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第35章 叡智の泉と未来の開拓者たち(南越総合大学誕生)

第35章 叡智の泉と未来の開拓者たち(南越総合大学誕生)


2049年、夏。


破産寸前だった南越中央病院を完全買収・再生し、160km/h対応AI電車をベースにした世界初の「超高速医療特急(NK3500-MED)」や自動運転大型医療EVバス「本産・メディカルバス」を投入した南越急行ホールディングス。過疎地・山間部の隅々にまで手厚い高度医療を行き渡らせる「モバイル・メディカル・エコシステム」の完成により、新形県は「世界で最も健康で安心して暮らせる奇跡の地域」として、その名を世界に轟かせていた。


2兆250億円という前代未聞の株運用益から始まった反撃の物語。地銀(越後中央銀行)の買収、被災ローカル線(米坂線・山型鉄道)の復旧、大手私鉄・北武グループのホワイトナイト救済、越後湯澤の全自動MaaS特区「ぶーぶーんシティ」、大手自動車メーカー「本産自動車」の買収と商用車・AIバス事業の劇的復活、地域航空「南越エアラインズ」、新形港のスマート化と「南越海運」、新形都市型モノレール「新形スカイライン」、巨大ゼネコン「南越建設」、全国の血流を支える「南越物流」、広域AIバス網「南越・新形モビリティ交通」、全線複線化を遂げた「なんなん線」、新都・六日町を創り出す「南越不動産」、巨大JRの傘下収容、宿泊インフラを救った「ホテル・ホワイトラビット」と暖簾再生、コメ価格の高騰を打ち砕いた「南越アグリ」、豪雪を防衛した「ラビット・ローダー」、老舗百貨店「伊勢」のドローン配送、人生の安心を託す「南越信託銀行」、そして命を守る「医療インフラ再生」。


鉄道、金融、自動車、航空、港湾、海運、建設、物流、報道、不動産、ホテル、農業、防災、商業、医療——。あらゆる生活・社会インフラを自前で繋ぎ合わせ、時価総額10兆円規模の超巨大インフラ・コングロマリットへと結実した南越急行グループ。


だが、この前代未聞の爆発的成長と事業領域の広がりが、グループ全体に過去最大の「決定的なボトルネック(限界)」を突きつけていた。


高次元の高度専門人材の絶対的不足である。


「篠原……もう限界を通り越してパンク寸前だ! 各子会社の社長連中から、毎日悲鳴のような人材確保要請が届いているぞ!」


六日町にある南越急行ホールディングス本社の最高階・超高層役員室。専務の長谷川が、山積みにされた各子会社からの人事増員要求書をデスクに叩きつけた。


「南越車輌じゃ『NK3500系』の海外輸出が倍増して最新のパワートレインエンジニアが数百人足りない! 本産自動車じゃレベル5自動運転AIのアルゴリズムを書けるトップITエンジニアが喉から手が出るほど欲しい! 南越建設じゃ全自動掘削重機のプログラムを組めるスマート土木技師が不足し、南越アグリじゃドローン農薬散布と土壌分析のバイオ博士が足りない! 南越信託銀行や南越海運、南越エアラインズ、南越総合医療センターだってそうだ! どこへ行っても『高度な専門知識を持った若手人材をよこせ』と怒号が飛んでいるんだぞ!」


最高投資責任者(CIO)篠原賢人は、静かにノートパソコンの画面を巨大モニターへ投影した。


「長谷川専務の仰る通りです。現在の我がグループの事業は、従来の『鉄道会社』の枠組みを完全に脱しています」


篠原は冷徹なデータとともに、グループの人材ポートフォリオを画面に映し出した。


「我がグループが今求めているのは、単なるマニュアル通りの総合職ではありません。先端AI、量子コンピューティング、航空宇宙工学、自動運転制御、バイオゲノム農業、国際金融・信託法務、高度外科医療、高度港湾物流といった、世界トップクラスの専門知識と現場の熱意を兼ね備えた『次世代の高度専門人材』です」


篠原は画面を切り替えた。そこに映し出されたのは、全国的な急速な少子化の波と、東京一極集中によって全国の地方大学が直面している惨状であった。


「しかし、既存の採用市場(新卒一括採用や中途引き抜き)だけに頼っていては、世界中のGAFAMや大手外資ファンドとの空前の人材獲得合戦に勝ち続けることは不可能です。さらに、東京の有名大学を出たエリートたちは、地方の現場の匂いや地域の情熱を理解していないケースも多い」


渡辺会長が深々と革椅子にもたれかかり、腕を組んだ。


「外から人を買い叩いて連れてくるだけでは、いずれ組織の心が荒んでしまうな……。篠原君、我々が喉から手が出るほど欲しい『夢と技術と情熱を持った人材』を、自分たちの手で育てる術はないか?」


