砂漠の魔物達
翌日。
一行が目的地に近付くと、揺らめく蜃気楼の向こうに隊商の一団が現れた。
ルーサーが目を細める。
「……ここは正規の街道から大きく外れている。普通の商隊なら通るはずがない」
カリムは唇を引き結び、低く言った。
「非合法組織の密輸か、違法な魔道具か……。砂竜軍副将として幾度も見てきた光景だ」
ジラは鼻で笑い、槍の石突きを砂に突き立てた。
「どっちにしても怪しいな。声かけて白ならいいが、黒なら……俺の槍が吠えるぜ」
三人が砂竜を進めると、隊商は明らかに狼狽し、駱駝を急がせて砂を蹴り上げた。
「逃げるぞ!」
「追え!」
砂漠に緊張が走った、その瞬間――。
轟音。
地面が裂け、無数の黒い甲殻がうねりを上げた。
砂漠の厄災、人喰いサンドアントの群れだった。
「まずい……!」
カリムが即座に砂竜を下り、槍を構える。
隊商の傭兵たちは必死に剣を振るい応戦したが、多勢に無勢。砂の上で陣形は保てず、次々に引きずり込まれていく。
「少しは数を減らしてから死ねばいいものを……」
ジラが毒づき、槍を握り直す。
ルーサーも結界を張りながら低く呟いた。
「やはり裏稼業か。だが今は、奴らに構っている暇はない」
三人が戦闘に加わろうとした矢先――。
砂漠そのものが揺れた。
大地が隆起し、砂嵐が巻き上がる。
姿を現したのは、龍にも等しい巨影。
顎が砂を削り取り、群れごとサンドアントを貪り喰う。
「サンドワーム……!」
カリムの声が震える。軍歴の長い彼でさえ、ここまでの巨体は見たことがなかった。
ジラは戦慄しつつも笑いを浮かべた。
「ははっ……とんでもねぇ。だが燃えてくるぜ!」
ルーサーだけは冷徹だった。
「殺すのは簡単だ……だが唾液腺を無傷で取り出す。それが我々の使命だ」
さらに砂を揺らす地響き。
サンドアントの群れを従え、漆黒の巨影が姿を現す。
女王――クイーンサンドアントである。
「二大巨獣の衝突か……」
カリムが槍を強く握り、額に汗を浮かべる。
サンドワームとクイーンが咆哮を上げ、砂漠全体が揺れた。
顎と触肢がぶつかり合い、砂塵が空を覆う。
ジラはにやりと笑い、砂を蹴った。
「上等じゃねぇか! この隙に近付いて、腺をかっさらおうぜ!」
ルーサーは結界を重ねながら、仲間に鋭く告げる。
「巨獣同士が潰し合う今こそ好機。……動くぞ!」
こうして三人は、死闘の渦中に身を投じた。
砂漠を揺るがす巨影の闘争と、その影を利用する人間たちの戦いが始まった――。




