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49.手紙



十番目、一年の最後、理性(レゾォン)の月。


年末の慌ただしさは日本でもここでもあまり変わることはない。特に今年は、テオとサラ様の結婚式があるのでなおさらだ。


レオンとコレット様の結婚式は二人が王都にいたこともあって先に王都での式が行われたが、テオとサラ様は先に領都での式が行われる。

そして年が明けて新年の宴が終わった後、王都での結婚式が行われる予定である。


ちなみにその新年の宴でデュポン子爵のカリー伯爵への陞爵が公式に発表され、同時にリュカとクロエの婚約も公式のものとなる予定だ。


そんな訳で、年末の慌ただしさはどこか浮かれ気分も孕んでいた。



わたしは王城からタウンハウスへ通いながら、王都での式をメインに招待客への準備を手伝っていたのだが、テオやサラ様は既に領都へ戻り、我が家の両親とともにそちらでの式の準備を進めている。

式にはどちらもジョルジュ殿下が参列することになっており、わたしは殿下と一緒にギリギリの日程で領地へ戻る手筈になっていた。


そして、そろそろ領地へ向けて移動しようかとタウンハウスへ泊まり込んでいる日のことだった。



「ジュリエットお嬢様、サラ様よりお手紙が届いております」

「サラ様から? 何かしら」


ヨゼフが綺麗な封筒を差し出してきた。

何か足りないものでもあったのかもしれない、それならば王都で買い付けてから戻らねばと頭の中で予定を考えながら封を切っていたわたしは、そこに書いてあった事実を読んで、口を大きく開けてしまった。


「……はあっ?」


手紙にはこう書いてあった。



『親愛なる義妹、ジュリエット


 忙しい時期にごめんなさいね。ちょっとテオの様子がおかしくて……

 しばらく様子を見ていたのだけれど、ひどくなる一方です。

 わたしには意味の分からない言葉を言ってみたり、わたしに敬語を使ってみたり、最近では目も合わせてくれないし、ずっと何かに焦っている様子なの。

 ジュリエット、何か心当たりはないかしら?

 そうそう、何故か緑茶ばっかり飲むから、セバスが送って欲しいと言っていたわ。

 身体を悪くしているようではないのだけれど、このまま式を行うべきかどうか、お義父様やお義母様とも話しているのだけれど、今更どうにもできないのよね。

 本当に困っているの。難しいことは分かっているけれど、なるべく早く顔を見せて頂戴ね。


    あなたの義姉、サラ』



(待って、サラ様待って!! それって、もしかして、もしかして! スズキレイカさんと同じパターンでは!? しかも緑茶って、えええええ!!!)


「ジュリエット様?」

「ヨゼフ……すぐにジョルジュ殿下へ面会の申込を、いや明日いらっしゃるのよね?」

「そうでございますね。明日朝一に来られて、そのまま移動になる予定です」

「そうよね。じゃあ明日でいいわ。申し訳ないんだけど、荷物に緑茶とライスを追加出来るかしら」

「緑茶は十分に積んでございますが……?」

「テオお兄様が御所望なのよ」

「左様でございますか、ではすぐにご用意致します」


ふうっと息を吐いてソファーに深く腰かける。ドキドキと早鐘を打つ心臓に耳を澄ませるように目を閉じた。


思い浮かぶのは、真っ白な空間に座るくるくる巻き毛と真ん丸眼鏡だ。あの人は――漣さんは、何と言っていただろうか。


『それにしたって例外はあるんですよ。それが貴女方です』

『あなた、がた』

『そう。もう出会ってますよね? 元日本人の方々』


あの時は、わたしとジョーくん、そしてスズキレイカさんを指しているのだと思っていた。

だが、もしかすると、それだけではなかったのかもしれない。

あれだけ似ている他人が周りにいることそのものが、偶然にしては出来過ぎている。


(テオは……やっぱり花ちゃんなのかな。そうなると、レオンやリュカも?)