篠原の瞳に、鋭く青い光が宿った。


「あります、渡辺会長。危機に瀕している地元の『ある教育機関』を、我がグループの資金力と技術で丸ごと完全再生させます」


篠原はスクリーンに、新形市郊外の小高い丘の上に建つ、静まり返ったキャンパスの写真を映し出した。


『学校法人 新形学園・南越総合大学(全5学部・学生数約1,500名) 経営危機および定員割れ調査書』


長谷川専務が目を見開いた。「南越総合大学(旧・新形国際大学)か! 地元の伝統ある私立大学だが……確か近年は少子化と都心回帰で激しい定員割れを起こし、毎年数億円の赤字を出して潰れかけていると聞いたぞ!」


「ええ。来年度の募集停止と破産申請を検討している段階です」


小林頭取率いる越後中央銀行からの査定書を示しながら、篠原が続けた。


「ですが、南越総合大学には広大な敷地と、歴史ある基礎研究設備、そして何より『地元の若者たちが地域で高度な学問を学びたい』という情熱が残されています。……我がグループが1,000億円の緊急資金を注入して大学を丸ごと買収・子会社化し、日本の高等教育の常識を覆す『世界最高の企業直結型・高度実学総合大学』へと生まれ変わらせます!」


篠原はホワイトボードに、新構想を鮮やかに書き打った。


【南越急行・教育イノベーション構想(プロジェクト・ACADEMY)】


『第一の矢:学校法人新形学園の完全傘下収容(1,000億円の資金注入)と「新・南越総合大学」への改編』


南越急行ホールディングスが過去の負債を全額キャッシュで一括返済し、理事長以下経営陣を刷新。キャンパスを南越建設の施工により最新鋭の「スマート・AIグリーンキャンパス」へ全面建て替え。


『第二の矢:グループ各社と100%完全連動する「超専門・実践型7学部」の開設』


【モビリティ・AI工学部】: 本産自動車・南越車輌のトップエンジニアが教授陣として着任。自動運転AI、EV電池、鉄道車両制御を実車で研究。


【スマート土木・建築学部】: 南越建設の現場と直結。AI重機掘削、耐震免震構造、スマートシティ都市計画を実地学習。


【アグリ・バイオ生命科学部】: 南越アグリの広大な農地を実験場とし、ドローン農業、ゲノム品種改良、地熱農業を研究。


【国際物流・航空海運学部】: 南越エアラインズ、南越海運、南越物流の実務データを使用。国際サプライチェーンと港湾自動化を実践。


【先進医療・看護福祉学部】: 南越総合医療センター(旧南越中央病院)が付属病院化。最新の手術ロボットや医療特急「NK3500-MED」の実習を実施。


【地域金融・信託法務学部】: 越後中央銀行・南越信託銀行の現役バンカーが講義。資産承継、事業再生、フィンテックを直伝。


【メディア・イノベーション学部】: 新形テレビ20のスタジオや機材を活用。8K映像制作、ジャーナリズム、ドローン空撮を習得。


『第三の矢:日本の高等教育を破壊する「授業料完全無償化 & 卒業即・グループ幹部候補採用」制度』


入学金・学費(4年間約500万円)を、南越急行の「地域未来ファンド」から全額無償給付(実質学費ゼロ)。


学生には在学中から月額15万円の「生活奨学金(返済不要)」を給付。卒業後は、本人の希望に応じて南越急行グループ各社へ「幹部候補・即戦力エンジニア」として100%優先採用保証。


長谷川専務が立ち上がり、声を張り上げた。


「学費が4年間タダで、毎月15万円のお小遣い(生活費)までもらえて、世界の最先端技術を本物のプロから学べて、卒業したらうちのグループの幹部候補になれるのか!? 篠原、そんな夢のような大学を作ったら、全国……いや世界中から頭のいい若者が殺到するぞ!」


「殺到させます」篠原は不敵に微笑んだ。


「既存の大学は、役に立たない座学と高い学費でお金と時間を削り、就職活動という理不尽なゲームで学生を疲弊させています。我が『南越総合大学』は違います。学費の心配を一切させず、研究と実践だけに没頭させ、卒業と同時に我がグループの巨大なインフラを動かす最高峰の技術者として迎え入れる。自前で大学を持ち、自前で最高の人材を育てる……これこそが、メガコンツェルンとしての最後の完全自給自足です!」


