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第140章 星の遺産と再生の光輪

第140章 星の遺産と再生の光輪


冬。

新形県南部に広がる越後盆地、六日町。

時価総額130兆円を突破し、軌道造船都市『グランド・ラビット・メガロ・ドック』の運用、火星移民船『アルカディア号』の航行、そして浦佐交通博物館に隣接して開校した『南越重工業大学校』での若き技術者育成に至るまで、人類のフロンティアと未来を文字通り牽引し続ける「南越急行ホールディングス」。


その巨大なコンツェルンの宇宙事業部門において、かねてより極秘裏に、しかし着々と進められていた「ある巨大なオペレーション」が存在した。


それは、かつて冷戦期から20世紀末にかけて、旧ソ連、アメリカ、欧州などの旧型宇宙開発によって地球周回軌道上へ打ち上げられ、そのまま放置されて放棄された大量の衛星残骸や宇宙ゴミ(デブリ)——通称『スペースデブリ(宇宙の遺産/スペースジブリ)』の回収事業であった。


古賀副社長率いる南越重工業が完成させた無人デブリ捕獲・回収機『ラビット・クリーナー』群は、連日連夜、高度数百キロメートルの無重力空間を舞い、地球の航行安全を脅かす数万個の巨大デブリや失効衛星を完璧に捕獲。それらは南越通商の大型宇宙貨物機『ラビット・カーゴ』によって、新潟臨海地区および大沼エリアの「南越重工・宇宙資源極秘保管庫」へと安全に地球輸送・保管され続けていたのである。


しかし、地球へ運び出された膨大な「スペースデブリ」は、そのまま巨大な保管庫に積み上げられたまま、すでに数年間も眠り続けていた。


「……なぁ大石。保管庫のデブリの山、そろそろ限界なんじゃねえか?」


南越急行ホールディングス本社タワー最上階の副社長室。

南越重工業社長兼グループ副社長の古賀は、ホログラムモニターに映し出された、保管庫内にズラリと並ぶ旧型人工衛星や打ち上げロケットの段組みモジュールの映像を睨みつけながら呟いた。


向かい側で温かいジャスミン茶(南越ビバレッジ特選一級品)を口に含んでいたポーカーフェイスの最高財務責任者(CFO)大石専務が、静かにメガネのブリッジを押し上げた。


「現在、保管庫内に集積されているスペースデブリの総重量は、四万五千トン。元はと言えば国連(国際宇宙評議会:ICC)からの人道・安全要請に基づいて回収したものですが、その所有権や処分権の曖昧さゆえ、各国からの引き取り打診は皆無です」


大石はタブレットのデータを提示した。


「旧ソ連や欧米の旧政府が所有権を主張する恐れがあるため、法的な保管期間として放置してきましたが、維持・管理コストだけで年間数十億円が空費されています。完全に『金にならない放置資産』ですね」


古賀はガッシリとした自分の膝をバシッと叩いた。


「ただのゴミとして寝かせておくなんて、モノづくり屋のプライドが許さねえ! あのデブリの中にはな、昭和や20世紀の技術者たちが命がけで作った超高純度のチタン、レアメタル、金、白金、高張力アルミ合金がぎっしり詰まってんだぞ! 国連で『回収後二年間引き取りがなければ所有権を失効・南越急行へ完全譲渡する』っていう取り決めを正式に合意させて、あいつらを100%資源として蘇らせる『宇宙資源・全自動再生ギガファクトリー』を作るべきだ!」


古賀の目は、少年のような情熱と、長年現場で培ってきた鋭い経営の眼光を同時に宿していた。


「篠原! ちょっと付き合ってくれ!」


古賀はそのまま、隣の最高経営責任者(CEO)室へとドカンと踏み込んだ。


CEO室では、篠原賢人CEOが窓の外に静かに舞い落ちる大沼の雪を見つめていた。篠原は穏やかな笑みを浮かべ、二人をソファーへと促した。


「古賀、大石。宇宙から回収したデブリ(スペースジブリ)の活用についての相談かい?」


「話が早くて助かるぜ、篠原!」


古賀はソファーに身を乗り出し、ホログラム画面で『宇宙資源全自動再生工場プロジェクト・リサイクル・ラビット』の基本構想をぶち開けた。


「いま保管庫で眠ってる四万五千トンのデブリは、ただのゴミじゃねえ。地球上では掘り出すのが大変な超高純度レアメタルの宝の山だ! これを全自動で分解・精錬して、南越車輌の新幹線や、南越重工の次世代ロケット、さらには浦佐の重工業大学校の実習用素材として100%有効活用するんだ!」


