第161章 灼熱の空と不滅の翼
第161章 灼熱の空と不滅の翼
盛夏。
新形県南部に広がる越後盆地。南大沼の山々に抱かれた、六日町。
時価総額130兆円を突破し、国連での三重新法規制定、専属オーケストラ『六日町・フィルハーモニック』の創設、水没寸前のジャカルタ救済、メキシコ治安の再生、認知症根本治療薬『ラビット・リバイビン』の承認、そして気候変動に打ち勝つ植物ギガファクトリー『アグリ・ドーム・ラビット』に至るまで、全地球の命と文明を支え続ける「南越急行ホールディングス」。
しかし、この年の夏、地球規模の気候変動は「地球沸騰化」の未曾有の極限領域へと突入していた。
中東や北アフリカ、北米南西部、南欧、さらにはアジアの大都市に至るまで、40度以上の猛暑は当たり前となり、場所によっては日中の気温が「50度」を突破する過酷な熱波が地球全土を覆い尽くしていたのである。
そしてこの極限の熱波は、現代社会の最も重要な大動脈である「航空業界」に対し、物理的な限界という致命的な鉄槌を下していた。
——「高温による大気密度低下と、航空機の離陸不能」である。
気温が50度に達すると、空気は極限まで膨張して密度が激減する。空気の密度が薄くなれば、航空機の主翼が生み出す「揚力」は著しく低下し、ジェットエンジンが吸入できる空気量も減って推力が大幅に落ち込む。
既存のビーイングやエアタクシーをはじめとする世界の大型旅客機・貨物機は、滑走路をいくら最高速度で疾走しても、規定の滑走路長の中で安全に離陸するために必要な揚力を得ることができなくなっていた。
アメリカのフェニックスやラスベガス、中東のドバイやドーハ、さらには羽田や成田、シンガポールに至るまで、日中の気温が45度を超えた瞬間にすべての便が運航停止。世界中の空港のロビーには数十万人もの乗客が溢れ返り、急ぎの医薬品や精密部品、生鮮食品を運ぶ国際航空貨物網は完全に麻痺していた。
六日町の本社タワー最上階、副社長室。
南越重工業社長兼グループ副社長の古賀は、テレビモニターに映し出される、炎天下のアスファルトの陽炎の中で立ち往生する巨大旅客機のニュースを見つめ、ガッシリとした両拳を机に叩きつけた。
「……また欠航か! 気温が50度になっただけで翼が空を掴めなくなって、鳥の如く地面に張り付いたまま動けねえだと!? 冗談じゃねえぞ!」
古賀の目は、真剣そのものの職人の怒りと熱い闘志に燃え上がっていた。
手元には、南越ビバレッジ特選一級品の冷涼なジャスミン茶。
そこへ、静かな足取りで最高財務責任者(CFO)の大石専務が入ってきた。
大石は冷徹な表情でメガネのブリッジを押し上げ、タブレットの航空被害データを提示した。
「……古賀副社長のお怒りはごもっともです。直近一ヶ月における世界の航空便欠航率は過去最悪の42%を記録。国際航空運送協会(IATA)の試算によれば、世界経済のサプライチェーン断絶による損害額はすでに十兆円を突破いたしました」
大石は物理的データを展開した。
「気温50度における空気密度は、標準状態(15度)と比較して約12%以上も低下いたします。既存の翼設計とターボファンエンジンでは、機体重量を半分以下に減量するか、滑走路を四千メートル以上に延伸しなければ離陸できません。しかし、世界中の空港の滑走路を今すぐ伸ばすことなど不可能です」
古賀副社長が、作業着の袖をまくり上げて立ち上がった。
「滑走路が伸ばせねえなら、『50度だろうが60度の灼熱だろうが、短い滑走路から軽々と空へ飛び立てる究極の飛行機』を俺たちが作ればいいだけの話だろ!」
古賀は隣の最高経営責任者(CEO)室へとドカンと踏み込んだ。
「篠原! 俺に南越重工と航空・宇宙チームの全力を預けてくれ!」
CEO室では、篠原賢人CEOが窓の外に広がる魚沼の夏の青空を静かに見つめていた。