一人で考えていても分からない。

ジョーくんに言ったところで分からないのだが、気持ちを吐き出せる相手がいるというのは大きい。


もやもやした気持ちのまま、朝を迎えた。




ジョルジュ殿下が乗った豪勢な馬車に繋がれているのは、もちろん六本足の馬、シュヴァールである。

さすが王家のシュヴァール、毛並みがよく気品さえ感じる。見とれているわたしにドヤ顔をしてきたのは気のせいなのか。


そんな馬車から降り立ったのは、朝から麗しいジョルジュ殿下だ。

今日は髪を下ろしたマッシュルームヘアである。今日も最高に顔がいい。


「やあ、おはようユリア。ご機嫌麗しく」

「おはようございます」


手を取って指先にキスを落とす仕草も様になりすぎていて、いい加減慣れたいと思うのに一向に慣れない。いつまで経っても恥ずかしい。


「忘れ物はない? 早速出発してもいいのかな?」

「はい、大丈夫ですわ」


さっさと馬車に乗り込みたい。一刻も早くあの手紙のことを早く報告したいのである。


「ではヨゼフ。あとをよろしくね」

「はい、行ってらっしゃいませ」


綺麗に頭を下げて見送ってくれるヨゼフ。

ここで働く彼らはこのまま王都に居残り組だ。年が明けてのパーティーに向けて準備を進めてくれている。

彼らがいるからこそ、安心して領地へ向かうことができるというものだ。


馬車の中にはわたしと殿下、そしてエマとジョンである。それでもまだ余裕のある広さが嬉しい。


シュヴァールはどんどんスピードを上げていて、専用の街道を走っている。

景色の切り替わりは普通電車レベルだ。


「ジョーくん、これ見てもらっていいですか?」


走り出してすぐに、わたしはサラ様からの手紙を差し出した。一人ではとても抱えきれないのだ。

ちなみにエマもジョンも早速空気に徹している。出来る侍女と侍従である。


「サラ・ガニョンから? 読んでいいの?」

「読んでください」


真剣な表情に圧を感じたのか、ジョーくんはサッと手紙を取り出し、すぐに真剣に読み始めた。その目が驚きに満ちていく。


「え……これ、そういうこと?」

「分かりません。やっぱりそういうことですかね?」

「うん……これだけじゃ何とも言えないけど、その可能性が高いような……いやでもそんなことって」


ぶつぶつ言いながら手紙を封筒に戻していくジョーくん。珍しく混乱が隠せないようだ。


「これ、もし仮にそうだったとして、このまま結婚式出来ると思います?」

「いや……してくれないと困る……あ。サラか。サラ・ガニョンだもんな」

「はい?」


難しい顔をしていたジョーくんが、何かを思いついたように上を向いた。そしてウンウンと一人で納得している。


「はいはい。とりあえずそれは大丈夫じゃないかな」

「何を根拠に?」


わたしの疑問に、何故かばつが悪そうな表情をするジョーくん。頭を掻きながら出てきた言葉は、わたしにとって衝撃的すぎるものだった。


「いやー、もうイメージも関係ないから言っちゃうけどさ。あの人、巨乳美女大好物だから」

「……はっ?」


あの人って、この話の流れから言えばそれはやっぱり花ちゃん、”シャルモン”リーダー・花井直三十四歳のことだろう。


「目を合わせられないのも照れてるだけじゃん? ガチ好みだから」

「……いやあー! 待って! 顔面あの爽やかさで巨乳好き!? 詐欺じゃない!?」

「俺は大きさは気にしないから大丈夫だよ? どっちかといえば尻の形の方が」

「待って! 待って! もう黙ってください!」


それ以上は聞きたくないとばかりに耳を塞ぐ。

しかし時すでに遅く、わたしの中の花ちゃんがガラガラと音を立てて崩れていく。

もうどんなに爽やかな笑顔の花ちゃんを見たって、その背後に「巨乳好き」の文字が見えてきてしまうだろう。


「男なんてそんなもんでしょ」

「それは、それは分かってますけど! でも! あえて聞きたくはなかった!」

「ちなみに嶺くんはスラッとしたモデル系に弱いし、柳くんはギャル系に弱い」

「もー……!! ……ジョーくんは?」


聞きたくないと言っていたどの口が言うのかと自分でも思うが、推しのことを本人から聞けるまたとないチャンスである。おそるおそる聞いてみると、目が合ったジョーくんがニヤリと笑った。


「ふふ、気になる? 俺はねえ、一生懸命な子に弱いな」

「外見的な好みを聞いてるんですけど」

「それは特にないんだよね。今まで思い返してみても、部活とかめっちゃ打ち込んでる子とか、仕事でミスって影で泣いてる子とか、なんか一生懸命だなって子にきゅんとするから」

「なるほど?」

「だから、友梨亜ちゃんが俺の為に妃教育とか一生懸命頑張ってくれてるのも、めっちゃきゅんきゅんしてるよ」


そんなことを言われたら、わたしはもう「……これからも頑張ります」と返すしかないのである。

この方をテオのように掌で転がすなんて、土台無理な話だ。一生転がされている未来しか見えない。


「ふふふ、よろしく。で、多分結婚式は大丈夫だと思うよ。俺らの例から言っても、今までのことも覚えてはいるわけだし、あの人ならちゃんと上手くやれるでしょ」

「まあ……突然取り乱すようなことはしないでしょうけど」

「そうそう。臨機応変に対応するのには慣れてるだろうし、大丈夫だって」


花ちゃんに近い存在のジョーくんが言うなら大丈夫、なのだろう。最悪の事態は免れそうだし、いざとなったらジョーくんに丸投げしてしまおうと心に決めると、わたしも少し落ち着くことができた。


そうして、ボネ領へと道は進んでいく。


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