第十四章:外れた円
午後二時。
警視庁・分析室。
神谷弘志は、PCモニターの前でデータベースを睨んでいた。
壁に貼られた大きな地図、そして“渦”のように並ぶ事件地点。
それが意味するものを、必死で探っていた。
「黄金比、五芒星、渦巻き、螺旋……」
いくつもの図形、宗教的シンボル、
都市伝説や神話まで調べ上げた。
しかし、どれもしっくりこない。
(違う。単なる偶然なのか……?
それとも、“俺にだけ”わかるように構成されているのか……)
手元のノートには、こんなメモが残されていた。
■ 中心に集まる死
■ 羽根は“印”
■ 意図は芸術か、挑発か
そのとき——
「神谷さん! 現場から連絡が入りました!」
若い刑事がドアを開けて叫んだ。
「新しい遺体が発見されました! 練馬区、住宅街の裏路地です!」
(……練馬?)
弘志は即座に地図へ目をやった。
そこは、これまでの“形”から完全に外れた地点だった。
「……初めて、“円”から逸れた。」
午後五時三十分。
練馬区・現場付近。
夕日が建物の隙間から差し込む中、
弘志は濡れたアスファルトの上に膝をついていた。
若い女性の遺体。
暴力的に殴られた跡、そして首には鋭利な刃物による傷。
周囲には争った痕跡。
しかし——
白い羽根が残されていた。
「……犯人にしては、ずいぶん雑だな。」
「模倣犯の可能性は?」
「いや……この羽根は、間違いなく“本物”です。」
鑑識がそう答えたとき、
弘志は言葉を失っていた。
(形から、外された……)
(これは、偶然か? それとも——)
「見ているな、俺の動きを。」
彼は静かに立ち上がり、遠くを見つめた。
遠くの空に、鳥が数羽、静かに円を描いていた。
(……完全に、主導権を奪われている。)




