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第26話

 今日もオレ達はいつも通り、ギルドでモンスター討伐の依頼を受けてサントラの森に来ていた。

 本日の討伐目標はサイコマンティスと呼ばれる巨大な蟷螂のモンスターである。


「マイカ、そっちから回り込め!」

「了解です、スグル様」


 合図と同時に左右に分かれたオレとマイカがサイコマンティスの両側に回る。サイコマンティスは一瞬どちらに向こうか迷った後、オレの方に向き直り両手(……手?)の鎌を振り回しながら突進してきた。だが――。


『ギィィ!?』


 鎌を振り下ろした瞬間、目の前に見えていたハズの目標が煙のように消え去り、サイコマンティスから戸惑うような鳴き声があがる。


 念魔導による視覚阻害で作り出したオレの幻覚に斬りかかることで、がら空きとなったサイコマンティスの背後からマイカが襲い掛かる。


「シッ!」


 短い気合と共に横薙ぎに一閃された刃がサイコマンティスの背中に生えている羽を切り落とした。

 サイコマンティスが怒りの声をあげる。


「ギィィィイイィ!!?」

「リビー!」

「ハイ!」

 

 オレの掛け声にリビーは即座に反応した。羽を切り落とされ、背後にいるマイカに恨みの視線を向けようとした隙を逃さず、槍を構えて突撃する。

 オレの錬魔導で温度を上げ、炎のように紅く染まったリビーの槍の切っ先が腹部にめり込むと、ジュウジュウと焼け焦げる音と共にサイコマンティスは断末魔の悲鳴を響かせた。


「お疲れ」

「「「お疲れ様です」」」


 サイコマンティスを討伐した後。

 水場の側で小休止しながら、他愛ない雑談を交わす。


「Eランクに上がったけど、依頼の方も大丈夫そうだな」

「そうですね」

「余裕なの」

「問題ありません」


 昨日、晴れて全員がEランクへと昇格を果たした。

 受付のカレンさんが言うにはそれなりに早いランクアップらしいのだが、たまたまその場にいたアナスタシアさんには、


「あたしは5日でDランクまでいったわよ。坊やたちはあたしの弟子なんだから、とっととBランクくらいまでは上げなさい」


 と、厳しいお言葉を頂戴した。ちなみに冒険者はF、Eランクが初心者、C、Dランクが中堅、Bランク以上が一流とされている。エクストラは超一流。

 Bランクともなれば、リビーの故郷であるセインティア聖国などの一部例外はあるが、獣人であってもそれなりの敬意を持って見られ、差別を受けたりしなくなるらしい。


 カレンさんやアナスタシアさんに聞いた話を思い出して、リノやリビーの為にも早くBランクに上がりたいと改めて決心していた所――。

 

「お兄ちゃ~ん」

「アゲッ!?」


 突然可愛らしい声が聞こえたと思ったら、頭の上に何かが落ちてきた。

 首が折れるかと思った衝撃に、涙を浮かべながら落ちてきたきたものの正体を見ると、


「ミリナ!?」


 木精霊のミリナがプクッとふくれっ面をしてオレを上目遣いに見上げていた。


「どうしてここに?」

「お兄ちゃんが私の所に遊びに来てくれないからでしょ! 絶対来てくれるって約束したのに!」


 そりゃ言ったけどさ……。


「いつまで経っても来ないから迎えに来たの!」

「どうしてここにいるってわかったんだ?」

「木精霊は森の木々を通して互いに意志の疎通ができるんだよ。お兄ちゃんを見かけたって、仲間の木精霊が教えてくれたの」


 便利なんだな、木精霊って。

 オレがしみじみ思っていると、機嫌が直らないミリナがとんでもない要求をしてきた。


「いつまでも遊びに来てくれなかった罰として、ミリナをお兄ちゃんの家に遊びに行かせて!」

「いや、それは……」


 さすがに木精霊のミリナを街の中に連れて行くのは無理じゃないか?


「う~っ! お兄ちゃんが遊びに来てくれるの楽しみにしてたのに、ミリナの想いを裏切ったのに!」


 ああ、もう。そんな風に泣かれるとこっちが悪い人みたいじゃないか。

 う~ん。街の入り口には鑑定石があるからすぐに正体がバレちゃうだろうし……。


「鑑定石なら大丈夫ですよ、スグル様。子供の場合は保護者が同伴なら鑑定石で調べなくても街に入れてもらえますから」


 ブツブツと呟きながら悩んでいると、マイカが助け舟を出してきた。

 それなら念魔導で見た目を誤魔化せば大丈夫か? 


「とりあえずウルザリーナさんに許可をもらわないと、連れて行けないよ」

「わかった! じゃあ、お兄ちゃんも来て。里に案内するから」


 喜び勇んでオレ達を先導するミリナ。

 まぁ、ミリナには悪いけど、たぶんウルザリーナさんが許可するわけがないだろう、危険だし。





「わかった、許可しよう」

「やったぁ!!」

「ウソぉ!? マジで!?」


 木精霊の隠れ里に案内されたオレ達は里の長であるミリナの父、ウルザリーナさんの家に招待されていた。そこで、ミリナがオレの家に遊びに行きたいと父親に頼み込んだのだが、予想とは違い、ウルザリーナさんはその願いを許したのだ。


「でも、人間の街ですよ。もしなにかあったら――」

「その時はスグル殿が護ってくれるのであろう?」

「いや、でも……」


 そりゃできる限りそうしますけど。

 まさか許可が出るとは思ってなかったので、やめるよう説得しようにも言葉が出てこない。


「スグル殿に会って、私も人族に対して見方を改めようと思ったのだ。もしかしたら人族全てが我らを襲う野蛮なものばかりではないのかもしれないと」


 そう思ってくれるのはうれしいし、実際その通りであってほしいとオレも思うが……。


「だからせっかくの機会ですし、ミリナに人族の街を見て、様々な事を学んできて欲しいのだ。スグル殿、どうかミリナを街に連れて行ってはくれないか?」

「…………わかりました」


 そんな真剣な想いを語りながら頭を下げられたら断れねーっす。


「やった~!」


 そういう訳でミリナがオレの家に遊びに来る事になった。

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