第8話
明けましておめでとうございます。
2014年初投稿です。
「いらっしゃいませ。本日はどのような奴隷をご所望で? 戦闘用や労働用から性奉仕、愛玩用まで、当クルート商会はお客様のどんなご要望にも応え、あらゆる奴隷をご用意します」
宿屋の親父に場所を聞いた奴隷商の店に入ると、小柄でチョビ髭の男がモミ手をしながらオレ達を出迎えた。お面を貼り付けたような、明らかに商用だとわかる満面の笑みが浮かんでいる。
「すみません、今日は買い付けではないんです。ひょんなことから後ろの2人を奴隷として迎え入れることになったので、正式な契約を結んで欲しいのですが……」
「かしこまりました。契約には1人大銀貨1枚の費用がかかりますが、よろしいですか?」
「大丈夫です」
3人が5泊する宿代と一緒か。契約するだけでも結構するな。だが、2人のたっての願いだ。躊躇うことなく頷き、代金を取り出す。
「もう一つ、契約にはお客様の血が必要になりますが、よろしいでしょうか?」
一滴ほどで構わないと言われたので、差し出される短剣で指の先を少し切り、指示された小さなインク瓶のようなものに血を垂らす。
「ハイ、ありがとうございます。それでは契約には1時間程かかりますので、お客様はこちらのお部屋でお待ちください。奴隷の方はこっちへ」
マイカ達と別れ、チョビ髭に言われるがまま、1人で部屋に案内される。
案内された部屋はなんだか小さな劇場のような場所だった。ただ、普通の劇場と違うのは客席が凄く少ない。1人用の机とイスが何組か並んでいるだけで、ステージのような場所が部屋のスペースの大部分を占めている。
何のための部屋なんだろうと内心で首を捻りながら、オレが部屋の中央のイスに座ると、チョビ髭はその正面に立って慇懃に会釈した。
「改めて自己紹介させていただきます。私は当商会の支配人をしております、チョピンと申します」
ありゃ、この人店長さんだったのか。なんだか中間管理職のおじさんみたいな雰囲気だったから驚いたが、平静を装って軽く会釈を返す。
「初めまして。立花スグルです」
「よろしくお願いします。スグル様は最近この街に?」
「ええ。昨日着いたばかりです。よくわかりましたね」
「この辺りでは見かけない、珍しいお召し物を着られているので」
チョピンさんの答えを聞いて、なるほどと納得する。そりゃ、この世界には合成繊維とかファスナーが付いた服なんかないよな。
「そんな見たこともないお召し物を着てらっしゃるということは、スグル様は遠方より来られた行商人の方でしょうか?」
「いえ、違いますよ。遠くから来たのはその通りですが、商人ではありません。この街で冒険者として身を立ててみようかと」
「ほう! 冒険者ですか。ならば尚更、私の話を聞いていただかなければ」
と、そこでコホン、とチョピンさんはワザとらしく咳払いで一端間を置いてから話を続ける。
「スグル様、冒険者になられるならば、我が商会の奴隷を購入されてはいかがでしょう」
「……私にはすでにあの2人いるのですが」
「ええ、それは承知しています。別に何もあの2人を売ってくれなどという話ではございません」
少し警戒心を滲ませながら確認すると、大仰な手振りでチョピンさんはオレの懸念を否定する。
「ならば、なぜそんなことを?」
「私が見たところ、あの2人は戦闘用の奴隷ではないのでは?」
「ええ、そうです。ですが2人共、私と一緒に冒険者家業を手伝ってくれると言ってくれています」
「それはそれは。スグル様はよい奴隷と出会ったようですな」
「全くその通りです」
うれしいことを言ってくれるチョピンさんに笑顔で同意する。だが、そこでチョピンさんの言葉はそこで終わらなかった。
「ですが、それならば2人は戦闘に関しては素人、ということ。つまり、依頼に戦闘行為等が含まれていた場合、彼女達が一人前に成長するまで実質スグル様お一人でそれを達成しなければいけないということになってしまいます」
むぅ、確かに。戦闘のない依頼ばかりを選んでいてはLvも上がらないままだろう。Lvを上げる為には、どうしてもマイカ達にも戦闘に参加してもらう必要がある。勿論できるだけ危険がないようにするつもりではあるが、ゲームとはいえここは異世界でオレはほとんど知識がない状態だ。どんな想定外の危険があるかわからない。
「あんなに上玉の奴隷を戦闘で失ってしまうのはもったいないでしょう。ですので、当商会で戦闘用の奴隷を購入されてはいかがかと、そう考えたわけでございます」
チョピンさんの心配の仕方は若干オレとは方向性がずれていたが、なんにせよ戦闘を指南してくれる存在はいた方がいいのは確かだ。だけど、それなら冒険者ギルドで先輩の冒険者とかと、チームみたいなものを組んだりすればいいのではないだろうか?
