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第37章 漆黒の執着と至高の一滴(新形ビバレッジ救済)

第37章 漆黒の執着と至高の一滴(新形ビバレッジ救済)


2052年、秋。


抗がん剤『タケザワ・キャンサーキラー(T-CK01)』の厚生労働省による特別早期承認と、南越急行グループの全自動物流・医療ネットワークを通じた世界展開。かつてハゲタカファンド・ブラックストーンに命の特許を狙われた武沢製薬は、南越急行ホールディングスの圧倒的な資本と南越総合大学、南越総合医療センターとの産学医療連携により、世界中のガン患者へ「生きる希望」を届けるグローバル・バイオ企業へと飛躍を遂げていた。


2兆250億円という前代未聞の株運用益から始まった反撃の物語。地銀(越後中央銀行)の買収、米坂線・山型鉄道の復旧、大手私鉄・北武グループの救済、越後湯澤の全自動MaaS特区「ぶーぶーんシティ」、大手自動車メーカー「本産自動車」の買収と商用車・AIバス事業の劇的復活、地域航空「南越エアラインズ」、新形港のスマート化と「南越海運」、新形都市型モノレール「新形スカイライン」、巨大ゼネコン「南越建設」、全国の血流を支える「南越物流」、広域AIバス網「南越・新形モビリティ交通」、全線複線化を遂げた「なんなん線」、新都・六日町を創り出す「南越不動産」、巨大JRの傘下収容、宿不足を解消した「ホテル・ホワイトラビット」と老舗旅館再生、コメ価格の高騰を打ち砕いた「南越アグリ」、豪雪を防衛した「ラビット・ローダー」、老舗百貨店「伊勢」のドローン配送、人生の安心を託す「南越信託銀行」、命を守る「南越総合医療センター」、未来を開拓する「南越総合大学」、そして命を救う「武沢製薬」。


時価総額12兆円を超え、陸・海・空・金融・製造・建設・医療・教育のすべてを完結させたメガ・コングロマリット。


グループ最高投資責任者(CIO)篠原賢人は、常に冷徹かつ理性的で、揺るぎない「金融の怪物」として、この巨大帝国の舵を取り続けてきた。


どんな巨額の買収劇でも、敵対的TOBでも、過酷な政治的圧力でも、表情ひとつ変えずに最適解を弾き出してきた篠原。


だが——その篠原の鉄の理性を根底から揺るがす、前代未聞の「私的な危機」が、一通の定例報告書によって突如として持ち込まれた。


「……篠原CIO、こちらが今月の越後中央銀行および信託銀行からの地域企業与信・財務モニタリングの定例レポートです」


六日町にある南越急行ホールディングス本社の最高階・超高層役員室。越後中央銀行兼南越信託銀行の頭取・小林が、いつものように恭しく分厚い書類の束を篠原のデスクへ置いた。


応接セットの革椅子には、渡辺会長と長谷川専務も座り、温かいお茶を口にしていた。


「いつもご苦労様です、小林頭取」


篠原はいつものように無表情でジャスミン茶の入ったグラスを口に含み、レポートのページをパラパラと滑らかに捲っていった。


だが、ある中堅清涼飲料水メーカーの査定ページに差し掛かった瞬間。


——ピク。


篠原の指先が、ピタリと止まった。


メガネの奥の切れ上がった瞳が、かつてないほど激しく見開かれる。


「……小林頭取。この『新形ビバレッジ』の査定内容は……一体どういうことですか」


低く、地鳴りのような篠原の声。


渡辺会長と長谷川専務が「ん?」と顔を上げた。あの篠原が、レポートの一箇所を凝視したまま動かないからである。


小林頭取が恐縮した様子で頭を下げた。


「ああ、新形市に本社を置く地元の老舗清涼飲料メーカー『新形ビバレッジ』ですね……。大変残念な状況になっておりまして。本業であるボトリング事業や地元向けのお茶事業は堅調だったのですが、前社長の息子である現社長が、数年前から手を出していた海外の暗号資産・高リスクデリバティブ投資で大失敗しまして……」


小林頭取は苦渋の表情で続けた。


「その穴埋めのために本業の運転資金まで流用し、ついに今月、数十億円規模の債務不履行デフォルトに陥りました。越後中央銀行としても追加融資は不可能な状態です。そこで新形ビバレッジの経営陣は、破産を回避するための最終手段として……同社が誇る最高峰のお茶ブランド『特選一級品』の商標権、茶葉の独占契約権、および製造ラインのすべてを、東京の大手大手飲料メーカー『帝都清涼飲料ホールディングス』へ切り売り・売却する契約を水面下で進めているとのことです」


