表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
75/82

第74章 新形に登場する新しい翼

第74章 新形に登場する新しい翼


南越通商がグローバル市場において圧倒的なプレゼンスを確立し、レアメタルの直接調達から世界規模の物流網までを完全掌握したことで、南越急行コンツェルンの国際取引高は前人未到の領域へと達していた。しかし、最高経営責任者の篠原賢人と「財務の鬼」大石専務の視線は、すでに次の空の領域へと向けられていた。


世界の航空機産業は、過酷な局面を迎えていた。かつて世界の空を独占していた米国の巨大航空機製造メーカー「ビーイング社(Being Aircraft)」は、品質トラブルの頻発、開発遅延、そして競合他社との激しい価格競争に敗れ、実に20年以上にわたる構造的な業績低迷と巨額赤字に喘いでいたのである。


そんな中、南越急行グループの国際貿易を担う「南越通商」の鈴木社長から、六日町の本社へ一通の衝撃的な案件が持ち込まれた。


「篠原CEO、大石専務……ビーイング航空機製造会社の全株式買収案件です。我が社の金融ネットワークと国際交渉を通じ、買収交渉の最終段階まで漕ぎ着けました」


大石はすぐさま電卓を叩き、買収スキームの計算式を画面に映し出した。


「ビーイング社の時価総額は長年の低迷で最悪の水準まで落ち込んでいます。買い取り資金は『南越フィナンシャル・グループ』と『越後中央銀行』のキャッシュだけで完全に賄える。だが問題は米国政府の反応だ。航空宇宙産業は国家安全保障の根幹。いくら経営破綻寸前とはいえ、日本の地方コンツェルンへの売却に米政府が首を縦に振るかどうか……」


米国連邦政府および国防総省ペンタゴンは、当初この買収劇に対して猛烈な難色を示した。自国の象徴でもある航空機メーカーが日本の新興コンツェルンに買収されることへの政治的反発は凄まじかった。


しかし、篠原は自らワシントンD.C.へと飛び、米政府高官および財務長官との極秘会談に臨んだ。


篠原は冷徹な事実を突いた。


「ビーイング社はこの20年間、慢性的な資金不足と技術革新の停滞により、毎年数千億円の赤字を垂れ流し、倒産手続を待つだけの状態です。米国の税金でこれ以上救援し続けるおつもりですか? 我々南越急行グループが買収した場合、シアトルなどの米国本土工場および現地数万人の雇用の維持を完全保障します。さらに、我がグループが誇る本産自動車のAI技術、南越総合大学の先端素材技術、南越建設の自動化施工ノウハウを無償提供し、次世代の航空機開発を全額自前資金で完了させる。米国にとっても、これ以上の救済条件はないはずです」


20年間に及ぶ絶望的な低迷という動かぬ事実、そして南越急行が提示した圧巻の資金力と雇用保障の前に、米国政府は渋々ながら買収を承認せざるを得なかった。


こうして、かつて世界の空を制した航空機メーカー「ビーイング社」は、南越通商の手によって買収され、南越急行グループの傘下へと収められたのである。


全株式の取得を完了した直後、篠原は六日町の本社で古賀副社長、大石専務、南越建設の井上社長、そして南越エアラインズの幹部たちを招集し、新たな国家級プロジェクトの始動を宣言した。


「米国本土の生産・開発ラインは約束通り維持する。しかし、次世代の全自動AI航空機、超音速旅客機、そして環境負荷ゼロの水素・電動航空機の設計・試作・R&D(研究開発)の最高中枢拠点となる『ビーイング・グローバルR&Dセンター』は、我が新形に建設する」


古賀副社長が身を乗り出し、地図を広げた。


「おいおい篠原さん、航空機の試作やR&Dとなると、広大な滑走路と巨大な工場、それに完成機をそのままテストフライトできる空域が必要だぞ! 現在の新形空港は、日本海と阿賀野川、それに新形市街地に囲まれていて、滑走路の延伸すら不可能なパンク状態だ。一体どこにそんなメガ拠点を造るつもりなんだ?」


篠原は静かに微笑み、新形市の北西に位置する海岸線——「寺尾てらお沖」を指差した。


「既存の空港を拡張できないなら、新しい空の玄関口を海上に創ればいい。日本海に面する寺尾沖の広大な海上に、世界最高峰の『新新形国際空港しんにいがたこくさいくうこう』を建設します」


その圧倒的な構想に、参加者全員が息をのんだ。


篠原がホワイトボードに描き出したプロジェクトの全貌は、まさに国家のスケールを遥かに超えたものであった。


新新形国際空港は、寺尾沖の海底に地盤改良を施し、南越建設の全自動AIシールドマシンとメガフロート工法を融合させて建設される、総面積2,000ヘクタールにおよぶ世界初の「人工島海上ハブ空港」である。


滑走路は、超大型旅客機や超音速機が同時離着陸可能な4,000メートル級の滑走路を贅沢に「3本」配置。さらに空港島の東側には、今回買収した「ビーイング航空機製造・新形ギガファクトリー」、最新鋭の航空機格納庫群、そして南越総合大学や本産自動車の技術者が集結する世界最大の「航空宇宙R&Dセンター」が一体整備される計画であった。


大石専務が電卓を叩きながら目を輝かせた。


「総事業費は約3兆2,000億円。ですが、我がコンツェルンの内部留保と南越フィナンシャル・グループの資金調達力で、国や自治体の税金を一円も使わずに全額自前手配可能です。新空港の着陸料や施設使用料、そしてビーイング社の新型機外販による収益で、わずか5年で投資回収が完了します」


「よし、任せておけ!」南越建設の井上社長が拳を握りしめた。

「海上の地盤改良とメガフロート施工、そして3本滑走路の建設は、我が南越建設の全自動無人建機艦隊とAI施工ロボットを全投入すれば、わずか1年半で完工させてみせます!」