「勿論、そういう場合も多々あります。ですがスグル様はこの街に来たばかり。ということはきちんと信頼できる冒険者の知り合いも多くはないのではございませんか? 荒くれ者の多い冒険者連中と仲間を組んで依頼をこなし、さあ報酬を受け取るとなったその時に取り分で揉めたとしたらいかがなさいます?」
「それは…………あまりしたくない想像だな」
「そうでございましょう。そんな時でも仲間が配下の奴隷ならば安心です。報酬は全てスグル様の物になるのですから。事実、そういった理由から配下の奴隷だけで依頼をこなす冒険者も多いのです」
なるほど。報酬を独り占めするしないは別にしても、揉める必要のないというのはメリットだな。
「お連れの奴隷が契約を終えるまでまだ少し時間がかかります。その間に、当店のおススメの奴隷をご覧になってはいかがでしょうか」
何の為かと思ったら、この部屋は奴隷を見る為の部屋か。前のステージに奴隷が並んで購入する人がこっちに座る、と。
「そんなに手持ちがあるわけじゃないから、買うことができるかわからないが……」
「勿論、無理にご購入いただくことはございませんよ。商品をご覧になるだけなら無料ですし」
チョピンさんの言葉はありがたいが、オレは一見の客なのになんだか接客が丁寧すぎないか? それとも奴隷商はどこもこんな感じなのだろうか?
「確かに、どのお客様でも心を込めて商売させていただきますが、初めてのお客様にここまで丁寧になることはあまりありませんね」
「だったら、なんで――」
「強いて言うなら、勘でしょうか?」
「勘、ですか?」
「ええ。仮契約の上玉の奴隷を2人も連れてフラリとやってきた、見たこともない服装の青年。そんな謎めいた存在であるスグル様を見て、私の商人としての勘が何かを囁いたのですよ」
好奇心と言った方が正しいかもしれませんね、とチョピンさんはそれまでの貼り付けた笑顔ではなく、心底楽しそうな笑顔を浮かべた。
「ご期待に沿える冒険者になれるよう努力します」
「フフ、そうなったら是非また当商会をご利用ください。とびっきり商品をご用意いたします」
ここまで言ってくれるなら遠慮などするほうが野暮と言うものであろう。チョピンさんに頼んでマイカ達の契約を待つ間、戦闘用の奴隷を紹介してもらうことにした。
「まずは男性の奴隷です。このグループは傭兵や冒険者出身の奴隷ですので、戦闘の際は頼りになること請け合いです」
「ッ」
チョピンさんの言葉が終わると同時に入ってきた野郎共を見て思わず息を呑む。一人ひとりLvやスキルを紹介してくれるが、ほとんど耳に入ってこない。
だって怖えんだもん!
ヤクザ屋さんもかくや、ってぐらいに厳つい顔した男連中が10人近く一列に並んでこっちを睨んでる。いや、別に睨んでるわけじゃないんだろうが、とにかく怖い。
冷や汗を流しながら、万能鑑定で一人ひとりステータスをチェックしてみた。全員剣術とか槍術とか武器関係のスキルを持っている。中にはそれ以外にも盾術や肉体強化、指揮官などのオレが見たことないスキルもあった。指揮官ってスキルにはLv表示がなかったな。オレも持っているけど、Lvがないスキルもあるのか。
「スグル様、いかがですか?」
チョピンさんの声にハッと我に返る。どうやら全員の紹介が終わったみたいだ。怖い上に紹介される際、筋肉をアピールするようなポーズをとってくるのは色々勘弁して欲しいので、意識から切り離していたから気が付かなかった。
「う~ん、残念ながら」
「そうですか」
言葉少なめにオレがそういうとステージ上にいる野郎の皆さんが揃って肩を落としていた。それを見てちょっと申し訳ない気持ちになったけど、無理なものは無理です。
「では次は――」
「あの、チョピンさん」
次のグループを入れようとするチョピンさんを慌てて呼び止める。
「どうしました?」
「せっかくなのですが、奴隷はできれば女性の方がいいんです。ほ、ほら、マイカ達も女性だし、男性の奴隷を一緒にして万が一があってもイヤですし」
「なるほど、それもありますね」
なんだか「それ以外にも理由がありそうですね」みたいな返事が気になるが、ここは譲れない所なので黙って頷いておく。
「しかし、女性の戦闘向け奴隷は数も少ないですし、値段も男性より少々高くなりますが……」
「具体的に相場はいくらくらいなんでしょうか?」
「それにお答えするのは難しいですね。この商売には相場など在って無いようなものですから」
考えてみりゃ、商品が全て一品物みたいなものだからな。相場なんてわからないか。
「Lvやスキルの有無、持っているにしてもどんなスキルかによっても違いますし、女性の奴隷であれば夜の勤めもありますので、やはり容姿が美しいと値段が高くなります」
ほう、やはり奴隷の仕事に夜のご奉仕はデフォで含まれると。それはいいことを聞いた。じゃなくて! 今は戦闘用の奴隷の話だろ。でもどうせなら口うるさそうなババアより美人の方がいいよね。まあ、戦闘向けなんだし、たおやかな美女なんていないんだろうけどさ。
「とりあえず値段は置いておいて、紹介だけしてもらっていいですか?」
「わかりました」
チョピンさんの指示でステージに再び奴隷の人が並び始める。ガタイのいい女性も中にはいるが、やはり男性じゃないからか、さっきと違って威圧感はそれほど感じない。入ってくるのが後になるほど年齢が下がっていくみたいだ。予想に反して美人が割りと多い。っていうか、マイカ達に会った時からずっと思ってたけど、この世界美形が多いよな。
「――お」
そんな事を考えながら奴隷が入ってくるのを見ていた時。
最後から2番目に入ってきた女の子に思わず目を奪われた。
新年一発目から奴隷の話です……。
今年もよろしくお願いします。