「……売り渡す……だと?」


篠原の声から、完全に温度が消え去った。


デスクの上のグラス。そこに注がれていたのは、透明感のある淡い琥珀色の液体——新形ビバレッジが厳選された初摘みジャスミン茶葉と越後の天然雪解け水で限定抽出している、まさにその『特選一級品・ジャスミン茶』であった。


篠原は、かつてキオクシェア株への300億円投資を提案した時も、2兆円の利確を決めた時も、ハゲタカファンドを返り討ちにした時も、常にこの新形ビバレッジの『特選一級品・ジャスミン茶』を愛飲していた。


一分一秒を争う極限の市場分析の中で、脳の疲労を癒やし、冷徹な思考を維持するために欠かせない、篠原にとって「生命線」とも言える唯一無二の嗜好品であったのだ。


長谷川専務が首をかしげた。


「新形ビバレッジか……確か『特選一級品』って、うちの本社ビルや『ホテル・ホワイトラビット』の自販機にも入っている高級お茶シリーズだな。大手飲料メーカーにブランドを買い取ってもらえれば、全国のコンビニで買えるようになって、会社も助かるんじゃないのか?」


「長谷川専務……何も分かっておられない」


篠原が、静かに、しかし恐ろしいほどの威圧感を伴って立ち上がった。


「大手清涼飲料メーカーがブランドを買収した後にやることは目に見えています。コストカットと大量生産のために、越後の雪解け水から安価な純水へ切り替え、抽出時間を短縮し、香料と保存料で誤魔化し、茶葉のグレードを二級品以下へ落とす。……クオリティの壊滅です」


篠原は手にしたジャスミン茶のグラスをじっと見つめた。


「この洗練された清涼感、後味に残る絶妙なジャスミンの香り、そして雪解け水ならではの喉越し……。大手メーカーの工場でマスプロダクト化されれば、この味は地球上から永遠に失われます」


渡辺会長が目を丸くした。「し、篠原君……? 君がそんなに熱くなっている姿は、出会ってから初めて見見たぞ……」


篠原はメガネを指でクイと押し上げると、冷然と言い放った。


「渡辺会長。私の冷徹な判断力と金融分析力は、この『特選一級品・ジャスミン茶』によって支えられています。もしこの味が失われれば、私のQOL(生活の質)と意思決定の精度は著しく低下し、我が南越急行グループ全体に年間数千億円規模の潜在的損失が発生します」


「いや、それは流言飛語というか……個人の好みの問題では……!?」長谷川専務が突っ込む。


「個人の問題ではありません。我がグループのトップの脳機能を支える重要インフラの危機です」


篠原は一切の冗談を排した真顔で、ホワイトボードに向かって歩み出た。


「小林頭取。新形ビバレッジの買収・救済手続きを直ちに開始します。大手メーカー『帝都清涼飲料ホールディングス』へのブランド売り渡しを、資本の力で即刻阻止します!」


小林頭取と長谷川専務、渡辺会長は呆然と立ち尽くした。


これまで鉄道、銀行、自動車、航空、建設、病院、大学と、地域の存亡と住民の命を守るために2兆円を使ってきた南越急行ホールディングス。


その歴史上、初めて発動される——「CIOの個人的なお茶の味を守るための超巨大買収作戦」の幕が切って落とされた瞬間であった!


篠原は黒のマーカーを握り締め、不敵で恐ろしい笑みを浮かべながらホワイトボードへ新戦略を叩きつけた。


【南越急行・飲料インフラ買収&至高の味守護作戦(プロジェクト・JASMINE)】


『第一の矢:新形ビバレッジに対する50億円の第三者割当増資引き受けおよび100%完全子会社化』


南越急行ホールディングスが50億円を一括キャッシュ注入。新形ビバレッジの投資失敗による負債を全額返済・完全消滅させ、同社を南越急行グループの食品・飲料部門「南越ビバレッジ(仮称)」として完全傘下収容。