さらに篠原は、新空港と陸地を結ぶ地上交通アクセスについても完璧な構想を提示した。


寺尾沖の海上空港と新形市街地および陸地を結ぶため、南越建設の手で超頑丈な多層構造の海上大橋「新形グランド・クロスブリッジ」を架橋。橋の上層部には自前高速道路「新形山型南部連絡高速」を引き込み、下層部には南越車輌と新形交通が共同運営する都市型モノレール「新形天空銀河ライン(スカイライン)」の延伸ラインを敷設。新形駅や六日町メガロポリスから、新新形国際空港のターミナルおよびビーイング工場までを、時速160kmの超高速AIモノレールがわずか10分でダイレクトに結ぶアクセス網が構築された。


着工の合図とともに、寺尾沖の海岸線は異次元の活気に包まれた。


南越建設の全自動AI浚渫船や無人建機群が24時間体制で海上の地盤を固め、最新のメガフロート構造体が次々と接合されていく。新形東港から南越海運の大型運搬船が資材をピストン輸送し、南越物流の自動運転トラック隊列が陸上から必要な機材を絶え間なく供給した。


工場の建設には、四泉のギガファクトリーで実績を上げた本産自動車のAIロボットラインがそのまま導入された。ビーイング社の米国本土から派遣されたベテラン技術者や設計士たちは、わずか数か月で海の上に姿を現した巨大なクリーンルーム工場と超モダンなR&Dセンターを目にし、腰を抜かさんばかりに驚愕した。


「オーマイゴッド……米国では行政の許可と工事だけで10年はかかる規模だぞ。それをたった数か月で、これほどの精度で造り上げてしまうとは……! 南越急行グループの技術力は地球上を超えている!」


米国から移住してきた数千人の航空エンジニアとその家族のために、南越不動産と南越信託銀行は、寺尾海岸沿いに「寺尾シーサイド・エアロスマートシティ」を建設。超高層オーシャンビューマンション、南越国際AIスクール、南越総合病院の分院、そして「スーパーカワサワ」や「南越・佐渡武蔵」が入居する商業エリアが整備され、生活環境も完璧に手厚く保護された。


そして、ビーイング新形R&Dセンターと新工場の完成と同時に、第一号となる次世代大型旅客機「ビーイング・B7xx7・ホワイトラビット・エクスプレス」の試作・開発がスタートした。


本産自動車が開発した軽量超高強度カーボン複合材と、サロナエアコンと共同開発した次世代熱管理ヒートポンプ、南越電力が供給する高エネルギー密度水素燃料電池、そして南越総合大学が開発したAI自動運航OSが融合。従来の航空機に比べて燃料消費量を60%削減し、静音性と快適性を極限まで高めた、世界初の「超エコ・AI次世代旅客機」が新形の地で産声を上げたのである。


春。澄み切った青空が広がる日本海・寺尾沖。


完成した「新新形国際空港」の開港式典、および「ビーイング新形ギガファクトリー」の竣工式が、世界各国の航空関係者や政府要人、メディアを集めて華々しく執り行われた。


3本の巨大な滑走路がまっすぐに伸びる海上人工島ターミナルには、南越エアラインズの機体や、世界中から飛来した国際線の大型旅客機がずらりと並んでいた。新形グランド・クロスブリッジを渡って延伸された新形スカイラインのモノレールが滑るように到着し、大勢の観光客やビジネス客を吐き出していく。


新形テレビ20の8K生中継カメラが全国および全世界へその圧倒的な光景を放映する中、滑走路3号線に、純白の機体に黄金のラインが描かれたビーイング社の試作第一号機「B7107」が静かに入線してきた。


テープカットが執り行われた瞬間、B7107はサロナ・本産共同開発の最新静音エンジンの軽やかな音とともに滑走路を滑走し、一切の揺れもなく新形の上空へと滑らかに飛び立っていった。


大歓声と万雷の拍手が沸き起こる見学デッキで、ビーイング社の米国人CEOが涙を浮かべながら篠原の手を強く握りしめた。


「篠原CEO……20年間、闇の中にいた我が社に、これほどの光と翼を与えてくださるとは……! 米国本土の技術者たちも、新形から届いたこの素晴らしい設計と技術に歓喜しています。ビーイング社は、南越急行グループとともに、再び世界の空の絶対王者として蘇りました!」


篠原は穏やかに微笑み、手にしていたジャスミン茶を静かに口にした。


「我々が提供したのは環境と資金に過ぎません。空を飛びたいという人々の夢と、技術者たちの情熱があったからこそ、この新しい翼が生まれたのです」


隣に立っていた大石専務が、手帳を閉じながら満足げに報告した。


「篠原さん、新型機『B7107』ですが、世界の主要航空会社からすでに2,000機を超える初期受注が舞い込みました。南越通商のグローバル販売網を通じた受注総額は50兆円を突破。新新形国際空港のハブ機能による経済波及効果は、新形県内だけで年間3兆円を超えます」


「ガハハハ!」古賀副社長が豪快に笑い声を響かせた。

「赤字のローカル線から始まった俺たちが、今や海を渡り、空の王者まで手に入れちまったな! 新形の空にこんなでかい空港と工場ができるなんて、夢みたいだぜ!」


新新形国際空港の巨大な管制塔の上空を、新形生まれの新しい翼が美しい飛行機雲を描きながら、世界の大空に向かって羽ばたいていく。


かつて雪深い越後の地で、途切れかけた鉄路を守ることから始まった南越急行の挑戦は、地上を駆け、海を渡り、今や世界の空をも包み込む巨大な未来の翼となって、どこまでも、どこまでも高く飛び続けていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