ルビアは息を呑んだ。
これほどの数を相手にしたことはない。
だが、後ろには街がある。
ここを突破されれば、多くの人々が命を落とす。
剣を握る手に力が入った。
「皆さん」
魔獣達を見る。
「ここが正念場です」
全員が頷く。
「街の人達を守ります」
ルビアは剣を構えた。
「行きましょう!」
「「「「「オオォォッ!!」」」」」
戦いが始まった。
真っ先に飛び出したのはルビアだった。
赤い閃光が戦場を駆け抜ける。
「なっ──」
一体。
二体。
三体。
天使達は剣を振るう暇すらない。
気付いた時には青い血が宙を舞っていた。
「速イ!」
ブラッド・モルフィンが空から舞い降りる。
巨大な腕が天使達を薙ぎ払う。
ヘル・タイガーは真正面から飛び込み、鋭い爪で敵を切り裂く。
ルナティック・ラビットは屋根を蹴り、縦横無尽に駆け回る。
「死ネェェェッ!!」
デス・ホースは負傷者を背へ乗せ、安全な場所へ運び続ける。
ダーク・タウラスは敵陣へ突撃し、道を切り開いた。
ナイトメア・バッドは上空から敵の動きを叫ぶ。
「左ダ!」
「後ロ!」
「援軍ガ来ル!」
その声に従い、ルビアは一瞬で方向を変える。
天使達は囲もうとしても囲めない。
赤い閃光は常に死角へ現れた。
◆
どれほど戦っただろう。
天使達の死体が積み重なっていく。
だが、敵はまだ尽きない。
「ハァ……ハァ……」
ルビアの肩が上下する。
額から汗が流れる。
腕も重い。
それでも剣は止めない。
「まだ……!」
一閃。
また一体倒す。
しかし、その直後。
「グッ!」
聞き慣れた声が響いた。
振り返る。
「ルナティック・ラビットさん!」
ルナティック・ラビットの身体から血が噴き出していた。
複数の天使に囲まれている。
ルビアは地面を蹴った。赤い髪が風を裂く。
「待っていてください!」
その瞬間、一体の天使が前へ立ちはだかった。
「邪魔です!」
剣を振るう。
しかし、その天使は受け止めた。
そして――。
強烈な一撃。
「……っ!」
ルビアは大きく吹き飛ばされた。
「大丈夫です……! これくらい、何ともありません!」
ルビアは歯を食いしばりながら立ち上がる。
身体中が痛む。
それでも、倒れている仲間達を見れば立ち止まるわけにはいかなかった。
だが、その時だった。
――ドォォォォォンッ!!
耳を劈くような轟音がノアの街全体を震わせた。
地面が揺れる。
空気が震える。
思わずその場にいた全員が音のした方角を見上げた。
遥か彼方。
空高く、巨大な黒い爆風が巻き上がっている。
「……!」
ルビアは目を見開いた。
あの規模の爆発を起こせる者など、一人しかいない。
「主ダ」
ダーク・タウラスが低く呟く。
その一言だけで十分だった。
ルビアは剣を握り直す。
(エレンさんも、まだ戦っている)
胸の奥に熱いものが込み上げる。
(だったら――)
ルビアは深く息を吸い込んだ。
「皆さん!」
魔獣達が一斉にルビアを見る。
「ここが正念場です!」
ルビアの瞳から迷いは消えていた。
「街の人達を守るため、一気に押し返します!」
「「「「「オオォォォッ!!」」」」」
魔獣達が雄叫びを上げる。
ルビアは赤い髪を翻し、再び地面を蹴った。
その姿は赤い閃光となり、天使達の群れへ飛び込んでいく。
◆
エレンの戦いを目の当たりにしたルビア達の士気は、一気に高まった。
「ハアァァァッ!!」
赤い閃光が戦場を駆け抜ける。
剣が閃くたび、一体、また一体と天使が倒れていく。
ブラッド・モルフィンは空から敵陣を切り裂き、ヘル・タイガーは鋭い爪で天使を薙ぎ払う。
ルナティック・ラビットも傷を負いながら立ち上がり、怒りのままに天使へ飛び掛かる。
