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天国塔  作者: 前田瑠希
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第十四話 エレンは語る

すみません。だいぶ時間が空いてしまいました。続きをどうぞ。


 ──三百年前。


 天国のゲートに自分が行きたい場所を強く望みながらゲートに飛び込んだエレンは、物凄い速さで落下していた。周りには何もなくただの暗闇で不思議な空間だった。


 一体この暗闇の空間はいつまで続くのだろうかと考えていた時、目の前に魔法陣がいきなり現れ、エレンはその魔法陣の中に吸い込まれていった。


 魔法陣に吸い込まれた先はエレンが望んだ行きたい場所だった。


「どうやらゲートで本当にどこにでも行けるみたいね。しかし、なんというか……想像通りだわ」


 エレンの目に最初に映った景色は、血のような赤い空と赤黒い地面だ。見回してみると赤黒いゴツゴツした岩や大きく開いた穴等が目に映った。遠くの方には赤い海が見える。


 黒い翼を羽ばたかせ地面に着地し、炎の剣を掴んで焼け落ちかけた右手の治癒に集中した。


 治癒魔法の詠唱をしながらエレンはクラディウスの事を考える。今の実力だとクラディウスを殺せない。クラディウスはまだ何か力を隠してるように感じられた。もし堕天使にされてなくても、おそらく勝てなかっただろう。


 だからエレンは逃げるしか無かった。魔力も尽き掛け、天国で堕天使にされたのだ。勝ち目は絶対に無い。


 治癒魔法を終えると同時にエレンの魔力は尽きた。治癒を終えた右手の具合を確かめてみる。右手を握ったり閉じたりしてみるが、特に問題はない。


 その時、エレンはハッと気付いた。先程から身体の痺れが感じられないのだ。天国にいた時の気分の悪さが嘘のように吹き飛んでいた。むしろ、魔力は尽きたが体力は全快だった。


「堕天使だからここの空間のおかげかしら?」


 独り言のように呟きエレンは確かに自分が望んだ場所に来たのだと再確認する。エレンは“地獄”に行きたいと強く望んだのだ。


「……さて、これからどうしようかしら?地獄にも神様はいる──」


 エレンが独り言を呟いている途中で後ろから何者かにいきなり声を掛けられた。


「おい、そこのお前!」


「……私の事かしら?」


 エレンは振り向くとまず驚いた。話し掛けて来た者の姿に驚いたのだ。頭からは角が二本生えており、口からは鋭い牙が覗いている。身体は黒い毛で覆われていた。手を見てみると鋭く赤黒い爪が生えている。足も黒い毛で覆われているが妙に細い。それと先が尖った黒い尻尾もエレンの目に映る。どこからどう見てもその姿は悪魔だ。


 エレンに話し掛けて来た悪魔は、鋭い牙をガチガチ言わせながら低い声で唸るように喋る。


「なんで生きてる人間が地獄にいるんだ!?お前、一体どこから入って来やがった!?」


「元人間よ。天国にあるゲートからここに来たの。今は色々あって堕天使だけどね。ねぇ、ここに──」


 エレンがそこまで言いかけた時、悪魔はいきなり鋭い爪をエレンに突き出した。エレンの話しを聞くつもりは無いみたいだ。


 エレンは慌てて避ける。


「いきなり攻撃しないでよ。話を聞きなさい!」


「黙れ!」


 悪魔はそう言うと再びエレンに爪を突き出す。エレンは爪を避け、間合いを取った。


(どうしようかしら?武器も無いし、魔力も無い。とりあえず武器を探しに逃げようかしら)


 エレンが黒い翼を広げ、飛び立とうとした時、どこからか声が聞こえた。


「そこで何してるのー?」


 気の抜けた声だが、女性の透き通った声が聞こえてくる。エレンと悪魔は声がした方向を見た。


 赤髪赤眼の少女がエレンと悪魔の目に映る。服装は着物のようなものを着ており、装飾は物凄く豪華だ。地獄のジメジメした暗い雰囲気に似合わない神々しい少女の姿がそこにはあった。


 赤髪赤眼の少女はエレンと悪魔を見て納得したように喋り出す。


「そういう事か。なるほどなるほど。君はエレン・クリエイドだね?待っていたよ」


「どうして私の名前を!?それに待っていたってどういう事?」


「クラディウスは強かったでしょう?」


 エレンは驚いて言葉が出なかった。どうしてクラディウスと戦った事を知っている?様々な疑問がエレンの頭に浮かぶが、とりあえず、一番可能性が高いのは赤髪赤眼の少女は神様の可能性が一番高い、とエレンは推測する。エレンが赤髪赤眼の少女に質問をしようとした時、悪魔が声を上げた。相変わらず低くて唸るような声で。


「こいつがいきなり地獄に来たんだ!だから、侵入者だと思って排除しようと──」


「君如きがエレン・クリエイドに勝てる訳がないでしょう。わかったからもう行きなさい。君が対応する事じゃないからさ」


 悪魔の言葉に対し、赤髪赤眼の少女は透き通った声の端々に怒りの感情を込めながら言った。悪魔に対しての言葉だったが、赤髪赤眼の少女のその言葉を聞いた時、エレンの背中を冷や汗が伝う。