陽炎が揺れる山並みを見つめる篠原の瞳には、地上の熱波に苦しむ世界中の人々の姿が映っていた。
篠原は穏やかに振り返り、古賀に冷たいジャスミン茶を勧めた。
「古賀。世界中の空が止まってしまっている問題だね」
「話が早くて助かるぜ、篠原!」
古賀はソファーに腰掛けるなり、ホログラムモニターに新型航空機の概念図を広げた。
「篠原! 俺たちには、宇宙造船都市『メガロ・ドック』を建造したナノチタン構造技術(第140章)がある! サロナエアコンが誇る極冷熱交換技術がある! 南越化学の分子合成高エンタルピー燃料(第143章)がある! そして、本産自動車と新行電気工業の量子AIがある!」
古賀は熱っぽく言葉を重ねた。
「既存の飛行機屋どもは、過去のエンジンの焼き直しばかりで、50度の薄い空気の中でどうやって揚力と推力を稼ぐかという根本的な物理の壁から逃げてきた! だが俺たちは違う! 空気が薄けりゃ、翼の周りの空気の流れをプラズマで無理やり曲げて巨大な揚力を生み出し、吸い込む空気をサロナの技術で瞬時に氷点下まで冷やして密度を三倍に跳ね上げて燃焼させてやる! これを組み合わせれば、50度の滑走路からでも、満員の乗客と貨物を載せてわずか千メートルの滑走で空へ駆け上がれるはずだ!」
篠原賢人は静かにジャスミン茶を口に含み、古賀の熱い想いに深く頷いた。
「素晴らしい着眼点だね、古賀。気候が変わったからといって、人類が空を飛ぶ夢と移動の自由を諦めるわけにはいかない。空気が薄い灼熱の空を、新しい技術で切り拓こう」
篠原の瞳に、強い決意の光が宿る。
「プロジェクト・『サーモ・スカイ・ラビット』、直ちに始動しよう! 南越重工業、南越車輌、南越エアラインズ、サロナエアコン、南越化学、新行電気工業の総力を結集するんだ!」
大石専務も手元のタブレットから滑らかに財務シミュレーションを展開した。
「……了解いたしました。研究開発費および新潟臨海ギガファクトリーへの特殊実験ライン新設費用、計三千億円を即時拠出いたします」
大石の口元に、冷徹で美しい財務の笑みが浮かぶ。
「既存のボーイングやエアバスが運航停止に追い込まれる中、灼熱下でも100%運航可能な機体およびレトロフィット(換装)キットを独占供給できれば、世界中の航空会社から注文が殺到。投下資金は初年度で全額回収可能です」
「決まりだ!!」古賀が豪快に拳を突き上げた。
「すぐに浦佐の大学校と重工の連中を集めて、灼熱の実験場に乗り込むぞ!」
その日の夕刻。
新潟臨海地区の航空宇宙開発センター、および浦佐の『南越重工業大学校』極限環境実験アリーナに、古賀副社長の招集を受けた航空宇宙エンジニア三百名が集結した。
アリーナの中央には、気温60度・湿度10%の灼熱乾燥大気、ならびに熱帯暴風を完全再現できる巨大な『極限環境風洞シミュレーター』が設置されていた。
作業着の腕をまくった古賀副社長が、マイクを使わずに怒鳴り声を上げた。
「野郎ども! 聞け! 地球が暑くなったからって飛行機が飛べねえなんて、モノづくり屋として恥ずかしくて死にそうだぜ! 50度の空気なんて、俺たちの技術でねじ伏せて、世界中の空を取り戻してやるぞ!!」
「「「オーーーーーーッ!!!!」」」
技術者たちの胸に、猛烈な火がついた。
立ちはだかった物理の壁を突破するため、古賀の陣頭指揮のもと、わずか四十日で確立されたのは、世界の航空宇宙工学の常識を覆す『三大・耐熱航空イノベーション』であった。
【第一の革新:南越重工×新行電気『プラズマ気流能動制御・形状記憶ナノモーフィング翼』】
薄い空気から最大限の揚力を引き出すため、主翼の表面に宇宙ゴミ再生ナノチタンとグラフェン電極を極薄積層。
