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第34章 命を守る動く大病院(医療信託と病院再生)

第34章 命を守る動く大病院(医療信託と病院再生)


2048年、冬。


地方初となる本格的総合信託銀行「南越信託銀行」の設立により、激増する超高齢社会における「資産凍結」と「悪質詐欺」の脅威を鉄壁のガードで打ち砕いた南越急行ホールディングス。


認知症になろうとも安心した介護・生活が保障され、後継者のいない農地は「南越アグリ」によって永久に黄金色の稲穂を実らせ、人生の終着点まで「誇りと安心」が保たれる革新的な信託システムは、新形県民のみならず全国から絶大な称賛を浴びていた。


だが——南越信託銀行の立ち上げを無事に成功させ、県内各地の高齢者たちから「これで安心して老後を過ごせる」と感謝の言葉をかけられる日々の中で、越後中央銀行兼南越信託銀行の頭取・小林の心には、なお消えぬ一つの大きな「引っかかり」が存在していた。


どれほど個人資産や農地が法的にガードされ、生活資金がスムーズに引き出せるようになろうとも、人間の身体は歳月とともに確実に病に侵され、老いていく。


そして、その人間の命と健康を土台から支えるべき「地域の医療現場」が、今や崩壊の深淵に立たされていたからである。


「篠原CIO……お忙しいところ、折り入ってご相談したいことがございます」


雪が静かに舞い降る夕刻。六日町にある南越急行ホールディングス本社の最高階・超高層役員室。


越後中央銀行の小林頭取は、一冊の分厚い医療財務調査レポートを手に、最高投資責任者(CIO)篠原賢人のデスクの前に立っていた。


応接セットの革椅子には、渡辺会長と長谷川専務も同席していた。


「小林頭取、信託銀行の立ち上げは絶好調とお聞きしていますよ。何か新たな課題でも?」渡辺会長が温かいお茶を差し出しながら問いかける。


小林頭取は深く一礼し、抱えていたレポートをテーブルの上に静かに広げた。


そこに書かれていたタイトルは——


『南越中央病院 経営危機・破綻リスク調査書、および信託連携型「生涯高度医療サービス」創出に関する提案書』


「渡辺会長、篠原CIO、長谷川専務。無事に信託銀行を立ち上げ、お客様からお預かりした資産や土地を守る仕組みは完成いたしました。ですが……お客様が本当の意味で『心から満足のいく、幸せで健やかな老後』を送るためには、お金や土地の保全だけでは片落ちなのです」


小林頭取の声が、を切実に帯びる。


「人が最期まで安心して生きるために、最も不可欠なもの……それは『いつでも、どんな場所にいても受けられる手厚く高度な医療』です」


小林頭取はレポートのページを繰った。そこに映し出されていたのは、南大沼市を中心に奥越後エリアの地域医療を一手に担ってきた総合病院——『南越中央病院(全400病床)』の凄惨な財務データと、院内の老朽化した写真群であった。


長谷川専務が目を見開いた。「南越中央病院と言えば、この地域の救急もガン治療も高度手術も全部引き受けてくれている、俺たちの命の綱じゃないか! ここが……経営不振なのか!?」


「不振どころか、来月にも資金繰りがショートし、民事再生法を申請せざるを得ない完全な倒産寸前です」


小林頭取の顔に苦渋の色が滲む。


「原因は三つあります。第一に、バブル期に建設した大型病棟の老朽化と、数億〜数十億円単位かかる最新医療機器(MRI、CT、ガン放射線治療器など)への更新資金の完全な枯渇。第二に、医師や看護師の過酷な連続勤務による離職のスパイラル。そして第三に……過疎地・山間部に住む通院困難な高齢者の増大です」


小林頭取は、雪深い山間集落の写真を示した。


「現在、足腰が立たなくなった独居高齢者や、雪で道路が閉ざされた集落のお年寄りが、病院に通うことすらできずに自宅で病状を悪化させ、手遅れになって搬送されるケースが激増しています。南越中央病院の医師たちも、限られたスタッフで広大な山間部へ往診に向かおうとしていますが、移動だけで体力を削られ、病院本体の救急や手術が回らなくなるという最悪の悪循環に陥っているのです」


小林頭取は、篠原の目を真っ直ぐに見つめた。


「篠原CIO。先日立ち上げた『南越信託銀行』の個人信託サービスと、この『南越中央病院』を完全にドッキング(連携)させることはできないでしょうか! 資産を信託してくださったお客様に対し、優先的かつ手厚い高度医療サービスと予防検診を無償・格安で提供する。そしてもう一つ……」