渡辺会長が力強くデスクを叩き、満面の笑みを浮かべた。


「素晴らしい! 篠原君、すぐに南越総合大学の理事会に向かおう! 新形から、世界を驚かせる『知の拠点』を打ち立てるんだ!」


その頃、新形市郊外にある南越総合大学(旧・新形国際大学)の理事長室。


理事長の山根(60代・経済学博士)は、青ざめた顔で大学の解散申請書類と、給与遅配に怯える教授陣からの辞表の山を見つめていた。


「申し訳ない……学生たち……そして教職員のみんな……。地方の少子化の波に抗えず、我が大学の歴史を私の代で終わらせてしまう……」


山根理事長の目から、絶望の涙がボロボロと零れ落ちていた。


そこへ、重いドアが開き、南越急行ホールディングスの渡辺会長、長谷川専務、そして篠原賢人が入ってきた。


山根理事長は驚いて立ち上がった。「渡辺会長……篠原CIO……! なぜこのような破綻寸前の大学へ……」


篠原が静かに、厚い協定書をテーブルの上に置いた。


『学校法人新形学園に対する1,000億円の出資および「新・南越総合大学」再生包括協定書』


山根理事長が震える手で書類を開いた。そこに書かれていた目眩のするような支援内容を目にした瞬間、彼の声が激しく震えた。


「な……なんですかこれは……!? 1,000億円の資金投入……!? 大学の過去の負債の全額肩代わり……!? さらに……キャンパスの全面建て替えと、全学生の授業料完全無償化……!? 夢でしょう! 倒産寸前の我が大学を、なぜここまでして救ってくださるのですか!?」


渡辺会長が、山根理事長の手を深く、強く握りしめた。


「山根理事長。私どももかつて『なんたか』を失い、消滅寸前の絶望の中にいた。……だがな、この新形の地で、若者たちが夢を抱いて学問に励み、技術を磨く場を、金の都合で潰させてたまるか!」


渡辺会長は窓の外の広いキャンパスを見つめ、静かに語った。


「お金の心配はすべて我々が引き受ける。世界一の実験設備も、最新の校舎も、全部我々が建てる。……君たちは、世界を驚かせる素晴らしい若者を育てることだけに100%専念してくれ!」


山根理事長は畳に突っ伏し、激しい泣き声とともに深く頭を下げた。


「ありがとうございます……! ありがとうございます南越急行様……! 命を懸けて……最高の教育と研究の場を創り上げます……!」


プロジェクトは即座に、凄まじいスピードで始動した。


まず、南越建設の「全自動施工チーム」の手によって、広大なキャンパス内に太陽光パネルと地熱発電を組み合わせた最新鋭のガラス張り超高層研究棟『南越イノベーションタワー』と、AI全自動図書館、全天候型実験場が一斉に着工された。


さらに、本産自動車のAI研究チーム、南越車輌の技師長・村上、南越建設の社長・井上、南越総合医療センターの川田理事長、南越信託銀行の小林頭取など、グループ各社の「現場のトップ」が教授・客員教授として一斉に就任。


そして、「授業料完全無償・月15万円の生活奨学金給付・グループ幹部100%採用保証」という破天荒な募集要項が全国・世界へ公表されると、高等教育界に地鳴りのような激震が走った。


「学費がタダで毎月15万円もらえて、本産自動車の自動運転や南越急行の超高速電車、最先端AI医療の実車で研究できて、卒業したら即・高給の幹部候補!? こんな大学、地球上に存在しないぞ!」


全国の優秀な高校生、高専生はもちろんのこと、東京の有名進学校のトップ層、さらにはアメリカ、欧州、アジアの海外留学生たちからの応募が殺到。倍率は異例の「30倍」を突破し、一瞬にして偏差値・研究レベルともに国内トップレベルの超難関・最先端大学へと化けたのである。


そして2050年、春。


桜が満開に咲き誇る新キャンパスで、新生『南越総合大学』の第1期入学式が盛大に執り行われた。


式典会場の「南越ホール」には、全国・世界から難関を突破して集まった、希望に満ち溢れた2,000名の新入生たちがズラリと並んでいた。


壇上に立ったのは、渡辺会長、篠原、そして新しく学長に就任した山根であった。


篠原がマイクの前に立ち、新入生たちへ向かって静かに、しかし熱く語りかけた。


「新入生の皆さん、入学おめでとう。今日から皆さんには、学費や生活費の心配は一切いりません。その代わり、皆さんに一つだけ求むことがあります。それは……『固定観念を打ち破り、世界を良くするための尖った情熱』です」