新行電気工業の量子AIが機体周辺の大気密度と気流をミリ秒単位で検知し、主翼の表面にマイクロ秒単位で高周波プラズマ放電を発生させる。これにより、50度の薄い大気であっても気流の剥離(失速)を100%防止し、従来の三倍の揚力を発生させることに成功。さらに、主翼自体がAIの判断でリアルタイムに最適翼型へとミリ単位で変形する。
【第二の革新:サロナエアコン×南越化学『超極冷予冷ターボファン&分子合成高密度燃料』】
熱波で膨張した空気をそのまま吸い込んではエンジン出力が出ない。そこで、サロナエアコンが開発した「多孔質ナノ極冷熱交換器」をエンジンのインテーク(吸気口)前部に配置。
50度の吸入空気を、わずか0.01秒で「マイナス20度」まで急速予冷し、空気密度を人為的に「二倍以上」に濃縮して燃焼室へ送り込む。さらに、南越化学の分子合成技術による超高密度クリーン燃料『シンセティック・ジェット・ラビット』を噴射することで、熱帯の大気下で標準大気以上の圧倒的推力を叩き出すエンジンサイクルを完成させた。
【第三の革新:南越車輌×本産自動車『超電導リニア・カタパルト空港アシスト網』】
航空機側の性能向上に加え、世界中の空港の滑走路下に埋設可能な、超電導リニア式地上加速アシストシステム『リニア・ランウェイ・ブースター』を開発。
航空機の前脚に小型リニア受電シューを接続し、滑走開始からわずか五秒で時速三百キロまで無公害・静粛に一気に加速。短小な滑走路であっても、熱波の影響を全く受けずに安全に空中へと射出する。
「できた……! できたぞ!! 60度の風洞実験で、規定滑走距離の半分で揚力発生テスト完全クリア!!」
実験アリーナのコントロールルームで、古賀副社長とエンジニアたちが抱き合って歓喜の雄叫びを上げたのである!
盛夏。
中東・アラブ首長国連邦のドバイ国際空港、特設滑走路。
日中の気温は観測史上最高となる「摂氏52度」。
滑走路のアスファルトからは猛烈な熱気が立ち上り、陽炎で視界が揺らぐ中、世界中の航空機がすべて駐機場に留め置かれ、空港は死んだように静まり返っていた。
その滑走路の端に、白銀に輝く真新しい試験機が静かに姿を現した。
南越重工業と南越エアラインズが共同開発した、世界初の超高温対応型次世代旅客機——『ラビット・スカイライナー・サーモ(NK-Skyliner 500T)』である。
機内には、篠原賢人CEO、古賀副社長、大石専務、そして各国の航空宇宙機関の要人たちが搭乗していた。
試験飛行の様子は、新形テレビ20の高橋記者と井上カメラマンによって全世界へ生中継されていた。
井上の担ぐ最新鋭8K防爆カメラの側面には、あのガムテープの切れ端が、中東の強烈な日差しを浴びて誇らしく輝いている。
「こちら新形テレビ20です!」
高橋記者が熱狂的な声でマイクを握る。
「気温52度! 世界中の飛行機が1機たりとも飛べない灼熱のドバイ空港において、いま、南越急行グループの新型機『スカイライナー・サーモ』が、歴史的な離陸テストに挑もうとしています!」
コックピットで古賀副社長がスロットルレバーに手を添えた。
「サロナ・インテーク極冷システム、スタンバイ! プラズマ翼、アクティブ放電開始!!」
機体の主翼前縁から、青白いプラズマの微光が音もなく放たれる。
「スロットル、全開!! 行けぇぇぇぇっ!!」
ゴォォォォォォッ……!!
サロナの極冷空気と南越化学の高密度燃料を飲み込んだエンジンが、標準大気下をも凌駕する澄み切った大推力を炸裂させた!
『スカイライナー・サーモ』は、アスファルトの熱気など意にも介さず、猛烈な加速で滑走路を疾走。
滑走開始からわずか「八百メートル」。通常の半分の滑走距離で、機首をフワリと持ち上げると、灼熱の大気をプラズマ翼で力強く掴み、矢のように澄み切った青空へと駆け上がっていったのである!
