旅の報せ
アリアを学生寮に送り届けたハルトとループスは荷物をまとめて連日利用した宿からチェックアウトするとフィリアの喫茶店へと訪れた。今日から二人はフィリアの元に住み込むことになっているのである。
夕刻、喫茶店の営業時間が終了した頃合いを見計らって二人は店の裏口の扉を開けた。喫茶店の裏はそのままフィリアの家になっている。
「待ってたわ。さ、上がって上がって」
フィリアはハルトとループスを迎え入れると二人を家に上がらせた。ハルトとループスはフィリアの厚意に甘えて家の中に足を踏み入れる。
「ここがハルトちゃんのお部屋。で、こっちがループスちゃんのお部屋。二人ともここにいる間は好きに使っていいからね」
フィリアはハルトとループスそれぞれに部屋を貸し与えた。ハルトの部屋は今は亡き息子が、ループスの部屋は夫が使っていたものである。
「少しゆっくりしたら一緒に夕食にしましょう」
フィリアはそう言うと台所へと消えていった。ハルトとループスは荷物を降ろし、夕食までの間の暇な時を過ごす。
その時ふと何かを思い立ったハルトはバッグの中を漁り、ペンを取り出すとフィリアの元へ向かった。
「おばさん、手紙を書きたいんだけど便箋持ってない?」
「あら。持ってるけど誰に手紙を書くの?」
「プリモにいる両親に。しばらく連絡してなかったからさ」
ハルトは両親に手紙を送ろうとしていた。最後に親子が顔を合わせたのはマスカールの人形祭の時以来であり、それ以後まったく連絡を取っていなかった。近況報告のためにハルトは手紙を送りたかったのである。
フィリアが用意した便箋を受け取るとハルトは両親に宛てた手紙を書き始めた。
『父さん、母さん
元気にしてますか?俺とループスは元気です。
マスカールでばったり父さんたちと再会した後も、俺はループスと一緒にいろんな出会いと出来事を経験しました。記憶をなくして奴隷になっていた少女、親と離れ離れになりつつも身を寄せ合ってたくましく生きる四姉弟、魔法使いの始祖、ちょっと拗らせた不良学生。そんな様々な人たちとの出会いやそこで起こる出来事はどれもこれも刺激的なものばかりで旅は退屈しません。
それはさておき、俺はもう一度エリアル魔法学院に入学することになりました。今度はアルバス・アイムではなくハルト・ルナールブランとしてちゃんと卒業するまで通うつもりです。特待生として入学するので入学金や授業料の心配はありません。
俺が学校に通う間、俺とループスは隣町のフィリアというおばさんのところにお世話になることになっています。小さな喫茶店を営む優しいおばさんです。
なのでしばらくはこちらから顔を見せられそうにありません。でも今度帰る時はこれまでの旅のことを土産話として持ち帰ってきます。
次に顔を見せられるのはいつになるかわかりませんが、それまでお元気で。
ハルト・ルナールブラン
追伸 俺とループスの身体は一生老化することがなく、寿命というものがなくなっているそうです』
「どう?お手紙書けた?」
「あぁ。いい感じのが書けた」
ハルトは手紙の出来栄えをそう評価すると書き上げた便箋を折って封をした。あとは明日以降にこれを郵便してもらうのみである。
「へぇ、手紙か」
「お前も書いてみたらどうだ?たぶん父さんも母さんも喜ぶぞ」
ハルトが手紙を書いていたところを見ていたループスにハルトは同じように手紙を書いてみてはどうかと提案するとループスは何とも言えなさそうな表情を浮かべた。
ハルトは両親の話題はループスにとってはいろいろと複雑な事情があることを思い出して気まずくなり、それを知らないフィリアは首を傾げる。
「どうかしたの?」
「ループスは俺とは血のつながりのない姉妹っていう話は前にもしたことあると思うんだけどさ。それってつまりループスには二通りの親がいるってことなんだ」
事情を知らないフィリアにハルトが簡潔にループスの家庭事情を説明した。特に隠さなければならない理由もないため、ループスはそこに割って入り細かい補足をする。
「俺は元々ウォルフェアの軍人の下に生まれたんです。母上は俺が生まれたときに亡くなって、父とそのお抱えの使用人たちに育てられました」
ループスは元々ハルトとは何もかもが対照的な家庭環境に置かれていた。ハルトの両親は裕福ではないものの、常に一緒にいてまっすぐな愛情を注いで幸福に満たされてきたのに対してループスは裕福な生まれであるものの、片親である父が家を空けていることがほとんどでループスのことは使用人に任せきり、愛情が屈折していて本人には伝わらず空虚な少年時代を過ごしてきた。
「それが原因で絶縁しちゃったんだよな」
「そう。殴り合いをするぐらいに喧嘩して、結果的に実家とは縁を切りました」
「ループスちゃんも大変だったのねぇ……でもせっかくだからお手紙送ってみたら?家族の縁は切れちゃったかもしれないけど、ループスちゃんと血のつながった肉親はお父さんだけなんだから」
フィリアはループスの事情を汲みつつも、あえて彼の肉親である父に手紙を送ることを提案した。ループスは父クリムと最後に顔を合わせたのはハルトが彼女の両親と顔を合わせたのよりもずっと前である。それに加え、ループスは絶縁したとは言っても父や自分の血筋を本気で憎んでいるわけではない。
フィリアの言葉にも一理があると納得したループスはハルトが手にしていたペンを手に取った。
「ふふっ。あの子らしいわ」
「……相変わらず馬鹿なやつだ」
数日後、ハルトとループスそれぞれの親の元へ我が子からの手紙が届けられたのであった。
次回、最終回となります。
最後までこの作品をよろしくお願いします。




