第21-6話:実り実った日常
「会議?」
まあ私が参加するからには軍じゃなくて異能やゲーム関連の会議なんだろうけど、どんな会議かな。
須藤と私以外にも五人居るっていう現代人の異能者との顔合わせとか?
「一連の騒動……長期間するだろうという意味も込めて、瀬戸内百日戦争と呼ばれておる危機の調停と講和を目的とした会議じゃ」
なんて考えてたとこにぶち込まれたのは、聞いたことのない戦争に関する、しかも危機の調停とかいう物々しい横文字。
私がそれに関与した覚えは一切ないし、なんなら関西はここ数年こないだ行った萩以外で訪れたこともない。
「ロベール、ジャン、黒太子……今挙げたのは全て、その戦争に深く関与した異能者の名じゃ」
「……!」
なるほど。
ルイと出会って以来相手をし続けたあの異能者たちは全て、その瀬戸内百日戦争っていう一つの単語で繋がってたのか。
「特に黒太子が引き起こした萩での虐殺、あれに関する証人……そして新たに台頭した現代人の異能者、要は『怪物』として出席してもらいたいのだが……」
「だからさっきお金を先に渡した……ってことですか?」
「なるほど、そう見られたか…………もちろん、強制的に出ろとは言わん。一連の騒動の経緯や内容を事細かに纏めて報告してもらえれば、軍の代理が出席して解決することも出来る」
報告……ちょっと前に須藤に「書け」って言われて黒太子について書いたあれかぁ。
めんどくさいんだよな、あれ。しかも言い草からして書き直しになるっぽい。
「……報告めんどくさいんで直接出る方向でお願いします」
「うむ、前向きな言葉として受け取っておこう。この『ゲーム』を攻略する上で顔は広い方が良い。儂も、そちらの方が懸命な判断だと考える」
「いつ、どこでやるんですか?」
「日時は一度土日を越して来週の土曜日と日曜日の二日間、場所は京都にある『知恵の館』という施設じゃ」
京都……私は行ったことないけど、引きこもってて行かなかった修学旅行で香蓮たちは行ってるんだっけ。
ついでに見れるかな、法隆寺……なんて思っていると、熊沢大佐は若干苦しそうな表情を浮かべながら最後の話題を切り出してきた。
「はぁ……ではあまり気乗りせんが、最後の用に移るとするか」
「えっ、そんなに億劫な話題なんですか」
愛知住みの高校生を京都に送り出す以上に億劫な話題って一体なんなんだ。
深い溜息をする様子から何か差し迫った危険があるってわけじゃなさそうだけど……なんて予想していると、大佐は小さなアタッシュケースをテーブルへ出してきた。
開けてみると中には黒いスポンジが敷き詰められていて、その隙間に耳栓ぐらいの大きさをしたカプセルが鎮座していた。
「これは?」
「まあいわゆる『ホイポイカプセル』じゃ」
「ほいぽい……?」
ダメだ、上手く例えてくれたつもりなのかもしれないけど純粋に分からない。
「……これが世代か、残酷じゃの」と更に気を落とす大佐。
「……現代の異能者の中に、本職がデザイナーの女性がおってな。新しく君のための戦闘服のデザインを依頼したところ彼女が『頑張過ぎて』しまったようでの」
へえ、本職がデザイナーの現代人の異能者。
最初に知ったのが須藤だったから職業軍人みたいなのばっかを予想してたけど、当たり前の話私みたいに普通に生活してる人が異能者になるケースもあるのか。
「……えっ、もしかしてその戦闘服がこの中に?」
「そうじゃ。中立組織『知恵の館』の異能者が開発した、入れ替えと圧縮の異能が使われている代物になっておる」
知恵の館……さっきの話にも出てきたけど、確か私が参加する会議の会場だったっけ。
「へぇ、これどうやって使うんですか?」
「指の腹をてこのように使い、カプセルを開封すれば一瞬で着替えられる上再利用もできる。だが今はやめてくれ、あんなものは儂は見とうない——」
「あっ、開いちゃった——うっ!」
瞬間、私の身体があの光の粒子で包まれる。
眩しさのあまり目に突き刺すような痛みが走り、地肌にぴったりと何かがまとわりつく。
「……はぁ。儂は言ったからな。今はやめてくれと」
大佐のより一層深くなるため息。
ってかさっき「あんなもの」呼ばわりしてたし、一体どんな戦闘服なんだろ——。
「……って何これ!?」
自分が身につけていた戦闘服を目にして、思わず目を丸くする。
露出は手や足、頭などごく最低限なのはいい。
でも問題はその材質。
身を包むのは身体にぴったりと張り付くラバースーツ、身体中のラインがくっくりそのまま浮き出ている。
胸元には臍から二の腕の真ん中辺りまで半袖パーカーが覆い、胸元のラインが露出していないのは不幸中の幸いだけど——。
「なにこれ!? 人前で着る服じゃないでしょ!?」
戦闘服ってことは、これ人前で着る服ってことだよね!?
っていうかその女の異能者ってのはなんで私にこんなもの着せようと思ったわけ、頭おかしいの!?
「……全身耐衝撃、耐斬撃のラバー素材。非異能者の攻撃程度ならばびくともしな——」
「ちょっと! 解説してないで、これどうやって戻すか教えてくださいよ!」
「右手にまだカプセルが握られておるだろう、その中に先まで着ておった服が入っておる」
ああなるほど、だから入れ替えの異能が使われてるのかとテンパりながら納得する。
けれど、また開封しようとしたタイミングで手が滑ってテーブルの反対側の床へと転がり落ちてしまった。
「ちょ、ちょちょちょ! どこ行くの——」
もう何から何まで上手く行かない、焦りが最高潮に達したところで誰かがドアを叩く。
磨りガラスの向こうには背の低い栗色の毛をしたあの男……ルイが立っていた。
「失礼しまーす、呼ばれて来ました。本田ルイで…………おっ……おっふ……」
考えうる限り最悪なタイミング。
そうと以外形容できない。
「や、大和なんだその格好!?」
私の身体を足先から身体に至るまで直視するルイ。
私も無意識的に胸元を隠すけど、隠すべきは股とかお腹。
紅潮と混乱で自分でも何考えてんのか分かんない。
廊下で誰かの話し声が耳に入った瞬間、ルイは大きな音を立てながら司令室のドアを閉めた。
「いや……あの……ルイ! これは違くて!」
「……分かってる、大和。安心してくれ」
さすがルイ、状況を察してくれるなんてなんて都合の良い——。
そう思った時には、その睨みつけるような目線が大佐の方へと向かっていた。
……これ不味いやつだ。
「何やってくれてんだこのエロジジイが!!」
「ちょ、ちょっと待ってルイ! 止まって! ぶん殴ったら大事件だよ!?」
殴るなら大佐じゃなくてデザイナーの女の方を殴って欲しい。
そんな私の願いを聞き入れず、大佐へと突っかかろうとするルイの身体を必死に引き止めた。
「…………はぁ」
その光景を目の当たりにして深いため息をつく大佐の息遣いの中に混ざる、上向いた声。
この苦労人が、本心から口角を上げているのを初めて目の当たりにした。




