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第22章 二兆円の繁栄と天空の銀河(モノレール)

第22章 二兆円の繁栄と天空の銀河モノレール


2033年、秋。


南越急行ホールディングスが起こした一連の奇跡——2兆250億円の株式運用益から始まった反撃は、新形県全体の経済構造を根本から塗り替えていた。


越後中央銀行の買収と低利融資、被災した米坂線・山型鉄道の復旧、自社車両メーカー「南越車輌」の立ち上げ、大手自動車メーカー「本産自動車」の買収と越後湯澤

「ぶーぶーんシティ(自動運転特区)」の完成、地域航空「南越エアラインズ」による大空の制覇、そして新形港のスマート化と自前船会社「南越海運」による世界貿易。


それらすべてが歯車として噛み合い、かつて過疎化と衰退に悩んでいた新形県は、いまや「日本で最も給与が高く、若者が最も集まる奇跡のメガリージョン(超巨大経済圏)」へと急変貌を遂げていた。


県内には国内外からIT企業や物流拠点、研究施設が次々と進出。新形市の人口は急増し、街には空前絶後の空景気が吹き荒れていた。


だが——その激しい好景気が、新形市内に深刻な「死角」を生み出していた。


都市交通の麻痺である。


「篠原……新形市内の渋滞が、もう限界突破を起こしているぞ!」


六日町にある南越急行本社の役役室。専務の長谷川が、テレビ画面を指差し頭を抱えた。


画面に映し出されていたのは、新形駅前から万代シテイ、古町、そして新形県庁へと続く幹線道路(国道7号・8号)を埋め尽くす、気の遠くなるような車の列だった。


「新形市の人口流入と経済活動の活発化に対し、市内の交通容量が完全にパンクしています」


最高投資責任者(CIO)篠原賢人は、静かにノートパソコンのデータを画面に映し出した。


「地元の老舗バス会社『新形交通』様も、連接バスの導入や増便など死力を尽くしておられます。ですが、運転手不足と道路自体の容量オーバーにより、朝夕のラッシュ時にはバスが数キロにわたって数珠つなぎになり、定時運行が完全に不可能です。新形駅から古町まで、通常なら10分の距離に1時間以上かかる始末です」


渡辺社長が腕を組み、深く頷いた。


「人が集まり、街が潤うのは喜ばしいことだが、都市機能が麻痺してしまっては本末転倒だな。……篠原君、なぜ地下鉄を掘らないんだ? 大都市の渋滞対策といえば地下鉄が定番だろう」


「地形上の決定的な理由です、渡辺社長」


篠原は新形市内の地下地質データを表示した。


「新形市は信濃川と阿賀野川がもたらした壮大な沖積平野の上に成り立っています。地盤が極めて軟弱な砂丘・湿地地帯であり、地下水脈も非常に高い。ここに地下鉄を掘ろうとすれば、泥の海を掘り進むようなものであり、1キロあたりの建設費は通常の数倍、数百億円跳ね上がります。さらに施工中の崩落リスクや浸水リスクが高く、工期も15年以上かかってしまう。今すぐ交通麻痺を解消しなければならない新形市にとって、地下鉄は現実的な選択肢になり得ません」


「地下が駄目なら、路面電車(LRT)はどうか?」長谷川が尋ねる。


「LRTはすでに過密を極めている道路の1〜2車線を潰して線路を敷くため、工期中の渋滞をさらに悪化させます。……地下が駄目、地表も駄目。ならば、答えはひとつしかありません」


篠原の目が、鋭い光を放った。


「空です。新形の頭上に、道路の影響を一切受けない『都市型懸垂式モノレール網』を建設します」


スクリーンに映し出されたのは、新形市の街並みの上空を、未来的な流線型の車両が滑るように駆け抜けていくコンセプト画像だった。


『新形天空銀河ライン(英名:Niigata Sky-Monorail Project)』


「新形市、地元バス会社の新形交通様、そして我が南越急行ホールディングスによる第三セクター合弁会社を設立。建設費用2,500億円は、我が社の『地域未来ファンド』と越後中央銀行からの低利融資で全額キャッシュ手配します。自治体には一円の借金も負わせません」


「建設費2,500億円を全額自前手配だと……!?」長谷川が絶句する。


「モノレールなら、道路の上面空間(中央分離帯など)に支柱を立てるだけで済むため、用地買収の手間が極めて少なく、工期も地下鉄の三分の一以下で済みます。さらに……車両の製造は、我がグループの『南越車輌』と『本産自動車』の技術をフル投入して自前で行います」


渡辺社長が力強く立ち上がった。


「面白い……! 地下でも地表でもなく、空に鉄路を創るか! 新形交通さんとも手を携え、新形の街に『新しい空の交通』を解き放とうじゃないか!」


数日後。新形市役所の大会議室。


新形市長、地元の雄である「新形交通」の社長・幹部たち、そして南越急行の渡辺、長谷川、篠原が集結していた。


新形交通の社長は、疲弊しきった面持ちで渡辺社長の手を握りしめた。


「渡辺社長……篠原さん。感謝いたします。我が社もバスの限界まで増便し、社員一丸となって街を支えようとしましたが、道路の混雑はどうにもならず、運転手たちも限界を迎えていました。南越急行さんがモノレールの建設費を全額用意し、我が社と共同で運行してくれるというご提案……まさに救いの神です」


篠原が静かに頷き、最新の路線計画書を開いた。


【新形都市型モノレール「新形スカイライン」構想】


『第一期路線:新形都市軸線(約12キロ)』


路線: 新形駅南口 〜 万代シテイ 〜 古町 〜 新形市役所前 〜 関屋 〜 新形県庁前 〜 商業エリア(亀田方面)