古賀は熱っぽく言葉を重ねた。


「だが、後から海外の国々が『それはうちの国の衛星の残骸だ、返せ』なんてイチャモンをつけてきたら面倒だ。だから篠原、国連の宇宙安全保障理事会(ICC)へ乗り込んで、正式に『回収・地球移送後、二年以内に引き取り申請及び保管費用の支払いが無かったスペースデブリは、所有権が完全に消滅し、南越急行ホールディングスへ無償譲渡される』という国際協定(二年失効ルール)を結んできてほしいんだ!」


篠原賢人は静かにジャスミン茶を口に含み、古賀の熱い想いに深く頷いた。


「実に合理的で、未来志向の提案だね、古賀」


篠原の瞳に、澄み渡るような決意が宿る。


「宇宙のゴミを回収して地球の安全を守り、さらにそれを一切の無駄なく100%最新の資源へと再生させる。これこそ、我が南越急行グループが目指す『完全循環型・持続可能インフラ』の真骨頂だ。国連での交渉は、私が責任を持ってまとめてくるよ」


ポーカーフェイスの大石専務も、手元のタブレットから滑らかに法務・金融シミュレーションを提示した。


「……完璧です。所有権が我が社に完全帰属すれば、原料調達コストは実質ゼロ。デブリ四万五千トンから抽出されるチタンおよびプラチナ、レアメタルの市価価値は、およそ『二兆四千億円』。工場建設費八百億円は、稼働後わずか半年で全額回収・マネタイズ可能です」


大石の口元に、冷徹で美しい財務の笑みが浮かぶ。


「さらに、年間数億円の保管コストが消滅し、世界中の旧型衛星の『有料無傷撤去サービス』という新しい高利潤ストックビジネスが確立されます。文句のつけようがない満点のオペレーションですね」


「決まりだ!!」古賀が豪快に笑った。「すぐに新潟臨海エリアで再生工場の建設に取りかかるぞ!」


冬。ニューヨークの国連本部。


国連宇宙平和安全保障理事会(ICC)の緊急総会において、南越急行ホールディングスの篠原賢人CEOが登壇していた。


議場を埋め尽くしたのは、アメリカ、欧州、中国、ロシア、そして世界各国の宇宙庁首脳および外交官たちであった。


篠原は静かにマイクに向かい、スクリーンに地球周回軌道から回収された四万五千トンのスペースデブリの映像を映し出した。


「各国代表の皆様。我が南越急行グループは、これまで数千億円の自社資金を投じ、無人機『ラビット・クリーナー』によって宇宙空間のデブリを回収し、地球上にて厳重に保管してまいりました。……しかし、これ以上の放置は、我が社の保管限界を超え、宇宙開発全体の持続可能性を殺ぐことになります」


篠原の静かな、しかし絶対的な威厳に満ちた声が、議場に響き渡る。


「本日、我々は新たな国際協定案『スペースデブリ(旧宇宙遺産)所有権失効および再利用に関する新条約』を提案いたします。……内容は極めてシンプルです。我が社が回収し、地球保管庫へ着金・格納されたデブリに対し、元所有国が二年間、引き取りの意思表示および保管経費の支払う義務を果たさなかった場合、当該デブリの所有権は完全に失効し、南越急行ホールディングスへ全面無償譲渡される、というルールです」


議場からどよめきが巻き起こった。一部の国の代表が立ち上がり、声を荒らげた。


「待ってくれ! 20世紀に我が国が打ち上げた技術や機体には、国の機密や歴史的価値が含まれている! それを南越急行に勝手に処分・再生されては困る!」


篠原賢人は静かにその代表を見つめ、穏やかな微笑みをたたえた。


「では大使、今すぐ過去二年分の一機あたり二億円の保管管理費用をお支払いいただき、自国の輸送船でその四千トンの鉄くずを自国へお引き取りいただけますか?……今すぐです」


「くっ……! それは……我が国の現在の予算では……」代表はぐうの音も出せなくなり、そのまま腰を落とした。


その時、裁判で南越急行とともに戦ったNASA長官が力強く立ち上がり、マイクを握った。


「議長! 米国航空宇宙局(NASA)は、南越急行の提案する『二年失効ルール』に全面賛成し、署名いたします!」


長官は各国代表に向かって強く言い放った。


「自分たちで打ち上げ、放り出し、回収する技術も金も出さなかったゴミに対し、何十年も所有権を主張して管理責任を民間に押し付けるなど、国家として恥ずべき醜態だ! 南越急行の手によってそれが100%の最新資源として生まれ変わり、地球と宇宙の新しいインフラに化けることこそ、全人類にとって最大の利益である!」


NASA長官の圧倒的な支持、そしてスペースX社や欧州主要国の賛同が続き、全会一致で『国連・スペースデブリ二年失効・南越譲渡協定(通称:グランド・ラビット・ルール)』が正式に批准・合意されたのである!