小林頭取は身を乗り出し、切痛な思いを訴えた。


「病院に通うことができない山間部のお年寄りの元へ、病院の方から出向いていく『移動型の高度医療サービス』……それも、雪道でも一切止まらず、車内で本格的なCT撮影や透析、簡易手術までこなせる『動く大病院』を、我がグループの技術で創り出すことはできないでしょうか!」


長谷川専務が膝を打った。「動く大病院だと……!? 病院に通えないなら、病院そのものを列車や車に乗せてお年寄りの家の前まで走らせるっていうのか!」


篠原は静かにジャスミン茶を一口含み、メガネの奥の瞳を鋭く光らせた。


「小林頭取。実に素晴らしい、本質を捉えた相談です」


篠原はノートパソコンを開き、滑らかな手つきで画面を巨大モニターへ投影させた。


「医療は、交通や住宅、食料と並ぶ『絶対的インフラ』です。病に怯え、病院に通えず自宅で苦しむお年寄りを放置したままでは、我がグループがどれほど経済を発展させようとも、真の豊かさとは言えません」


篠原の口元に、不敵で温かい笑みが浮かんだ。


「我が南越急行グループの2兆円から始まった資金力と、親銀行である越後中央銀行の融資枠、さらには『南越車輌』の鉄道技術、『本産自動車』のEV・自動運転技術、『南越建設』の施工力、そして『南越物流』のネットワークを総結集し……南越中央病院の完全買収・再生と、世界初の『モバイル・メディカル・エコシステム(移動型高度医療網)』を構築します!」


篠原はホワイトボードに、新構想を鮮やかに書き打った。


【南越急行・地域医療イノベーション構想(プロジェクト・MEDICAL RABBIT)】


『第一の矢:南越中央病院の完全子会社化(500億円の緊急資金注入)と「最新医療タワー」の建設』


南越急行ホールディングスが南越中央病院の累積赤字および数億円の債務を全額キャッシュで一括返済し、完全傘下(医療法人「南越会」)として収容。


南越建設の施工により、老朽化した病棟を免震構造の最新型スマート医療タワーへと全面建て替え。世界最高峰のAI画像診断CT・MRI、ガン粒子線治療器、自動手術ロボットを一括キャッシュ導入。


医師・看護師の給与水準を首都圏の大手大学病院以上に引き上げ、全国から優秀な医療スタッフを大量公募・増員。過労死レベルの連続勤務を完全撤廃。


『第二の矢:南越信託銀行連携型「生涯優先高度医療・健康安心信託」プログラム』


南越信託銀行の信託契約者(高齢者)に対し、南越中央病院での「生涯完全優先受診権」「年1回のAI超精密人間ドック無償化」「24時間オンラインAI問診&医師直通ホットライン」を提供。


信託口座から医療費・入院費が自動でスムーズに決済され、家族の手続き負担をゼロ化。


『第三の矢:世界初の医療特化型車両「NK3500系・動く高度医療特急メディカル・レール」および自動運転医療EV「本産・グランド・メディカルバス」の製造・全国展開』


【陸の線路】: 南越車輌が開発した160km/h対応AI電車「NK3500系」をベースに、車内全体が本格的な病院(ICU、手術室、透析室、AI-CTスキャン室、バリアフリー病床)となった「超高速医療特急(NK3500-MED)」を新造。なんなん線・米坂線・JR北日本の路線網を疾走し、過疎地の各駅へ「駅前動く総合病院」として横付け。


【陸の道路】: 本産自動車の「グランド・キャブオール」を改造した、全自動運転型の大型医療EVバス「本産・メディカルバス」を100台導入。雪深い山間集落や過疎地の公民館前、独居高齢者の玄関横まで乗り付け、車内でCT撮影、血液検査、オンライン遠隔専門医診察、処方薬の即時調剤・授与を完全完結。


長谷川専務が立ち上がり、声を張り上げた。


「す、すごすぎる……! 病院を丸ごとピカピカにして医者をドカンと増やし、信託に入ったお年寄りは優先で最高の人間ドックが受けられて、山奥のお年寄りにはCTや手術室を載せた特急電車やAIバスが玄関までやってくるのか!?」


