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第四章

 大人のバフォメット様にも親友の死は受け入れがたいことだったようだ。工事にも行かず、ろくに眠りもせずに、テレビをつけっぱなしにしてソファでボーっとしてばかりいた。たのもしいバフォメット様のそんな姿を心配しているうちに、わたしはあまり泣きもせず、ベッドにもこもらずにしばらくの時がすぎた。

「バフォメット様、お城の工事はいいの? 姉様のためにサボったりしたら姉様に怒られるわよ?」

「工事はもういいんだ」

「どうして? あんなにはりきっていたのに」

「薄々気付いてはいたんだが、なんだか工事の様子がおかしいんだ。どんなに難しくてぜいたくな城を造れと言われたって、それは誇らしいことだったんだがな。どうも城を移動要塞化いどうようさいかしているようなんだ」

「移動要塞化?」

「武装した分厚い壁やら、空を飛ぶ装置やらな。どうも天界か地上でも侵略にいこうとしてるらしいぜ」

「魔界はこんなにいいところなのにまだほしがるなんて、ルシファ様って欲が深いのね」

「嬢ちゃん、ルシファ様のことを悪く言っちゃだめだ。あのおかたは俺達魔界人の誇りそのものなんだからな」

「ごめんなさい。でも、バフォメット様は大丈夫なの? サボって怒られたりしないの?」

「工事は自由参加だからな。貴族の連中にはちょっとぐらい嫌味を言われるかもしれんが、戦争の片棒をかつぐ真似なんぞしたくはないからな」

「そうね。優しいバフォメット様がそんなことをしてはいけないわ。もうヒロシマみたいな悲しい出来事はたくさんだもの」


 わたしはバフォメット様が考えこんでばかりいるのをやめさせるため、戦闘技術を教えてもらうことにした。身体を動かしたほうが忘れていられると思ったからだった。

「姉様にだいぶ習ったようだがなにを教えればいい? 嬢ちゃん」

「そうね、物質化を習っていないのと、オーラで直接戦う方法もまだだわ。その他にもなにかあったら教えてほしいの。やれるだけのことはやっておきたいわ」

「わかったぜ、しっかりついてこいよ?」

「優しくしてね?」

「変な言いかたすんな! 俺を地獄に送る気か!」

「おっぱい大きくなったでしょう? 触ってみる?」

「ば、馬鹿言うんじゃねえ! ほら、庭に出るぞ」

 庭に出てバフォメット様が壁のスイッチをひねると、庭の電灯が昼間のお日様のように明るくなった。

「さて、まずは物質化だな。やりかた自体は単純だ。紋章を描いて、ほしいものをよ~く念じるんだ。イメージがあやふやだとおかしなものを作り出しちまうからな。言ってみれば芸術みたいなもんだ。そして、イメージがかたまったら紋章に手を突っこんで引っぱり出せばいい。簡単だろ?」

「バフォメット様や姉様は愛の映画をいっぱい見ているから物質化が上手なのね、きっと」

「そりゃまた面白れえ見解だな。だが、そうなのかもしれん。芸術とあっちの感情は関係が深いらしいからな。要は想像力ってことか。まあ、なんでもいいから念じて作ってみろ」

 わたしは物質化を試した。姉様の話をしたばかりだったせいか、姉様そっくりの黒ロリータ人形を作り出してしまった。

「……そっくりだな」

「ごめんなさい。思い出させるつもりじゃなかったのに……」

「いいんだ。もう一体作って俺にもくれるか?」

 もう一体作ると、肩や片脚が露出する、真っ黒で大胆なウェディングドレスを着た姉様の人形になった。

「こりゃまた、すごい格好だな」

「バフォメット様はエッチなドレスのほうがいいんでしょう?」

「すげえ衣装だがウェディングドレスだ。嬢ちゃんが持っててやってくれ。俺はいつも姉様が着てたやつのほうがいい」

 婚約者さんやわたし達の人形も二つずつ作ると、リビングに入りテーブルに並べた。

「姉様、わたし頑張るからね。そこで見てて」

 庭に戻ると引き続き武器の物質化を習った。

 紋章から引き出すと、それは二本の剣だった。

「嬢ちゃんは二刀流か。ひょっとして両刀使いってことか?」

「両刀使い?」

「男も女もいけるってやつだ……」

 背伸びをしてバフォメット様の頬をつねってやった。

「姉様とはなにもなかったのよ? 本当よ?」

「自分から白状してやがるな。まあ、それだけ人が好きってことなのかもな。嬢ちゃんが好きになった奴なら男でも女でも関係ないさ」

「そうよ、愛があればそんなのどうだっていいもの。それに女の子同士だったら乙女のまま……」

 バフォメット様が咳払いした。

「嬢ちゃん、そんなポーっとしたいい顔してたら、インキュバスみたいなのが寄ってくるからな。嬢ちゃんも姉様のおかげでだいぶ美味そうになったんだから気をつけろよ?」

「美味そうだなんて変な言いかたしないでよ。バフォメット様のエッチ」

 エッチと言われてなぜかニヤニヤしているバフォメット様を放っておいて、地面に置いてあった二本の剣を観察した。

 一本は西洋の軍人さんが腰からさげているような細長くまっすぐな剣。もう一本はもっと細くて針のような形をした、刺突用しとつようの剣だった。両方とも黒くてグロテスクな持ち手で、持ち手はつばの役目も兼ねていた。翼を広げた怪物のむくろのような形が、わたし達女夢魔の翼を思い出させた。刀身とうしんの部分は少し黒味がかった赤で、空気に触れて変色しだした血の色に見えた。

「しかし、可愛らしい嬢ちゃんにしては随分と不気味な剣だな」

「翼とのコーディネートでいえばぴったりだけど、本当に不気味ね。夢魔だからなのかしら?」

「武器の属性はあんまり夢魔術の影響なんぞ受けないと思ったがな。まあ、不気味だがなかなか絵になる剣だと思うぜ。持ってオーラをためてみな」

 言われたとおりにすると、剣の刃と同じ赤黒い血の色をしたオーラが剣と身体を包んだ。

「前はこんなにはっきりとした色なんてなかったのに。どうしたのかしら?」

「オーラってのは精神の影響を強く受けるからな。色々あったからそうなったのかもしれん。オーラのパワー自体も随分と強くなってるようだ」

「きっと、赤を意識していたのと、姉様の好きな黒を引き継いでこんな色になったんだわ」

「言われてみればその剣は嬢ちゃんや姉様にどことなく雰囲気が似てるな。大事にしてやれよ」

「そうするわ。いつでも一緒よ、姉様……」

 結局わたしまで感傷的になってしまい、二人で悲しい映画を見て、それを口実に気がすむまで泣いた。

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