390列車 お土産
「いいなぁ・・・。お父さんまた北海道行ってきたんだ。」
最近はお父さんの同僚と北海道旅行するってことも少なくなってたのに・・・。今年は久しぶりに北海道に行ってきたのだ。
「ごめんね。本当は光も連れてきたいんだけど。」
「まっ、学校じゃ仕方ないけどね。」
ウチはそう言って流した。特にそれが不満なわけじゃない。ウチだって休みの日はキラ達と一緒に鉄道写真を撮りに出かけたりする。そうするのはお父さんの仕事は夜通しで働く仕事だから、昼間お父さんと遊ぶことを半ばあきらめているからだ。遊んでくれないんじゃなくて、遊べないんだから仕方がない。でも、どこかに出かけることに関しては正直にうらやましいと思っている。
「光はやっぱり○い恋人よりもこっちでしょ。」
「うん。」
お父さんはそう言うとウチに写真を渡してきた。電車の写真を見れば、何処に行ってきたのか大概わかる。同じ形式でも塗装さえ違えば走る線区は違う。それだけでも十分な判断材料だ。まぁ、今回は北海道だから、走る線区により塗装が違うのは日高本線と札沼線「学園都市線」ぐらいかな・・・。
「えっ。」
「やっぱりこれは違うか・・・。」
キョトンとするウチを見てお父さんはすかさずそう言った。
「昔、北海道には今よりももっと多く鉄道が走ってたんだよ。」
ウチは駐車場の中にぽつんと立っている駅名表に見入った。平仮名で「せたな」と書いてある。
(せたなってどこ・・・。)
聞いたこともない場所である。
「それは瀬棚線っていう国鉄の線路の終点だったんだよ。」
「・・・。」
「まっ、お父さんも実際に走ってるところは見たことないんだけどね。」
笑いながら付け加えた。
「瀬棚線かぁ・・・。お父さん、今走ってない路線なのによく知ってるね。」
「いやぁ・・・。今ならネットで調べれば、そう言うのはたくさん出て来るしね。」
確かに出て来るけど・・・。でも、国鉄って・・・。そう言うの好きじゃなきゃ、ネットで調べれば出てくると言っても、調べるわけがない。
後で調べてみたが、瀬棚線の廃止は昭和62年。お父さん平成生まれだから、瀬棚線がなくなった時は当然ながら、影も形もなかったってことになる。
「で・・・電車は無いの。」
「あるよ。他にも。」
そう言うと今度は他の写真も取り出す。次に出てきたのは北海道新幹線のニューフェイスE10系だ。E5系から引き継いだ320キロの走行性能と、秋田新幹線「こまち」のE6系や山形新幹線「つばさ」のE11系との連結機構を有している。新幹線のファーストクラス「グランクラス」も引き継がれており、性能・車内設備・座席定員全てE5系と同じ為完全な共通運用が可能になっている。
「お父さん「はつかり」に乗った。」
「乗ってないよ。乗る暇なかったからね。」
乗る暇がなかったというのがすごく残念そうだ。
「次行ったときはやっぱり「はつかり」には乗りたいね。まだ北海道新幹線で札幌まで行ったことないし。」
「・・・お父さん、これは。」
「ああ、それは道南いさりび鉄道のディーゼルカーだよ。」
そう説明してくれた。写真に写っている車両はこのあたりじゃ見たことない。それに、かなり小ぢんまりとしている。写真から小ささが伝わって来るって、実物がかなり鉄道車両としては小さいことを物語っている。
「昔はJR北海道が使ってたキハ40系を使ってたんだけど、もう流石に古すぎたんだろうね。それ新しい車両だし。形式はちょっと分かんないけど・・・。」
他の写真も見てみた。お父さんの取ってきたほとんどの写真に人は映っていない。これは昔からだから、あんまり気にしたことはなかったけど・・・。ここまで鉄道やそれに関連したものしか映っていないと・・・。鉄道好きなのはよく分かる。
「・・・。」
ふと顔を上げると当然だけど、お父さんの顔が目に入る。
「どうかした。またわからない車両でもあった。」
「あっ、ううん。」
首を横に振った。でも、今目に入ったお父さんの顔はなぜか仕事をしに行く時よりもイキイキして見えるのは・・・。




