夏の革命・ひんやりステッカー!
王都フィルバーレルの夏は、容赦なくこの街の石畳の熱気を高めていた。
少しでも気分を良くしようと酒場のぬるいビールを口にしたリュシエルは、紫煙をぷはぁと吐きながら舌打ちする。
「ぬっる! こんなもんで銅貨取るんじゃないよ、ったく」
氷室は貴族の贅沢品、氷魔法は高額。庶民には冷たい飲み物なんざ夢のまた夢。
「……なら、アタシが作りゃいいだけさね」
〜〜〜〜〜
工房にこもったリュシエルは、スライム膜を煮溶かし、異世界デンプン紙を貼り合わせ、ポーション糊を塗って薬草インクで紋を描く。
描かれたのは、樽に雪の結晶をあしらった図案。
短縮詠唱をリズムよく刻み込むと、ステッカーがかすかに光を帯びた。
革袋に貼り付ければ、中の水がみるみる冷える。
リュシエルは一口飲んで、満足げに紫煙を吐いた。
「ふぅ……これだよ。アタシが欲しかったのは」
翌日 ・・・
「見ろよ! 水袋が冷たい!」(旅人)
「鎧に貼ったら暑さが和らぐぞ!」(兵士)
「寝台に貼ったら涼しく眠れた!」(商人の妻)
「棚に貼ったら肉が腐らねぇ!」(料理人)
「椅子に貼ったら座ってるだけでひんやりだ!」(職人)
あちこちで応用例が広がり、街は大騒ぎ。
人々は勝手に「夏の革命」と呼び始めた。
《街のステッカー屋さん》の前は、夕方になると人だかりが出来た。
「遠征用に十枚頼む!」(冒険者)
「宿屋の樽に全部貼りたい!」(宿屋主人)
「神殿の聖水に使うんだ、卸してくれ!」(神官)
「お祭りで果実水を冷やしたいんだ!」(商人)
「お母ちゃん、僕も欲しいー!」(子供)
「王宮の使いだ。余のワインも冷やせるのかと陛下が仰せだ!」(王宮の使者)
カウンター前は押すな押すなの大混雑。
リュシエルは汗を拭い、煙草をくわえたままドンと机を叩いた。
「えーい! アンタら暑苦しいんだよ! 一旦全員外に出な! 順番に並びなー!」
わーっと人々が外に飛び出し、通りには大市を思わせる行列ができあがった。
〜〜〜〜〜
「一旦休憩だ!誰かアタシに飲み物買ってきな!喉が渇いて仕方ないよ!」
リュシエルは客の一人に遣いを頼むと、椅子に腰を落ち着け、紫煙をふわりと吐いた。
「やれやれ……冷たいビールが欲しかっただけで、王都まるごと冷やすことになるとはねぇ」
夕暮れの王都は、革袋や樽や棚に貼られた小さな紙片は、夏祭りの灯のように涼やかに光っていた。