「そうです」篠原は不敵に微笑んだ。


「外資系ファンドや都市部の医療法人は、赤字の地方病院を『採算が取れない』と切り捨て、老人の命を見捨ててきました。ですが、我がグループには自前で電車を作る技術も、自前で車を作る技術も、自前で街を建てる技術も、それらを支える2兆円のキャッシュもあります。誰一人として医療から取り残さない……これこそが、我がグループの目指す究極のインフラです!」


渡辺会長が力強く机を叩き、満面の笑みを浮かべた。


「決まりだ! 小林頭取、篠原君! すぐに南越中央病院の理事長と医師たちに会いに行こう! 新形から『病気の恐怖』を完全に追い出すんだ!」


その頃、南大沼市内にある南越中央病院の理事長室。


理事長の川田(60代・外科医出身)は、青ざめた顔で破産申請の手続き書類と、退職を申し出てきた若手医師たちの辞表の山を見つめていた。


「申し訳ない……患者さんたち……。そして残ってくれたスタッフたち……。私が力不足なばかりに、この病院を守り切れなかった……」


川田理事長の目から、絶望の涙がボロボロと零れ落ちていた。病院のボイラーは古くなり、冬の寒さが廊下に染み込み、最新のレントゲン機器すら買えず、誤魔化しながら騙し騙し使ってきた限界が、今まさに訪れようとしていたのだ。


そこへ、重いドアが開き、南越急行ホールディングスの渡辺会長、長谷川専務、篠原賢人、そして越後中央銀行の小林頭取が入ってきた。


川田理事長は驚いて立ち上がった。「渡辺会長……篠原CIO……小林頭取!? なぜこのような潰れかけた病院へ……」


篠原が静かに、厚い協定書をテーブルの上に置いた。


『南越中央病院に対する500億円の第三者割当増資引き受けおよび医療法人「南越会」再生計画書』


川田理事長が震える手で書類を開いた。そこに書かれていた目眩のするような支援内容を目にした瞬間、彼の声が激しく震えた。


「な……なんですかこれは……!? 500億円の資金注入……!? 病院の累積赤字と借金の全額返済……!? さらに……AI-CTや手術ロボットの全台新品導入と、医師・看護師の給与倍増……!? 夢でしょう! 倒産寸前の我が病院を、なぜここまでして救ってくださるのですか!?」


渡辺会長が、川田理事長の手を深く、強く握りしめた。


「川田理事長。私どももかつて『なんたか』を失い、消滅寸前の絶望の中にいた。……だがな、この奥越後の地で、猛吹雪の中でも夜通し明かりを灯し、地域の人々の命を守り続けてきてくれたのは、あなた方南越中央病院の現場の医師や看護師さんたちなんだよ。それを金の都合で潰させてたまるか!」


渡辺会長は窓の外の雪嵐を見つめ、静かに語った。


「お金の心配はすべて我々と小林頭取が引き受ける。最新の設備も、新しい病棟も、全部我々が建てる。……君たちは、目の前の患者さんの命を救うことだけに100%専念してくれ!」


川田理事長は畳に突っ伏し、激しい泣き声とともに深く頭を下げた。


「ありがとうございます……! ありがとうございます南越急行様……! 命を懸けて……地域の人々の命を守り抜きます……!」


プロジェクトは即座に、凄まじいスピードで始動した。


まず、南越建設の「全自動施工チーム」の手によって、南越中央病院の隣接地に、免震構造を持つ20階建ての最新鋭医療タワー『南越総合医療センター』の建設が一斉に着工された。


南越急行の潤沢な一括キャッシュ調達により、世界最高峰のAI画像診断CT、超高精度MRI、ガン粒子線治療器、内視鏡手術ロボットがズラリと全台新品で一括購入・配備された。


さらに、「給料倍増・完全週休二日制・最新設備完備」の条件で公募が出されると、劣悪な労働環境に疲弊していた全国の優秀な医師、執刀医、看護師、理学療法士たちが「南越中央病院で働きたい!」と殺到。一瞬にして日本屈指の高度医療スタッフ層が完成したのである。


そして同時に、南越車輌と本産自動車の工場で、世界初の医療特化車両の製造が開始された。


南越車輌の新聖龍工場で組み上げられたのは、160km/h対応の自社製超高速AI電車「NK3500系」をベースにした、漆黒と赤の流線型ボディを持つ『動く高度医療特急(NK3500-MED:メディカル・ホワイトラビット)』であった。