協定成立の知らせが届いた瞬間、新形県日本海沿岸の広大な敷地において、南越建設の全自動AI施工部隊が一斉に動き出した。


古賀副社長自らが総現場監督を務め、新設されたのは、世界初となる『南越重工業・宇宙資源全自動再生ギガファクトリー(ラビット・リサイクル・ドーム)』であった。


ドーム球場四個分におよぶ白亜の大空間。


そこに導入されたのは、南越重工業、武沢製薬、新行電気工業、そして本産自動車の最先端テクノロジーを結集した、驚異の「完全無人・全自動解体精錬ライン」であった。


一、超精密AI非破壊スキャン&解体アーム

保管庫から自動搬送された旧型衛星やロケットのモジュールに対し、本産自動車の超小型AI計測ドローンが1/1000ミリ単位で内部構造を3Dホログラムスキャン。有毒な残留燃料や電池セルを安全に完全自動抽出した後、南越メディカル・ロボティクスの高出力レーザーアーム『ラビット・カッター』が、寸分狂わずチタン外殻、電子基板、配線、フレームを自動分解していく。


二、武沢製薬・『ナノ分子磁気選別・プラズマ溶融炉』

分解された金属素材は、武沢製薬と南越重工が開発した「ナノ分子選択プラズマ炉」へ投入。一万度の超高熱プラズマによって金属を気化・液化させ、沸点と磁気の差を利用して、チタン、高純度アルミ、金、銀、プラチナ、コバルト、ネオジムを「純度99.999%(ファイブナイン)」の完全純粋インゴット(金属塊)として超速分離・抽出。


三、ゼロ・エミッション『サロナ・完全密閉フリーズドーム』

解体や溶融の過程で発生する微細な粉塵や有毒ガスは、サロナエアコンの多層ナノ触媒フィルターと超低温冷却装置によって100%キャプチャ(回収)・液化。工場外への有害物質の排出は完全にゼロ(完全ゼロ・エミッション)を達成した。


「全自動解体精錬ライン、第一炉・点火!!」


古賀の合号とともに、巨大なプラズマ炉が眩い青白い光を放ち始めた。


保管庫で数年間眠っていた、旧ソ連時代の古い大型観測衛星『コスモスシリーズ』の無骨なモジュールが、自動アームによってプラズマ炉へと吸い込まれていく。


数分後、反対側の出口から滑り出てきたのは、白銀に輝く最高純度の「チタンナノインゴット」と、神々しい黄金色の「純金インゴット」の整然とした列であった。


「出た……!! 出たぞ!! 20世紀の宇宙のゴミが、ピカピカの最高級ナノチタンに化けて出てきた!!」


現場で立ち会っていた南越車輌の村上技師長と若いエンジニアたちが、抱き合って歓声を上げた。


再生された超高純度チタンやレアメタルは、そのまま隣接する南越車輌ギガファクトリー、南越重工航空宇宙工場、そして浦佐の『南越重工業大学校』の実習ドームへと直接自動パイプラインで搬送された。


古賀副社長の指揮のもと、再生素材100%で作られた第一号のプロダクトがお披露目された。


それは、南越車輌が誇る時速160キロ超の次世代AI電車『NK3500系』の特別仕様車——『NK3500系・ギャラクシー・ラビット(100%宇宙再生チタン製)』であった!


