373列車 事件です。
「事件よ。事件。」
由佐ちゃんはそう言った。しかも、かなり大きい声だ。思わず電話を耳から離した。
「事件って・・・。そんなに慌ててどうしたのよ。」
私はすかさずそう聞いた。
「何って。あの光君が女の子と会ってたんだよ。それも知らない人。」
「・・・。」
その時脳裏にあの光景が浮かんだ。「光ちゃん」と呼ぶ女の子が出てきた。光君とちゃん付けで呼ぶのは彼自身がはばかることだ。しかし、光君はその人に対してそれをしていない。いや、出来なかったのかもしれないけど。
「いや、私にとっては輝君が告白してきたことの方が事件なんだけど。」
「ああ、そう。でも光君の隣はあさひちゃんって決まってるんだから。」
いつ決まったのそれは・・・。ああ、学校の噂が原因か・・・。別に私の隣が光君って決まっているわけじゃないのだけど。私以外に光君を好きな人がいるなら、その人と光君がつきあったっていいぐらいだ。そこまで諦めがつくのは彼女のせいでもあるだろう。
「とにかく調べてみたいと思わない。光君に合っている女の子がどこの誰なのか。」
「あのさぁ、少年探偵団みたいなことやってないで、少しは春休みの課題っていうのを片付けようとは思わないわけ。」
「それよりも事件でしょ。」
(ああ、これは何を言ってもそっちに持っていく気だ・・・。)
「はぁ、分かったわよ。それは光君に直接聞いたほうがいいと思うから、中学始まるまでお預けね。」
「直接なら、電話でもいいんじゃ。」
「電話じゃ伝わらないこともあるでしょ。言いたいのはそれだけ。」
「あっ、うん。」
「全く何かと思えば。」
「どうしてそんなにさめてるの。」
「さめてるわけじゃないわよ。ただ、光君だって男の子なんだから、彼女がいるいないであんまり騒いだりしない。いたって別に悪いわけじゃないでしょ。」
「ああ、まぁそりゃそうだけど・・・。」
「良い。何度も言うけど光君の事は何とも思ってないんだから、その話はおしまい。分かった。」
「ああ・・・。うん。」
「じゃあ、また中学で会いましょ。じゃあね。」
「あっ。うん、バイバイ。」
電話を置いたが、何か閉まらない。光君が彼女と会ってた。これは大事件であろう。学年中に広まっている噂は本当に噂になるのだ。長年の学説がひっくり返るのと同じだぞ。宇宙が収縮していたと信じられていたのが、今も膨張し続けているに変わったというのと同じぐらいの破壊力を持っているのだぞ。・・・すいません。
「うーん、あっ。そうだ。」
智萌ちゃんに聞けば何かわかるかな・・・。
「由佐。もう寝なさい。」
時間のようだ。
「はーい。」
あんまり遅くまで起きてるとお母さんがうるさいからなぁ・・・。不満そうな顔をしながら、電話のあるリビングを後にした。
(・・・光君が知らない女の子とねぇ・・・。)
心の中でつぶやいた。気にならないと言ったらうそになる。だが、今電話してきた由佐ちゃんが見たのと私がちょっと前に見たのはおそらく同じ人だから、私が全く顔を知らないというわけではないだろう。
・・・。なんかいろいろあるなぁ・・・。輝君から初めての告白は受けるし、光君が女の子と会ってるって由佐は言うし・・・。なんか手がつかなくなっちゃった・・・。今日はこれぐらいで終わりにしようかな・・・。部屋の電気を消し、ベッドの中に入った。




