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3-2

 しばらく談笑だんしょうしたあと、わたしはサッちゃんの授業を受けていた。

「いいかい? 夢魔術ってのはね、いかに効率よく異性の精気を奪うかっていうところに力を注がなきゃ(そそがなきゃ)だめなんだ。つまり、どれだけ男の子にエッチな夢を見せるかってことさ。ロージーは男の子と交わったことがある?」

「ないわ。でもね、ここにくる前にバフォメット様のコレクションから、愛の映画を発見して見てきたの。とっても素敵だったわ」

「それってポルノムービーのことだよね? で、ロージーは愛の映画を見てどう思った?」

「男女の交わりって穢れ(けがれ)たことだと思っていたけど、動物に戻って愛を訴え合う姿に涙が出たわ。二人で愛を築き上げていたのよ」

「なるほど、ロージーは素質がありそうだね。純粋な愛っていうのは君が言ったとおり穢れた動物のような運動の中にあるんだ。普通はハーレムでおあずけにあったとか、恋人がいない男とかが寂しく見るものって言われているけどね。ちなみにバフォメットはいい奴すぎるから、自分のハーレムがあるのにおあずけを食らってディスクを見てるってわけさ」

「それであんなにいっぱいあったのね」

「君は愛を訴え合うという言いかたをしたけど、あの運動には別の見かたもできるんだ。いいかい? エッチな気持ちというのは人間にとっては食欲の次に、魔族にとっては一番根源的な欲求だから、ものすごい力、すなわちオーラを生み出すものなんだ」

「それなら、愛の運動を直接したほうが効率がいいんじゃない?」

「それも悪くはないんだけど、あの運動は慣れれば慣れるほど、趣向しゅこうをこらさないとオーラの生産力が下がってしまうものなんだ。つまり、むやみに交わると生産性のないむなしい運動になってしまうということさ」

「では、どうすればいいの?」

「そこで夢魔術の登場さ。若い男の子やロージーのような乙女の悶々(もんもん)とした欲望というのは、それだけで結構なオーラになるんだ。でも、それを夢の中でぶつけ合うことで、もっともっと強大なオーラを生み出すことができるんだよ」

「わたしは、そんなはしたない欲望なんて持っていないわ」

「じゃあ、なんでディスクを見たの? 恥ずかしがってはだめ。あの欲望っていうのは考えるより先に身体から湧いてくるものなんだから。誰だって持っているんだよ。あたしだってね」

「……正直に言うと、あのディスクを見てみたかったわ。きっと、そういう気持ちだった」

「素直でよろしい。じゃあ早速だけど、愛の映画をたくさん見てもらうよ。胸が張り裂けそうになるまで欲望を、まあ欲望がいやだったら愛という表現でもいいや、胸いっぱいの愛を膨らませておくことが夢魔術の第一歩だからね」

 サッちゃんは、隣の寝室からゴソゴソと愛の映画をたくさん取り出してきた。

 お嫁さんと旦那様の物語や、一夫多妻、一妻多夫の物語、お嫁さんが旦那様をムチで打つものもあった。きっと浮気をして、折檻せっかんされていたのだろう。わたしには、いじめられる旦那様も、心の底ではお嫁さんを愛しているのがはっきりとわかった。

 ――映画の見過ぎで頭がクラクラして身体じゅうが熱くなってくるとサッちゃんが言った。

「そろそろ寝よっか? その悶々とした、じゃなくて胸いっぱいの愛を抱えて眠れない気持ちを、よーく味わうんだよ?」

「ねえ、夢魔術を続ける限り一生乙女でいなくてはならないの?」

「理想を言えばそうだけど、君の場合は夢魔術より大切に思えるようなたのもしい旦那様でも捕まえたら、夢魔術をやめてもいいんじゃないかな? その頃には人を食うことにだって慣れているだろうし。でもそれまでは、なるべく乙女でいたほうが効率がいいね」

「サッちゃんも乙女なの?」

「想像におまかせしとく」

「あ、ずるいわ!」

 ――寝室にはベッドが一つしかなかった。天井から吊られた棒には、たくさんの黒いロリータがかけられていた。

「着替えは持ってこなかったんだね。ドレスじゃ寝づらいでしょ?」

「そうね、お泊まりになるなんて思っていなかったから」

「なにかあげてもいいんだけど、とりあえず下着だけで寝てもらおうかな」

「いやよ、恥ずかしいわ……」

「恥ずかしさに負けていたら立派な夢魔にはなれないよ? 恥ずかしさを見せ合うことが愛の夢をより深くするんだからね。あたしも付き合うから大丈夫」

「わかったわ……」

 ドレスをハンガーにかけさせてもらってベッドに入ったわたしは、映画で熱くなった身体で同姓であるはずのサッちゃんに愛を訴えたくて仕方がなかった。サッちゃんの白くてすべすべの肌からは甘ったるくてとても心地のよい香りがした。サッちゃんににじりよっては、つねられ、手を叩かれながら眠れない時をすごした。つらい修行だった。

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