篠原はキャンパスの外の景色を指差し、言葉を続けた。


「我が南越急行グループは、かつて雪の中で消えゆくはずだった小さなローカル線でした。しかし、我々は諦めず、技術と資金と情熱で、鉄道、銀行、自動車、航空、建設、医療など、あらゆる壁を打ち破り、この新形に新しい未来を創り出してきました。今日から皆さんが学ぶのは、教科書の古くさい知識ではありません。この新形の大地と、我がグループの巨大な現場そのものが、皆さんの実験場です!」


「存分に学び、失敗し、新しい技術を創り出しなさい。皆さんが作った新しいAI、新しいエンジン、新しい農業、新しい医療が、明日からの我がグループの、そして世界のインフラを動かすのです!」


会場の新入生たちから、割れんばかりの嵐のような拍手と大歓声が巻き起こった。学生たちの瞳には、未来への圧倒的な希望と情熱が燃え上がっていた。


入学式が終わると、新入生たちは早速、各学部の最先端実験場へと向かった。


モビリティ・AI工学部の実験場では、本産自動車と南越車輌から提供された「NK3500系」の実車や「ぶーぶーん・ポッド」のレベル5自動運転コードを、学生たちが教授陣(現役エンジニア)とともに直接分解・解析。


スマート土木・建築学部では、南越建設の全自動シールドマシンの遠隔操作VRルームで、学生たちが実際のトンネル掘削プログラムを構築。


先進医療・看護福祉学部では、南越総合医療センターの最新手術ロボットや医療特急「NK3500-MED」の実車を使い、学生たちが現場の医師から直接指導を受けていた。


「すごい……! 教科書でしか見たことのない本物の最新AIや医療機器を、1年生の時から直接触って自分の手で動かせるなんて! こんな楽しい大学、絶対他にないよ!」


「卒業したら南越車輌に入って、時速300キロで走る新しい超高速電車を設計するのが僕の夢です!」


学生たちの弾けるような笑顔と熱気が、キャンパスの隅々にまで満ち溢れていた。


かつて赤字で途絶えかけていた南越総合大学は、南越急行の潤沢な資金と現場の力によって、世界中の才能と情熱が集まる「知の絶対的ハブ(拠点)」へと劇的に進化を遂げたのである。


春の夕暮れ時。


南越総合大学の最上階「南越イノベーションタワー」のスカイラウンジ。


眼下に広がる緑豊かなスマートキャンパスと、新形市内の街並み、そして遠くの高架を疾走していく超高速AI電車「NK3500系」を見下ろしながら、渡辺会長、長谷川専務、篠原、そして山根学長の四人がグラスを手に並んでいた。


山根学長が、感無量の面持ちで目元を熱くしながら言った。


「渡辺会長、篠原CIO……感謝の言葉もございません。破綻寸前だった我が大学が、こんなにも素晴らしく生まれ変わり、世界中から素晴らしい若者たちが集まって未来を語り合っている……。これが、本当の教育の姿ですね」


長谷川専務も嬉しそうに頷いた。


「すごい景色だなあ、篠原! キャンパスの中で若い奴らが目を輝かせて、うちの電車のAIや本産の車のエンジンを分解して議論しているんだからな! これでうちのグループの『人材不足』も一気に解決どころか、世界一の頭脳集団になっちまうぞ!」


篠原は穏やかな笑みを浮かべ、窓の外の青空を見つめた。


「長谷川専務、山根学長。資金や技術をどれほど積み上げようとも、それを動かし、次の時代を創り出すのは『人間(若者たち)』です。我がグループの2兆円から始まった資金は、こうして『未来の開拓者たち』を育てる恵みの水となったのです」


渡辺会長が立ち上がり、夕日に照らされる越後の大地に向かって力強く胸を張った。


「篠原君。かつて我々は『なんたか』を失い、消えていくのを待つだけの会社だった。だが今、我々は自分たちの手で、次の100年の日本と世界を背負って立つ『若い希望の芽』を、この新形の地に無限に育み続けているんだな」


「はい、渡辺会長。我々の創り出す知と情熱の未来に、終着駅はありません」


遠く高架の上を、時速160キロで滑らかに駆け抜けていく超高速AI電車「NK3500系」。


その流線型の車体に描かれた「ホワイトラビット」のマークは、夕日を浴びて、どこまでも神々しく輝いていた。


2兆250億円という前代未聞の純利益から始まった、弱小第三セクター「南越急行」の奇跡の反撃劇。


不滅の情熱と地域の絆を胸に刻んだ彼らの走るレールと未来は、鉄道、地銀、自動車、航空、港湾、建設、物流、報道、ホテル、食卓、豪雪防衛、百貨店、人生の信託、手厚き医療、そして「未来を拓く教育(南越総合大学)」までも自前で繋ぎ合わせ、どこまでも、どこまでも光り輝く未来へ向かって、永久に力強く走り続けていくのだった。

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