無能な現社長を即座に解任し、現場で伝統の味を守ってきた叩き上げの製造部長を新社長へ昇格。


『第二の矢:『特選一級品』ブランドの永続的クオリティ担保と「極限の垂直統合」』


【茶葉の独占確保】: 台湾および中国の最高級ジャスミン茶葉農園と、南越信託銀行の資金力を使い「50年間の長期独占優先供給契約」を締結。


【水と製造】: 南越建設の手により、南魚沼の最上級雪解け水が湧き出る自家源泉に「最新鋭ボトリング新工場」を建設。


【グループ連動】: 南越アグリのスマート農業技術を茶葉保管庫へ投入し、温度・湿度を完全AI管理。


『第三の矢:大手飲料メガ「帝都清涼飲料ホールディングス」の買収工作粉砕』


新形ビバレッジから『特選一級品』の商標権を安値で掠め取ろうとしている帝都清涼飲料に対し、南越急行の圧倒的資金力と越後中央銀行の与信枠を提示して「手出し無用」の引導を渡す。


長谷川専務が声を張り上げた。


「50億円出して会社を丸ごと買って、海外の茶葉農園と50年契約を結んで、魚沼の雪解け水の前に自前で工場まで建てるのか!? 篠原、たかが自分のお気に入りのジャスミン茶の味を守るためだけに、そこまでやるのか!?」


「たかがではありません」篠原は静かに、しかし絶対的な信念を込めて言った。


「本物の味と職人のこだわりを守ること……それこそが、我が南越急行グループの『インフラ哲学』です。渡辺会長、ご承認いただけますか」


渡辺会長は思わず苦笑いを浮かべたが、力強く頷いた。


「ハハハ! いいじゃないか! 篠原君のジャスミン茶愛には参ったよ。我々をここまで連れてきてくれた篠原君の頭脳を守るためだ。やろうじゃないか!」


「感謝いたします、渡辺会長」篠原が深々と頭を下げた。


その頃。新形市内にある「新形ビバレッジ」の本社役員応接室。


破産の手続きと、愛する『特選一級品』ブランドを大手「帝都清涼飲料」へ売り渡す調印式を数時間後に控え、製造部長から叩き上げで専務を務めていた高橋(50代)は、悔し涙を流しながら一人頭を抱えていた。


「申し訳ありません……ご先祖様……。先代が命を懸けて造り上げたあの『特選一級品』の味を……我が社の誇りを……愚かな投資失敗の穴埋めのために売っ払ってしまうなんて……!」


高橋専務は、卓上に置かれた『特選一級品・ジャスミン茶』のペットボトルを愛おしそうに抱きしめた。


「帝都清涼飲料の連中は『買い取ったらコスト半分の合成香料飲料にして、全国で100円で大量に撒き散らす』と言っていた……。そんなことをされたら、うちのお茶は死んだも同然だ……!」


そこへ、部屋のドアがバタンと開いた。


入ってきたのは、現社長(前社長の息子)と、東京からやってきた「帝都清涼飲料ホールディングス」の買収担当常務・極悪非道な笑みを浮かべる男・鬼頭きとうであった。


鬼頭常務が不品行にソファーへ腰掛け、書類を叩きつけた。


「おい高橋専務、未だに未練がましくお茶のボトルを眺めているのかね? 新形ビバレッジの破産を回避したければ、今すぐこの『特選一級品』の商標・製造権譲渡書にサインしろ。我が社が20億円でこのブランドを買い取ってやる。……まあ、買収後は君たちの古臭い製法や高い茶葉なんて全部廃止して、我が社の化学プラントで安く大量生産させてもらうがねハハハ!」


社長が揉み手をしながらへつらう。「鬼頭常務、ありがとうございます! 20億円あれば私の借金も帳消しです! 高橋、さっさとサインしろ!」


「くっ……! あんたらには……技術者の血も、お茶への愛もないのか!」高橋専務が拳を握り締め、震えた。


「愛で会社が救えるかバカめ! サインしないなら今すぐ新形ビバレッジを破産させて全員路頭に迷わせるぞ!」鬼頭常務が吐き捨てた、その時。


ドオン——!!


応接室の重い扉が、力強く押し開かれた。


入ってきたのは、南越急行ホールディングスの渡辺会長、長谷川専務、越後中央銀行の小林頭取、そして最高投資責任者(CIO)篠原賢人であった!


鬼頭常務が眉をひそめた。「あ……あんだお前たちは!? 部外者は出て行け!」


篠原は一切鬼頭を視界に入れず、静かに歩み出ると、革のセカンドバッグから一冊の黄金色の協定書を取り出し、テーブルの真ん中に置いた。


『新形ビバレッジに対する50億円の第三者割当増資引き受けおよび「南越ビバレッジ」完全子会社化包括提携書』


高橋専務が目を見張り、震える手で書類を開いた。そこに書かれていた驚天動地の支援内容を目にした瞬間、彼の声が激しく震えた。


「な……なんですかこれは……!? 50億円の資金注入……!? 新形ビバレッジの負債全額肩代わり……!? さらに……『特選一級品』ブランドの製法・茶葉・雪解け水の完全永久保全……!? 現社長を解任し、私を新社長へ昇格……!? 夢か……!? 倒産寸前の我が社を、なぜここまでして救ってくださるのですか!?」


鬼頭常務が弾かれたように立ち上がった!