「マダ終ワラセネェッ!!」
デス・ホースは負傷者を守りながら敵を蹴散らし、ダーク・タウラスは角を突き立てて敵陣を突破する。
ナイトメア・バッドは上空から叫ぶ。
「右ダ!」
「後ロ!」
「残リ十体ダ!」
ルビアはその声だけを頼りに戦場を駆ける。
天使達の包囲を、赤い閃光が次々と切り裂いていった。
やがて、最後の一体がルビアへ斬り掛かる。
「終わりです!」
剣が一閃する。
青い血飛沫が宙を舞い、最後の天使がゆっくりと崩れ落ちた。
静寂。
戦場を包んでいた怒号も、剣戟の音も消える。
「ハァ……ハァ……」
ルビアは肩で大きく息をする。
服は裂け、身体中に無数の傷が刻まれていた。
魔獣達も満身創痍だった。
それでも誰一人倒れることなく立っている。
ルビアは辺りを見渡した。
動く天使の姿は、もうない。
「……終わりました」
安堵の息を漏らした、その時だった。
「──お見事」
静かな声が響く。
その場にいた全員が、一斉に空を見上げた。
そこには、一人の天使が悠然と浮かんでいた。
他の天使とは比べものにならないほど大きな翼。
手には一本の槍。
その姿には、これまで倒してきた天使達とは明らかに違う威圧感があった。
ルビアの表情が強張る。
(あの天使は……)
エレンから掛けられた魔法によって、その本来の姿がはっきりと見える。
――大天使。
目の前の存在だけは、格が違った。
その天使は妖しく微笑み、ゆっくりとルビアを見下ろす。
「ここまでやるなんて、大したものね」
穏やかな口調。
だが、その瞳には一切の温かさはない。
「人間一人に、ここまで私達が苦戦するなんて思わなかったわ」
槍を静かに持ち上げる。
「それに、その周りの妙な生き物達も……」
クスリ、と笑う。
「あなた、一体何者なの?」
ルビアは静かに剣を構えたまま答える。
「別に何者でもありません」
その視線は決して逸らさない。
「ただ、この街の人達を助けたい。それだけです」
一瞬、大きな翼の天使は目を丸くした。
そして、小さく笑う。
「……ふふ」
肩を震わせる。
「うふふふふっ」
やがて、その笑いは少しずつ大きくなっていった。
「面白いわね、あなた」
槍を肩へ担ぐ。
「この状況でそんな言葉が出てくるなんて」
ルビアは何も答えない。ただ静かに大きな翼の天使を見据える。
その瞳に迷いはなかった。
「気に入ったわ」
大きな翼の天使は妖しく微笑む。
「本当に人間なのかしら」
そう呟くと、ゆっくり槍を持ち上げる。切っ先が真っ直ぐルビアへ向けられた。
周囲の空気が張り詰める。
そして、大きな翼の天使は槍を高々と掲げた。
「──ウリエルが命ずる」
その声は戦場全体へ響き渡る。
遠くで街の人間を襲っていた天使達は、その声を聞くと一斉に動きを止めた。
全員の視線がルビアへ向く。
「この者を殺せ」
次の瞬間だった。
天使達が一斉に翼を広げる。
空を覆い尽くすほどの白い翼。
無数の殺気がルビア達へ向けられた。
ブラッド・モルフィンが低く唸る。
「来ルゾ」
ヘル・タイガーが前へ出る。
「任セロ」
ルナティック・ラビットは爪を鳴らす。
「全部殺ス」
デス・ホースがルビアの横へ並び、ダーク・タウラスは角を低く構えた。
ナイトメア・バッドも上空から降下してくる。
ルビアはゆっくり息を吸い込んだ。
握る剣へ自然と力が入る。
「皆さん」
誰一人、怯えてはいない。
ルビアは静かに頷いた。
「行きましょう!」
その一言を合図に、
魔獣達は咆哮を上げた。
「「「「「「オオオォォォォッ!!!」」」」」」
そして、ルビアは再び赤い閃光となって戦場を駆け抜けた。