 悪魔はビクビクしながらも赤髪赤眼の少女に抗議の声を上げる。


「し、しかし!」


「うるさいなぁ。消えちゃえ」


 抗議の声を上げた悪魔に向かって赤髪赤眼の少女は指をパチンと鳴らす。すると、悪魔の姿はもうそこにはなかった。


 エレンは悪魔の姿を探す。先程まで視界に入っていた悪魔の姿はどこにも見当たらない。一体どこに?と思ったが答えはわかりきっていた。悪魔は文字通り消えたのだ。赤髪赤眼の少女の手によって。


「……あなたは一体何者なんですか?」


 エレンは赤髪赤眼の少女にそう聞いた。赤髪赤眼の少女はエレンの問いに答える。


「人間達は私の事を神と呼んでるよ。天空神シルヴィアって。私は天空神シルヴィア。よろしくね」


「──いや、ちょっと待って。天空神シルヴィアって過去の事が書いてある文献では死んだって書かれていたはず──」


「ああ、そう言えばそういう事になってるんだっけ。それね、嘘」


 エレンは目を丸くする。もはや何が何だかわからない。シルヴィアはエレンのその表情を見て言った。


「大丈夫。ちゃんと説明するよ。とりあえずそこで休もうか」


 シルヴィアは胸元をゴソゴソとし、豪華な布を取り出した。その布を地面に広げ、広げた豪華な布の上に座った。エレンに「座って座ってーー」と呑気な声だが透き通った声で手招きする。エレンはその言葉に従いシルヴィアの向かいに座った。


「それじゃあ説明を始めるよ。まず私と……えーと、創造神エリザベードは地獄の神と戦ったりしてないよ。人間の世界だと私とエリザベードは地獄の神との戦いで滅んだって事になってるけど、それはクラディウスが作り出した嘘のお話なんだよね」


「クラディウスはどうしてそんな嘘を……」


「クラディウスはね、私とエリザベードの事が邪魔だったみたい。だから私とエリザベードを天国から追い出したの。天使達に私とエリザベードは裏切り者だとか言って偽の情報を与え、上手く誘導してね。多分、私達に戦いを挑んでも勝てないって思ったからそうしたんだと思うよ」


「なんでクラディウスはあなたとエリザベード様を邪魔者扱いしたんですか?元々は天国であなた達三人で神様をやっていたんですよね?」


「それはね、クラディウスは好き勝手やりたかったんだよ。自分が好き勝手やるのに私達が邪魔だった。それだけの事だよ。あ、別に敬語じゃなくてもいいし、様付けもしなくてもいいよ」


「なら遠慮なく。でも、クラディウスがあなたとエリザベードに戦いを挑んでも勝てないって事は、あなた達二人の方が強いって事?」


「強いも何も、クラディウス如きが私達に勝てる訳ないよ。そもそも戦いにすらならないかな。それに私達の目的の為にはクラディウスの企みは丁度良かったから、クラディウスの策にハマってあげようと思ってね」


「あなた達の目的?」


「私達の目的は人間達を観察する事。それとこの文明の観測、とでも言えばいいのかな。私達には私達で色々と事情があってね。私とエリザベードはいずれ天国を離れるつもりだったんだ。クラディウスの策でそれが早くなっただけの事だし、クラディウスの事を観察する事も私達の目的の一つだから、クラディウスの策にわざとハマってあげたんだよ。人間の世界の文献に私とエリザベードは“地獄の神との戦いで滅んだ”ってあるけど、それはクラディウスのでっち上げなんだよね。それにクラディウスは私とエリザベードは死んだって思ってるんだよ。私とエリザベードは演技で死んだふりをして身体が消滅するのをクラディウスに見せたから。実際は身体を分子に変換させてクラディウスが見てない所で転移の魔法で地獄こっち)に来た、と言うのが真実なんだけどね」


「なるほど……神様にも色々とあるのね」


「あはは。まあね。ところで、エレンはこれからどうしたいのかな?」


「私は……クラディウスが許せない。神なのに人間の魂を食べてるなんてルール違反よ。そんな間違った神は滅ぼすべきよ」


「そうだね、私とエリザベードも知っているよ。クラディウスが人間の魂を食べている事を。まあ、クラディウスが何をしようにも私達の目的は観察する事だから手は出さないけど、協力はしてあげるよ。エレンの可能性を見てみたいからね」


 シルヴィアはそう言って立ち上がった。「さて……」と言いエレンを見る。


「そろそろ移動しようか。エリザベードに会いに行こう」


 シルヴィアの言葉にエレンは立ち上がる。真実を知って驚いていたが、エレンは少しワクワクしていた。もしかしたらシルヴィアとエリザベードと友達になれるかもしれないからだ。


