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第7話

 冒険者か。ゲームっぽくていいな。オレのステータスなら、無理して大金を狙ったりしないで、簡単な依頼しか受けなければそうそう死ぬこともないだろうし。


「悪くないな」

「ご主人様、盗賊を倒すくらい強いからきっと凄い冒険者になれます」


 オレがマイカの意見に賛成すると、リノも賛同するようなことを言ってきた。別に凄い冒険者になるつもりはないけどな。目立ちたくないし。


「冒険者になるにはどうすればいいんだ?」

「すいません、私にはそこまでは……」

「ああ、別に気落ちしなくていいよ。それはギルドに言って聞いてみよう。教えてくれてありがとう、マイカ」


 お礼を言うと、マイカもうれしそうに微笑んでくれた。時間ができたら、宿屋の親父にでも場所を聞いて冒険者ギルドって所に行ってみよう。

 ただオレが冒険者になるのは構わないんだが、問題は――。


「ご主人様」

「何?」

「ひょっとして、私達をどうするか考えていますか?」


 うわ! なんでわかった? テレパシーか? ひょっとしてマイカも念魔導が使えるのか?


「お顔を見ればわかります」


 オレってそんなにわかり易い顔をしているだろうか……。

 微妙に凹むオレを尻目にマイカは話を続ける。


「ご主人様はお優しいので、冒険者として仕事をする時は私達には留守番をさせようとか、別の仕事をしててもらおうとか思ってませんか?」

「なぜそれを……」


 やっぱり、とマイカは小さくため息をついてから表情を真剣なものに変える。


「お願いします。私とリノも冒険者の仲間として連れて行ってください」

「いやでも、話を聞く限り冒険者って結構危険を伴うんだろ?」

「構いません。囮でも壁でも何でもします。それにまだLvは低いですが、リノは念魔導が使えますから役に立つこともあるかもしれません」


 そんな台詞を聞いたら尚のこと連れて行くわけにはいかないと思ったのだが、それを口にする前にマイカがまくし立てるように続ける。


「先程ご主人様のお気持ちを聞いて、私達はそれまで以上にご主人様の恩に報いたい、お役に立ちたいと思いました。足手纏いにならないように全力を尽くします。ですからどうか常にお側にいさせてください」


 マイカの意志が固いことを理解したオレは、仕方なくリノの方に視線を向ける。マイカより弱気な所があるリノが少しでも嫌がったり怯えたりする様子を見せれば、断る理由にできると思ったのだが、リノの瞳にはマイカと同じように強い意志の光があった。


「リノはいいの?」

「はい、ご主人様。私もマイカと同じです」

「危ない目に遇うかもしれないんだぞ?」


 少し脅かすようなことを言ってみるが、リノの瞳は揺らぐ事がない。


「ご主人様は私が狐人族であることを隠していても怒らなかったし、獣人だからといって苛めたりしませんでした。私はそれがとても嬉しかったの。だから私はご主人様を護る為に精一杯頑張るの」


 そんな風にまで言われて断ることなど、オレにできるわけがない。オレができるのはついてきた2人を全力で護ることだけだ。


「わかった。じゃぁ、3人で冒険者として頑張ってみよう」


 オレがそう返事をすると、2人は満足そうな笑顔で頷いた。


 一端そこで話を打ち切り、朝食をとることにした。昨夜と同じ食堂に行き、注文する。朝食は宿代の中に含まれてるので、メニューは固定である。今朝は黒っぽいパンにサラダ、スープだった。素材は昨日と同じで、地球の物そっくりだ。せっかく異世界なのだから地球の物っぽくない物も食べてみたいんだけどな。

 そんなオレの心の声が聞こえたのだろうか。ウェイトレスが持ってきたデザートは見たことのない果物だった。粒の一つ一つが、凄く小さいスイカみたいな緑色の殻付きの実になっている、ブドウのような果物が一房皿に盛られている。


「何コレ?」

「この果物ですか? これはピメの実です」

「殻ごと、そのまま食べられるの」

「リノ、ご主人様と話す時はきちんと敬語を使いなさい」

「は~い。ごめんなさい、ご主人様」


 リノは段々オレと接する時も敬語が外れる事が多くなってきた。距離が縮まったみたいでうれしい。マイカに注意され、謝るリノに構わないと告げてやる。ついでにマイカにも敬語じゃなくてもいいと言ってみたのだが、真面目なマイカは口調を変える事はなかった。マイカも信頼してくれるのは解っているので、深く言うのはやめておこう。

 

「美味いな、これ」


 カリッとした殻には酸味があるが、それが中の黄色い実の甘味と非常にマッチしている。どうやら普通の赤いスイカではなく、クリームスイカが小さくなった感じみたいだ。だが、甘さは地球の物とは比べ物にならないくらい甘いし、殻のカリッとした歯ごたえと実の部分のシャリシャリとした食感が楽しい。

