375列車 報告会
中学校が始まった。まずは、キラと春休みの報告だ。ウチは切らから渡されたマルス発行の切符を手に取った。列車名には「はつかり11号」と入る。東京9時36分発、札幌14時17分着。
「乗ってきたんだ。去年行かなかったから。」
ウチはそう聞いた。
「ああ、北海道新幹線。光よりも先に行かせてもらったぜ。」
北海道新幹線は2016年3月26日に新青森~新函館北斗間が開業し、皆さんの記憶にも鮮明に残っていることだろう。その未開業区間が2029年10月1日、新函館北斗~札幌間が開業した。これに伴い東北新幹線から北海道新幹線に直通し、かつ全車指定で東北新幹線内320キロを出す列車を「はつかり」に改称。朝夕の「はやて」以外は全て「はやぶさ」から「はつかり」に変わった形になった。なお、「はやぶさ」は愛称消滅せず東北新幹線内のみを走る全車指定、最高320キロの列車に限定された。また、北海道新幹線の開業に伴いJR東日本にて先行導入が進められていたE10系が本格運用を開始し、JR北海道ではH10系が本格稼働している。
「いいなぁ。ウチも北海道新幹線乗りに行きたい。ていうか青函トンネルどうだった。」
それが聞きたい。
「ああ、それなんだけどなぁ。青函トンネル入った後にどうやら寝落ちして、気付いたら北の大地を走ってた。」
「な・・・なんだよ。そりゃ。」
何かがっくりだ。
「それにしても新幹線早いなぁ・・・。全区間260キロ出したら、44分で結べるんだな。」
44分で結べるのは新青森~新函館北斗間の事だ。もともと全列車140キロスタートだったから、進化といえば進化であるが、2017年3月のダイヤ改正からあまり体制の変化はない。
「感想はそれだけかよ。せっかく青函トンネル通ったのに・・・。」
何かなぁ・・・。世界で2番目に長い鉄道トンネルだぞ。あっ、ちなみに世界一は2016年開通したスイスのゴッタルドベーストンネル(全長約57キロ)である。もちろん、海底トンネルでは世界一のままだ。
「お父さんかお母さんに行きたいって言えばいいじゃん。」
キラはそう言ったけどね、
「ウチはキラの家みたいにお金持ちじゃないから、そうホイホイどこかに行けるわけじゃないの。」
ただでさえ北海道新幹線は特急料金割高なのに・・・。
あの広い家を持っててお金持ちじゃないっていう根拠は何なんだよ・・・。
「ウチだって「はつかり」にも乗りたいんだけどなぁ・・・。はぁ。」
「まぁ、そのうちどっちにも乗れるって。」
長宗我部はそう言ったけどウチにとっては説得力なんてないに等しいものだ。
「つっても、どっちもウチより早く乗ったじゃない。「ふじ」にも・・・。」
ウチはぼやきながら、リニアに着いた名前を口にした。「ふじ」は中央新幹線速達列車の愛称だ。ちなみに各駅タイプは「みらい」だ。2025年3月に開業した中央新幹線は品川~名古屋を最速44分で結んでいる。「ふじ」は全車指定で現状毎時6本が走っている。尚、並行新幹線になる東海道新幹線の東京~名古屋間には「のぞみ」4~6本設定されており、「ふじ」は事実上の「のぞみ」の増発という形になっている。
「まぁ、そういうなよ。そっちだって春休みに静岡に帰ったんだろ。それでずっとジオラマで模型走らせてたんだろ。」
今度は羨ましいなあという顔をしながら、長宗我部は言った。ウチのお父さんの実家には大きなジオラマがあることは知っているからね。
「ああ。まぁね。おじさんまた新しい模型買っててさ、海外のrailjetっていう高速鉄道の模型が増えてていろいろと楽しかったよ。景色100%日本なのに海外の列車が走るって・・・。」
といっても、ウチは海外の鉄道に詳しいわけじゃない。フランスのTGV、AGV。ドイツのICE。スペインのAVE。イギリスのeurostar。オーストリアのrailjet。イタリアのEUROSTAR・Italia。フランスの国際高速鉄道Thalys、Lyria。他にも知ってはいるが、これ以上書くといろいろと長くなりそうだ。
「まぁ、そこは模型だからいいんじゃない。」
「つってもなぁ・・・。あんまり楽しめなかった・・・。」
「どうして・・・。光らしくないじゃん。」
「あっ・・・。」
「もしかして熱でも・・・。」
「余計なお世話だ。」
楽しめなかったのは事実なんだけど、それはちょっといろいろと知り過ぎたせいかもしれない。中学生のウチには結構強烈だったことだったかもしれない。亜美から渡されたものだし、それやらないと亜美となぁ・・・。
「・・・。」
「どうした・・・。」
「いや、何でもない。」
何でもないじゃない。ウチってあんなに計算できないのかな・・・。亜美ってあれどれぐらいのペースでできるんだろう・・・。もちろん、他人の事であるから気にしなければいいのだけど、自分があそこまでできないものだと分かると余計にそれが気になる。
(・・・うーん、なんかいい方法とかないのかな・・・。)
「・・・。」
「ナガシィ。」
萌が僕を呼んだ。
「どうしたの。真剣な顔して。似合わないよ。」
「・・・ねぇ、これも亜美ちゃんからもらったのかな。」
そう聞くと萌は僕の隣にやってきた。まぁ、反応を見る限り萌ではないというのはすぐに分かった。
「そうなんじゃないかな。それにしても、光がこれ始めるとはねぇ・・・。まぁ、確かにJRに入りたいってなったら必要だけど。」
「まっ、今のままなら100%通らないことだけは断言できるけどね。これは僕に似たのかな・・・。」
「あれ、光に教えたりしないの。」
「僕は教えないよ。教えたければ、萌が教えれば。」
EUROSTAR・Italiaのほうが歴史は古かったりするというのは意外だった。




