第4-3話:届かぬ刃
……来るッ!
瞬間、ジャンが指揮者のように腕を振るい、四本の触手が私目掛けて突っ込んでくる。
軌道は読める。
私に二本、ルイにも二本。
私へ向かってきた二本の触手を、一閃で叩き斬る。
余裕で切れる硬度、でも繊維質な肉に押し返されるようで刃が重い。
ロベールの蝋とはまた違う意味で「硬い」……!
そして、斬っただけじゃ終わらない。
先端が欠けた触手は、次は振り払おうとする素振りを見せる。
一閃、また一閃と切り上げていくも、突きが鞭に、鞭が腕を狙った拘束にと変わっていく。
おまけに足元に飛び散った触手の血や粘液で足場が悪い。
物量に圧され、悪い足場を避ける形で後退を迫られる。
そのまま気がつけば、入口あたりまで追い詰められた。
肝心のジャンは苦悶の表情すら浮かべていない。
「本体を叩かないとジリ貧……!」
でも本体を叩くって、どうやって。
ルイの光球から放たれる光線もジャンの触手に防がれるばかりか、ルイ本人は私よりも触手の圧に押されている。
仮に今相手している触手を壊しても、後ろにはおかわりが。
今は良くても、どこかで立て直さないといずれ限界が来るのは明白……!
「……っふぅ! まだジャブだぞ、どうしたガキ共ぉ!」
一瞬の触手の静止の後、あの土管ほどはある極太の触手を二本差し向けてきた。
迫るときの風圧とその質量感。
あれは近づけちゃいけない……!
最初の二本を切り払い、隙を作る。
ここへ来た時に目にした廃材へと手を伸ばして太めの鉄パイプを一本手に取ると、それをルイへと向かう太い触手へ投げ槍のように投げ、触手の側面へと突き刺した。
これで少しでも動きが鈍れば——そう思ってのことだったけど。
「……っ!?」
瞬間、鉄パイプから噴水のように血が噴き、私の顔面に噴きかかる。
生暖かく不快な感覚に思わず顔をしかめるも、本筋はそこじゃない。
パイプの刺さった触手が、まるで本物のタコのように唐突に暴れ狂う。
他の触手を顧みることすらなく、周囲を巻き込み轟音を響かせながらその質量を存分に打ち付けている。
不意に訪れた隙に一瞬思考が固まりかけたけれども——タイミングは今しかない。
咄嗟の判断でルイへ顎で指示を出して、工場の外へと駆け出た。
ルイの光球が殿の代わりを務め、光線を乱射する。
入口から十数歩駆けたところで止まってもなお、触手は砂煙をあげながら暴れていた。
「どういうこと!? なにあれ!?」
「は……はっ……多分あの触手一本一本が半分独立してて。本物のタコと同じなんだと思う。昔、何かの図鑑で……」
ルイは冷静にそう分析したけれど、明らかに私よりも息を切らしていた。
その場で片膝を突いており、顔には疲れが浮かんでいる。
私の方も顔についた触手の血を拭うと、紫色の血は光の粒子になって霧散した。
「ごめん……こういう切り合いは得意じゃなくてね。ありがとう」
「ありがとうって、何が?」
「さっき僕に向かってくる触手に向けてパイプを投げてくれただろ?」
それを言われて初めて、自分が無意識にルイを助けようとしていたのに気がつく。
別に私も人が傷ついて死ぬとこが見たくないだけだし、それ以上の意味はない。
「……そ。今は前を向きましょ」
それにたかがその程度で感謝される資格は私にはない。
なのに、ルイがその笑みをやめないのが妙に腹立たしい。
「……来るね」