「な……南越急行だと!? あの時価総額10兆円の化け物企業が、なぜこんな地方の弱小お茶メーカーに手を出すんだ!? 20億円で『特選一級品』を買うのは我が帝都清涼飲料だぞ!」


篠原が初めて、冷ややかに鬼頭常務へ視線を向けた。


その瞳には、ハゲタカファンドを二度返り討ちにした「金融の怪物」としての恐ろしいまでの漆黒の光が宿っていた。


「鬼頭常務。20億円などという雀の涙の提示で、我が愛する『特選一級品』の味を汚させはしない」


篠原は一歩踏み出し、冷然と言い放った。


「我が南越急行ホールディングスは今この瞬間、50億円の一括キャッシュで新形ビバレッジの過半数株式を取得した。貴殿らとのブランド譲渡交渉は、すべて無効・破談だ」


「な……なにぃっ!? 卑怯だぞ! 我が帝都清涼飲料は全国の流通網を握っているんだぞ! 南越急行が邪魔をするなら、お前たちの自販機やホテルから我が社の商品をすべて締め出してやる!」鬼頭常務が叫ぶ。


篠原の口元に、不敵で恐ろしい笑みが浮かんだ。


「締め出す? 結構です。我がグループには、自前の『ホテル・ホワイトラビット』があり、自前の『伊勢百貨店ドローン配送』があり、自前の『グランド・キャブオールAIバス』があり、自前の『なんなん線・駅ナカ』があります。……貴社の商品など、我がグループの敷地内から一本残らず即座に撤去・契約解除させていただきます」


「ひっ……!?」鬼頭常務の顔面から血の気が引いた!


南越急行グループの敷地・施設から締め出されることは、清涼飲料メーカーにとって東日本市場の巨大なシェアを一瞬で失うことを意味していた。


篠原はさらに追い打ちをかけた。


「さらに、貴社が新形ビバレッジの足元を見て安値でブランドを叩き売らせようとした悪質な買収工作について、我が傘下の『新形テレビ20』が本日夕方の8Kトップニュースで全国放送いたします。法的にも、社会的にも、我がグループの法務部が徹底的に追及いたします」


「ひいいいっ……! 降参だ! 撤退する! 撤退させてくれぇっ!」


鬼頭常務と無能な現社長は、青ざめた顔で悲鳴を上げながら、逃げるように応接室から一目散に走り去っていったのである!


静まり返った応接室。


高橋専務は畳に突っ伏し、激しい泣き声とともに深く、深く頭を下げた。


「ありがとうございます……! ありがとうございます南越急行様……! 我が社の誇りである『特選一級品』の味を……職人たちの魂を……救ってくださって……!」


渡辺会長が、高橋専務の肩を優しく叩いた。


「高橋新社長。お礼なら、そこにいる篠原CIOに言いなさい。彼はね……世界で一番、あなた方の作っているジャスミン茶を愛しているんだよ」


高橋新社長が涙を拭いながら篠原を見上げると、篠原は穏やかに微笑み、テーブルの上のジャスミン茶のボトルを手に取った。


「高橋社長。お金の心配はすべて我がグループと越後中央銀行が引き受けます。新工場も、世界最高の茶葉も、すべて用意します。……あなたは、一滴の妥協もない『至高の味』を作り続けることだけに、100%の情熱を注いでください」


「はい……! はいっ! 命を懸けて、最高のお茶を作り続けます!」


プロジェクトは即座に、凄まじいスピードで始動した。


新形ビバレッジは「南越ビバレッジ」として南越急行グループの完全子会社へ改編され、負債は一瞬で全額完済。


南越建設の「全自動施工チーム」により、南魚沼の絶景の雪解け水湧水地に、最新鋭の衛生・AI品質管理を備えた「南越ビバレッジ・魚沼新工場」が建設された。


さらに、篠原の指示により、台湾および中国の最高峰茶園と50年間の長期優先契約が結ばれ、最高級の初摘みジャスミン茶葉が潤沢に工場へ直送された。


そして、南越アグリの温度・湿度自動管理システムと、南越車輌の特殊超高精度抽出タンクが導入され、『特選一級品・ジャスミン茶』のクオリティは、従来の市販品の領域を完全に超えた「至高の芸術品」へと昇華を遂げたのである!


