砂漠の行軍
首都ウルシャナ・オアシスを出立した一行の前には、灼熱の砂漠が広がっていた。
カリムは外交官としての権限を用い、砂竜軍から三体の砂竜を借り受けていた。
「リュシエル殿の工房に必要な素材のためだ。国是に関わる以上、軍も背を押す」
そう言った彼の一言で、軍の厩舎は即座に門を開いた。
砂竜の背に跨がれば、砂に沈むこともなく、行軍の速度は格段に増す。
リュシエルの「ひんやりステッカー」が彼らの体温を和らげ、白熱する太陽の下でも呼吸はまだ穏やかでいられた。
途中、砂の中から飛び出したサンドリザードが群れをなして襲い掛かる。
ジラが槍を一閃、笑いながら数匹をまとめて貫いた。
「おらよ、蜥蜴ども! 今日は餌じゃなくて標本になってもらうぜ!」
その横で、カリムの槍が鋭く突き出される。無駄のない軍人の一撃が、敵の急所を的確に貫いた。
「ジラ、突っ込みすぎるな。隊列を崩すと狙われやすい」
「へいへい、副将殿。だが俺は止まらねぇ主義だ!」
ルーサーは後方で結界を展開し、砂塵を遮って視界を確保した。小さな火球で群れの退路を断ち、残敵はすぐに鎮圧された。
さらに進むと、突如として地面がうねり、砂を裂いて触手のような葉が乱舞する。
サンドプラント――砂漠のトレントと呼ばれる厄介者だ。
「来たか……!」
カリムは砂竜から飛び降り、槍を構える。重い一撃が触手をまとめて断ち切る。
ジラも負けじと突撃し、槍を薙いで切り払いながら叫んだ。
「こいつは暴れる草だな! 切っても切っても動きやがる!」
触手が幾本も迫るが、二人は背中を合わせるように立ち回り、次々と切り伏せる。
その隙にルーサーが詠唱を終え、結界を張って触手の動きを封じると、掌から炎を放った。
轟音とともにサンドプラントは燃え上がり、灰を残して沈黙した。
残骸を調べていたルーサーが、ふと立ち止まる。
「……これは、妙だな」
焼け残った繊維の断片から、青白い魔素の流れがほのかに漂っている。
彼は結界を通して慎重に観察し、目を細めた。
「グルバザーンにはポーションの残滓など存在しない。だが、この魔素……代用品になり得るかもしれない」
その言葉にカリムが頷く。
「いずれにせよ、リュシエル殿にとって貴重な知見となるだろう」
夜営の焚き火の傍らで、カリムは陣を敷き見張り、ジラは砂蠍を焼いて肴にする。
ルーサーは羊皮紙に描かれたサンドワームのスケッチを見つめながら、静かに呟いた。
「……明日こそが本番だ」
彼らの視線の先には、砂漠を揺らす巨影――獲物を狙うサンドワームの気配が近付いていた。