「飛んだ……! 浮いたぞ!! 52度の灼熱の中で、いとも簡単に大空へ舞い上がった!!」
ドバイ空港の管制塔、そして全世界のテレビモニターの前で、何億人もの人々から割れんばかりの歓声と拍手喝采が巻き起こった!
そのまま『スカイライナー・サーモ』は、50度を超える熱風が吹き荒れる中東の上空を一万メートルまで一気に上昇。一切の揺れもなく、完璧な安定飛行を披露したのである。
「完璧だ……! 見たか世界よ! これが俺たち南越重工の翼だ!!」
機内の古賀副社長が、熱い涙を流しながら豪快に笑った。
飛行試験の圧倒的完全勝利を受け、南越急行グループは、世界中の航空機を救うための「グローバル・エアライン救済オペレーション」を一挙に展開した。
一、既存航空機向け『サーモ・レトロフィット・キット』の世界独占供給
新造機の販売だけでなく、世界中で立ち往生していた既存のボーイング機やエアバス機に対し、主翼への『プラズマフィルム』装着とサロナ製『吸気冷却ユニット』への換装キットを低価格で提供。わずか三日の改修で、あらゆる既存機を50度対応機へとアップグレードさせた。
二、世界の主要メガハブ空港への『リニア・カタパルト滑走路』の爆速敷設
南越建設の全自動AI施工部隊により、ドバイ、フェニックス、ラスベガス、羽田、シンガポールなどの主要空港の滑走路に、超電導リニアブースターを突貫工事で敷設。猛暑時でも100%定時運航できるインフラを整備した。
世界中の空港で運航再開のサイレンが鳴り響き、ロビーで足止めされていた何百万人もの乗客たちが歓喜の声を上げて飛行機へと乗り込んでいった。
『熱波による航空停止の危機、完全終結! 南越急行が空を救った!』
『地球が何百度になろうと、人類は飛び続ける:南越テクノロジーの完全勝利!』
国際民間航空機関(ICAO)および世界観光機関(UNWTO)から篠原賢人CEOへ、最高峰の『国際航空人道貢献賞』が贈られたのである。
一方、六日町の本社タワーCEO室。
大石専務がタブレットの財務データを手際よく操作し、ポーカーフェイスのまま数字を提示した。
「……篠原CEO、古賀副社長。今回の『サーモ・スカイ・ラビット(超高温対応航空システム)』プロジェクト」
大石の口元に、極めて晴れやかで温かい財務の笑みが浮かぶ。
「新型機『スカイライナー・サーモ』の受注益、全世界の既存航空機五万機に対するレトロフィットキット供給益、ならびに空港リニアカタパルトの敷設ライセンス益を含め、向こう十年間で我がグループにもたらされる当期純利益は『八兆六千億円』を記録する見込みです。開発費三千億円は、初年度のわずか二ヶ月で完全回収完了です」
「ガハハハ!」古賀副社長が豪快に大石の背中を叩いた。「見たか篠原! 空が飛べねえなら飛べるようにして、世界中を助けて、美味しい寿司を食って、なおかつ8兆6000億円の儲けだ! やっぱり空のインフラも鉄道と同じだな!」
「はい。今回は世界航空物流の完全防衛、地球温暖化リスクの物理的克服、そして不滅のストック利益を完璧に両立させた、文句のつけようがない満点のオペレーションです」
その夜。
六日町メガロポリスの本社タワー最上階、特別和室。
そこに設置された最高級寿司処『佐渡武蔵・六日町本店』において、大空の完全制覇を祝う至高の祝宴が開かれていた。
付け場に立つ武藤大将と吉村大将の手元には、佐渡沖の深海で揚がったばかりの極上天然ウニ、アワビ、そして南越アグリの『新形黄金』がずらりと並んでいた。
「大石専務、篠原CEO、古賀副社長……! 本当に、地球中の空を丸ごと救っちまったな」
武藤大将が、美しい包丁さばきで魚を切り出しながら言った。
「50度の熱風の中でも、飛行機をスイスイ飛ばしちまうんだから大したもんだ。今夜は、夏の暑さを吹き飛ばす、世界一美味い寿司を握るぜ」
吉村大将が握り、大石専務の前の黒漆のつけ台に静かに置いたのは、佐渡沖の冷たい深海で育った極上の『天然蝦夷アワビの水貝握り』と、サロナのナノ熟成で旨味を極限まで引き出した『天然ウナギの白焼き握り・特製山椒煮切り仕立て』であった。
大石専務は静かにメガネのブリッジを押し上げ、指先でアワビの一貫を持ち上げた。
「……いただきます」
大石はその一貫を口の中へ運んだ。
コリッ……!!