車内に足を踏み入れれば、そこは完全に「大学病院の集中治療室(ICU)と手術室」そのものであった。


車内には超高精度AI-CTスキャン室、人工透析ベッド10床、無菌バイオ手術室、緊急AI心電図・血液分析ラボ、そしてバリアフリー病床を完備。線路の上を時速160km/hで滑らかに走りながら、車内で本格的なガンの精密検査から緊急手術、透析治療までを完璧にこなすことができる「走る総合病院」である。


さらに、本産自動車の大型車製造ラインからは、全自動運転の大型医療EVバス『本産・メディカルバス』が続々とラインオフした。


本産自動車の高度レベル4/5自動運転AIとミリ波レーダー、車高調整エアサスペンションを搭載。車内には可搬型AI-CT、血液分析装置、オンライン遠隔診察用4K大型モニター、自動調剤ロボットを完備。吹雪の山道や急勾配の集落でも静かに、滑らかに走り抜け、お年寄りの家の玄関横まで乗り付けられる「超機動型移動クリニック」である。


そして2049年、春。


満を持してスタートしたのが、南越信託銀行と南越中央病院が共同で提供する新システム——『信託連携・生涯安心高度医療プログラム』であった。


南越信託銀行に資産や農地を信託したお年寄りたちに対し、南越総合医療センターでの「完全優先受診カード」が発行され、年1回の超精密人間ドックが無償で提供された。


「南越信託銀行に入っていたおかげで、最新のAI-CTでごく初期の小さなガンが見つかって、即座にロボット手術で完全切除できたよ! 費用も信託口座から自動で払われて、家族の手間もゼロ! 本当に命を救われた!」


「以前は病院の長い待ち時間で持病が悪化しそうだったが、優先受診のおかげで待たずに最高の専門医に診てもらえる。こんな手厚い老後が送れるなんて夢みたいだ!」


県内各地のお年寄りやその家族から、大絶賛と感動の声が巻き起こった。


そして、真の奇跡をもたらしたのが、過疎地・山間部へ投入された「動く総合病院」——医療特急『NK3500-MED』と、移動医療EVバス『本産・メディカルバス』であった。


雪深い十二町市の山間部にある、小さな限界集落。


これまで最寄りの総合病院まで車で1時間半以上かかり、通院を諦めて自宅で腰や心臓の痛みに耐えていた80代のおばあちゃん・佐藤の家の前に、一台の洗練された大型EVバス『本産・メディカルバス』が静かに滑り込んできた。


プシュー……というエアサスペンションの音とともに車高が下がり、自動スロープが玄関先まで伸びる。


「佐藤さん、こんにちは! 南越中央病院の移動クリニックですよ! 今日はお体の調子はいかがですか?」


車内から笑顔で降りてきたのは、南越中央病院の専任看護師と若手医師であった。


おばあちゃんは目を見張った。「まあ……! 先生が家の目の前まで来てくれたの!?」


看護師に優しく付き添われ、バリアフリースロープからバス車内へ足を踏み入れたおばあちゃんは、その豪華で清潔な車内に思わず歓声を上げた。


明るい木目調のインテリア。車内奥には最新のAI-CT装置と診察室があり、大型4Kモニターには、本院(南越総合医療センター)に待機する日本屈指の心臓血管外科の専門医が笑顔で映し出されていた。


「佐藤さん、こんにちは。画面越しですが、今から本院から精密診察を行いますね。まずはバス内のAI-CTで胸の音と血管の状態を調べましょう」


おばあちゃんがバス内の快適なシートに横になると、可搬型AI-CTが静かなモーター音で自動スキャンを開始。わずか数秒で高精細な3D画像が本院の専門医の元へリアルタイムで送信された。