 エレンは少しだけ期待しながらシルヴィアの後に着いていく。







 シルヴィアの後をしばらく着いていくと、遠くの方に城が見えた。外装は白くてシンプルだ。天国にある天空城に形は似ている。


「エレン、あの城が地獄の中心だよ。私達は普段あそこにいるんだ。悪魔もあの城にいるよ」


「そうなんだ」


「あ、エレン、天使の目に切り替えてみなよ。遠くの景色も鮮明に見えるからさ」


 エレンはシルヴィアに言われた通り天使の目に切り替えた。すると城に向かって一列に並んでいる魂がエレンの目に映る。そしてその魂の列の周りで悪魔達が魂の列の管理をしていた。悪魔達は仕事をしているみたいだ。


 エレンは疑問に思った事をシルヴィアに聞いてみる。


「悪魔って聞くと、人間の魂を食べるってイメージが強いんだけど、実際の所どうなの?」


「お、エレンは面白い事を聞くねぇ。悪魔はね、確かに人間の魂を食べるよ。でもあそこに並んでいる魂は絶対に食べないよ。悪魔の味覚だと死んだだけの人間の魂はちっとも美味しくないんだ。悪魔はまず魂を食べる為に生きてる人間と契約をするんだよ。それで契約した人間の願い事を叶える。すると契約完了となり、契約した人間の魂に刻印が刻まれるんだ。契約した悪魔の所有物って刻印がね。それで契約した人間が死んだ後にやっと悪魔はその魂を食べる事が出来るんだよ。もちろん、契約する時は悪魔は人間に説明をちゃんとするよ。『契約して願い事を叶える変わりにあなたが死んだ後、あなたの魂を食べてもいいか?』ってね。人間がそれを了承しなければ、悪魔は人間と契約出来ないんだ。それに、悪魔は契約した人間の魂を食す時も、クラディウスみたいに意地汚く食べたりしないよ。ちゃんと魂を献上した人間に対して敬意を持って食べるんだよ。悪魔は人間の魂の“尊厳”を大切にしているんだ。あんな見た目でもね」


 シルヴィアの説明を聞いたエレンは悪魔に対しての見方が変わった。あんな見た目でもルールを守るようだ。ちゃんと契約した人間の同意を得てその魂を食べているのだから。


 シルヴィアの説明が続けられる。


「でも悪魔が人間と契約する機会もなかなかないよ。何より、悪魔が人間と契約するには色々と面倒な手続きが必要だから、皆面倒臭くて契約しない悪魔の方が多いんだよ。それに、実は人間の世界に悪魔が行けるのはだいたい五百年に一度なんだよ。人間の世界の方に地獄と繋がってる場所があるんだけど、その場所が地獄と繋がるのが五百年に一度しか繋がらないんだ。だから悪魔が人間の魂を食べたくて人間の世界に契約しに行くのは滅多にないんだよね」


「そうなんだ。ねぇ、シルヴィア。なら悪魔は普段何を食べているの?」


「天国にもあるマナの実だよ。地獄にもあるんだ」


「こっちにもあったんだ。……もしかして──」


「うん、そうだよ。エレンの推測通り、天国にあるエデンの園やマナの実は私が考えて、エリザベードが創ったんだ」


「だから地獄にもマナの実があるのか。悪魔はマナの実を人間の魂に変化させたりするのかしら?」


「あ、それは皆良くやってるよ。それも悪魔があまり人間と契約をしない理由の一つでもあるよ。マナの実を人間の魂に変化させれば手軽に食べれるし。でもほとんどの悪魔は人間の魂を食べた事がないから味を知らないんだよね。味は悪魔それぞれの想像力で違うからみんな独特な味を表現してそれを食べてるよ。マナの実で変化させた偽物の魂なのにそれで皆満足しているし、面白いよね」


「確かにそれは面白いわね。例えば十人の悪魔が居たら、みんな違う魂の味になるんだから。食べ比べとかしたら面白そう」


「あはは。悪魔達も食事をする時は皆楽しそうだよ。賑やかで見ていて飽きないし、観察しがいがあるね。あ、エレン、人間の魂を食べてみる?クラディウスが夢中になる味がどんなものなのか知りたくない?」


 シルヴィアはそう言うとマナの実を一つ取り出した。目を瞑り意識を集中させる。すると、シルヴィアの手の平に乗っているマナの実が白く輝く物体に変化した。エレンが天国で見た人間の魂そのものだ。


「味は完璧に人間の魂を表現出来てるよ。召し上がれ」


 エレンはシルヴィアから人間の魂に変化させたマナの実を受け取り口に運ぶ。


「……これは──」


 エレンは納得した。確かに美味しい。クラディウスが人間の魂を食べたがるのも理解出来る。だが認める訳にはいかない。それはやってはいけない事なのだから。


「どう?美味しいでしょ?」


「確かに美味しいわね。でもこれは、“禁断の果実”よ」


「エレンは面白い表現をするね。確かに、それは“禁断の果実”だね。クラディウスは人間の魂という“禁断の果実”に手を出してしまって、それに夢中になっちゃったんだね。観察しがいがあるなぁ」


 シルヴィアはそう言うと「行こうか」とエレンに言い、再び歩き始める。エレンはシルヴィアの後を着いていく。

全体的に少し改稿しました。申し訳ございません。


なるべく更新速度を戻すようにします。

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