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第15話

「こんにちは~」

「ハイハイ、なんでございましょ?」


 宿屋の親父に聞いた、東街の住宅を管理している不動産を尋ねてみると、腰の曲がったお婆さんが出迎えてくれた。

 

 サントラフォードの街は大きく5つのブロックに分けられる。

 まず、中央街と呼ばれるブロックには領主の館や、大商人の家といった身分の高い人や金持ちの家が集まっている。中央街を中心に東西南北4つのブロックがあり、南街は商店や職人たちの工房が立ち並ぶ商業エリアとなっている。ちなみに冒険者ギルドの場所もここだ。西街は宿屋などの街の外から来た人間のための宿泊施設がそろっていて、反対側にある東街が一般の人が住む住宅街となっている。

 ちなみに北街はいわゆるスラムのような場所だ。歓楽街も北街にはあるらしいけど……。


「東街に家を借りたいんですけど……」

「ハイハイ。購入じゃなくて、借家ですね。大きさはどのくらいでしょ?」

「ええっと……後ろの3人と一緒に住めるくらいで」

「アリャアリャ。後ろの別嬪さんは兄さんの嫁さんかい?」

「え~っと、まぁそんなトコです」


 奴隷っていうのもアレなので、適当に笑って誤魔化しておく。お婆さんの言い方だと、少なくともこの辺では一夫多妻もおかしいものじゃないみたいだな。


「そんな、ご主人様……」

「お嫁さんなんて」

「恐れ多いです」


 君達は黙ってなさい。

 小声だったためか、幸いお婆さんには3人の呟きは聞こえなかったようで、気にせず話を続けてくれた。


「ホウホウ。それじゃあんまり小さい家じゃ困るね。予算の方はどんなもんでしょ?」

「えっと、あんまり潤沢とは……。相場はどのくらいです?」

「フムフム。そうじゃね――」


 額に手をやり、思い出すような仕草をしながらお婆さんが相場について教えてくれる。

 大体、金貨1枚で日本の平均的な大きさの一戸建て住宅の3ヶ月分の家賃みたいだ。ということは一月大銀貨3枚、3000ゴルドか。それなら宿よりも安いな。やっぱり家を借りたほうが良さそうだ。


「それじゃ、そのくらいの家でお願いします」

「ハイハイ。最初は3か月分の家賃をもらうけど、大丈夫かい?」

「ええ」


 お婆さんに金貨1枚を渡す。これで残金は4万ゴルドほどになった。宿は明後日までとってあるから、今日明日で家具を揃えればいいかな。


 お婆さん連れられて、借りる事になった家に向かう。案内された家は2階建ての立派は石造りの家だった。っていうか、4人で住むには少し大き過ぎるくらいじゃないか? 1階にあるダイニングなんか軽いパーティが開けそうだし、2階には個室が6部屋くらい並んでる。

 そう思って聞いてみたが、お婆さんは楽しそうに笑ってとんでもない事を言ってきた。


「ホラホラ。これからも連れの女性が増えるかもしれませんし」

「そうなんですか?ご主人様」

「ご主人様はみさかいなしなの」

「私などではやはりご満足いただけませんか……」


 ちょっと、婆さん! いらん爆弾落としていくなよ! 


「と、とにかく! ここを借りる事にします。家具とかはどこで買えますか?」


 慌てて話を逸らそうとするオレを楽しそうに眺めながらも、お婆さんは丁寧に家具を買う店を教えてくれた。


 結局、家具を揃えるのに2日丸々かかることになったが、お陰で住み心地の良さそうな家が完成した。1階はリビングやキッチン等の共有スペースで、2階はそれぞれの個室にすることにした。余ってる部屋は来客用だ。

 マイカ達はそれぞれに個室が貰えるとは思ってなかったみたいで、とても喜んでくれた。




 さて。

 家も手に入ったし、これからは一層冒険者稼業に力を入れていかないと。家具を買ったから手元には3万ゴルドほどしかない。まぁ、これだけあれば生活するだけならしばらくは大丈夫なんだけど、お金はあって困る事はないしな。


 決意も新たに、冒険者ギルドに向かうと――。


「ちょっと、アナスタシアさんっ。やめてください!」

「いいじゃない、カレンちゃん。減るもんじゃないでしょ。むしろ揉んだら増えるかもしれないわよ。このオッパイの大きさが」


 顔見知りの受付のお姉さんがカウンター越しにセクハラを受けている場面に遭遇した。これがむさいオヤジだったら即逮捕なのだが、セクハラしている方もされている方も綺麗なお姉さんなので、独特の背徳的な雰囲気が漂っており、誰も止めに入ることができないみたいだ。


