第25-2話:「熱」
この人今、間違ってると思ってないって言ったあとに古いって言った?
ルイもそれを疑問に思ったのか、いまいち理解できてなさそうな表情を浮かべながら疑問を投げかける。
「昔の価値観だからってことですか」
「そういう話はしてねえ。合理的な戦略として古いって話をしてんだ。まずをもって血統政治そのものを現代人とは考えが合わん、そりゃ反発されるだろって話だ。それに異能者との間であっても、異能者の子は異能者にはならねえ」
異能が、遺伝しない……。
ちょっと前ならこの厄災を自分の子孫に引き継がなくていいのを喜べたのかもしれない。
けれど、今の自分の身体を鑑みると少しだけ複雑なものを感じる。
「要はガキ拵えても自己満にしかならねえってことだな」
目を開き直したリチャードは、腕を組みながらまたもやふんぞり返る。相変わらず視覚情報が多い。
「それでだ、怪物殿。例えば政略結婚で黒太子みてえなのを十人集めたところで——」
そして私とルイにしか答えられないような質問を、こちらを軽く睨みつけるようにしながら投げかけて。
「ロムルスに、勝てると思うか」
「……!」
なるほど。そういう話か。すごく分かりやすいと思うと同時に、背中の毛がよだつ。
「無理です。絶対に。何がどうひっくり返っても」
私がきっぱりとそう言い切る横で、ルイも意味が分かったのか「つまり、政略結婚そのものが弱いってことですか」と、半ば確信したような口調でリチャードへと聞いた。
「そうだ。結局のところこのゲームでは異能の性能と、それを活かすための威信の量が全てだ。そりゃ同盟相手は欲しい、けどこのゲームでは街そのもの譲渡や、企業やヤクザとの取引みてえに、威信を代価にして同盟を組むほうが早え」
「けど政略結婚は時間がかかるし、僕らみたいな価値観を持った人間は引き込めない……と」
「そういうこった。別にババアが鬱になった親父を俺達ガキが世話してんのに、それをほっぽって他の男とガキ拵えるのはこの際もうどうでもいいけどよ。それで政略結婚ごっこして『私は円卓に貢献してます』ってツラされちゃあこっちも困るってもんよ」
……そうか、アリエノールって向こう側から見ても迷惑な存在だったんだ。
そういえば熊沢大佐からもらった要注意人物リストの中でも、リチャードとシャルルは「有力者だから」で顔を覚えてくるように言われたけど、アリエノールだけは「会議をひっくり返す可能性がある」って書かれてたっけ。
組織って言っても一枚岩じゃないんだなと思い直したところで、リチャードは唐突に「けどよ、俺はその話を聞いてババアに感謝を言いたくなったぜ」と精々したような口調で言った。
「感謝って、なんでですか」
「へっ、よくぞ聞いてくれた。あのババアは放って置けんぐらいには強くてな、俺がリーダーになるまで恩も幾つか売っちまった」
「ああ、だから勝手にやらかしてくれて、それを理由に処罰できるから感謝してる……ってことですか」
またまたそうやって補足するルイ。
今まで友達としてしか見てなかったけど意外とそういう感覚鋭いんだな、と今まで知らなかった面を見れてちょっと感心した。
「そうだな、おまけに盟約の内輪で済ませることなくきちっとこうやって場所を作ってくれた。感謝してるぜ」
「……ありがとうございます?」
そうは言ってみるものの、こういう時なんて言ったらいいのか分からない。
私たちがリチャードに感謝されることをしたのは確かだけど……これはどちらかと言えば取引的な感謝で。
昨日会議が終わったあとに「よくやった」って言われたのと同じ感じかもしれない。
ちょっと嬉しくなってる自分が居たけれど、それが知らない世界の嬉しさなことに困惑せざるをえなかった。
そうやってリチャードとちょっとした調整をしたあと、私たちが部屋から退室することになった直前になって、リチャードは私たちを呼び止めた。
「そうだ、最後に聞いておきてえことがある。この会議をセッティングしたのは誰だ」
「えっと……シャルルさんですね」
「んなこたー分かってる。最初に提案したやつは誰だって話だ」
最初に提案……そう言われてルイの方を見ると、彼はちょっと照れながら「僕ですね」と顔をくしゃっとしながら言った。
「へっ、やっぱりそうかい。男なんだからよ、これからも守ってやれよ。怪物の恋人さん」
リチャードは私たちの右手に目配せしたあとに、誂うような口調でそう言った。
そうか、別に公言してるわけじゃないけれどこうもやってたらバレるか。
指輪を付けてるだけだとは言え、なんだか見せつけてるみたいになって少し小っ恥ずかしくなるのと同時に。
「男なんだから」という昨日私が言われたことと同じようなことをルイが言われてたのが気になったけれど。
「へへっ、ありがとうございます」
ルイがなぜだか、心底嬉しそうにしていたのをあとになってもに覚えていた。