特徴: 全線完全立体交差。道路渋滞の影響を「100%ゼロ」にし、新形駅から古町・県庁までをわずか「8分」で正確無比に結ぶ。


『自社製・超最新鋭懸垂式モノレール「NK-M1000系」』


南越車輌と本産自動車が共同開発。本産自動車の自動運転AIと、NK2000系で培った耐雪・耐風技術を融合。車体には積雪や凍結を防ぐ融雪ヒーターを内蔵し、吹雪の日でも一切止まらない高耐久仕様。


『バス網との「完全MaaSマース協調」』


モノレール駅の真下に新形交通のバスロータリーを直結。幹線(長距離移動)はモノレールが担い、各住宅街への細かい移動(枝線)は新形交通のバスが担う「ハブ&スポーク型」の完璧な交通分業を確立。バス運転手の負担を激減させ、給料を南越急行水準まで引き上げる。


「さらに」篠原は新決済システムを提示した。


「新形交通様のバスICカード『りゅーど』と、南越急行の『なんなんカード』を完全統合します。モノレールとバスの乗り継ぎ割引を自動適用し、利用者の利便性を最大化します」


新形市長が感極まった面持ちで拍手を送った。


「建設費ゼロで、工期はわずか3年……! 渋滞が解消されるだけでなく、新形市が日本一先進的なスマートモビリティ都市に生まれ変わる! 渡辺社長、篠原さん、ぜひよろしくお願いいたします!」


建設工事は、南越急行の圧倒的な資金力と施工管理のもと、驚異的なスピードで進められた。


道路の中央分離帯に次々と力強いスチール製の支柱が建てられ、その上に美しくカーブを描く懸垂式軌道桁レールが架けられていく。地盤の軟弱なエリアには、南越急行の土木技術チームが開発した特殊な深層地盤改良杭が打ち込まれ、地震や地盤沈下にビクともしない強固な構造体が完成していった。


そして、2036年、春。


わずか3年の工期で完成した新形都市型モノレール「新形スカイライン」。


開業の日、新形駅南口の新ターミナル前には、数千人の市民と大勢の報道陣が詰めかけていた。


空を見上げると、道路の上空15メートルを、白と赤の美しい流線型ボディを持った自社製モノレール「NK-M1000系」が、音もなくスムーズに滑るように走り抜けていく。


「すごい……! 電車が空を飛んでいるみたいだ!」


子どもたちが歓声を上げ、スマートフォンを掲げる市民からどよめきが巻き起こった。


試乗一番列車に乗り込むのは、新形市長、新形交通の社長、そして渡辺社長、長谷川専務、篠原の三人である。


「発車、よーし!」


運転士の合図とともに、NK-M1000系が静かに加速を開始する。


車窓には、かつて激しい渋滞で車がギッシリと詰まっていた万代シテイや信濃川、古町の街並みが、眼下にまるでミニチュアのように広がり、流れていく。


「見てくれ、篠原!」長谷川専務が窓の外を指差し、興奮気味に声を張り上げた。


「下の道路じゃ車がノロノロ運転しているのに、俺たちのモノレールは時速70キロでスイスイ追い抜いていくぞ! 振動も一切ないし、景色が最高だ!」


「ええ」篠原は眼下の信濃川の青い水面を見つめながら、静かに微笑んだ。


「全自動制御と特殊ゴムタイヤ、空気バネサスペンションの融合です。騒音も排気ガスもゼロ。これまで新形市民の方々が渋滞で失っていた無駄な時間が、この空中回廊によってすべて還元されるのです」


わずか8分後。列車は正確無比に新形県庁前駅に到着した。かつてバスで1時間近くかかっていた距離が、わずか一瞬の快適な空の散歩に変わったのだ。


開業から数ヶ月。


「新形スカイライン」の効果は、新形市の都市構造を劇的に変えていた。


朝夕の幹線道路の渋滞は「約70%減少」。車からモノレールへと乗客が流れたことで道路が劇的に空き、新形交通のバスも定時運行を取り戻した。


さらに、モノレールの各駅周辺には、南越急行の資金で新しい商業施設やマンション、オフィスビルが次々と建設され、

デパート伊勢も好況で、古町や万代エリアの賑わいが完全復活。


「渋滞のない、空に銀河が走る美しい街」として、新形市は世界中の都市計画学者から称賛を浴びることとなった。


夕暮れの新形駅南口ターミナル。


新しく完成したモノレールデッキの上に立ち、西の空を染める美しい夕日と、その中を滑るように走る「NK-M1000系」を見上げる渡辺社長、長谷川専務、そして篠原。


長谷川専務が感無量といった様子で息を吐いた。


「篠原……株で稼いだ2兆円から始まった俺たちの旅も、ついに新形の空に鉄路を架けるところまで来たんだな」


「ええ」篠原は不敵に、そして温かく微笑んだ。


「2兆円という数字は、ただのきっかけに過ぎませんでした。大切なのは、その資金を『地域の人々の暮らしをどう豊かにするか』という情熱に変換し続けたことです。地下が掘れぬなら空へ架ける。……それが、インフラを担う者の使命です」


渡辺社長が、信濃川の風を受けながら、力強く胸を張った。


「かつて『なんたか』を奪われ、途方に暮れていた我々が、今や陸を走り、地銀を呑み、車を作り、空を飛び、海を渡り、そして街の上に新しい銀河を走らせている。……篠原君、我々の走る未来に、限界なんてないんだな」


「はい、社長。限界など、最初から存在しません」


新形の澄み渡る夜空へと走り去っていく、白と赤のモノレール「HK-M1000系」。


その光り輝く車両は、南越急行という奇跡の企業が創り出した「新形の繁栄の象徴」として、市民の夢と未来を乗せ、どこまでも高く、どこまでも誇らしげに駆け抜けていくのだった。


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