「うん、心臓の弁の動きに少し乱れがありますね。バスに同乗している看護師から、最新のお薬を調剤してお渡しします。毎日朝食後に飲んでくださいね」


バス内の自動調剤ロボットがピッピッとお薬を全自動で調剤し、パッキングされた温かいお薬がその場で手渡された。


「まあ……! 病院まで行かなくても、お家のお庭でこんなに凄い専門医の先生に診てもらえるなんて……! 痛かった腰も、心臓の不安も全部消えちゃったよ!」


おばあちゃんは涙をポロポロとこぼし、看護師と医師の手を深く、何度も握りしめた。


一方、なんなん線の山間部の駅・「美深駅」の専用ホームには、160km/hで駆け抜けてきた漆黒と赤の医療特急『NK3500-MED』が誇らしく横付けされていた。


駅前には、周辺の集落から南越・新形モビリティ交通の「グランド・キャブオールAIバス」で送迎されてきた大勢のお年寄りたちが集まっていた。


「すごいわねぇ! 電車の中が丸ごと病院になっているなんて!」


列車内に乗り込んだお年寄りたちは、車内のICUや透析ベッド、人工関節の適合検査を行う最新機器に目を見張った。


定期的な人工透析が必要でありながら、遠くの病院まで通えず体力が限界を迎えていた70代のおじいちゃんが、列車内の快適な透析ベッドで横になり、窓の外の雪景色を眺めながらスムーズに治療を受けていた。


「今までは週に3回、往復3時間かけてタクシーで病院に通っていて命が削られる思いだった。だが今は、近くの駅にこの医療特急が来てくれて、電車の中で外の綺麗な景色を見ながら透析が受けられる。生きていて本当によかったよ……!」


おじいちゃんの目から、感謝の涙が溢れ出た。


医療特急『NK3500-MED』と、移動医療EVバス『本産・メディカルバス』の運行により、過疎地・山間部における「通院困難」「手遅れ」「孤立死」のリスクは完全にゼロ化。


新形県は、世界で最も医療が行き届いた「健康寿命日本一の奇跡の地域」として、世界中の医療関係者から熱狂的な注目を浴びることとなったのである。


春の陽光が降り注ぐ、南越総合医療センター(旧南越中央病院)の最上階スカイガーデン。


眼下に広がる美しい新形市内の街並みと、遠くの線路を疾走していく医療特急『NK3500-MED』、そして街中をスムーズに走る『本産・メディカルバス』を見下ろしながら、渡辺会長、長谷川専務、篠原、小林頭取、そして川田理事長の五人がグラスを手に並んでいた。


川田理事長が、感無量の面持ちで目元を熱くしながら言った。


「渡辺会長、篠原CIO、小林頭取……感謝の言葉もありません。破産寸前だった我が病院が、こんなにも素晴らしく生まれ変わり、通院できない山奥のお年寄りたちまで救うことができるなんて……。これが、本当の地域医療の姿ですね」


長谷川専務も嬉しそうに頷いた。


「すごい景色だなあ、篠原! 病院がピカピカになっただけじゃなく、電車やバスに乗って病院が自分からお年寄りの家の前まで出かけていくんだからな! どこへ行っても『南越急行さんのおかげで長生きできる』と大喜びされているぞ!」


小林頭取も温かい笑みを浮かべた。


「はい……信託銀行と医療をドッキングさせて本当に正解でした。資産を守るだけでなく、その命と健康を最後まで手厚く守り抜く。これこそが、お客様に提供すべき真の老後の安心です」


篠原は穏やかな笑みを浮かべ、窓の外の青空を見つめた。


「長谷川専務、小林頭取、川田理事長。技術や資金とは、人を孤独な病や死の恐怖から救い出すためにあるのです。我がグループの2兆円から始まった資金と技術は、こうして人々の『命と笑顔』を守るためにあったのです」


渡辺会長が立ち上がり、青空の下に広がる越後の大地に向かって力強く胸を張った。


「篠原君。かつて我々は『なんたか』を失い、冷たい雪の中で死を待つだけの小さな会社だった。だが今、我々は自分たちの技術と資金で、どんな山奥に住むお年寄りであっても決して見捨てない『命の動く砦』を創り出したんだな」


「はい、渡辺会長。我々の創り出す生命の輝きに、終着駅はありません」


遠く高架の上を、時速160キロで滑らかに駆け抜けていく超高速AI医療特急「NK3500-MED」。


その流線型の車体に描かれた「ホワイトラビット」と「赤十字」のマークは、春の陽光を浴びて、どこまでも神々しく輝いていた。


2兆250億円という前代未聞の純利益から始まった、弱小第三セクター「南越急行」の奇跡の反撃劇。


不滅の情熱と地域の絆を胸に刻んだ彼らの走るレールと道路は、鉄道、地銀、自動車、航空、港湾、建設、物流、報道、ホテル、食卓、豪雪防衛、百貨店、人生の信託、そして「手厚き命の医療」までも自前で繋ぎ合わせ、どこまでも、どこまでも光り輝く未来へ向かって、永久に力強く走り続けていくのだった。

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