静まり返った和室に、澄み切ったアワビの歯ごたえが美しく響き渡った。
その瞬間——大石専務の口内で、日本海の冷涼な深海の磯の香りと、新形黄金の温かいシャリの甘みが爆発する「究極の味覚ビッグバン」が巻き起こった!
(ん……ッ!!!? な、なんという清涼な歯ごたえと、奥深い潮の旨み……!!)
続いて口に運んだウナギの白焼きは、皮目がパリッと香ばしく、身はふっくらとトロけるように解け、山椒の爽やかな辛味が全体を完璧に引き締める。
大石専務は思わず両手をカウンターにつき、静かに目を閉じた。
ポーカーフェイスで知られるあの「財務の鬼」の頬を、またしても一すじの、そして誰よりも熱い感動の涙がとめどなく溢れ出し、顎を伝ってスーツの胸元へとこぼれ落ちた。
「……素晴らしい。空が繋がり、大地が繋がり、人々が自由に行き交うことができるからこそ……こうして命の恵みを最高峰の状態で分かち合うことができる。……完璧な、あまりにも完璧な翼でした……!」
隣で同じ一貫を豪快に口に放り込んだ古賀副社長も、目を丸くして机を叩いた。
「う、うめぇぇぇ!! 大石、最高だ! どんなに暑くたって、俺たちの技術と美味い飯があれば、人間はどこへだって行けるんだ!」
篠原賢人CEOも穏やかに微笑み、温かいジャスミン茶のグラスを掲げた。
「古賀、大石。我々が創り出した翼は、ただ空を飛ぶ機械ではない。人と人を繋ぐ『空のレール』だね」
深夜の六日町メガロポリス。
本社タワーの屋上展望デッキに、篠原賢人、古賀副社長、大石専務の三人が佇んでいた。
魚沼の澄み切った夏の夜風が、三人の髪を優しく撫でていく。
眼下に広がる街並みを見下ろすと、六日町の街は平和な灯りに包まれ、遥か上空の夜空を見上げると、プラズマの青い光を翼にまとった『スカイライナー・サーモ』が、満天の星々と天の川を切り裂いて、光の矢のように滑らかに世界中へと翔けていく姿が見えた。
遠くの南越急行線からは、AI特急『新・なんたか』が、澄み渡る長笛を夜空へ響かせている。
古賀副社長が、感無量といった面持ちで夜空を見上げた。
「なあ篠原。鉄のレールも、空の航路も……全部、人が人を想う情熱で繋がってんだな」
大石専務も静かに頷いた。
「はい。物理的な限界など、人間の誠実な知恵と技術の前には存在いたしません」
篠原賢人は温かいジャスミン茶を一口含み、二人の肩に優しく手を置いた。
「大石、古賀。我々が敷いてきたレールは、大地を越え、空を越え、宇宙へと続いていく」
篠原の静かな言葉に、二人が深く耳を傾ける。
「どんなに地球の環境が厳しくなろうと、どんな過酷な時代が訪れようと、我々が現場への愛と誠実さを失わない限り、南越急行グループの走らせるレールと翼は、全人類の希望を乗せて、どこまでも、どこまでも光り輝きながら伸び続けていく」
渡辺前社長が遺した不滅の言葉——「会社は人より長く生き続けるべきもの。稼いだ金は未来を信じる魂だ」。
魚沼の澄み切った夏の夜空に、新しい時代の希望を告げるジェットエンジンの澄んだ残響が、どこまでも温かく、力強く響き渡っていった。
全人類の命と移動の自由、そして不滅の文明を足元から完璧に支えながら、南越急行ホールディングスの走らせる無限のレールと銀翼は、地上を、地底を、海を、空を、そして宇宙の彼方へと、どこまでも、どこまでも力強く伸ばされ続けていくのだった。