2053年、春。


新生『特選一級品・ジャスミン茶』の全国解禁の日。


新発売された商品は、南越急行の自前物流網——「南越物流」のトラック隊、「南越・新形モビリティ交通」のAIバス、「南越エアラインズ」、そして「伊勢」のドローン配送「ラビット・スカイフリート」により、全国、そして世界中の拠点へ一斉に配給された。


「なにこれ……!? 今までのジャスミン茶と全然違う! すごく爽やかで、雪解け水みたいに澄んでいて、本物のジャスミンの良い香りがする!」


「伊勢のアプリで頼んだら、10分でキンキンに冷えた高級ジャスミン茶が家にドローンで届いたよ!」


「ホテル・ホワイトラビットの部屋に置いてあるこのお茶、美味しすぎて感動した!」


SNSや口コミ、そして新形テレビ20の特集放送により評判は大爆発!


『至高の清涼感・南越ビバレッジの特選一級品シリーズ、空前の大ヒット! 海外からも注文殺到!』


これまで一部のファンにしか知られていなかったローカルブランドが、南越急行の潤沢な資本と完璧な物流・品質管理によって、日本を代表する最高峰プレミアム飲料ブランドへと劇的な大化けを果たしたのである!


南越ビバレッジの業績は過去最高益を叩き出し、高橋新社長と工場で働く職人たちの誇らしげな笑顔が、魚沼の新工場に溢れていた。


春の陽光が降り注ぐ、六日町の本社ビル最高階・超高層役員室。


静かな夕刻。篠原賢人は、自分のデスクでノートパソコンに向かいながら、新しく届いた『特選一級品・ジャスミン茶』のグラスをゆっくりと傾けていた。


コチリ、と氷が心地よい音を立てる。


グラスを口に含んだ篠原の表情に、かつてないほど深く、満足気な笑みが浮かんだ。


「……完璧です。雪解け水の澄んだ甘みと、初摘み茶葉の香りが、寸分の狂いもなく調和している……」


部屋のドアが開き、渡辺会長と長谷川専務が入ってきた。


長谷川専務が、月次決算データを手に大笑いしながら言った。


「ハハハ! 見ろよ篠原! 自分のジャスミン茶の味を守るためだけに50億円ブチ込んだ『南越ビバレッジ』だが、今やグループの中で一番の成長率で大儲けしているぞ! 全国から『あのジャスミン茶をうちのスーパーにも置かせてくれ』と悲鳴のような注文が殺到しているんだからな!」


渡辺会長も温かいお茶を手に、嬉しそうに頷いた。


「篠原君。最初は君の個人的なわがままかと思って驚いたが……やっぱり君の目に狂いはなかったな。本物のこだわりと誇りを守ることが、結果として最高のビジネスになるんだな」


篠原は静かにグラスを置き、メガネのふちを上げながら、窓の外に広がる越後の美しき街並みを見つめた。


「渡辺会長、長谷川専務。妥協した偽物は、いつか市場から消え去ります。ですが、妥協のない本物の情熱と味は、時代を超えて人々の心を打ちます。……我がグループの資金は、この新形の誇りと本物を守るためにあったのです」


渡辺会長が立ち上がり、夕日に照らされる新都市・六日町と、遠くの線路を走る超高速AI電車「NK3500系」に向かって力強く胸を張った。


「篠原君。我々はかつて『なんたか』を失い、消えていくのを待つだけの会社だった。だが今、我々は自分たちの技術と資金で、どんなに小さなことでも自分たちの誇りと愛するものを、100%守り抜く強さを手に入れたんだな」


「はい、渡辺会長。我々の創り出す至高の未来に、終着駅はありません」


夕日を浴びて黄金色に輝くグラスの中のジャスミン茶。


遠く高架の上を、時速160キロで滑らかに駆け抜けていく超高速AI電車「NK3500系」。


2兆250億円という前代未聞の純利益から始まった、弱小第三セクター「南越急行」の奇跡の反撃劇。


不滅の情熱と地域の絆、そして「至高の味へのこだわり」までも胸に刻んだ彼らの走るレールと未来は、鉄道、地銀、自動車、航空、港湾、建設、物流、報道、ホテル、食卓、豪雪防衛、百貨店、人生の信託、手厚き医療、未来の教育、創薬、そして「本物の食文化(南越ビバレッジ)」までも自前で繋ぎ合わせ、どこまでも、どこまでも光り輝く未来へ向かって、永久に力強く走り続けていくのだった。

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