「えっと……」

「あっ! スグルさん、助けてください!」


 助けろと言われましても……。

 呆然と立ち尽くしたままでいると、受付のお姉さん(カレンさんって名前らしい)がこちらに助けを求めてきた。初めてギルドに来た時からお世話になっている人を見捨てるわけにもいかないので、仕方なくそちらの方に行くと、セクハラお姉さんがこっちに気づいた。


「坊や誰? ひょっとしてカレンちゃんの新しい男? 悪いけどカレンちゃんのオッパイは私の物よ」

「とんでもないウソをつかないでください!」

「僕は冒険者のスグルといいます。カレンさんにはいつもお世話になっているだけですよ」

「ふ~~~ん……。後ろの3人はあなたのパーティメンバーかしら?」

「ええ、まあ」


 カレンさんへのセクハラ行為を一端やめ、こちらを値踏みするような目で見つめてくるお姉さん。

 黒っぽいローブの下からチラチラとスベスベの素肌が覗いており、妖艶な雰囲気を醸し出している。その雰囲気のせいか、どうにも年齢はつかみにくい。20代前半と言われても納得できるし、30代と言われても頷けるような独特の色気もある。

 お姉さんの方もこちらの品定めが済んだようだ。月が落っこちてきたみたいな艶やかな白銀の髪をサラッと後ろにかきあげ、舌なめずりするように微笑む。


「それじゃ、後ろの3人を私にくれるならカレンちゃんはあなたの物にしていいわ」

「ふざけんな、どアホ」

「ちょっ、スグルさん!」


 あまりにふざけたことをぬかしやがるので、反射的に答えてしまったオレをカレンさんが慌ててたしなめてくるが、アホ呼ばわりされた当の本人は一瞬ポカンとしてから腹を抱えて笑い出した。


「あは、あははははっ。私に向かって、そんな口をきくやつがこの街にいるなんて」


 カレンさんが、「あちゃぁ」とでも言いたげな表情になる。

 え……? 何、この人えらい人かなんかなの?


「スグルさん、こちらの方はアナスタシアさんといって――」

「ああ、いいからいいから。自己紹介くらい自分でするわ。私はアナスタシア。通りすがりの魔導師よ」


 魔導師!? マジで!

 カレンさんが後ろの方で何やらブツブツ言っている気がするが、そんな事よりも優先するべき事がある。


「いきなりで不躾ですが、オレに魔法を教えてください!」


 リノやリビーに教えてもらおうとしても生まれつき魔導師だった事もあるせいか、体系的な知識がほとんどなく、説明されても全く要領を得なくて理解不能だった。

「なんかこう、グワーってきたのをフニャってする感じ」とか、「身体の底にあるエネルギーを光に変えて開放します」とかね。ちなみに前者はリノ先生、後者がリビー先生談。


「ふ~ん? 坊や魔導師になりたいの?」


 会ったばかりでそんな事を頼みこんでも一蹴されるだけかとも思ったが、しかしアナスタシアさんは何かを見通すように目を細めてから顎に手をやり、何やら考え始めた。

 そして、数秒考え込んだ後、ヨシッと一つ頷いてこちらに向き直った。


「いいわよ。その代わり条件が一つ」

「やった! 条件ってなんです?」

「条件は私が今から言う物を探してくること。丁度ギルドに依頼を出そうかと思ってたところなのよ」

「アナスタシアさん、それはっ!」

「コラ、カレンちゃんは黙ってなさい」


 思わずといった感じでカレンさんが口を挟んでくるが、アナスタシアさんはそれを一息に黙らせる。


「探してきて欲しいのは『木精霊ドリアードの蜜』というアイテムよ。ただし、他の冒険者に依頼したりするんじゃなく、あなたのパーティの力で手に入れてくる事」

「わかりました。それを手に入れてくれば魔導師の修行をしてくれるんですね?」

「ええ。カレンちゃんのオッパイに誓って約束するわ」


 そんなところに誓いをたてないでください! とカレンさんが顔を真っ赤にしているが、アナスタシアさんは気にすることなく微笑むだけだ。ギルドを出る直前に振り返り、「カレンちゃん。余計な事をお喋りしちゃダメよ」と手をワキワキと動かした後、そのまま出て行った。


新キャラ登場。またも女性です。

登場させるのは飄々とした感じのお爺さん魔法使いか、妖艶な魔女かどっちにしようかで悩んだんですが、ジジイよりお姉さんの方がいいだろという事で、こうなりました。

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