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うまく言えないが、とにかくヤバい。(4)

 宿直室にて。


「弁解は?」

「アリマセン」

「反省してるか?」

「シテマス」

「はぁぁぁ~……」


 簀巻すまきのままパイプ椅子に座らされたはるかが、片言の猛省を口にしている。

 話し相手は、常に白衣に無精ひげでしかめっ面な男子寮の寮監、あお谷木やぎだ。


「フツーこういう時ってのは男の方を疑うもんなんだよな?」

「ハイ」

「けど、ここの寮は物理的にも魔術的にもセキュリティがはたらいていて、ちょっとやそっと中にいる奴が誘って忍び込ませようとしたところで無理なんだわ」

「はぁ……ソウナンデスカ」

「おい、今知ったみたいな顔するな。俺個人的にはお前が反省してるって言うならそこは突っ込まねえが、数多の網をかいくぐって侵入おおせたのは何故だ」

「え? 結構簡単でしたけど……」


 何やら口走るはるかの脳天に、背後に立っていた俺がチョップをくらわす。


「痛いのだーっ」

「……やっぱり反省してねえな」


 その様子を見ていたあお谷木やぎがそう言ってため息をつく。


瀬野せの。反省文一枚と、具体的な侵入経路と方法を書いた報告書。明後日の十八時までに出せ」

「うそんっ! センセーッ。明後日は入学式ですよォ」

「だったらどうした。入学式は午前で終わりだし、逆に時間がたっぷりあっていいじゃねえか。書き終わるまで外出許可も受け取らねえように花鐘はなかねの奴にも言っておく」


 花鐘はなかねというのは女子寮の寮監の名前だ。


「先生のいけずぅ」

「あほか。まったく明日には他の生徒もほとんど帰ってくるってのに、直前にやらかしやがって」


 あお谷木やぎがそうブツブツ言いながら、女子寮に内線をかける。

 程なくして、はるかの身柄は無事引き渡されたのだった。



 二日後の入学式。

 と言っても、硝鍵しょうけん学院は、初等部から高等部まであってその内殆どが内部生のために、そこまで盛り上がったり感慨にふけったりするわけではないのだった。

 そんなわけで、多くの高校と大して変わりないであろう式を終えて、教室に戻る。クラス分けは入学式の前に確認してある。運がいいのか悪いのか、空也ソラはるかとも同じクラスだ。


 黒板に書かれた席表を見て、自分の席に着く。ふとはるかの席を見るが、荷物はあれど姿がない。空也ソラの方は、自席で本を読んでいた。


月城つきしろ様?」


 急に声をかけられて見上げると、知らない女子がこちらを見ていた。

 その女子は俺と目線があったとたん頬を染め、手前勝手に名乗りはじめ、同じクラスで嬉しいだの当たり障りのない話題を振ってくる。

 俺が返事もせずにぼんやり見ていると、次から次へと女子が寄ってきて銘々に名乗ってきたり自己アピールをしてきた。

 あっという間に周りが見えないくらい囲まれてしまったが、半ば話の腰を折るように女子たちに話しかける。


「あーの、悪いんだけど、はるかのこと、知らない?」


 俺の言葉に、女子たちはとぼけた顔で首を横に振る。


「ホームルームが始まる頃には戻ってきますわ」


 サラッとそう返されて、情けなくも何も言えなくなってしまう。

 女子達が俺を輪に入れようと奮闘しているのにあたふたしていると、輪の外から声がかかった。


つばさ


 女子の山の向こうに、空也ソラの頭が見えた。


「わりぃ、ちょっと行ってくるわ」


 スマートさの欠片もないが、一切気にせずに席から立って、空也ソラを連れて教室の外に出る。

 廊下を見渡すが、はるかの姿はない。

 一先ず空也ソラに礼を言う。


「マジ助かった」

「大変だな。こういうのも、月城つきしろの血……、ってやつなのか?」


 二人で話をしながら、はるかを探すことにした。



 ──魔術師は、家々によって、特殊な能力や体質を持ち合わせている場合がある。


 俺のうち、月城つきしろが持っているのは、“魅了みりょう”……。とどのつまり、俺自身の行動どうこうにかかわらず、人が──主に異性が──数多あまた寄ってくるという代物だ。


「こっちは全くその気はないんだがな。実家には何の権力もないし親戚付き合いもろくにない。代々(だいだい)女系(にょけい)だから跡取りは妹だ」


 魅了持ち、なんて言えば、すごく羨ましがられそうな能力だが、現状迷惑この上ない。

 いや――、俺自身、数年前まではこの体質を幸運だと思っていた。

 何もせずとも、向こうから寄ってくるなら、その中から良いものを選べばいい、と。


「いた」


 渡り廊下を見渡して、曲がり角にはるかが立っているのが見えた。


 呼びかけながら手を挙げると、こちらに元気よく手を振り返してきた。



 ──今あいつ、ちょっと嫌そうな顔しなかったか?

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