 すぐさま2つ目に手を伸ばそうとするが、そこで2人が手を出してないことに気が付いた。またこのパターンか……。


「2人もどんどん食べていいよ」

「やったぁ! ありがとう、ご主人様」

「マイカも。あっ、もしかしてピメの実嫌いだった?」

「いえ、そんなことはありませんが」


 リノは嬉しそうにピメの実に手を伸ばす、だが、真面目な性格と奴隷という立場のせいか、マイカはどうも遠慮するくせがあるな。ちょっと恥ずかしいが仕方ない。

 周囲を見渡すが食堂にはまばらに人がいるだけで、隅っこに座っているオレ達を見ている人は全くいない。おもむろにピメの実を1つ取るとマイカの方に突き出す。


「ほい、あーん」

「え、ご主人様!?」

「ほら、早く。オレもちょっと恥ずかしいから」

「ハ、ハイ」


 言われるがままに開いたマイカの口の中にピメの実を入れる。マイカは顔を真っ赤にしながら咀嚼していたが、ゴクンと飲み込むとはにかむ様な笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます、ご主人様。とてもおいしかったです」

「それはよかった。遠慮しないでどんどん食ってくれ」


 マイカの浮かべる笑顔に思わず見惚れそうになりながら返事をする。そしてふと、隣のリノに目を向けてみると――。


「……………………」

「え~と、リノさん?」


 頬を目一杯膨らませてそっぽを向いているリノがいた。ツーンていう擬音が聞こえてそうだ。


「ご主人様はいっつもマイカとばっかり仲良くして……。そんなにオッパイが大きい女性が好きなんですか?」

「い、イヤイヤ誤解だって!」


 そりゃ大きいのは好きだけど、別に小さいのも嫌いじゃないよ? じゃなくて! マイカもクネクネしてないで説得するのを手伝ってくれよ!


「リノの事だって勿論大事に想ってるぞ」

「そ、それなら行動で証明してください」


 そう言って顔を紅くしたリノが、餌を待つひな鳥のように口を大きく開く。今のやり取りで、食堂の目が微妙に集まってきていて恥ずかしいが、やるしかない。


「あ、あ~ん」


 背中に突き刺さる視線を感じながらも、リノの口の中にピメの実を放り込む。口の中のそれを十分に味わった後、満足そうな笑顔を浮かべたリノはようやくオレを許してくれた。


 朝食を終え、部屋に戻ったオレたちは今日の予定を相談した。


「とりあえず、午後は軍の支部に行かなきゃならないから、午前中をどうするかだけど」

「まずは奴隷商の所に行きませんか?」

「へ? なんで? また奴隷を増やすの?」

「違いま――いえ、それはご主人様がお決めになることですから、私達は何も言いませんが」


 なんだろう、言い方に微妙にトゲがある気がする。でも、オレだって野郎だもん。美人な奴隷を集めてハーレムとかしてみたいんだ! 表立って反対するわけじゃないみたいだし、機を待つか。

 でもそれならなんで奴隷商の所に行くんだ?


「お忘れですか? 私達とご主人様の契約は仮契約のままです。正式な契約は奴隷商の所でないと結ぶことができません」

「そういやそうだったな。でも仮契約のままだとマズイのか?」

「仮契約はあくまで暫定的な処置だから、一週間くらい経てば契約は自動で解除されるの」


 そうなのか。それじゃ、なるべく早く奴隷商の所に行かなくちゃな。とりあえず午前中はまず奴隷商の店に行くとして、その後は色々買い物かな。異世界の物とか見て回りたいし、何より着替えが欲しい。マイカもリノも何も言ってこないが2人だって同じ気持ちだろう。


 っていうかそれってひょっとしてデートか? うぉぉお、テンション上がってきたぁ! ……金、足りるよな? マイカにそれとなく物価とかを聞いてみたが、高級品とかじゃなきゃ幸い大丈夫そうだ。

 午後には報奨金で最低でも金貨6枚手に入るし、資金の心配はなさそうだ。冒険者業を始めるのにお金もいるだろうから、ムダ遣いはできないだろうけどな。


 大雑把な予定を決め後、オレ達は出発することにした。宿の入り口で、親父と挨拶を交わす。


「出発するのかい?」

「ハイ。それとしばらくこの街に滞在しそうなので、宿代をまとめて払うことにしてもいいですか?」

「ああ、いいよ。何日分だ?」

「とりあえず今日から……5日分を」

「部屋は同じでいいのか?」


 一瞬答えに詰まる。世間体を考えるなら、ベッドが3つある部屋にしてもらうべきかもしれないが……、そうすると一緒に寝てなし崩し的にあっちの方へ持ち込むというオレの完璧(?)な作戦ができなくなる。世間体を選ぶべきか、己の欲望を選ぶべきか……。


「同じ部屋で構いません」


 だが、オレが答えを出す前に、後ろにいたマイカが返事をしてしまった。こ、これは遠まわしに今夜OKということか?

 親父はチラッとマイカの方を見てから、何故かオレに向けてグッと親指を立ててきた。やかましいわ!


「じゃ、5日分で1000ゴルドだな」

「……これで」


 仏頂面のまま大銀貨1枚で支払いを済ませた後、ニヤニヤ笑う親父に見送られながらオレ達は奴隷商の店へと向かった。

今年も今日で終わりですね。皆さんはどのような一年を過ごされたでしょうか? 次話は新年明けてすぐ投稿……できるかな? すいません、ちょっと未定です。

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