流線型の美しい車体は、かつて宇宙の無重力空間を何十年も漂っていたチタンとプラチナで鋳造され、塗料を使わずとも神秘的な銀色の光沢を放っていた。


「見ろよ篠原、大石! この車体、元は冷戦時代に宇宙を飛んでた衛星のフレームだ! 宇宙の過酷な放射線と零下二百度の極寒に耐え抜いてきた最強の金属が、いま、越後路を走る新幹線の車体として生まれ変わったんだぞ!」


古賀副社長が、ピカピカの車体を愛おしそうに撫でながら叫んだ。


新形テレビ20のベテラン記者・高橋とカメラマン・井上も、現場から全世界へ向けて生中継を行っていた。

井上の担ぐ最新鋭8Kカメラの側面には、あの破産寸前のローカル局時代から変わらない「古びたガムテープ」の切れ端が、誇り高く貼られている。


「こちら新形テレビ20です!」

高橋記者が感涙に声を詰まらせながらマイクを握る。

「かつて地球周回軌道上で宇宙のゴミとして恐れられていた『スペースデブリ』が、国連との合意と南越急行グループの異次元のリサイクル技術により、完璧な純度の最新金属として蘇りました! いま、その宇宙の金属で出来上がった100%再生電車が、人々の夢を乗せて走り出そうとしています!」


画面には、再生されたナノチタンインゴットを加工して新しい小型ロケットのエンジンを作る『南越重工業大学校』の陸少年たち学生の笑顔と、銀色に輝く『NK3500系・ギャラクシー・ラビット』の神々しい姿が映し出された。


この生中継映像は全世界へ配信され、国連環境計画(UNEP)および世界経済フォーラムから篠原賢人へ、最高峰の『地球循環経営大賞』が贈られたのである。


一方、六日町の本社CEO室。


大石専務がタブレットの財務データを手際よく操作し、ポーカーフェイスのまま数字を提示した。


「……篠原CEO、古賀副社長。今回の『宇宙資源全自動再生ギガファクトリー』プロジェクト。保管費用の消滅、抽出された純金・チタン・プラチナのグループ内原料代替効果、ならびに各国の宇宙機関からのデブリ撤去受注益を含め、初年度の当期純利益は『一兆六千億円』を記録いたしました。工場建設費八百億円は完全回収完了です」


大石はポーカーフェイスの口元をわずかに緩めた。


「さらに、原料調達コストが実質ゼロとなったことで、南越車輌の車輌製造コストおよび南越重工のロケット製造原価が25%永久カット。我がグループの価格競争力は世界市場において絶対的なものとなりました」


「ガハハハ!」古賀副社長が豪快に大石の背中を叩いた。「見たか篠原! 宇宙のゴミを掃除して、国連で法律を作って、100%の最新素材に変えて、なおかつ一兆六千億円の儲けだ! これぞ南越急行のモノづくりだぜ!」


「はい。今回は環境保護、法的独占、そして莫大なコストカットを両立させた、完璧なオペレーションです」


すべての式典と初稼働が終わり、静けさを取り戻した新潟臨海エリア。


夜空を見上げると、澄み渡る冬の星空の彼方を、かつてゴミで溢れていた地球周回軌道が、いまや『ラビット・クリーナー』の手によって清らかに澄み渡り、天の川の美しい光をそのまま地上へ届けていた。


臨海ドームの屋上テラスに、篠原賢人、古賀副社長、大石専務の三人が佇んでいた。


日本海からの清らかな冬風が、三人の髪を撫でていく。


古賀副社長が、感無量といった面持ちで星空を見上げた。


「なあ篠原。20世紀の人間たちが宇宙に放り投げて諦めたゴミを、俺たちが引き取って、新しい命を吹き込んで地球のレールへ戻してやったんだな……」


大石専務も静かに頷いた。

「はい。人間が作ったものに、無駄なものなど一つもありません。知恵と技術があれば、すべての過去は未来の資源へと生まれ変わります」


篠原賢人は温かいジャスミン茶を一口含み、二人の肩に優しく手を置いた。


「大石、古賀。我々が創り出してきたのは、単なる商品やお金ではない」

篠原の静かな言葉に、二人が深く耳を傾ける。


「過去から未来へ、地球から宇宙へ、すべての命と資源を巡らせる『不滅の循環レール』だ。時代が変わり、どんなに過酷な試練が訪れようと、我々がモノづくりへの愛と誠実さを忘れない限り、そのレールはどこまでも美しく輝き続ける」


渡辺前社長が遺した不滅の言葉——「会社は人より長く生き続けるべきもの。稼いだ金は未来を信じる魂だ」。


新形の夜空に、銀色に輝く『NK3500系・ギャラクシー・ラビット』の誇り高き長笛が、力強く響き渡っていった。

宇宙の星々と人々の豊かな未来を足元から完璧に繋ぎ合わせながら、南越急行ホールディングスの走らせる無限のレールは、どこまでも、どこまでも光り輝きながら伸び続けていくのだった。

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